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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 名優タツロウの工作

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第218話 知らない情報が来た

 帝国歴538年6月頃。


 改良期間三年。

 潜水艇は完成した。

 今度の潜水艇は頑丈で速い。

 だから上手くいくはずだと、開発陣は太鼓判を押していた。


 レガイア王国の重鎮たちが集まる中で、ミルスが偵察隊長であるタツロウに聞く。


 「どうだ。今度は成功しそうか」

 「はい。大丈夫でしょう」

 「そうか。成功して欲しいものだな」

 「はい」


 と返事をしてはいるものの。

 タツロウとライブックだけは知っている。


 以前の潜水艇でも十分な性能を持っていて、アーリア大陸に到着するのは簡単な事なのだと。

 そうなのだ。

 自分で船を破壊しなければ、以前の性能でも、確実に向こうに辿り着く力を持っていた。

 だから、タツロウの内心の声は酷い。

 『ざまあみろ。糞馬鹿どもが』と口悪く、腹を抱えて笑っている。

 タツロウの面の皮は厚い。


 「よし。来月頼む。タツロウ。すぐに戻ってきていい。ただの実験に近いからな」

 「わかりました。ミルス様」

 

 指示は行って帰って来るだけ。

 ラーゼ沿岸付近にまで行って、すぐに戻るのが指令だった。

 だから、タツロウは極少数の部下と共に、潜水艇でアーリア大陸に向かって行った。



 ◇


 そして、タツロウの二度目の偵察は成功に終わる。

 タツロウの体が無事で、船も無傷で戻ってくる。

 その成果は大きなもので、上層部を唸らせる結果となり、偵察も次の段階に入った。

 それは潜水艦実験だった。

 潜水艇よりも大きな仕組みで、向こうに行く。

 それが三番目の偵察実験だったのだ。


 そして、ここでタツロウも知らない情報がもたらされた。

 それは重要人物たちだけの会議中に大将軍から伝えられる。


 「タツロウ。今回潜水艦の実験をするが、ほぼ成功すると思う」

 「はい。たしかに。そうですね。潜水艇の実験でも成功していますし、ほぼ確実かと」

 「そうだろう。そこで、この実験が終わった後に、一回ディヘキサで、ある実験をする」

 「ん? 何をでしょう」


 潜水艦の実験以外に実験をする。

 その話は聞いていなかった。

 一瞬、ライブックの顔を見たいと思ったタツロウだったが、ここは思いとどまって、そのまま大将軍を見つめた。

 勘の良い男と、優秀な女性がここにいるので、タツロウはあくまでもライブックとは関係ないと装わないといけない。


 「今回。ラーゼを攻める時にだ。戦闘艦を使用しない事が決まった。それと潜水艦にも、武器を装備しない事も決まった」

 「ど、どういう事ですか・・・え?」

 「軍部ではな。それらでいくと、過剰戦力だと結論が出たのだ」

 「過剰ですか」


 タツロウは動揺していた。


 「ああ。我らとの文明的な差がかなりあるのならば、ここは経費を削減して、輸送艦で十分じゃないかと結論が出た。輸送艦に大砲を一門だけ配備していく。その威力だけでも敵に勝てるだろうという予測も立てた。おそらく砲弾一発で大丈夫だろう。敵の武器から想像するにな」


 要約すると舐めている。

 助かる事だが、それはフュンに立ちにとって上手くいくのかが分からない。

 タツロウは少しだけ焦っていた。


 「輸送艦でですか!?・・・しかし、輸送艦では、あのディヘキサを突破することは出来ないかとおもいますが」


 そう輸送艦では、嵐の中を航行できない。

 それは、船が弱いからではなく、方向を見失うからだ。

 ディヘキサの中では、方角を失う。

 それに対して海の中だと、一定の方角に真っ直ぐ進める事が出来るために、潜水艇が重要となっていた。


 「だから、後の実験で、潜水艦二隻で、輸送艦を先導する実験をするのだ。潜っている二つの艦が、輸送艦を導いて進む。それで向こうまで行き、占領すればよいだろう。今、再びシャルノー側で戦いが激しくなっていてな。そちらに回す艦隊がない。それに、兵力も無駄にしたくないのだよ」

 「兵力もですか。どれほど連れて行くおつもりで」

 「多くて一万だ」

 「一万ですか。その人数では、なかなか難しいのでは?」


 一万対三万。

 輸送艦で兵を運ぶ。

 なかなか難しいと、タツロウが言ってもおかしくはない。


 「しかし。それ以上はもったいないだろう。文明レベルが違うのだ。銃を持った一万。相手は原始人で弓と剣だ。それでも多いのではないか?」

 「それはそうですが。三万のラーゼ軍に対してはいいですが、その後は?」

 「最低限の破壊であれば、そのままラーゼで籠城しておけば良いだろう。武器の性能が違うのだ。銃で敵を退ける事が出来るはず。それに次の補給部隊も組んでおけばいい。食料も現地でも奪え。あとで、連絡をすればいい」

 「それは・・・」


 たしかにそうだが。

 あまりにも舐めているのでは。

 タツロウはそう思った。

 なにせ、彼らの戦闘は化け物ぞろい。

 実際に彼らと出会ったタツロウは、彼らの事を戦闘の達人たちであると思っている。

 それはゼファーらの基準じゃない。一般兵の基準でである。

 こちらとの武器の性能があっても、体術の違いはどのような違いを生むのか。

 疑問を口に出している割には、タツロウの心の中はちょっぴりワクワクしているのであった。


 「それで次回の偵察は、近くに寄せて。上陸実験もしよう。タツロウ。お前の艦でな・・・どこがいい」

 「そうですね。このガイナル山脈の脇がいいでしょう。ラーゼ近くのここの山です。敵にも見つかりにくいかと。そこでは偵察がしやすいはずです」


 地図に指を指して、タツロウはガイナル山脈の東の麓を進言した。

 ここには、フュンたちと決めている手紙を入れる場所がある。

 一瞬抜け出して、そこに手紙を収められれば、情報を与える結果となれる。

 ただし、今の状態だと先に手紙を書くわけにはいかなかった。

 それは乗り込む際と、降りる際に持ち物検査があったのだ。

 アーリアに行くのが、偵察部隊だけの場合だけ。

 相手に情報を与えないとする行動で、何も持たずに現地に行かないといけないという決まりがあった。

 戦争に入るならそのような決まりなどないが、今回は確実に持ち物検査があるのだ。


 「よし。タツロウ。そこで頼んだ」

 「はい。わかりました」 

 

 だからタツロウは皆の目を盗んで、現地で紙に書いて、フュンたちに情報を伝えねばならなかったのだ。



 ◇


 帝国歴539年。


 潜水艦の実験は、順調。

 ディヘキサも難なく突破して、アーリア大陸の沿岸に辿り着く。

 ガイナル山脈の麓に、潜水艦を着けて、数人だけが上陸した。

 タツロウは休息に入るぞと、山でキャンプをした。

 ずっと潜水艦の中にいれば、気が滅入るだろうと、交代制で偵察部隊の人間たちを休ませることにした。

 中々の上手い言い訳となる。


 「隊長。どこいくんですか」


 部下が呼び止めてきた。


 「俺は一旦部屋に行って、すぐ戻ってくるよ。写真でも撮って、ラーゼの偵察をしないといけないだろ。だから、みんなはそこで休んでいてくれ」


 タツロウは一度外に出たが、すぐに部屋に戻った。

 隊長であるタツロウは、一人部屋が用意されていた。

 彼は部屋に戻ると同時に殴り書きでメモをする。


 『三年後、狙い。ラーゼの港。潜水艦2 輸送艦1 兵一万』


 これくらいの速度で書いて、外に出ないと怪しまれる。

 タツロウは書き終えると同時に、カメラを持ってすぐに表に出た。

 メモがばれないように、タツロウは内ポケットにしまって、皆の前に平然とした顔で出る。


 「よし。写真だな・・・・ナオト。お前に任せるわ。ここから写真を撮ってくれ。あの都市がラーゼだ。なかなかだろ」

 「そうですか。わかりました・・・あ、でもあの奥のあれはなんだろ。ずいぶん背の高い建物だな。灯台ですかね。でも内陸部に作るかな? アホじゃないですか。灯台をあんな陸地に」


 ガイナル山脈から見えるラーゼ。

 その奥に何か背の高い建物が見える。

 灯台クラスに大きい。何だったらラーゼに見える城よりも高い。

 そうこの時には、ロベルトの監視塔が出来ていたので、こちらからでも見えてしまっていた。


 「なんだかな。隊長。ラーゼって都市として大きくないですか? 地図のイメージよりも陸地が伸びている・・・ような気が」

 「そうかな。どうだろうか。俺が来た時と同じじゃないのか???」


 ここは、本当にタツロウでも分からない事だった。

 ラーゼが拡大しているという漠然とした印象を持った。


 タツロウは、ラーゼが消滅していて、ロベルトと合併しているような形で都市がある事を知らないのだ。

 港部分とラーゼの都市部分は、今は人がほぼいない。

 漁師くらいが仕事をしていて、住民の大半はロベルトに移り住んでいて、バルナガンとの融合の真っ最中である。

 しかし、ガイナル山脈から見ると、ラーゼには煙があって、人が住んでいるように見える。

 ただし、この煙はダミー。

 フュンは、毎日の仕事として、元ラーゼの住民たちに、煙焚きの仕事を依頼していた。

 人が住んでいるように外目から見えるような工夫をしていたのだ。


 「まずお前たち。ここの写真は頼んだ。もう少し上の角度ならよかったが、結構きつい山だから、外に出たばかりの俺たちでは危険だ。だから、ここから都市を撮って、形くらいは分かるようにしよう。念のために陸地側の城壁とかも頼むよ。俺はもう少し上の景色を確認してくるわ。イイ感じで撮れそうだったら、俺が次に写真を撮るよ。後でカメラを貸してくれ」

 「わかりました。隊長。お気をつけて」

 「おう」


 上手い言い訳をした後、タツロウは目にも止まらぬ速さで目的地に行く。

 一人でどんどん山を登り、指定の場所に手紙を収めた。

 これでフュンに届けと願いを込めて・・・。



 タツロウはここで最後の偵察を終えたのである。

 あとはもう彼の最初の対決を見守るだけである。

 

 

 

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