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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 名優タツロウの工作

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第216話 考えを誘導

 アーリア大陸をどうするかの最終的な判断は、当初の予定通りに攻撃となった。

 

 しかしそこに至るまでに、別な提案したのがライブックである。 

 話し合いでの解決を提案してみたのだ。

 ただ、これは実際に、その方向に考えをまとめるつもりではなく、ライブックの意図としては、外務大臣としての当然の進言をしたつもりであり、却下されることを前提にした提案なのだ。

 怪しまれないようにするには大臣としての仕事を全うするべきなのだ。




 そこから、話は攻撃をいつで、どこにするかになった。


 「タツロウ。お前は実際に行ったのだ。どうすればいいと思う」


 大将軍マキシマムは、実際にアーリア大陸に行ったことのある者の意見を尊重した。


 「はい。俺の考えでもいいですか」


 タツロウは、ミルス以外には俺を使用する。

 これはミルスとの会話の違いを生むためだ。

 ミルスの性格上、この中で一番でないと気が済まないために、あなたと他は、差をつけているという隠しの意思表示だった。


 「もちろんだ。頼む」

 「はい。俺は、ラーゼ王国という国を攻めるのが一番良いと思っています」

 「ラーゼ王国だと・・・どういうことだ。そんな国は聞いたことがないぞ・・・ガルナズンなら聞いたことがあるのだが」


 ワルベント大陸では、ガルナズン帝国は知っている。

 こちらの国から、逃げてきたとされる人間を百年近く前に発見したことがあるからだ。

 戦乱の世。

 それが苦しいから逃げてきたとその人物から話を聞かされていた。


 「はい。なにか。書く物を用意してもらえますか。大宰相、私にペンか、何かを・・・よろしいですか」


 タツロウは、体を大将軍から正面にいる大宰相に向けた。


 「ん? なぜだ?」

 「はい。地図を覚えております」

 「地図だと」

 「はい。アーリアの詳細を頭に入れました」

 「・・・そうか。わかった」


 さすがのミルスでもその情報は、貴重な情報源だと思い、タツロウに紙とペンを与えた。


 「このような形で、ここを半分にして、右がガルナズン帝国。左がイーナミア王国であります。そして、ここです。この大陸の北東の位置。この港も保有している都市が、ラーゼと呼ばれる小国です。こちらで言えば一都市とも言えないくらいに小さな国です」

 「ほう・・・」


 ミルスが地図を見て頷いた。

 

 「そうねぇ。じゃあ、あなたが進言したラーゼ。もしかしてここを落として、足場にしろと言う事かしら? 我々の大陸に近い位置ですし」

 「そうです。ジェシカ様」

 「ふ~ん」


 ジェシカは、地図を見て、腕を組んでいた。

 情報整理をしているようだ。

 

 「小僧。小さな国でも兵力はどうなっているのだ。そこまで調べたか」

 「はい。この国の兵力は、三万弱ですかね。ざっとの計算です」

 「ほう。なかなかいるな。小さな割に・・・」


 グロッソは、地図上の小ささの割には、兵数の規模が大きいと思った。


 「そうですね。俺も驚いたのですが、今のアーリア大陸は戦乱の時代らしく。二大国が争いあっているらしいです」


 この情報は嘘じゃない。

 タツロウは、本当と嘘を織り交ぜて、慎重に騙していかないといけない。


 「なるほどのう。だからこの小国でも兵数を確保しなければならないという事か」

 

 理由があるから、信用に足る。

 疑いの目が強い男を掻い潜らなければ、タツロウの作戦は成功しない。


 「それで。ラーゼを狙えという事か」

 「はい。ミルス様」

 「・・・ここか」


 ミルスは、地図を睨みつけるようにして見つめた。

 ここが敵地での拠点になる場所。

 一番近いから良き場所に思う。


 「加えてですが、相手には戦艦がありません」

 「なに!? 戦艦が無いだと・・・やはり原始人か」


 ミルスは文明レベルの違いに驚いた。

 潜水艇はなくとも、さすがに戦艦くらいはあるだろうと思っていたのだ。

 

 「なので、こちらに攻める際。別に大艦隊でいかなくてもよろしいのでは? あちらの武器も。銃系統はありませんでした。ほとんどが近接武器で、遠距離も弓などです。調べはついています。あと大砲があっても旧世代です。手動で着火型です」

 「なんだと。そんなもの・・・旧時代ではないか」

 「はい」

 「ふっ。間違いない。原始人だ」


 もっと舐めてかかれ。

 タツロウは表情にも出さずに、心の声ではこんな事を言っていた。


 「力として・・・おそらく百年前ほどのレガイア王国に近いのかと」

 「そうか。それであるならば。大艦隊で行ってしまうのは、ある意味で勿体ない。おかしいかもしれん。それはもはや、こちらの銃だけで勝つのではないか? 戦艦の大砲すらもいらんのでは?」


 グロッソでもそう思うらしい。

 文明の違いは戦力の大きな違いにも感じる。


 「はい。なのでどうしますか。もう少し潜水艇をしっかり作り直して、無事に行けるようになってからでもよいのでは? 数十年をかけても、あちらの大陸が、こちらの文明に追いつくとは思えないです」


 タツロウは、少しでも延期に傾くように言葉を紡いだ。


 「そうね。それは、たしかに。その文明レベルで、こちらに襲い掛かって来ることも考えられないものね。ならば、もっとしっかりした潜水艦を作ってからでも、十分な成果を得られる。安全を確保してから、敵地に攻め込むのが良さそうよね」


 ジェシカの意見も正しいものである。

 だが、この意見に導かれていることに、ここにいるライブック以外の人間たちは気付かない。

 タツロウが上手い誘導を仕掛けていた。

 

 「どうしますか。ミルス様」


 タツロウは結論を他の者に委ねない。

 なぜなら、決定する男はこのミルスでなければならない。

 全部の責任。作戦の結果は、一番上が背負ってもらわねばならんのだ。


 「そうだな。皆の意見も良きものだ・・・ここはじっくりいくとするか。潜水艇の実験を進めるのを第一に。次の偵察を延期にして、確実性のある船であちらに行き。潜水艦の実験も並行してやろう。その後に、どうやってあちらに上陸するかを考えていった方がいいだろう。そこは、マキシマムに任せるとする。いいか」

 「はい。おまかせを」

 「よし。では、この会議はここで終わりにする。解散だ。ああ、それとタツロウは休め。しばらく偵察は行われないから、体を休めて次も行ってもらうぞ。いいか」

 「はい。わかりました」

 

 一度失敗しても、大陸から生還してきた人間は貴重。

 ミルスは、ここでタツロウを使い潰しても、行ってもらうことにした。

 だがこれは好都合である。

 タツロウは何度でもアーリア大陸に行く気だからだ。

 フュンとの連携を模索するのには、アーリア大陸に行かなくては始まらないのだ。


 こうしてタツロウは、レガイア王国の考えを誘導した。

 アーリア大陸攻略を延期させることに成功したのだ。

 しかしまだタツロウがやるべきことは残っている。

 タツロウの戦いはまだ続くのであった。

 

 

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