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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 名優タツロウの工作

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第214話 タツロウとライ様の計画

 「それでタツロウ。太陽の人からは、何か指示が出たのか」

 「それがですね・・・」


 タツロウはフュンからの指示を受けていた。


 「まず」

 「まずだと。何個もあるのか?」

 「はい。結構細かくて、不思議な指令です」

 「どんなものだ?」


 太陽の人からの指示。ライブックは興味が湧いた。


 「まずは、三宰相と王様の人となりを教えてくれ。これが第一指令でした」

 「は? 最初の指令が人物だというのか」

 「はい。どういった考えを持っていて、どういった思考をするのか。性格。口癖。態度。等々。とりあえず、なんでも知りたいとの事です」

 「・・・不思議な指示だな。まず、人か・・」


 第一優先が、人を知りたい。

 フュンらしい指示だった。


 「次に、ラーゼに攻撃を仕向けて欲しいとの事でした」

 「ラーゼに仕向けて欲しい? 場所指定か。それもまた変な指令だな」

 「はい。ラーゼに向かって欲しい。レガイア国の攻撃はその国に集中して欲しいとの事。それ以外だと困るだそうです」


 ライブックのために、タツロウはアーリア大陸の地図を書いた。

 何も見ずとも、頭の中に叩き込んだ地図を、タツロウは手書きで作り上げていく。

 詳しい情報が書かれている地図を、ワルベントには持って帰らないようにしていたのだ。

 

 「なるほど。ここがラーゼ」

 

 ライブックは頷いた。


 「はい。そして、ここから北東に行くと。大体シャッカルに繋がります」

 「そうか。わかった。説得理由として強いな。一番近い位置。これもいい材料になりそうだな」


 仕向ける理由が欲しい所に、距離は有利に働くかもしれない。

 ライブックは、意外と簡単に軍部を説得できそうだと思った。


 「それで、フュン様が言うには、ここは小国らしいのです」

 「小国?」

 「はい。現在のアーリア大陸は二大国による戦争状態で、その戦争の結果で戦いも変わるらしいですが、必ず勝って大陸を一つにして、戦いに臨むとの事。その際、準備を密かに出来るのは二つの国とは関係のないラーゼ国しかないとの話で。それが奴らへの説得になると。小国を落として、攻略の基盤を作るという理由でどうですかとフュン様が言っていましてね」


 小国ラーゼを落として、ガルナズン帝国を脅す。

 そこからアーリア大陸を攻略する。

 その戦略的には、抜群の効果を発揮する作戦だ。


 「・・それはそうだな。こちらが勝つとなると、それが最善の策か。いや、そんな話を太陽の人から提案してきただと・・・なんてお人だ。自らの首を絞めても、勝てる自信があるのか」

 「らしいです。フュン様は、勝って自由を手にすると言っていました」

 「自由か・・・なるほど。自分たちの道が、このままだと従属の道かもしれないから・・・勝ってそれをはねのけるという事か」

 

 フュンの思考の鋭さに、ライブックは気付いた。

 ただの人じゃない。ただの太陽の人じゃない。

 大いなる戦術眼を持つ人。 

 大局を見ている人物だと思い始めた。


 「フュン様は、ラーゼで決戦をする気です。しかも、二度です」

 「二度だと!? どういうことだ」

 「一度目の決戦で、全ての面で勝つとの事です。そしてそうなると、レガイアの兵士たちが帰還しませんから、心配になった国が、援軍を送るだろうと・・・・・そして、そこから二度目の戦いが起きる。それで、フュン様たちは奪いきるとの話でした」

 「奪いきる?」

 「はい。我々の船です!」

 「は!? なんだと・・・待て、そうなれば・・・まさか」


 ライブックは優秀な男である。

 今の話を聞いて、フュンの考えを読んだ。


 「つまり。太陽の人は、こちらに来るつもりなのか!?」

 「はい。そうです。フュン様は、ワルベントへ乗り込む気です!」


 頭が痛くなってきた。

 想像を超える大作戦。

 フュン・メイダルフィアという人間の思考は一体どうなっているのだろうか。

 大胆にも程がある。

 ライブックは、苦笑いで頭を押さえていた。


 「ということはだ。我々の船を逆に利用する気なのだな」

 「そうみたいです」

 「そうか。ハリソン。ミュウ。二人がいるから、あちらが扱う事が出来るようになる。そういうことか」

 「はい」

 「・・・大胆な策だ。それも斬新すぎるな・・・でも、こちらに来ても意味があるのか。いや、ないだろう。海を使って、大砲などを改良して防衛をし続けた方がよさそうなもの・・・いや、どういう意図があるのだろうか」


 そこが分からない。

 ワルベント大陸に来て、何をする気なのだろうか。

 ライブックは色々と悩んだ。


 「わかりません。その大体の計画だけを俺に教えてくれました。おそらく、本計画は、フュン様の頭の中にしかないかと思います。でもその話し合いの時に他の方たちにも、俺と同じ話しかしませんでした」

 「そうか。彼の中だけに、まだ何か手があるということか。こちらに来るだけでも、とんでもない事だというのにな!」


 フュンの策略の深さを知りたい。

 ライブックは、話を進める事にした。


 「タツロウ。他には?」

 「はい。あとは、簡易じゃなくて、詳細な地図です。偵察の時はお渡し出来ないので、次の戦いの時に持っていく予定でありまして。どさくさに紛れて、フュン様にお渡しします」

 「ワルベントの地図か?」

 「いいえ。世界地図だそうです」

 「世界地図!? なぜそんなものを?」

 「わかりません。そしてそれに、アスタリスクの民の秘密拠点を書いておいて欲しいと」

 「民たちのか!? なぜだ」

 「それもわかりません。ですが、フュン様が最後にですよ。僕たちで勝ちましょうと言っていたのです」

 「僕たちで?」


 アーリア大陸と、アスタリスクの民。

 双方の力でこの戦いを勝つ。

 二人とも、フュンの言葉を理解できずにいた。

 

 「僕たちでか・・・・アスタリスクの民たちの居場所を知りたい。そして地図。さらに勝つ」


 ライブックは思考を読もうとした。


 「まさか。各地に行く気か。こちらに来て、民たちの場所にまで訪問する気なのか」

 「・・たしかに。そうなのかもしれませんね」

 「それで勝つとは・・・まさか、アスタリスクの民をまとめる気か? でもそれだとしても、我らは戦えるとは思えないぞ。今の民たちは太陽の戦士じゃないのだ」

 「ええ。ですが、まとめるのはあり得るかもしれませんよ」

 「・・いや、出来ないと思う。全部が集まれば足がつく。レガイア王国に目をつけられるぞ」

 「しかしフュン様の考えだと」

 「勝つだったな・・・レガイアに何かしらで勝つ気。それで、アスタリスクの民にも勝たせる気。こういう事か。彼の指示から察するとだが・・・」

 「おそらくはそうかと」


 タツロウとライブックは、しばらく悩んだ。

 でもフュンの考えは難しいものだった。

 読み切れるものじゃない。


 「まあよい。とにかく準備はしよう。タツロウ。ひとまずレガイアに報告だな」

 「はい。そうですね。そこが一番の鬼門かと」

 「そうだな。上手く立ち回ってくれ。私も差し伸べられる手があるなら出す!」

 「はい。でも無理しないでください。ライ様がそのポジションにいなければ、我々は生きていけません。誤魔化せませんからね。一般人じゃ・・・」

 「わかっている。でもお前も無理はするな。太陽の人との連携を取れるのはお前だけだ」

 「はい。おまかせを」

 「うん。ここからが、我々の戦いの始まり・・・そういうことかな」


 ライブックとタツロウの戦いが幕を開けた。

 敵の中枢にいながら、フュン・メイダルフィアを影ながら援護する戦いである。

 


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