表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 名優タツロウの工作

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

539/741

第213話 ライ様への報告

 シャッカルより北。

 大都市マクスベルにて。


 タツロウは目覚めた。

 ベッドの上にいた事で、作戦は成功したと思われる。


 「がはっ・・・はぁはぁ・・・どこだここ。どこの病院に来た!?」


 助かる時の記憶はかろうじてある。

 だが、何処に運ばれたのかの記憶がなかった。


 「可能性は、マクスベルか。シャッカルで助かったなら逆算して・・・大都市で一番近いのはマクスベルだと思うな」


 どこにいるのかも定かではない。

 上陸寸前あたりで、意識が遠のいていたからだ。

 死ぬわけにはいかないが、お腹を空かせて到着しないといけなかったから、最後は意識が朦朧としていた。

 

 「とりあえず報告をしたいんだが・・・・誰もいないのか。個室か?」


 病室に一人。

 人でごった返すような大部屋じゃないのは珍しい。

 優遇されたのかもしれない。


 「あ! 起きました。タツロウが起きました」


 部屋の扉が開くと同時に兵士が叫んだ。

 ここは病院だぞ。

 タツロウはこいつ何考えてんだと思った。


 「なんだと!? 連絡を入れろ」

 「は、はい」

 「急げ。ミルス様にも連絡だ」


 兵士の声を聞いた直後。

 

 『ミルスだと。クソ。いきなりそこまでいくか。そっちまで話がいったら、もう俺的には決戦だぞ』


 さっきまで寝ていたタツロウ。

 寝ぼけ眼のような目だったのに、今は見開いていた。

 

 ジャルマ家当主ミルス。

 レガイア王国の現大宰相ミルス・ジャルマの事であると即座に反応したのだ。


 『奴の耳にまで直接か・・・先にライ様にお会いしたかったのにな』


 ライブック・ディーヴァ・スカイ。

 アスタリスクの民を束ねる男で、タツロウとは協力関係である。

 彼は外交。タツロウは偵察部隊。

 部署は違うが、タツロウはライブックの部下と言ってもいい。


 「大丈夫か。タツロウ」

 「ああ。もう大丈夫だ」


 タツロウは心配してくれた兵士に返事を返した。


 ◇


 タツロウの情報は緊急連絡で、レガイア王国の首都リーズにまで伝わる。

 当時ワルベント大陸の連絡手段は、無線があった。 

 ワルベント大陸中を一括して管理するような無線ではなく、次の都市から次の都市までの距離をカバーするような無線であって、継ぎ足し継ぎ足しでの連絡をするのが当時の無線の主流だ。

 そして、さらに移動手段として列車というものがあった。

 だから、タツロウは病院で体調が回復してから一週間後には王都リーズにまで来ていた。


 「到着までが速いよな・・・やっぱ列車はさ。馬との違いがありすぎるわ」

 「タツロウ。ほんとに大丈夫か。一人で城に入るのもよ。明日だろ」


 道中のお付きの護衛として、タツロウの隣にはデリンスという人物がいた。

 体調を心配してくれて、荷物持ちまでしてくれる男だった。

 

 「大丈夫よ。今日は、宿に泊まっておくからさ。心配すんな」

 「でも・・・」

 「あ、お前。ここで遊ぼうかと思ってんのか?」

 「そ・・・そんなわけないじゃんか」

 「本当か?」

 

 タツロウは怪しんだ。

 デリンスの顔を見ると、汗が流れているのに気付く。

 

 「デリンス。お前さ。あっちの遊びの方の宿に泊まっていいぜ」

 「え?」

 「こっちの宿に、俺と一緒に泊まったってことにして、お前は遊んで来いよ」

 「・・ええ?」

 「俺は明日の準備で色々さ。書き物とかしたいからさ。言いたい事をメモしたいんだ。だから一人の時間が欲しいのさ」

 「ああ。そういうことか。俺が一緒に泊まって邪魔したら駄目だってことだな」

 「そういうこと! だから、一人で泊まりたいからよ。お前は遊んでてもいいよ。護衛はしていたってことにするからよ」

 「ほんとか! じゃあ、遊んでくる!」


 デリンスは、歓楽街の方に走っていきそうになった。


 「おい。その服着替えろよ。兵士の格好じゃ目立つからな」

 「わかった。洋服買ってから行くわ」


 調子のいい男だなと思いながら、タツロウは準備を始めた。



 ◇

 

 宿を取り、タツロウは部屋に荷物を置いた。

 そして、重要な物だけを持って、影となり消える。

 部屋は偽装工作をしつつ、部屋の鍵を閉めて人がいるような形を取っていた。


 彼が抜け出して移動した先。

 それは、王都にあるライブックの館である。

 秘密の入り口を使用して、彼の館に侵入。

 特殊な部屋に到達すると、ライブックは、ランタンの明かりの先にいた。


 「タツロウ!」

 「ライ様」

 「よく無事で。心配していたぞ。帰ってこないものだからてっきり・・・」


 亡くなってしまったのかと思っていた。

 ライブックは45歳であるが、若々しい見た目をしている。

 青年のようにしわが無くて、青い髪に青い目をしていて、綺麗な空のような雰囲気がある。


 「いやいや、生きていますよ」

 「ああ。よかった。よかった。それで、他の・・・ミュウ。ハリソンは? まさか。死んだのか」

 「いいえ。違います。説明をしますね」


 タツロウはアーリア大陸についての説明をした。

 フュンと出会えた事。

 それで、アーリアの歴史を知れたこと。

 そして、彼が反撃をすると決めた事。

 さらに、こちらと連携して、何かを起こすと決めている事。


 多くの事を話した後にライブックは、深く頷いた。


 「そうか。太陽の人はいたのだな。そうか。本当にな」

 「・・・はい。いました」

 「どんな方だった」

 「それが・・・一発で分かったのです」

 「ん?」

 「一目見て、この人なんだ。って思ったんですよ」

 「なんだと。それじゃあ、爺様たちの言っていた事は本当だったのか」

 「そうです。昔のアスタリスクの民たちが言っていた事は本当だったんですよ。俺もにわかには信じてませんでしたけどね・・・いや、実際に会えば、わかるんですよ。これが・・・」


 タツロウは不思議な事があるもんだと思っていた。


 「・・・そうか。それほど、光を纏っているのだな」

 「はい。まるで太陽のように、引き込まれる・・・魅力がある不思議な人でした」

 「そうか。私もぜひお会いしたいものだな・・・フュン・メイダルフィア様か・・・」


 太陽の人に会ってみたい。

 それはアスタリスクの民であれば、誰しもが思う事だった。


 「それと、ライ様」

 「ん?」

 「不思議に力が湧いてきます。勝てそうな気がするんですよ」

 「なんだと? そのフュン様にお会いするとか」

 「はい。変な感じになります。自分の体の底から、力がこう・・・噴き出るっていうか。なんていうか」


 言葉では言い表せない。

 不思議な感覚。

 フュンと会うと、そんな感覚に陥るのだ。


 「だから、何でも出来そうな感じになるんですよ」

 「・・・そうか。それが伝承にも聞く。太陽の人の力だものな」

 「はい。本当の事だったんですよ。凄いですよね」

 「ああ。そうだな」


 タツロウとライブックの二人は、半信半疑の状態だった。

 太陽の人と出会った事が無いから、仕方のない事であった。

 

 太陽伝承。

 アスタリスクの民たちは、この伝承を口頭で受け継いできた。

 不思議な力を持つのは、自分たち。

 太陽の人はそれを引き出してくれる人。

 でも太陽の人が引き金であるから、民たちは彼を敬っていた。

 

 彼らの伝承によると、太陽の人の為に生きていける。

 こんな感じに思うのだそうだ。

 人と人との繋がりを大事にしていくのが太陽の人らしい。

 現代のレガイア王国のような場所では絶対に起こりえない。

 人との関係が希薄になった状態では信じられない事だった。

 文明が進化。武器も進化。

 だから、軍事における隊列などで息を合わせるような事もしない。

 武器の性能により勝敗を決しようとする現代において、太陽の人の力を信じるのは難しい事だった。


 「・・・よし。タツロウ。太陽の人の為にも。今後の計画を練ろう!」


 今後の為。

 タツロウとライブックの二人は、ワルベント側の行動予定を作り始めた。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ