第213話 ライ様への報告
シャッカルより北。
大都市マクスベルにて。
タツロウは目覚めた。
ベッドの上にいた事で、作戦は成功したと思われる。
「がはっ・・・はぁはぁ・・・どこだここ。どこの病院に来た!?」
助かる時の記憶はかろうじてある。
だが、何処に運ばれたのかの記憶がなかった。
「可能性は、マクスベルか。シャッカルで助かったなら逆算して・・・大都市で一番近いのはマクスベルだと思うな」
どこにいるのかも定かではない。
上陸寸前あたりで、意識が遠のいていたからだ。
死ぬわけにはいかないが、お腹を空かせて到着しないといけなかったから、最後は意識が朦朧としていた。
「とりあえず報告をしたいんだが・・・・誰もいないのか。個室か?」
病室に一人。
人でごった返すような大部屋じゃないのは珍しい。
優遇されたのかもしれない。
「あ! 起きました。タツロウが起きました」
部屋の扉が開くと同時に兵士が叫んだ。
ここは病院だぞ。
タツロウはこいつ何考えてんだと思った。
「なんだと!? 連絡を入れろ」
「は、はい」
「急げ。ミルス様にも連絡だ」
兵士の声を聞いた直後。
『ミルスだと。クソ。いきなりそこまでいくか。そっちまで話がいったら、もう俺的には決戦だぞ』
さっきまで寝ていたタツロウ。
寝ぼけ眼のような目だったのに、今は見開いていた。
ジャルマ家当主ミルス。
レガイア王国の現大宰相ミルス・ジャルマの事であると即座に反応したのだ。
『奴の耳にまで直接か・・・先にライ様にお会いしたかったのにな』
ライブック・ディーヴァ・スカイ。
アスタリスクの民を束ねる男で、タツロウとは協力関係である。
彼は外交。タツロウは偵察部隊。
部署は違うが、タツロウはライブックの部下と言ってもいい。
「大丈夫か。タツロウ」
「ああ。もう大丈夫だ」
タツロウは心配してくれた兵士に返事を返した。
◇
タツロウの情報は緊急連絡で、レガイア王国の首都リーズにまで伝わる。
当時ワルベント大陸の連絡手段は、無線があった。
ワルベント大陸中を一括して管理するような無線ではなく、次の都市から次の都市までの距離をカバーするような無線であって、継ぎ足し継ぎ足しでの連絡をするのが当時の無線の主流だ。
そして、さらに移動手段として列車というものがあった。
だから、タツロウは病院で体調が回復してから一週間後には王都リーズにまで来ていた。
「到着までが速いよな・・・やっぱ列車はさ。馬との違いがありすぎるわ」
「タツロウ。ほんとに大丈夫か。一人で城に入るのもよ。明日だろ」
道中のお付きの護衛として、タツロウの隣にはデリンスという人物がいた。
体調を心配してくれて、荷物持ちまでしてくれる男だった。
「大丈夫よ。今日は、宿に泊まっておくからさ。心配すんな」
「でも・・・」
「あ、お前。ここで遊ぼうかと思ってんのか?」
「そ・・・そんなわけないじゃんか」
「本当か?」
タツロウは怪しんだ。
デリンスの顔を見ると、汗が流れているのに気付く。
「デリンス。お前さ。あっちの遊びの方の宿に泊まっていいぜ」
「え?」
「こっちの宿に、俺と一緒に泊まったってことにして、お前は遊んで来いよ」
「・・ええ?」
「俺は明日の準備で色々さ。書き物とかしたいからさ。言いたい事をメモしたいんだ。だから一人の時間が欲しいのさ」
「ああ。そういうことか。俺が一緒に泊まって邪魔したら駄目だってことだな」
「そういうこと! だから、一人で泊まりたいからよ。お前は遊んでてもいいよ。護衛はしていたってことにするからよ」
「ほんとか! じゃあ、遊んでくる!」
デリンスは、歓楽街の方に走っていきそうになった。
「おい。その服着替えろよ。兵士の格好じゃ目立つからな」
「わかった。洋服買ってから行くわ」
調子のいい男だなと思いながら、タツロウは準備を始めた。
◇
宿を取り、タツロウは部屋に荷物を置いた。
そして、重要な物だけを持って、影となり消える。
部屋は偽装工作をしつつ、部屋の鍵を閉めて人がいるような形を取っていた。
彼が抜け出して移動した先。
それは、王都にあるライブックの館である。
秘密の入り口を使用して、彼の館に侵入。
特殊な部屋に到達すると、ライブックは、ランタンの明かりの先にいた。
「タツロウ!」
「ライ様」
「よく無事で。心配していたぞ。帰ってこないものだからてっきり・・・」
亡くなってしまったのかと思っていた。
ライブックは45歳であるが、若々しい見た目をしている。
青年のようにしわが無くて、青い髪に青い目をしていて、綺麗な空のような雰囲気がある。
「いやいや、生きていますよ」
「ああ。よかった。よかった。それで、他の・・・ミュウ。ハリソンは? まさか。死んだのか」
「いいえ。違います。説明をしますね」
タツロウはアーリア大陸についての説明をした。
フュンと出会えた事。
それで、アーリアの歴史を知れたこと。
そして、彼が反撃をすると決めた事。
さらに、こちらと連携して、何かを起こすと決めている事。
多くの事を話した後にライブックは、深く頷いた。
「そうか。太陽の人はいたのだな。そうか。本当にな」
「・・・はい。いました」
「どんな方だった」
「それが・・・一発で分かったのです」
「ん?」
「一目見て、この人なんだ。って思ったんですよ」
「なんだと。それじゃあ、爺様たちの言っていた事は本当だったのか」
「そうです。昔のアスタリスクの民たちが言っていた事は本当だったんですよ。俺もにわかには信じてませんでしたけどね・・・いや、実際に会えば、わかるんですよ。これが・・・」
タツロウは不思議な事があるもんだと思っていた。
「・・・そうか。それほど、光を纏っているのだな」
「はい。まるで太陽のように、引き込まれる・・・魅力がある不思議な人でした」
「そうか。私もぜひお会いしたいものだな・・・フュン・メイダルフィア様か・・・」
太陽の人に会ってみたい。
それはアスタリスクの民であれば、誰しもが思う事だった。
「それと、ライ様」
「ん?」
「不思議に力が湧いてきます。勝てそうな気がするんですよ」
「なんだと? そのフュン様にお会いするとか」
「はい。変な感じになります。自分の体の底から、力がこう・・・噴き出るっていうか。なんていうか」
言葉では言い表せない。
不思議な感覚。
フュンと会うと、そんな感覚に陥るのだ。
「だから、何でも出来そうな感じになるんですよ」
「・・・そうか。それが伝承にも聞く。太陽の人の力だものな」
「はい。本当の事だったんですよ。凄いですよね」
「ああ。そうだな」
タツロウとライブックの二人は、半信半疑の状態だった。
太陽の人と出会った事が無いから、仕方のない事であった。
太陽伝承。
アスタリスクの民たちは、この伝承を口頭で受け継いできた。
不思議な力を持つのは、自分たち。
太陽の人はそれを引き出してくれる人。
でも太陽の人が引き金であるから、民たちは彼を敬っていた。
彼らの伝承によると、太陽の人の為に生きていける。
こんな感じに思うのだそうだ。
人と人との繋がりを大事にしていくのが太陽の人らしい。
現代のレガイア王国のような場所では絶対に起こりえない。
人との関係が希薄になった状態では信じられない事だった。
文明が進化。武器も進化。
だから、軍事における隊列などで息を合わせるような事もしない。
武器の性能により勝敗を決しようとする現代において、太陽の人の力を信じるのは難しい事だった。
「・・・よし。タツロウ。太陽の人の為にも。今後の計画を練ろう!」
今後の為。
タツロウとライブックの二人は、ワルベント側の行動予定を作り始めた。




