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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第211話 僕らは何が何でも勝利を目指す

 アーリア歴2年11月13日。


 この日、玉座の間にて、アーリア王国の全ての重要人物が集結した。

 フュンの王家。

 元ガルナズン帝国の皇帝一族。

 元イーナミアの王ネアルと、その幹部たち。

 ロベルトの戦士たちと、その戦士長タイロー。

 その他諸々の人間たちがフュンを待っていた。


 皆が揃ったので、アーリア王が部屋の脇から登場する。

 フュンの衣装は、煌びやかな衣装でもないのに、輝いていた。

 彼自身が放つ暖かな光が、この場にいる皆を照らしているように思う。


 「みなさん。良く集まってくれましたね。僕が、アーリア王。フュン・ロベルト・アーリア・・・らしいです。って言いたいけど、それを言うとみんなから怒られるので、アーリア王です!」


 締まらない挨拶から始まった。


 「本来はね。クリスの口から話すのが良いのでしょうが。ここは僕が皆さんに語り掛ける形で話を進めたいので、僕が進行します」


 大会議なのに、王であるフュンが自ら司会進行をする。

 普通は誰かに任せるのだが。

 ここが重要な事を決定する場面なので、今まで通りにいきたかったのだ。

 辺境伯。大元帥。

 いずれの時も、話し合いはフュンが主導で進んでいたからだ。


 「では、来年の事です。いよいよ、僕らの戦いが始まります。ワルベント大陸との一大決戦です・・・ですが、それはこちらの意気込みで、あちらにとってはただの戦い・・・いや、もしかしたら小突く程度の事だと思っているでしょう。僕らを属国にする気満々ですからね」


 文明が違うから楽勝。

 それがレガイア国が思う、アーリア大陸の印象だろう。


 「でも僕らはそれを跳ね返して、敵を捕えて、敵を乱します! 僕の計画では、あちらの国をぐちゃぐちゃにしようと思います」

 「「「!?!?!?!?」」」


 フュンはただ勝つのではなく、敵を捕える気であった。

 そして、何かを企んでいるようだ。

 そこに皆が驚く。


 「みなさん、いいですか。この戦いは始まりに過ぎない。戦力差が大きい分。普通に勝つだけでは、次の展開をしたとしても、その先の希望を見出せません。もしここで、敵を殲滅しようものなら、本格的に向こうの攻撃が来るからですね。だとすると、通常の勝利はいけません。僕らは上手く立ち回らないといけないのです」


 戦いに勝つのは最低条件。

 そこから先が重要であるとフュンは思っていた。


 「では、ラーゼ市街地戦について発表します。ここは予定通りですからね」


 フュンが発表していく。


 「・・・ゼファー!」

 「はっ」

 「あなたの軍が主力。そしてその軍には、僕が入ります」

 「「「「おおおおお」」」」


 ゼファー軍の中に王が入る。

 その事で、どよめきが起きた。

 

 「タイム! リアリス! カゲロイ!」

 「「「はい!」」」

 「君たちもゼファー軍です。よろしいですね」

 「「「はい!」」」


 フュンは予定通りの人員を発表していた。


 「そしてミシェルもここに入ります。ミシェル。来年から学校の先生は、一時お休みです。いいですね。ミシェル」

 「はい。そちらの方を優先しますから、お休みにします」

 「ええ。お願いします」


 ミシェルは学校を一時お休みする形になった。

 ここで双子に指示を出さないのは、当然のことで、何も言わずともフュンに勝手についていくからである。


 「では、その次にタイロー。ロベルトの戦士の選抜は?」

 「はい。アーリア王。こちらは準備が出来ています。各隊長と、その他の優秀な戦士たちを選抜しています」

 「よろしい。レベッカ。あなたの騎士団は?」

 「アーリア王。もちろん準備できています。ウインド騎士団は今すぐにでも戦えます」

 「よろしい。では三軍団の準備は出来ました」


 フュンは二人の回答に満足して、頷いた。


 「アーリア歴三年に入る前に、僕と三軍団はラーゼに入ります。いいでしょうかね。タツロウさんの情報から言って、三年後でもね。どの季節で来るのかが分からないので、いきなり一月から来るかもしれませんのでね。早速入ります。いいですか。各隊長!」

 「「「はっ」」」


 ゼファー。タイロー。レベッカが跪いた。

 王の意見に全面的に賛成だからである。


 「一年・・・いや、僕の計算だと二年くらいはラーゼに入ります。ですから、ここ王都にですね。僕の代わりを置きたい。一応僕からも指示を出しますが、軽いものの判断はその人たちにすべてお任せします。では、まず、シルヴィア。あなたはこの王都にいてください」

 「はい。いいですよ」

 「ええ。あなたにここをまかせました」


 王妃に王都を守らせる。戦姫でもあるから出来る事だ。


 「次に、ウィルベル様」

 「なんでしょうか。アーリア王」

 「この二年。あなたと、シルヴィアとの連携を強化します。王国の運営について、お願いしたい。相談役として力になって欲しいです」

 「わかりました。おまかせを」

 「ええ。お願いします」


 フュンは次々に指示を出していく。


 「それで、アナベル」

 「は、はい」


 自分の出番が来るとは思わなかったので、アナベルが返答に出遅れた。


 「あなたには、相談役補佐官として、ウィルベル様の補佐をお願いします」

 「わ、わかりました。おまかせを」

 「ええ。お父上と協力するのですよ。アーリア王国を頼みます」

  

 ウィルベルとアナベルの連携で、シルヴィアの補佐を任せる。

 この二人の主な仕事は内政関連の補助である。

 と言う事は軍事関連もいる。


 「そこで、王都の守護を任せたいのが、ビンジャー卿!」

 「はっ。アーリア王」

 「あなたには、リンドーアからこちらに来てもらいたい。二年間。王都守護の長として、こちらに来てもらってもいいですか」

 「はい。おまかせを」


 ネアルが王都の警備を担当する。

 ラーゼでの戦いが起きた場合。

 他の都市も緊張状態に入る。

 そしてその際に、そこから反乱が起きる可能性もあったりするので、フュンとしては王都にとびっきりの強さを誇る人物を置いておきたかったのだ。

 そこで、シルヴィアも良いのだが、ネアルが適任だった。

 ゼファー。タイロー。レベッカ。

 この三名を抜けば、最強はネアルとなる。

 軍の指揮。個人の強さ。人心掌握。

 双方の力が飛びぬけているのが、ネアル・ビンジャーであるからだ。


 「これでひとまず安心だ。よし。では次に、ネアル王の・・・・」


 ついついネアル王と言ってしまったフュンは、しまったという顔をした。

 皆はフュンの顔を見て、やっぱりなと思っていた。

 自分が王だという自覚がまだないんだな。

 この一言が皆の脳に浮かんだ。


 「ごほん。ごめんなさい。ついね! 許してくださいね。あははは」


 素直に謝るのがフュンという男だった。

 ため息と笑顔が軽く出る会議となった所で、仕切り直しでフュンが指示を出し続ける。


 「ビンジャー卿の補佐をするため。フラム閣下!」

 「はっ。アーリア王」


 二人のやりとりのおかげで、緩い雰囲気から、元の空気感に戻った。

 フラムの空気を察知する力は相変わらずである。


 「後方司令部を中央のアーリアに置きます。あなたの采配で援軍を決めてください。敵がどこに来るのかは確定しているようで、していない部分でもあります。事前に各都市に兵を配置しますが、その際のバランスはあなたが見て、決断はビンジャー卿と相談。その上で、シルヴィアとウィルベル様の許可を得るようにして実行して下さい。このような形で王都を頼みます」

 「了解です」


 フラムがバランスを取りつつ、各人とのつながりを意識する。

 見事な配置であった。


 「それで、後方都市にあたるのが、ササラ。シャルフ。ミコット。ウルタス。リンドーアになると思います。ここに兵は治安維持程度で抑え込みます。敵が南方面を狙うのはありえないと思いますので、警戒は北にします。なので兵も北にします。そこで、まず。北西のルコット。こちらにデュランダル。アイス!」

 「「はっ」」

 

 二人が大将が並ぶ列から一歩前に出て跪いた。


 「二人は協力してそちらを守ってください。軍は四万です」

 「「了解です。太陽王」」

 「そして、ララ。マルン」

 「「はっ」」


 今度はララとマルンが入れ替わるようにして前に出て跪いた。


 「二人が北西の海の守護です。デュラとアイス。この二人と連携して陸と海でルコットを守ってください」

 「「はい。承知しました」」


 二人が同時に頭を下げた。


 「それで、北東のバルナガンの港。元港ですね。ここにも念のために兵を置きます。敵の狙いがラーゼであったとしても、もしかしたらバルナガンの港の方にも来るかもしれませんので、そちらにも兵を派兵します。ただし、こちらは港と、ロベルトの二つに兵を置いて、ロベルトから援軍をいつでも出せるような形にします。あまりバルナガンの港には兵を置きたくないのでそうします。あそこには最新の武装を置いていませんからね」


 バルナガンの港から、ロベルトまでは中々の距離がある。

 そこで、信号弾連携を駆使して、もし攻撃が来た際に駆けつける形を取った。

 おそらく、ここに攻撃が来ることはない。

 なぜなら、タツロウとのとある作戦で、敵がラーゼの方に向かうように仕向けているからだ。

 

 「それで、そこの守護は、サナ!」

 「はっ。アーリア王」

 「スターシャ家に全面的におまかせします。采配もあなたが決めてください。良いですね」


 スターシャ家と指定することで、マルクスもそこに入れると言っていた。


 「はい。おまかせを」

 「よろしい。信じています」

 

 フュンが事前に考えていた配置は、ここで言えていた。

 対ワルベント大陸。

 ここと戦うには、こちらの大陸も総力戦でなければならない。


 「ではですね。来年から、アーリア王国は緊急時の体制となりますが、学校は平常運転にしたいので、スクナロ様。リナ様。サティ様。アン様」

 「「「「はい」」」」

 「みなさんに、学校を任せたい。僕がいなくても、スクナロ様を中心にして運営をお願いします。入学卒業。重要な事がたくさんありますが。あなたたちで勝手に決めていいです。先生方と一緒に考えてください。それで、僕の権限もお渡しします。スクナロ様。よろしいですか」

 「おう! まかせろ。俺が皆を引っ張っていこう」

 「はい。スクナロ様になら、安心して任せられますよ」

 「おう。義弟よ。まかせておけ!!! それにだ。こっちは安心していいからな。勝ってこいよ! まあ、こんな事を言わなくても、義弟ならば勝てる! と俺は最初から信じているぞ」

 「ええ。必ず勝って、スクナロ様と勝利の美酒をね。酌み交わしますよ」

 「おお! そいつはいいな。楽しみだな・・・ガハハハ」


 ここでも、義兄弟の関係も絆も変わらない。

 見つめ合う二人は、自然と笑顔になっていた。


 「それと、サナリアですね。シガー」

 「はい。王」

 「ツェンではなく、あなたにお任せしたい事があります。よろしいですか」

 「なんなりと」

 「では、食料についてを任せたい。兵糧の事です。これの事で、ライノンを派遣しますので、こちらのラーゼへの運搬を頼みます。兵士たちが二年。あそこで戦うので、その食料を賄えるのはサナリアしかない。なので、この仕事を頼みます」

 「わかりました。おまかせを」

 

 フュンは続けてライノンに指示を出す。


 「ライノン。この二年は、ロベルトの領主補佐官の仕事は中断でいいです。サナリアからの補給をお願いします。二都市間の輸送について、全ての権限をあなたに与えます。良いですか」

 「はい。アーリア王。私におまかせを」


 いつも自信のないライノンでも、ここは胸を張って返事をした。

 大陸間の一大決戦。

 自分だけそんな事は出来ませんなんて、とてもじゃないが言えない。

 それに、自分が信じる王フュンが、命を懸けて戦うと決めている。

 だったら、その手助けをするのは自分だと、覚悟が決まっていたのだ。


 「ええ。助かりますね・・・あとは・・・そうだ。ジーク様」

 「なんだい」

 「当主が、フィアに代わっていますが。戦争関連の話です。ジーク様にお願いしたい事があります」

 「そうですね。それは当然ですな。それでは王様。なんなりと。私にご命令を・・・」


 わざとらしい言い方に少し腹を立てるフュンは、声はそのまま明るいが、表情がムスッとしていた。

 

 「ジーク様。あなたには、援軍の指揮を与えます。ハスラの兵をどこにでも派兵できる権利です。それと、命令としてはですよ。後方司令部から独立にしますので。フラム閣下とは別系統となるので、お好きなようにしてください」

 「わかりました。アーリア王。このジークにおまかせを」

 「・・・・う~ん・・・いいでしょう。頼みます」


 ジークの態度が気に入らないフュンは、悩みながら返答をした。


 「これで一通りの準備は出来たはず・・・・あ!? そうだった。当たり前の話を一つ忘れていました。ヴァン!」

 「はい」

 「今回。あなたが重要です。サブロウと行動を共にでお願いします。ですが、仕掛けるどうかの判断は難しいのでね。二人で相談して決めていいです」

 「はい。わかっています」

 「ええ。海軍。その全てをあなたに託します。アーリアで一番の海の男。それがヴァンだと、僕は信じていますからね」

 「はい。そのお言葉・・・アーリア王。俺なんかにはもったいないです。でも、ありがとうございます」

 「いえいえ。誇張じゃありませんよ。僕はそう信じています。あなたと出会ってからずっとね。この大陸で、あなたよりも海を知る男はいないと思っていますからね」


 あなたと出会って、二十年以上。

 海の男と言えばヴァン。

 船を扱えばアーリア大陸で右に出る者はいない。

 

 この男がいる限り、アーリアの海は安全である。

 フュンから高い評価をもらっている男は、心の中では嬉しさのあまりに泣いていた。


 「はい。アーリア王。海軍大将ヴァンにお任せを」

 「ええ。まかせます!」


 元海賊からの一大決戦参戦。

 ラーゼ市街地戦。

 そこが、海の男ヴァンの真価が問われる戦いだった。

 

 「では。僕らは勝利を。それも、大陸を救うには、巨大な戦果が必須です。なので、力を合わせて頑張りますよ。国をあげて。大陸をあげて。僕らは意地でもラーゼ市街地戦に勝つ! それしか考えません。負けるなんて思わないでくださいよ。いいですね」

 「「「「はっ。アーリア王」」」」


 ここから最後の話に入った。


 「アーリア王国。アーリア大陸。そして、アーリア人。これらを守るため。僕は、命を落としても、守り抜く覚悟で臨みます。やり遂げるまでは、絶対に死ねませんけどね・・・」

 

 皆の顔が曇る。それはやめてください。

 そう言いたかったが、フュンの覚悟の表情に黙るしかなかった。

 

 「そして、申し訳ない。僕の命一つで、この事態は解決にはならない。みなさんの命。こちらも一緒に賭けてもらわねば・・・勝つことが無いかもしれません。よろしいでしょうか。みなさん。僕と共に、生死を共にしてもらっても・・・」

 「「「もちろんです。アーリア王」」」

 「ありがとう。みなさん・・・・」


 フュンは目を閉じてから、皆の思いを受け止めた。

 覚悟を共に決めてくれた仲間たちだ。一人一人の顔なんて見なくても分かる。

 戦う表情をしてくれている。

 最後にフュンは目を見開いて宣言した。


 「いきます。アーリア王国はここで一丸となって戦います。皆で、勝利を手にしましょう」

 「「「「おおおおおおおおおおお」」」」

 

 強大な敵に勝つ。

 その覚悟を持って、勝利の決意も胸に秘めて。

 彼らは太陽王と突き進む。

 全てはアーリアの未来の為に。

 命を賭して、戦うのである。

ここまでが、序盤。人物紹介に近い部分でした。

少し長くてごめんなさい。

しかし、彼らは全員活躍しますので、ご安心を。

こちらは、次世代の子らの性格や関係性の話で構成されていました。



そして、ここからが怒涛の展開で一気に中盤を走ります。

そこが始まると、目まぐるしくなると思いますので、よろしくお願いします。


対ワルベント大陸。

そこからが、フュンの英雄としての戦いです。

でもひとまずは、次の回はですね。

孤独な戦いをした男の物語です。

タツロウ編です。

彼の静かな戦いは始まっていました。

人知れず、裏の仕事をやり抜く。

太陽の人のために動き出す彼は、フュンを勝利に導くために必死に頑張っていました。

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