表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

529/741

第203話 集いし次世代の子らよ

 三日目。

 決勝戦の日。


 招待された子供たちが、フュンの元にやってきた。

 ここには、王、王妃。そして側近たち。

 王国の重要人物たちしかいない部屋であるから、子供たちはとても緊張していた。

 ガチガチの動きで、手と足が一緒になっている子もいたのだ。


 そんな子供たちを見て、フュンは可愛い子たちだなと笑顔で出迎えていた。


 「みなさん、緊張しすぎですよ。顔が強張っています。笑顔笑顔。にっ!」


 そんな事を言われても、ここでは笑えませんよ。

 子供たちは『へへへ』くらいの苦笑いになっていた。


 「駄目ですよ。みなさん。うん。ほら、ルライアさんみたいに笑いましょう。ね」

 「はい。フュン様・・・お久しぶりです」


 受け答えがおかしいルライアを見て。

 『ルライアこそガチガチですよ。どこも笑顔じゃないじゃん』

 子供たちはそんな感想を持ってフュンを見ていた。


 時間が少し経っても子供たちの顔は強張ったまま。

 でも王の顔は笑顔のままである。


 「ルライアさん。大きくなりましたね。こんなに小さかったのにね。お父さんとは、仲良くしてますか」

 「はい」

 「ええ。やっぱりルライアさんは、反抗期がなかったんですね。そうだ。今日はね。ライノンは運営の方にいますからね。ごめんなさいね。ここに来られないです」 

 「い、いえ。お仕事ですから・・・」


 仕方ないですよ。

 という前にフュンが続きを話す。


 「そうですか。でも安心して、僕がいますからね。あなたのお父さんのかわりをしますよ」

 「・・・は、はい!」


 ルライアは久しぶりのフュンに緊張しているが、また会えて嬉しいと思っている。

 フュンは最初の雑談を終え、一人一人に挨拶を始めた。


 「それでは、まず。アイン。頑張りましたね」

 「あ、はい。アーリア王」

 「ん。ここではそれでいくのですね」

 「もちろんです。学生の身分ですので」

 「いいでしょう。まあ、僕は父としても言いますけど、よく頑張りました。二つも満点です。偉いですね」

 「あ、ありがとうございます」


 線を引いたとしても、やっぱり嬉しいものは嬉しい。

 アインの顔は綻んでいた。


 「次にルライアさん。やっぱり輸送関連は強いですね。昔から変わらず大好きですか?」

 「はい」

 「うんうん。君も変わらない。このままでいてくださいね」

 「はい」


 大好きな人から褒められた。

 ルライアの気持ちは天国へと旅立つ勢いで上昇していた。


 「次にキリさん」

 「・・はい」

 「よくやりました。君もこのままいきましょう。あなたの経済に対する考え。とても立派ですよ。もっともっと柔軟に考えていってね。ドンドン発言していいですからね」

 「ありがとうございます」


 キリも頭を下げると同時に喜んでいた。

 ニヤニヤしている顔を下に置いた。


 「次はガイア君ですね。お久しぶりですね」

 「はい。お久しぶりです・・・・・・王様だぁ」

 「ええ。王様ですよ」

 「あ・・・女神様もいる!」

 「女神?」


 マイペース神ガイアは、ゆったりとシルヴィアを指差した。

 目の前の自分ではなく、後ろで席に座るシルヴィアを指したのでフュンは振り向く。

 するとシルヴィアもこっちを見て、話を振られるとは思わずにいたので、驚いた顔をしていた。


 「え、私ですか?」

 「・・・わ! わは、これ見せたい」

 「ん?」


 ガイアは背負っているリュックから像を取り出した。

 シルヴィアに近づいていく。


 「わ。これ作った。女神様を参考にした」

 「女神様?」

 「王妃様! 女神様!」


 ガイアはシルヴィアのそばに行ってから、像を右手に持って、左手でシルヴィアの顔を指差した。

 失礼だけど、失礼に感じないのは、少年の心が純真だからである。


 「私がですか」

 「うん。わ。王妃様、女神様だと思ってる」

 「・・そ、そうですか」

 「はい。女神様。あげる」

 「ど、どうも」


 とても美しい像を渡されたシルヴィアは、像をまじまじと見つめた。

 像の姿形が美しく、顔も綺麗に整っていて、ちょっと美化され過ぎかもしれませんと思った。

 それと、変わった点がひとつ。

 片翼の天使のように見えるのだ。

 翼が一個しかない。


 「翼が一個なのは?」

 「像の腕。無くしたくない。だから翼を取った。女神様の像」

 「そうですか。私の為に、腕をですね。せめてこれでは両腕であって欲しいと」

 「うん」

 「優しい子ですね。あなたは」

 「ううん。女神様。わ。作りたいものを作った」

 「ふっ」


 純朴な少年だなとシルヴィアは笑う。

 仲良く会話しているので、フュンは続きを話す。


 「次に君が、兵士訓練満点の子ですね。デルトア君ですね」

 「・・・・(はい)」

 「え? 声が。あれ?」

 「・・・・(デルトアです)」


 口が動いているのに、声が聞こえない。

 耳が良いはずのフュンでも聞こえないのだ。

 彼を理解するには、読唇術が必要となるので、目を凝らさないといけない。


 「う~す。遅れたぁ。大将、久しぶり」

 「あ。フィアーナ」

 

 ここで運よく、フィアーナが遅れてやってきた。

 サナリアから駆けつけてくれて、シガーの代理で来たのだった。

 それで、たまたまだが彼女が彼を知る人物である。

  

 「お! デルじゃないか」

 「・・・・(お師匠、お久しぶりです)」


 声が聞こえないのに、フィアーナには彼の言いたい事が分かる。


 「おう! 久しぶり。そうか。そうか。ここに来てたのか。ってなんでここに来てんだ? あれ、ここって貴賓席だって聞いたんだが。一般人は入れない特別室だって・・・あれ?」

 

 案内人の人に紹介された時は、そのような形だったのに、フィアーナにとってはここに子供がいるのが不思議だった。


 「フィアーナ。ここにいる子たちは成績優秀者のご褒美で、ここに来ています。各教科のどれかで満点を取った子です」

 「ほう。そうか。デルがなんかで満点取ったのか」

 「はい」


 フュンも頷いているけど、デルトアも頷く。


 「なにで?」

 「主には武器です。加点を取りまくりましてね。兵士訓練という試験で、満点でした」

 「ほう。そうか」

 「というよりも、フィアーナ。知り合いなんですか」

 「知り合いも何もこいつ。ロイマンところの村の子だからな」

 「ロイマンの!? フーナ村ですか」

 「おう」


 フュンは、この子がサナリア出身とは聞いていたが、まさかのフーナ村の出であるとは知らなかった。


 「こいつ。冬前の成績が、あんまり良くなかったみたいだからな。どうなんだ。最初良くなかっただろ」

 「そうなんですかね。僕は学校の事はあんまり詳しくは・・・」


 と言っているが、実際は知っている。

 彼が唯一この満点者たちの中で、免除制度無しで学校に通っているのだ。

 通常の授業料を支払っている。

 つまり、入学当初は普通の成績の子であったのだ。


 「そうか。大将は知らねえのか。こいつさ、冬にあたしのところにロイマンと一緒に来てよ。稽古つけてくれって言って来たから、バシバシ鍛えてやったぜ。そしたらまあまあ伸びるから、面白くなって、シガーとシュガにも付き合ってもらったのよ。そんでこいつ。あたしってよりもシュガ寄りだからな。武器の扱いがすげえぞ」


 弓のフィアーナ。斧のシガー。

 この二人よりもシュガ寄り。

 ということは、武器に得手不得手の偏りがない男だという意味で発言していた。


 「それでさ。強くなってねえのかな。あたしらの基準だと結構いい感じに育てたけど。まあ、王都基準を知らんからな。まだまだなのかもな。田舎基準は駄目なのかな」

 「なるほど。それで、この子が・・・」


 全くのノーマークから、デルトアはこのステージまで上ってきた。

 デルトアは、努力で上位に食い込んできた戦士なのだ。

 

 「デルトア君。頑張りました。偉いですね」

 「・・・・(ありがとうございます)」

 「????」


 声がこちらまで届いてこない。

 この不思議な感覚の子を理解するまでは時間が掛かるだろう。


 そして最後にフュンは愛弟子に挨拶をする。


 「ユーナ」

 「はい」

 「よくここまできましたね。よく出来ました」

 「王様。ありがとうございます」

 「今日はそんなに緊張しないで。リラックスしてくださいね」

 「・・・はい」

 

 フュン以外に、名だたる人たちがそばにいるので、ユーナリアは体まで強張ったままだった。

 ガチガチの動きでお辞儀をした。


 「あなた。この子を知っているのですか」

 

 シルヴィアがガイアを列に戻して、フュンの元に来た。


 「ん?」

 「その子を知っているような口ぶりだったもので」

 「ユーナをですか」

 「ええ。その子だけ愛称で呼んでいますよ」

 「そうですね。この子は僕の弟子のような子です。この子が了承しているかが、わからないので、ここは曖昧ですね」

 「弟子!?」「で、弟子!?!!?」


 シルヴィアも驚いているが、言われた張本人のユーナリアも驚いている。


 「ええ。僕としては、似たような道を歩むだろうね。君を応援していますからね」

 「・・・似たような道・・・ですか?」


 ユーナリアが真っ直ぐフュンを見る。


 「はい。奴隷からの大逆転を目指す。世の中への反逆ですね」

 「反逆・・・私が・・・」

 「僕も、人質からここまで来ました。なら、奴隷からだって、どこまでも登ってもいいでしょう。ユーナ。元奴隷であることを、これからは気にしないでください。そして、僕もですけど。これからは元人質を気にしないようにしますよ・・・出来たらですけどね!」


 フュンがユーナの頭に右手を置くと。


 「はい。わかりました。王様。気にしないようにします」


 彼女は決意を示し、顔が引き締まった。


 「ええ。一緒に頑張りましょうね」

 

 君と僕は同じ道を・・・。

 生徒と王でも同じ人間だよ。

 だから一緒に頑張ろう。

 フュンの心からの優しい応援であった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ