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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第201話 次は大会で

 それから一カ月が経ち、六月頃の学校。

 ユーナリアの教室にて。


 一番前の席の生徒が声を荒げた。

 一か月前の試験結果が出たのだ。


 「結果が貼られたぞ」


 試験結果は、廊下には貼られず教室に一時的に貼られる。

 廊下に貼ると、生徒が五千名もいるので、大混雑になって危険だと言う事で、各教室に貼られるのだ。

 教科項目ごとの上位二十名と全体順位百名分だけの名前が載っている。


 「すげえ。アイン様が総合一位だ。さすが王子様だ」


 クラスメイトの誰かが言っていた。


 教室で一人でいるユーナリアは、どうせ上位陣なんて関係ないと思っていたので、教室の前には見に行かずに先生が来るまで席に座って待っていた。

 試験結果なんて、個人の成績表が配られるので、その時に結果がわからればいいとも思っている。


 別な生徒の声が聞こえた。


 「百点取ってる奴・・・結構いるな」

 「そうね。たしかご褒美があるって言ってたよね」

 「ああ。あれだろ。今度の武闘大会に招待されるって話だ」

 「そうそう・・・王様と見学だってさ。いいよなぁ。しかもタダだってよ。なかなかチケット取れないのにさ」

 「あ、アイン様も百点取ってる教科がある・・・しかも二つか。内政に、歴史もだ」


 子供たちが騒いでいる中で、ユーナリアは、メモ帳を取り出して次の授業の準備をし始めた。 

 次の授業は、授業というよりも来年度についての話なので、そのメモを取るための準備をしている。


 「百点は・・・内政。歴史。経済。物作り。管理。兵士訓練。指揮官だな」

 「へぇ。結構いるんだね。先生は満点なんて取れないような作りにしてるって言ってたのにね」


 生徒たちは、試験が難しい設定にしていると聞かされていた。

 百点なんてなかなか取れるものじゃないとの話だったのだ。


 「えっと、内政と歴史がアイン様だったな」

 「経済がキリ? 誰だ」

 「物作りってあの変人じゃない。ガイアって子」

 「おお。そうだな。この管理の子も知らねえわ。管理ってあれだろ。兵糧問題だった奴」

 「そうそう。面倒な計算と適切な場所に物資を送る奴よ」

 「俺は、ぜってえ受けないテストだわ」

 「あんた、馬鹿だもん。無理無理」


 管理は兵糧問題と、物流コントロールの問題がある。

 個人の武器の量や大砲などの大型の物の調整、それと平時での資源管理を考えるのだ。

 戦時中と平時。

 二つの場合を考える難問中の難問。

 物好きにしか百点は取れないのである。

 これは、後方支援の人間の適性があるかのチェックとなっている。


 「兵士訓練・・・誰だ。これ・・・」

 「おいおい待てよ。指揮官のこれ・・・点数差があるぞ。一位が100点で。二位が88点だ。12点も差がある」


 他の教科は1~4点の差しかないのに、指揮官だけはそのくらいの差があった。


 「それにこれって、あの子?」

 

 次の準備が完了したユーナリア。

 教室の前方を見ると、なんだか生徒たちがこちらを見ている気がした。

 

 「・・・・」

 「・・・・」


 やっぱりこちらを見て何かを話している。

 コソコソしているから悪口か。

 自分が奴隷であることを心のどこかで馬鹿にしているのだろう。

 そんな風にユーナリアは、こちらを見てくる生徒を思っていた。


 彼女は、自分が奴隷出身であることを、なんとも思っていない。

 それは、奴隷である期間が短い事が原因で、すぐにサナリアに来たことが、その考えに関与している。

 たまたま親がそういう者だった。

 くらいにしか思っていないのだ。

 だから別に卑下することもないし、誇りに思うこともない。

 それにフュンが自分に自信を持ってくださいと励ましてくれているおかげで、最近は特にだが、何にも思っていない。

 昔は少しこの事で馬鹿にされると怒っていたりしたが、今では無である。

 人読みに邪魔な感情を置き去りにしているのだ。

 完璧にフュンの教えが体に沁み込んでいる。


 「でも・・・なんでみんな・・・私を見ているの??? まだ見てる」


 見てくるにしても長いなと思っていると教室に先生が入って来た。


 「は~い。成績表を渡しますよ。皆さん席に」


 担任のタキオンが話した。

 学校の担任の先生は退役軍人が多い。

 アーリア王国になる際に、軍を辞めた人がそのまま学校に就職していたりするのだ。

 軍人はやはり貴重な人材である。


 「ではでは」


 昔が軍人とは思えないほどにタキオンは軽快な先生である。


 「成績渡します~。これ、右側の人から順次来てください。お渡しします」


 成績を渡していく。

 ユーナリアも並んで、先生から受け取る。

 その前。


 「はい。ユーナリアさん。よく出来ましたね」

 「あ・・はい。ありがとうございます」


 そんな声を掛けられた。

 手応えの無い試験の数々だと、本人としては思っていて、いつもと変わりない最下位だろうと考えていた。

 だから、褒められたから驚くしかない。

 教室の自分の席に戻り、成績表を見る。


 経済   58 

 内政   40

 歴史   61

 規律   78

 指揮官 100


 「????」


 ユーナリアは、自分の用紙の満点が見えたはず。

 でも、文字が読み取れず、一旦紙から目を離して、もう一度紙を見た。


 「????????」


 100の数値が目に映る。

 しかし、脳が反応していない。


 「え!? 私が。満点!??!?」


 ありえない点数で、ユーナリアは眩暈がしそうだった。


 「しかもこれ・・・ビリじゃない!!!」


 『合計 337点 5000番中1831番』


 全体から半分以上であった。

 満点効果である。


 「ええええ。凄い。王様の言った通りだ・・・」


 今日、ユーナリアは黒の手紙を使用することを決めた。

 この結果をすぐに王様に伝えたい。感謝したいと思ったのだ。

 可愛らしい面のある弟子である。



 ◇


 「よ、呼びました?」

 「あれ、王様。お疲れですか。も、申し訳ありません。私のせいで・・・」

 「いえいえ。大丈夫。大丈夫。君のせいじゃない。むしろ僕がいけない・・・」

 「え?」


 フュンは、物凄くお疲れであった。

 それはここに来るまでの間で怒られていたからだ。

 試験結果が上層部にも出て、一か月前の試験を思い出したクリスとギルバーンが、二人で怒って来たのだ。


 それは、前もってユーナリアの事を教えて欲しいとの事だった。

 指揮官試験は難しい設定にしてしまったので、問題からの質問想定を生徒レベルにまで落としていたらしく、それだと彼女への質問レベルが足りなかったのだ。

 ここが怒っている原因だった。 

 あらかじめ言ってくれれば、彼女への質問はすでに軍上層部への相談レベルまでに引き上げたのだ。

 それで彼女の力を更に見極めたかったとも、二人が言ってきたことで、フュンもそれは申し訳なかったと、一生懸命謝った末に、しょんぼりしたのだ。

 それに今回は、珍しくもクリスの方が怒っていた。

 ギルバーンが止めてくれなければ、あと三時間は怒られていただろう。


 「王様でも・・・顔色が・・・」

 「大丈夫ですよ。ユーナが心配する事じゃありません。それで今日は何の用ですか」

 「王様。私、満点でした」

 「おお! 何が?」


 知っているのに知らないふりをした。


 「指揮官です」

 「やっぱりですね。あなたは優秀ですからね」

 「え。優秀??」

 「自分の考えで話しました?」

 「はい。話しました」

 「うんうん。それでいい。君は自分の考えに自信を持ちなさい」

 「はい」

 「規律。あれはどうなりました?」

 「78点です」

 「おお。良い感じですね。上手くいきましたね」

 「はい」

 「よく出来ましたね」


 フュンが頭を撫でてくれた。

 それだけで、ユーナリアは今までの辛さが全部吹き飛んだのだ。

 王様に正式に認められた事も大きい。


 「では、満点があるってことは、招待されますね。楽しみに待っていますよ」

 「・・・招待???」

 「ええ。満点の子たちは、僕と一緒に武闘大会を見ます。会場の特別室で僕の幹部と一緒に大会を見れますよ」

 「え? は、はい」

 「だから楽しみにしてくださいね。あ、そろそろ時間か。じゃあ、次はそこで会いましょうね」

 「あ。はい・・え? 招待???」


 ユーナリアは自分が満点を取るなど、微塵も思っていなかったので、担任の先生が教えてくれていた話を覚えていなかった。

 満点者は、アーリア武闘大会の決勝トーナメントの際に招待されるのである。


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