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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第199話 君を選んだ

 その後。

 試験が始まるまでに、ユーナリアは三回黒い手紙を使用。

 黒い手紙を出す度に、必ずフュンがやって来るのである。




 一回目。

 本当に王様が来るんだ!

 と思ったユーナリアは嬉しさ半分、申し訳なさ半分でフュンと会っていた。

 凄く忙しいだろうに、私の為に、わざわざ会いに来てくれている。

 なんとなくだが、彼女は子供ながらに気付いていた。


 「王様。私は・・・何がいいんでしょうか。何を勉強すれば・・・」

 「そうですね。あなたは知恵者です。なので、色々な事を鍛えるのは良しですが、一つ得意を作りましょう」

 「得意ですか・・・ないのに?」

 「はい。大丈夫。得意は作るものですからね。まずは好きな事から!」


 得意な事を生み出す。

 それが好循環を生むとフュンは思っている。


 「何がいいんでしょう」

 「とりあえず、なんでもチャレンジです。やってみましょう」

 「はい」


 と曖昧な指導をした。





 二回目。

 ユーナリアは、前回王様に会えたので、とにかく日々を頑張ってみた。

 でも何が得意なのか分からずに悩んでいた。

 自分の事を知る事が出来ずに、モヤモヤする日々を過ごしてから、ユーナリアはフュンを呼んだ。

 出したら即来るみたいに、この手紙は本当に魔法の手紙なんだと、ユーナリアは思ったものだった。


 「王様。私、何が得意なんでしょうか」

 「そうですね。ユーナ」

 「はい」


 仲良くなったので、フュンはユーナリアをユーナと呼ぶことにした。


 「五月。年度試験ですよね」

 「はい」


 アーリアの学校には最終試験のような全体試験がある。

 筆記。実技。専門。

 様々な部門で、五つの教科を選び、自分の実力を試す試験なのだ。

 これは、自分でその分野を選ぶことが重要な試験でもあり、先生方がそこに口出ししない。

 チャレンジ精神を養うのである。

 それと、上位陣は学校中に発表される。

 

 「それのどれにエントリーしましたか」

 「え・・・兵士と内政です」

 「兵士は知ではなく武ですか? それと内政だと全般の?」

 「そうです・・・えっと・・・」


 実技として、兵士訓練。兵士規律訓練。

 筆記として、経済。内政。歴史。 

 この五分野でユーナリアは勝負しようとしていた。


 「んんん。そうか」

 

 エントリーするものが、違うなと思っても、フュンは苦い顔せずに指摘する。


 「じゃあ、あなたはですね。兵士訓練はやめましょう。ディベート勝負をしてきてください」

 「え? それって、指揮官の試験ですよね」

 「そうです。要は、模擬軍議のような事ですね」

 「そ、そんな難しそうな事・・・わ、私にできるのでしょうか。無理な気が」


 兵士試験の指揮官試験。

 これは兵士の中ではトップクラスに難しいとされている。


 「いいんです。そして、ここでは対策を考えないで下さい」

 「し、試験対策をしない!? え?」

 「そうです。思ったことを素直に話す。それだけでいいです」

 「そ、そんなので・・いいんでしょうか」

 「はい。そうしてください。なので、あなたは。歴史。経済。この二つを重点的に勉強してください。いいですね。内政はたぶん、全般を網羅しないといけないので、結構難しい。なので捨て問にしていいです。歴史と経済は単純な暗記分野ですから、点が伸びやすい」

 「わ、わかりました。頑張ります」


 と指揮官試験を受ける理由だけは言わないで、フュンは指導をし始めた。



 

 三回目。


 「王様・・・」

 「自信ありませんか。その顔は」

 

 三回も会えば、顔色一つで言いたい事が分かる。

 フュンは笑顔で彼女の話を聞こうとしていた。


 「無理です・・・何も上手くいきません。勉強も・・・」

 「そう思っているのですね」

 「・・・はい」

 「いいでしょう。じゃあ、見てあげます。規律訓練です。武器を構えてください」

 「あ・・はい」


 規律訓練。

 それは、団体行動試験である。

 指示を聞いて、横にいる人物と足並みをそろえる訓練であり、戦う動きを合わせるというものだ。

 なので、別に動きの良さや強さを求めていない試験でもある。


 ちなみに、採点の参考にしているのは、フュン親衛隊とネアルの近衛兵たちだ。

 彼らの団体での動きを元に採点項目がある。

 それで、ここの試験の採点者は、ウルシェラとマーシェン。それと、リオルが担当している。


 「うんうん。構えはいいでしょう」


 ユーナリアの武器の構えをまず褒める。

 フュンの指導は褒める事から組み立てる。


 「そ。そうですか」

 「団体行動の難しさはありますがね。この試験で何が難しいのか。それがわかりますか?」

 「え?」

 「よく考えてください。この試験の一番難しい点です」


 ユーナリアは想像した。


 指揮官からの指示を聞いて動き出すこと。

 違う。

 これは言う事を聞ければ誰にでもできる。

 それに複雑な行動指示をしない事が決まっている。


 動きについていけない事。

 違う。

 遅くても動き出しの良し悪しの試験じゃない事は説明を受けた。

 ならば。


 「・・・あ・・・」

 「わかりました?」

 「当日。隣の人と練習できません」

 「その通りです」


 フュンは笑顔で答えた。


 「あなたは、やはり考えが良い。うんうん。いいですか。規律訓練。この試験だけは練習が意味ありません。なぜなら、当日の横の人が二回とも違います。前に練習があっても、それは練習の時の隣の人なのです」

 「でも、王様。それだと何の意味があって」

 「これは息を合わせることの意味を知って欲しい事と、そもそもが指揮官の言う通りに動くことを感じる訓練です」

 「・・・感じる訓練・・・」


 フュンは、ここでの指導は丁寧であった。


 「ユーナ」

 「はい」

 「人読みできますか」

 「人読み?」

 「はい。当日ですね。大体あの試験は、50名位でやりますから。あの試験にチャレンジする子が1000名ほどいれば、おそらくは20回くらい。全体がやります。それで子供たちのチャンスが2回です。合計40回はあると思いますね。なのでその半分の回数分。全体の動きを、あなたが見る事が出来ます」

 「見る?」

 「ええ。見るです。その試験でチャレンジしている人の動きを見る事が出来ます」

 「な。なるほど」


 試験を待つ間に他の子の試験を見る事が出来る。

 しかし、フュンの指摘は、これが目的じゃない。


 「それで、そこが目的じゃありません」

 「はい?」

 「試験を受けている子じゃなく、試験官の先生の癖を見なさい」

 「試験官のですか?」

 「はい。指示出しの先生は、現役の親衛隊の人です。ウルさんたちは採点の方にいますので、僕では指示出しの癖がわからない。ですから、自分で、待機中に人を見極めるのです」

 「・・・なるほど。指示の癖ですか」

 「ユーナ。一つ覚えておいてください」

 「はい」


 フュンもすっかり師の立場で指導をしていた。

 ユーナリア自身の力で成長して欲しいと思っているが、ここはアドバイスが必要かと思ったのだ。


 「世の中。何をするにも。必ず人がいます。天変地異以外では、必ずどんな事象にも人が絡んでいます」

 「?」

 「今、あなたのそばに僕がいます」

 「は、はい」

 「でも、今。ここから僕がいなくなっても、僕の教えはあなたに残るでしょ。今を覚えていますよね。どんな指示を出しました?」

 「・・・人読みですか」

 「そうです。その言葉を覚えているとなると。僕はあなたのそばにいる事になりますよね。たとえ、遠く離れていても」

 「はい!」


 王様から貰った言葉は絶対に忘れない。

 ユーナリアは強く返事をした。


 「ですから、どんな事象にも人がいます。なので、問題の答えの裏にも人がいます。人無くして全ては始まりません」

 「はい!」

 「ですから、読める。どんな事も人が絡んでいるのなら、相手の事が読めるんです。どんな事象も読めるようになるのです。でも相手の考えが無理なら、相手の意図を。その意図が無理なら、起きた結果を研究するのです。そうすることで段々と予測が出来る」

 「・・・はい」

 「これは経験が大切ですからね。色んなことを経験しましょう。失敗してもいいのです。やってみないと、出来るかは分からない。なので、頑張るしかないんですよ」

 「はい! 王様」

 「ええ。大丈夫。君はその素質がある。僕と似たような力を持っているはず」

 「王様と???」



 ユーナリアはフュンの言葉に悩んでいた。

 まさか王様の力と似ていると言われると思わなかったのだ。

 ここからフュンは、父のように諭すように話しかけた。


 「人は難しいです。気持ちが複雑ですから。あなたが元奴隷という身分なだけで、困難がやって来ているでしょう。いいですか、人には善悪があります。それ以外もあります。悪意を向けられたり。善意をもらえたりする時もあります。善意を与えても、悪意が返ってくることもあります。ですが、そんな時は心を無にするのです」

 「・・・・無?」



 「ええ。無の境地です。全てを平らにして、心を落ち着かせた時。あなたは、完璧な人読み状態に入ります。善悪のどちらかに、感情が偏ってしまうと、勝手に相手の事を決めつけて見てしまいますのでね。本当の意味の無になれません。人読みをするには、無の状態に入らないとね。上手く機能しません」 

 「無ですか・・・何も考えないことですか?」



 「いいえ。そういう意味じゃないです。えっと言いたい事を簡単にしたいな。君に合わせて話すと・・・・・そうですね。自分は、自分。他人は他人です。比べてはいけません。あなたが今、ビリだったとしても。それはただビリだという事象なだけだ。あなた自身が出来ない子じゃない。周りから比べて出来ないと自分自身が決めつけているだけで、本来のあなたの力はもっとある。自分の想像よりも先に力があるのです」

 「私にですか?!・・・私なんかに何かできるんでしょうか」



 「いいですか。自分に対して疑問を持ってはいけません。出来るんだ。やってやるんだという気持ちが、あなたを頑張らせる。あなたを成長させるのですよ。だから、あなたの心が、あなたを頑張らせるはずです」

 「・・・私の心が・・・ですか・・・」



 最後にフュンは応援する。


 「はい。そしてもう一つ。僕はあなたを信じてます。あなたの力はこんなもんじゃない。もっとできるとね」

 「私が・・・もっと」

 「いいですか。ユーナ。僕の思いをあなたに預けますので、よく考えて、よく悩んで、よく工夫してください。あなたは大丈夫。僕がお墨付きをあげます」

 「王様がですか。嬉しいですけど・・・でも・・・どうして私なんかに?」


 不安そうな顔をしたユーナリアは、王様に応援してもらえることを嬉しいと思いつつも、申し訳ないように感じてきた。


 「いいえ。なんかじゃない。ユーナは立派な人です。自分をなんかとは言っちゃいけません」

 「でも、そんなに変われないですよ。全然なにもできません・・・王様」

 「いいえ。そんな事はありません。君の年代であれば、一瞬で変化します。明日には別人のようになります。君の気持ちで、世界が変わる。変わろうと思えば、天と地ほど変わります!」


 少し叱った後に、フュンが微笑む。

 ユーナリアはその慈愛に満ちている顔をしたフュンを見上げた。

 太陽だった。

 周りを照らす明るい太陽のような人だとユーナリアは思った。


 「それとですね。僕は王としてあなたを応援していません。太陽王フュン・ロベルト・アーリアではなく、このフュン・メイダルフィアが、あなたの力を信じています。ユーナ。この僕にも出来たんですよ。人質にも出来たのです。ならば、奴隷にだって出来ない事はない。あなたなら、きっと出来るはずです。変われるはずですよ。ね!」


 名に偽らざる思いを込めて、フュン・メイダルフィアはここで最愛の弟子を選んだ。


 ユーナリア。


 それが、アーリアの歴史に残る太陽王の愛弟子の名である。

 その力は太陽と酷似した力であったと言われている。

 人を読んで人を制する星を持っていた・・・。



こうしてユーナリアは、フュンの教えをもらえた。

入学試験の際の面接で、元奴隷たち50名ほどを、フュンが直接面接をしている。

だけど合格にしたのはユーナリアだけだった。

それは彼女のやる気。意思。これを見抜いていたのだ。

それは言葉だけじゃなく、態度、表情、それらから見抜いたのである。

だから、彼女には意地がある。

いじめられようが、運動や勉強が出来なくても、弱音を吐いても、決して辞めるとは言わなかった。

悔しいと表現したのだ。



そしてこの時点では、師弟ではない。

王様と元奴隷というとんでもない格差があったのだ。

彼女にとって、師弟とは感じられないほどに、フュンが遠い存在だろう。

彼女の才は元々あったものであるが、この学校とフュンのおかげで開花することになる。

太陽王の愛弟子。または『〇〇〇』ユーナリアと呼ばれる。

それに彼女は、別な名前でも呼ばれることにもなる。

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