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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第198話 諦めない者

 光を捉えているアインは、懸命に追いかけた。


 「父さん!」

 「ん?」

 「父さん。待って」

 「あれ? アイン??」


 フュンは、追いかけてきたアインの為に立ち止まる。

 

 「父さん。今の。彼女の話・・本当ですか。奴隷なんですね」

 「聞いていたのですか」

 「はい」

 「仕方ないですね。奴隷ですよ。彼女はね。でも元ですよ」

 「そうか。だから・・・あんな事に」


 アインは彼女の怪我をした顔を思い出した。


 「まさか。アイン。子供たちに介入しましたか」

 「い、いいえ。彼女が拒否しました。僕には手伝わせない意思がありました」

 「やはりそうですか」


 フュンが明るく笑った。

 自分が考える彼女の像と、今のアインの言葉で意思の確認が取れたので、笑顔になったのだ。


 「やはり、あの意志の強さは・・・うんうん。それは良い事でしょう。アイン! 子供たちの事ですからね。君は余計な事に首を突っ込まないようにしてください。いいですね。子供は子供同士で解決しないといけません。大人は手伝うしかないのです」


 ギリギリの部分までは子供同士であるべき。

 まだ彼女が諦めていないので、彼女が限界だと言ったその時が自分の出番だとフュンは思っている。


 「父さん。な、なぜでしょうか。彼女を救った方が・・・いいのでは?」

 「いいえ。彼女を救うのは彼女であるべき。僕らじゃありません。奴隷である事実は変わりない。それにそもそもその事実を跳ねのけるくらいの気概が必要。それでも、彼女が辛くなったら僕が出ますから、あなたは見守っていてください」

 「しかし。父さん・・・」


 アインが詰め寄ろうとすると、学校の時計を見たフュンが慌てる。


 「あ。時間がない。仕事があるので、ここらでね。いいですか。駄目ですよ」

 「父さん!」

 「ん?」

 「会えますか。今日か明日。ちょっと聞きたいことがあります」

 「・・・いいでしょう。夜にでも、君の寮の部屋にいきます。窓を開けておいてください」

 「わかりました」


 アインとフュンは慌ただしく別れた。


 ◇


 夜。アインの部屋。


 「父さん」

 「はいはい。よいしょと」


 窓から部屋に侵入する王様は、この王様しかいない。

 フュンは、泥棒のような行動が出来る王様なのだ!

  

 「アイン。とりあえず、休ませてください。ちょっと大変でした」


 お疲れのフュンは、アインのベッドに腰かけた。

 アインは机の椅子に座る。


 「父さん。忙しいんですね」

 「まあね。僕って、王様らしいですからね」

 「らしいじゃないです。王様なんですよ」

 「ハハハ。信じられない」


 まだ言うかこの人と思うアインは、呆れながら本題に突入する。


 「父さん。彼女の隠された才とはなんでしょうか? 父さんが自ら足を運ぶなんて・・・」


 珍しい。

 だからアインは話を聞きたかった。


 「ええ。彼女の話。どこまで聞いていました」

 「おそらく最初からですね」


 アインの耳の良さは知っている。 

 でもどこの範囲から聞いていたのかは知らない。


 「それじゃあ、説明は省きます」

 「ありがとうございます」

 「彼女はですね。その前に、アイン。君はね。試験をやってますよね。念のためで」

 「入試試験ですね。やりました」

 「それじゃあ、大問の三問目。あれをどういう風に答えましたか」

 「大問の三問目・・・ギリダート戦争の話ですか」

 「そうです。あれをどうすればよいかの問題です」


 大問は、知恵の問題。

 答えがないもので、何を答えてもいい問題である。

 

 大問の三問目。

 それは、フュンが戦ってきたギリダート戦争に紐づけたのだ。

 最初のサナリアの箱舟の話から、野戦での防衛戦争までの話をして、その間で、どうしたら王国の勝ちになるのかを考える問題で、勝てないと判断しても何らかの理由を出すという問題だった。

 そう。

 フュンが出した問題とは、王国が勝つ方法を見出してみる。

 帝国にとっては、立場が逆転している問題を出したのだ。

 

 「僕は、まず。船を防ぐ事は不可能。理由はあそこに船が来ることが想像外ですから。対処は不可だと。そして次の大砲も不可です。あれらもサブロウの新兵器を投入したので、絶対に王国側は対処が出来ません。それに壁を壊した砲弾の嵐だって、対処は厳しいでしょう」

 「うんうん。良い判断だ」

 「それで、次の野戦ですね。あれの数が弱い。もう少し多めに招集しないと、勝てないですよ。やっぱり、父さんの勝ちを変えるのは難しい」


 父の勝利を信じて疑わない。

 アインは帝国の勝利は揺るがないと思っていた。


 「はい。いいですね。その答えも良いです」

 「なので、残りの二か所のアージスとガイナルに、王国は兵の力を入れ過ぎた。これが王国側の勝ち筋が消えた原因かと。だから勝ち目は無しかと」

 「・・うんうん。全体から来る良い判断だ。それも正しい」


 フュンは自分の子供を色眼鏡なしに判断している。

 

 「君の答えは、たぶん成績上位陣の考えと変わらない。だから素晴らしい。大体ね。この問題は分かりませんと答えるのが、試験を受けた子の大半の回答でしたね。その次に、湖に現れたソフィア号を叩けと言ってくる子が多い。これ曖昧ですよね。全然答えになってません。その次に、壁にいる時に防衛で守りきればいいでしょとも書いてきます。そんな考えないの答えだと、こちらとしては問題を出す意味がないです。頼みますから、問題文をよく読んで、理解してもらいたいですよね」


 フュンは自分の考えを書けと言っているのだ。

 別に出来もしない事を出来るようにして書けと言っているのではない。

 

 「君のように、戦争の局面じゃなく、全体図から対処を出すのも正しいのですよ」


 久しぶりに褒められて、アインも嬉しくなっていた。


 「ですが、君の場合は、これを良く知るからこその対処法です」

 「え?」

 「君は他の戦争データも調べ上げています。ガイナルと、アージスやハスラの双方ですね。つまり、君は知っている情報から答えを出しましたね」

 「ん? それはたしかに・・・そうです」

 「ね。君は、歴史から紐解いただけと言う事です」

 「は!? なるほど」

 「でもそれも正しいですよ。歴史も大切ですからね。過去を知り、今を知る。そして未来へと繋げる。これも大事なんですね」

 「でも父さんの言う通りかと。僕はギリダートの事だと、頭の文章を読んだだけで、判断していました」

 「そうでしょう。あなたの頭の中にある。知っている事を考えたに過ぎない。しかしね。彼女は違います。彼女は無から想像しています」

 「想像?」


 フュンは彼女の回答が面白いと思ったのだ。


 「彼女は、壁を壊された後の対処が悪いと書いていました」

 「壁を」

 「はい。一枚目の壁が壊れた後。敵が二枚目に向かって、船を運んで突撃してくることは明確。それは、ソフィア号の大きさから考えるべきだと書いています。船の甲板の位置と城壁の高さが同じ。ここから気付くべきと書いていました。あの船が、敵が乗り込むためのものだとね。ここは彼女が非常に鋭い考えを持っている証拠です。つまり、梯子代わりに船を使う事を予測しているんですよね。それもその現場の立場に立って考えてです」


 敵の船の使い方に気付け。

 それも、一回目の壁にいる目線からである。

 二回目の結果から思い描くなんてのは、歴史から考えても誰でも思いつくだろうが、一回目の立場から想像して答えているのが高評価に繋がっていた。

 使い方を知らない立場から想像するんだという、フュンの強烈なメッセージを彼女だけが読み取っていたのだ。

 問題の芯の部分を理解していたという事だ。


 「なので、その船を進ませないように地上戦を仕掛ける事が重要だと、彼女は書きました。これもまた鋭い」

 「な、なるほど」


 船が切り札なのは、フーラル湖の進軍から分かる事。

 だったら船を止めるのが基本。

 しかし、特徴的な武器であるモヤモヤ砲もあるために、船を大砲などで狙うのは難しい。

 ならば、運んでくる人間の方を狙うという考えだった。


 「それで、あの時。僕は、一枚目の東の壁しか破壊していません。なので、王国側が逆転させるとしたら、東以外の一枚目の壁にいた人間たちをですよ。壊された壁の下にまで降ろし、そこから裏に回って、サナリアの箱舟の背後から強襲する。それで、勝つと答えたのです」

 「・・・」


 勝利の手順として最高レベルの策である。

 彼女の思考の鮮やかさにアインは黙った。


 「彼女は、あの戦場で最も負けている場面で勝つ策を考えました。負けている現状をひっくり返す。諦めない選択肢を取ったのです。いいですか。ギリダート防衛戦争の野戦での勝利を目指すやり方じゃなくて、あの船との対決をしても勝つ方法を考えたのは、彼女だけなんです。他の子たちは勝てそうな戦場。もしくは五分五分の状態の戦場で勝つ策を考えたに過ぎない。だから面白いと思いました。負けをひっくり返す意志の強さ。あれは彼女だけが持つ反逆の意思だ。だから、僕はね」


 フュンは立ち上がって、力強く話し始めた。


 「頭の良さなどクソくらえ! 重要なのは知恵だ」

 

 いきなりの強い言葉に驚いたアイン。

 その顔を見たフュンは満面の笑みになる。


 「これ、ミラ先生が最初に言ってくれたことの応用ですね。僕も子供の頃は馬鹿でしたからね。彼女の気持ちがよく分かる。彼女と同じように、何にもできないと思っていましたよ。でも先生は違いましたね。僕には、知恵がある。知識がないだけだってね。言ってくれましたよ。ええ」

 

 ミランダの教えはフュンの中に生きている。


 「だから、彼女も自分の成長を諦めないのなら、僕と同じように成長するはず。その支えになるために、僕は彼女を学校に入れました。学校は三年あります。僕も三年、いや五年かな。それくらいでとりあえずは戦えるようになりましたからね。諦めなければ戦えるんですよ。特別な才能が無くてもね」


 第六次アージス大戦まではそのくらいの年月がかかっている。

 フュンがウォーカー隊を率いた時代である。


 「彼女もそれくらい努力できれば大丈夫でしょう。面白い存在だと思います。今は知識が無くて、ビリなだけだ。それに体がまだできていないからビリなだけだ。だからまだ諦めるような状態じゃない。簡単に諦めていい年齢じゃないですから。きっと大丈夫。素晴らしい女性になるでしょう。ダンのように立派な人にもね」


 奴隷がなんだというのだ。

 こちとら人質だぞ。

 それが統一王まで行ったのだぞ。

 だったら彼女だって。

 ダン以上の存在になるかもしれないじゃないか。


 フュンの顔は、戦いの時の表情をしていた。

 自分と似通った道を歩く少女を、心の底から応援しているのだった。


ユーナリアは知識じゃなく、知恵を持つ者。

それに頑固です。

だからフュンとほぼ似ています。

彼もまた頑固なので。


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