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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第196話 ウォーカー隊の魂を受け継いだ軍 王国最強の一角ゼファー軍

 「殿下の子」「我らと飲もう」

 「はいぃ」

 「ブドウジュース」「どうぞ」

 「あ、ありがとうございますねぇ」


 ニールとルージュは、ツェンにジュースを渡した。

 

 「これはワインだ」「ワインだ」

 「へぇ。これがワインなんですか。ブドウの匂いがしますぅ」


 騙すつもりはないのに、ツェンが本当に信じそうだったので双子は急いで訂正する。


 「「つもりで飲むんだぞ」」

 「つもりで? じゃあこれは?」

 「「ブドウジュース」」

 「そうですかぁ」


 ツェンは素直なので、全てを受け入れる。


 「せーの」「で乾杯だ」

 「はい。どーぞ」


 同じリズムで言い返す。


 「「せーの」」

 「「「乾杯」」」


 三人は同じ目線で、同じものを飲んでこの会を楽しんでいた。


 ◇


 「サブロウ」

 「どしたぞ。アイン?」

 「久しぶりですね」

 「おうぞ。長く会ってなかったぞな。悪かったぞな。忙しくてぞ。会えんかったぞ。でも大きくなったぞな。立派になったぞ」


 親戚のおじさんのように、サブロウは優しかった。


 「いえいえ。僕はそれほどじゃないですよ。サブロウ。今のあなた、大変なんでしょう。新しいお仕事は?」

 「まあまあぞ」


 サブロウとアインは隣の席に座って食事を楽しんでいた。

 フュンと趣味嗜好が似ているアインは、何かの開発が好きであったりする。

 だからサブロウと息が合うのだ。


 「今は、何を作っているのです」

 「新武装だぞ」

 「武装ですか。兵器じゃなくて?」

 「おうぞ。めちゃくちゃカッコいい武装ぞ。いつか見せてやろうぞ」

 「本当ですか。どんなのなんでしょうね」


 アインはワクワクしていた。

 

 「それはぞ。奴らに勝つための最強武装ぞ!」

 「奴ら・・・ワルベントですか」

 「おうぞ。レガイアにも負けんぞ。おいらたちの技術だって負けてはいない事を証明してみせるぞ」

 「そうですね。勝ちたいですね」

 「おうぞ。だから任せろぞ。フュンと三軍団にな。アインはここを守っていろぞ」

 「はい」


 アインの役割。

 それは、次の世代をまとめあげて、次のアーリアを守る事。

 今回の戦いは、フュンが戦う。

 フュンたちは、次の世代の為に今のアーリアを守るのだ。

 だから、アインだけは安全な場所にいろという意味も込めて、サブロウは行っていた。

 アインが生きていれば、アーリア王国が続いていくからだ。


 「お前は聡明な奴ぞ。だから後を任せられるぞな。フュンも安心しているぞ」

 「そうですかね」

 「そうぞ。自信を持てぞ」


 サブロウはアインの頭を撫でて答えた。


 ◇


 会場の隅にいるのはフィアとマール。

 フィアがマールの袖を引っ張った。


 「マール。マール!」

 「へい。なんですぜ」

 「おんぶ!」

 「え? ここで?」

 「うん。おんぶ」

 「はい」


 マールは、フィアをおんぶした。

 

 「マール」

 「なんですぜ」

 「歩いて」

 「え?」

 「グルグル回って、ここ見学するの」

 「そうですか。わかりやした」

 

 会場を回ろうとすると、怒られる。

 

 「違う。部屋じゃない。城の中」

 「え? お城の中ですか」

 「うん」

 「はぁ。しょうがないですぜ・・・フュン!」


 マールは付き合ってあげる事にした。


 「なんですか」


 遠くから声が返ってきた。


 「フィアが外に出たいって言ってやす。そのまま連れて行ってもいいですぜ?」

 「いいですよ! お願いします」

 「じゃあ、今から出やす」

 「は~い」


 軽い返事の後に、マールはフィアを連れて外に出た。

 簡単に許可が出るのは、フュンがマールを信頼しているからだ。

 娘を連れだすのだって、普通なら許可しない。


 「フィア。どこ行けばいいんですぜ」

 「どこでもいい」

 「あっし。この城の中は知らんですぜ」

 「フィーも」

 「はぁ。それじゃあ、どこでもいいですかい」

 「うん」


 適当にぶらつくことにした二人は、すれ違うメイドや執事たちに挨拶をしながら歩き回った。

 その途中。


 「マール」

 「なんですぜ」

 「ご苦労様だね」

 「ん?」

 「ハスラのウォーカー隊の人たちの面倒見ているでしょ」

 「ん?」

 「マールが見てるんでしょ」

 「ふっ。フィア。よく見てるですぜ。そうですぜ」


 人を見ていないようで、人を見ている。

 不思議な感覚を持つ少女だと、マールは思った。

 

 「マール・・・マールも王都にいっても良いと思うよ」

 「ん?」

 「マールみたいな人は先生になった方が良いと思う」

 「あっしが? 先生??」

 「うん。マールもエリナと同じで人に教えるのが得意だもん」

 「そうですかね」

 「そうだよ。だから、こっちは大丈夫。ウォーカー隊の人たちはフィーが見るから。安心して」

 「フィア。それが言いたかったのですぜ?」


 だからあっしを連れだしたのか。

 マールは幼いながらに気を遣う少女に驚いた。


 「うん。マールはマールとして生きよう。私はダーレーの当主だから、ハスラの人を見るんだよ。マールの役割はフィーがやるんだよ」

 「・・・そうですか。フィア。そうした方がいいでしょうかね?」

 「うん。もう十分。ウォーカー隊の為に生きたはず。ザンカも許してくれるよ」

 「そうですか・・・兄貴が・・・」

 「うん。大丈夫。それにね。ウォーカー隊の人の事はフィーが見るから、安心だよ」

 「はははは。そうですかい。そうですね。フィアが見ていれば、あいつらも安心でしょうね」


 翌年。

 マールは二期生から指導者となった。

 エリナ。マール。

 ウォーカー隊隊長ミランダを支えた名副将は、名指導者となったのだ。


 ◇


 その頃、フュンはというと、宴会の席で重要な話をしていた。

 そばにいるのは、子供の頃からの戦友たちである。

 

 「タイム。リアリス。カゲロイ。ゼファー。ミシェル。ニール。ルージュ」

 「「「はい!」」」

 「僕らは、勝ちにいきます。その際。あなたたちを全員! ゼファー軍に編入します。そして、僕も入ります。いいですね」

 「え?! 殿下が我の軍にですか」

 

 ゼファーが驚く。


 「そうです。ゼファー軍だけが二万です。それは、最終決戦の形をしてもらいたいからです」

 「・・・我の軍が・・・」

 

 フュンは次々と指示を出す。


 「そこで、ミシェル」

 「はい。フュン様」

 「僕の隣をお願いします」

 「はい。もちろんです」

 「戦いではなく、指揮の補佐。相談役も込みですね。いいですね」

 「はい」

 「ありがとう」


 次の戦い。

 ミシェルは大将補佐官であった。

 ここにクリスは軍師として入るから役割は微妙に違う。


 「次にタイム」

 「はい」

 「君は、ゼファーと共に前方軍です。敵の武器が高性能で、かなり難しいんですが、お願いします。新武装での戦いを演じるのに、ゼファー以外だと君しかいないかと思いましてね」

 「わかりました。その新武装を教えてもらえるとの事ですよね?」 

 「ええ。もちろん教えますからね。タイム」

 「はい。頑張りますよ。フュンさん」


 タイムは頷いた。


 「カゲロイ。リアリス」

 「おう」「はい」

 「二人は中距離でお願いします。ゼファーとタイムのフォローです。二人が後ろから支えて欲しい。二人の位置は、武器性能的には、相手に負ける距離なんです。ですが、二人の力量でカバーします」

 「そうか。それで俺たちか」

 

 カゲロイがリアリスを見てからフュンを見た。

 自分たちの実力で相手をねじ伏せろ。

 そういう意味であるとカゲロイは思った。


 「そうです。相手の武器は、とんでもない速さで、こちらに向かってきます。ですが、正確性はそんなにないです。個人の力量が正確性に影響する武器を使ってくるんですけどね。一撃当てると敵を倒せる能力を得たがために、敵はその武器を精密に扱う事に慣れていないようでしてね。狙いが弱いんですよ。だからそうなるとね。こちらはリアリスの矢。そしてカゲロイの攪乱が重要かと思います」


 フュンの話を真剣に聞いていたリアリスが話す。


 「そうなんだ。でも殿下。あたしレベルの矢でもいいの。不安なんだけど」 

 「あなたの矢は脅威ですよ。フィアーナから、力を得たでしょ」

 「うん。でも、あたしの実力は、師匠ほどじゃないよ」

 「いいんです。あなたはあなたらしくあればいいのです。別にフィアーナにならなくてもいいんです。それにあなたの基本は、ウォーカー隊ですからね。フィアーナの野性的な動きよりも軍の動かし方が上手いですから。ゼファー軍を引っ張れるはず。だから自信を持って」

 「・・うん。ありがと。殿下」

 「ええ」


 リアリスの自信の無さを見抜いたフュンは、励ましながら褒めた。

 さりげないフォローであった。


 「ニール。ルージュ」

 「「なに!」」

 「二人は、カゲロイの影部隊に入ってください。カゲロイのゼファー軍は混合編成にするつもりです。影と兵の二重部隊です。そこの影を統率する役割を任せます。基本はカゲロイが長です」

 「「わかった」」


 双子が納得すると、カゲロイに体を向けた。


 「おい」「カゲロイ」

 「我らの足」「引っ張んなよ」

 「んだと、この野郎。双子め。いつになったら大きくなんだよ」

 「あああ」「言っちゃいけないこと」

 「いったな」「カゲロイ!!!」

 「うっせ。生意気双子」


 三人がフュンたちの周りでドカドカと喧嘩になる。

 いい大人なのに喧嘩するなんてと思う他の者は、会話を進める。

 

 「フュン様・・・この戦。フュン様はどうするのでしょう?」


 ミシェルが聞いた。


 「ええ。僕は後方軍から皆を支えますが、ここぞのタイミングで前に出ます。その時が勝負の時です。ラーゼ市街地戦。これが僕らの始まりの戦いだ。自由を手にするための戦いです」

 「「「・・・」」」

  

 真の自由を得るための戦い。

 今までの戦いは、裏切りを防ぐ戦いだったり、二大国が大陸の覇権を握る戦いだったり、闇の組織との決着を着ける戦いだったりと、あれでも大きかったのに、これを前にすると小さな規模の戦いであったと思えてしまう。

 それほど、今回の規模は、大陸の運命を左右する重大な戦いになっているのだ。

 規模が大きすぎると言っても過言じゃない。

 一つ負けると、失うのは全土。

 一個の国を失うわけじゃなくて、大陸ごと失うのだ。

 

 そこで、負けられない戦いに挑むのがフュンとその仲間たち。

 ウォーカー隊の魂を継いだ大切な仲間たちである。


 「勝ちましょうね。僕らは、共に育った兄弟みたいなものですよ。それにね。戦う時は先生たちも一緒にいてくれますよ。シゲマサさん。ザイオン。ザンカさん。ウォーカー隊じゃないけど、きっとヒザルスさんも。みんな。僕らと一緒に戦ってくれますよ。僕らは彼らに指導を受けたんです。技術だけじゃなくて、大切な思いも、たくさんもらいましたからね」

 

 フュンは、カゲロイを見て、ミシェルを見て、そこから皆を見た。

 シゲマサの弟子。ザイオンの弟子。そしてミランダの弟子たちだからだ。

 彼らの愛情をたくさんもらって育った人たちと共にフュンは運命の決戦に挑む。



 フュンは右の拳を、皆の前に出した。


 「さあ、二年後いきましょう。僕らが大陸を救う。強烈な一撃を敵に喰らわせます! いいですね。頑張りましょうね」

 「はい。もちろんです。殿下。我はここに命をかけます!」 

 

 ゼファーがその拳に自分の拳を合わせる。


 「私もです。フュン様」


 ミシェルも同じく。


 「ええ。僕もです。フュンさんと一緒に」


 タイムも。


 「俺もだ。いいぜ。シゲマサのあの時の思い。あれを無駄にしたくない。フュンに託した思い! 俺が実行する時が来たぜ!」


 カゲロイも。


 「あたしもだよ。やってやるからね殿下」


 リアリスも。


 「我らもだ」「当然!」


 双子も。


 全ての仲間たちが承諾した。

 だから。


 「僕らが、アーリア王国を勝たせてみせる。いや、僕らで勝ちきりますよ。頑張るぞ~!」

 「「「「おおお」」」」


 掛け声は優しいけど、意気込みは凄まじい。

 フュンの性格をよく知る仲間たちは、彼の思いを素直に受け取る事が出来る。

 

 アーリアの英雄は運命の一戦に挑む。

 王ではなくフュン・メイダルフィア自身を良く知る人物たちと共に・・・。




彼らはそれぞれの弟子です。

改めて紹介すると。


フュン――――ミランダ

ゼファー―――ウォーカー隊全体

ミシェル―――ザイオン

タイム――――基本がシゲマサ、ミランダの指揮が少々

カゲロイ―――サブロウ、シゲマサ、マサムネ

リアリス―――エリナ、フィアーナ(サナリア)

双子―――――ミランダ、サブロウ、シゲマサ、マサムネ


それぞれの思いを継承したのである。

ウォーカー隊は、この時代も生きる。

ゼファー軍の中で、共に生き続けるのである。



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