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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第195話 家族

 アーリア歴元年12月25日。

 城メイダルフィアの王の部屋にて。


 フュンとシルヴィアの元に、家族がやってきた。

 一日遅れたのは、フュンが前日まで忙しかったためである。


 「お母さん」

 「フィア」


 抱きつきに走って来たのかと思ったシルヴィアは、手を広げて待っていた。

 しかし、フィアはその胸の中には来ず。

 シルヴィアの左肩にしがみついた。

 このまま持ち上げろ。

 だと思ったシルヴィアは、左手で彼女のお尻を固定して支える。


 「ふぅ。危ないですね。まったく」

 「へへへ」


 自分がやりたいように動く女の子は、悪びれもせずに笑っていた。

 でもシルヴィアは片腕となっても、これくらいの事はお手の物である。


 ピカナがフュンの前に立った。


 「フュン君。僕さ。一緒にレベッカたちと来ちゃったけど。よく考えたら、邪魔だよね」

 「え? ピカナさんが邪魔? 誰がそんな事を言ったんですか?」


 フュンが聞き返した。

 

 「僕!」

 「駄目ですよ。ピカナさんは、シルヴィアのお父さんですよ。何を馬鹿な事を言っているんですか」

 「いや、でもね。君にとっては邪魔じゃないかい。家族水入らずでいるのにね」

 「だから、僕らは家族でしょ! いいですかピカナさん。僕とだって家族だと思ってくださいよ。子供の頃から、僕はちゃんと、ピカナさんを家族だと思っていますからね。もう。どうなってるんだ。レベッカ。そこをちゃんと言いましたか?」

 

 フュンは自信無さげなピカナに怒っていた。


 「当然言いましたよ。ピカナさんも私たちの家族だって」

 「でしょう。ねえ。アインもですよね」

 「もちろんです」

 「ほら。ツェンも思ってますよ」

 「はいぃ」


 フュンは自分の家族に答えを促して、ピカナに自信をつけさせようとしていた。


 「そうですか。それだと嬉しいですね」

 「当り前ですからね。こんな事で、悩まないでくださいよ。あ、そうだ。あとですね」 


 話を切り替えるために、話題を提供する。


 「ジーク様たちもお休みらしくて、明日あたりにこっちに来るそうです。それと、ルイス様はお手紙が来てますよ」

 「そうですか。あの頃のダーレーですね」

 「ええ。本当はミラ先生もいればよかったんですけどね。あ、それでもサブロウたちも来てくれます。今忙しいんですけどね」

 「おお、そうですか。サブロウ。今、何をやってるんですか」

 

 ピカナは聞いた。


 「はい。今の彼は新兵器の量産状態をチェックしてますね。ロベルトにいます」

 「新兵器?」

 「ええ。新武装って言った方がいいかもしれません」

 「新武装ですか。凄そうですね」

 「はい。負けませんよ。僕らだってね。敵に楽勝だと思われたくないですからね」


 フュンの頼もしい顔を見て、ピカナは微笑んだ。

 あの時の自分の勘は間違いじゃない。

 あの小さかった少年が、大陸を動かすほどの優秀な人間になったのだと思った。

 

 ◇


 この後、家族水入らずのお休みを過ごして、翌日もジークやサブロウらと共に休みに入った。

 城の中でも宴会のようになるのは、この家族の基本の様で、優雅なお食事会とはならなかった。

 エリナやマール。その他にもゼファーやミシェル。カゲロイたちも来てくれたので、ウォーカー隊としてはマサムネ以外が集まっていた。


 そして色々なところで会話が繰り広げられている。

 

 「フュン」

 「はいエリナ。どうしました?」

 「マサムネ、知らん? どこにもいないみたいだけどさ」


 エリナは辺りを見回して探した。


 「ええ、マサムネさんはね。放浪してますよ」

 「放浪?」

 「この間ですね。あ。その前に。エリナは、マイマイを知っていますか?」

 「ああ。あの元気娘だな」


 エリナは、独特な覚え方をしていた。


 「はい。その彼女の調査隊としての仕事に合わせて、一緒に旅をしてもらうことにしました」

 「調査隊?」

 「はい。彼女の仕事ですね。各都市の美味しい料理を発掘する仕事をしているんですけど、一人だと不安なので、旅慣れしている人を案内人に抜擢しようとしたら、ちょうどマサムネさんがいましてね。自由人でしょ。マサムネさん」

 「ああ。そうだな」

 「二人とも、ちょうどいいみたいで、一緒の目的地に行って、バラバラに行動しているみたいです。上手い具合に互いを干渉しないらしいです」

 「そうか。まあ、あいつは誰とでも上手くやっていけるだろうな。マサムネは意外とバランサーだからな」

 「はい。軍でもそうですもんね」

 「ああ。あたいとマール。マサムネはそんな感じだ」

 「ええ」


 ウォーカー隊の隊長は各自で支え合う力を持っていた。

 ザイオン。サブロウ。シゲマサ。ザンカ。これらは将として強い。

 エリナ。マール。マサムネ。これらは補佐官として強い。

 特色のある人材を上手く使うのがミランダであった。

 彼女もまたフュンと同様に人の特性に応じて、人を使うのが上手い。


 「そうか。まあ、いっか。サナリアとかにも来るだろうしな。すぐ会えるな」

 「ええ。会えますよ。そうだ。エリナ。今はサナリアですよね」

 「ああ。あそこの里の生き残りを管理してるわ」

 「そうですか。あの。エリナは先生って出来ます?」

 「先生?」

 「学校の先生です。こちらでは無理ですよね」


 フュンが地面に指を指す。

 『王都は無理ですよね』の意味だった。


 「そうだな。先生には興味があっても、里の連中の面倒はみたいからな。王都に来るのはきついな。いくら道路があっても、サナリアから遠いからな。ここよ」

 「そうですよね・・・」


 フュンはエリナの指導力が欲しいと思っていた。

 ウォーカー隊の中で、子供たちを広く指導できるのは間違いなくエリナである。

 なぜなら、その他の者は無茶をさせるからだ。

 フュンたちが受けた訓練。

 あれをそのまま次世代に当てはめるのはいけない。

 殺してしまうかもしれないのだ。

 それに、あれは戦乱時の緊急的に鍛え上げないといけない時代だからの行為で、今の平時の大陸では一気に鍛えるよりも一つずつじっくり鍛えてもいいのである。


 「じゃあ、サナリアの学校はどうですか」

 「サナリアだと?」

 「ええ。サナリアで学生の一部を育ててくれませんか。武芸とか指揮の方面でです」

 「武か・・・あたいがか」

 「ええ」

 「まあ、やってみてもいいな。どうせ里の連中の管理だけじゃ、つまらねえしな」

 「いいんですね。それじゃあ、良い感じの子がいたりしたら、僕に連絡をくれません」

 「おう。いいぜ。やっておこう」


 こうしてエリナがサナリアの学校で働くこととなった。

 地方の学校と、中央の学校が連動する仕組みの原型と言われる人事だった。

 

 エリナは元々指導することが上手い。

 特にゼファーは、彼女の訓練の時に伸びている。

 彼女の訓練の時は要所を押さえた指導で、効率よく力が伸びていたのだ。



 別な場面。

 ゼファーとレベッカの会話。二人のそばにはダンがいた。


 「姫」

 「ん」

 「どうですかな」

 「調子か」

 「はい」

 

 ゼファーの言いたい事がよく分かったなと思ったダンは、レベッカの返答に感心していた。

 

 「そうだな。まだまだだ。ゼファー軍には及ばない。でも必ず勝つ」

 「ええ。お待ちしておりますぞ」

 「ゼファー」

 「なんですか」

 「強くなったか。雰囲気が更に強まってるな・・・」

 「ええ。もちろん」


 その答えに満足するレベッカは、笑顔になる。


 「じゃあ、来年勝負だ。武闘大会があるのだろ」

 「らしいですね。サナリアにもあった武闘大会を、アーリア全土でやるらしいです」

 「そうか。面白そうだ」

 「ええ。我も参加します」

 「そうか。ゼファーが参加するなら。私の参加も確定にしようかな」


 レベッカはゼファーに言った後、ダンにも言う。


 「そうだ。ダン。お前も参加だ。いいな」

 「私もですか」

 「もちろんだ。なあ、ゼファー。いいよな」


 レベッカは、ゼファーに聞く。

 ダンの父なので、許可を取るためだ。


 「それは、ダンが決めるといいでしょう。我は関せずです」

 「・・・」


 ダンが不安そうな顔をした。

 それは、自分の事はどうでもいいとの事かと勘違いしていた。

 言っている事と伝えたい思いが乖離していた。

 大将軍などと、とんでもない地位にまで出世しても、ゼファーは子供の頃と同じくアホなのである。


 「ん? ダン?」

 

 ゼファーが疑問に思っていると、レベッカが割って入った。


 「ダン」

 「はっ」


 強い呼びかけだったので、ダンは力強く返事をした。


 「自分の気持ちで戦えという事だぞ。ダン。ゼファーの言いたい事を理解しろ」

 「え?」

 「ゼファーは、言葉がおかしいだけだ。思いを読み取れ。思いを」

 「え???」


 レベッカは頭に手を置いてやれやれとした。

 そして先程の真意を教えてくれる。


 「はぁ。いいか。ダン。ゼファーはな。『我は強制しない。戦いたいなら自分で決めろ。参加は、ダンの自由にしろだ』これだぞ。ゼファーの言いたい事はこれだからな。いいなダン。お前も。まったく、ゼファーとそっくりで、言葉の奥を読み取れん奴らだ!!」

 「・・・・はい。申し訳ありません」


 レベッカの方がゼファーを深く理解しているのである。


 「姫。我はそういう風に言ったのですが。ダンに伝わっていないのですか」

 「伝わらんわ。言った文章を思い出せ。そして直せ。もう少しわかりやすく言え! いいなゼファー」

 「姫。そうでしたか。申し訳ない」


 ゼファーはダンの両肩に手を置いた。


 「すまないダン。どうやら我の言葉がおかしいらしい!」

 「は、はい!」

 

 素直なゼファーはすぐに訂正した。


 「我と戦うか。武闘大会で!」

 「いいのですか」

 「勝つ気があるなら来い! 待っているぞ!!」

 「・・・はい!」

 「うむ。いいぞ。良い顔だ!」


 ゼファーがダンを愛しているのは間違いない。

 ダンはゼファーに愛されていると感じて欲しい。

 そう思ってレベッカは、二人を見つめていた。


 

ピカナがいないササラ。

しかし、ここの支配者はそもそもが市長。

だからピカナが領主を辞めても、順調に市民たちでササラを育てている。

領主の力じゃなく、市民たちの力で頑張る。

この意識が根付いているから、ササラは順調である。

逞しい港町の住民は力強いのである。



 

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