第194話 新 成長促進会議
四人の兄弟たちは、城には帰らずにウインドのお屋敷に戻っていた。
ウインド家の当主はすでにレベッカに移っていて、管理も任されているのだが、ほとんどをウインド騎士団で過ごす彼女では、家を守れない。
そこで、ここのお屋敷の管理人は別にいる。
「帰った!」
第一声が端的過ぎるレベッカは、姉弟を連れて帰って来た。
ここで彼女の返事に対して、挨拶をしに来たのは、メイドではなく管理人。
「おかえりなさいね。レベッカ」
ウインドのお屋敷管理人は、ピカナである。
ニコニコして、四人に頭を下げてきた。
「え? ピカナさん!? 頭を下げないでください。それに出迎えはいいって言っているのに。普通に休んでいてくださいよ」
レベッカは、今度こそメイドが来てくれるのだと思っていたが、またピカナが出迎えに来たから注意した。
今のピカナは、ササラの領主を引退している。
なぜ辞めたのかと言うと、フュンが王国を作る際の邪魔になりそうな事と、それにあそこでの役割を十分果たしたと本人が思った事に加えて、そもそもが歳であるからという理由で、任を降りたのだ。
元々無欲な人間なので、領主を辞める事に不安も未練もない。
「ピカナさん」
叫んでいる感じで、フィアは抱き着きに行った。
「ああ。フィアですね。大きくなりましたね」
ピカナが彼女を持ち上げる。
「うん。フィー大きいでしょ」
抱っこするピカナは、いつでも笑顔であってくれる。
「ええ。そうですね。みなさんも大きくなりましたね。アイン。ツェン」
「はい。ピカナさん」
「はいぃ。ピカナさん」
この家族は全員ピカナが大好きである。
結局シルヴィアから始まって、その子たちもピカナを尊敬しているのだ。
ピカナも、こちらの四姉弟の事は、孫だと思っている。
「美味しく、皆さんでご飯を食べますよ」
「「「「はい」」」」
◇
食事中。
「レベッカ」
「はい。ピカナさん」
素直に返事をするレベッカも珍しい。
さすがのピカナである。
「お休みはいつまでですか?」
「えっとですね。二週間くらいですから、10日くらいでここを立ちます」
「そうですか。では、あとでフュン君の所にも行きなさいね」
「わかりました」
レベッカは、頭を下げた。
「彼ももう王様でしょ。たぶん、彼は大変になっちゃってるでしょうからね。家族で会って、癒してあげた方がいいですよ」
「それじゃあ、ピカナさんも一緒に行きましょうよ」
「え? 僕もですか。家族でですから、遠慮した方が良いでしょう」
「いえいえ。私たちにとって、ピカナさんはお爺様のようなものです。やっぱり、ピカナさんは、母の父でしょ」
「そうですかね。そうだといいですね」
「そうですよ。なあ、アイン」
レベッカは正面にいるアインに聞いた。
「姉さんの言う通りですね。ピカナさんは家族です。母さんにとっては、絶対にお父さんですよ」
「うんうん。そうだろ」
二人が頷いているとツェンも話す。
「そうですよぉ。当然ですねぇ」
「そうそう。ピカナさん。フィーと一緒に行こう」
家族だと同意しているフィアは、お城まで抱っこしてもらって連れて行ってもらおうとしていた。
自分で歩くのは面倒だとも思っている。かなり強かである。
「じゃあ。一緒に行きましょうか」
「ええ。二日後くらいに行きますか。父も学校関係で忙しいでしょうから」
学校の会議が、今日と明日にあると、レベッカはフュンから話を聞いていた。
レベッカとフュンは互いに忙しくとも連絡を取り合っている。
「わかりました。声をかけてください。一緒に行きますよ」
「ええ。その時は言いますね」
「はい。待ってます」
穏やかな会話で進む食事。
温かい家庭で、温かい食事を食べられる五人は幸せであった。
◇
その日の学校にて。
学校関係者とフュンが会議を開いていた。
「みなさん。お久しぶりですね。早速ですけど、報告が欲しいです。まずは、ドリュース。いいでしょうか」
「はい」
「そういえば、名門の出のあなたが一般人となってしまい。申し訳ありませんね。本当は貴族にでもしてあげたかったんですが。十三だけしか作らなかったので、他の方もですが、入れられなかった」
「いえいえ。自分は今を楽しんでいますよ」
「そうですか。ならば良しですかね?」
「はい。大丈夫です。お気になさらずに。では、私の分野である。調練の報告ですね」
「はい。お願いします」
ドリュース・ブランカ。
アーリア王国において、学校関係者になる。
彼の専門分野は、兵士訓練。
一般兵を育てる部門になり、礼儀作法の先生でもある。
元貴族らしい指導をする。
「五千人の生徒の内、兵士適性があるのは、半分程ですね。狙い通りかと」
「そうですか。予定通りだ。よろしいですね。うんうん」
バランス重視の一期生。
学校は、幅広い分野の人材を求めていた。
ここでは、あらゆる分野で活躍するような人間を育てたいのだ。
「どの子が良さそうでしたか」
「ニルバス・クルーと、マキャベリ・ノーズですね」
「そこも、予想通りですね。バランス型の小部隊長になれそうな子たちだ」
「はい。そうです」
フュンたちは入学試験の頃から、良さそうな人材に目をつけている。
光る才能と、光るかもしれない才能を王都に集めている。
「軍だと。あとは、あれはどうなっていますか。指揮官候補は? アイス。アスターネ。どうなっていますか?」
「「はい」」
アイスとアスターネが立ち上がった。
指揮官育成の主任は、ブルー。
ただ、育児休養中なので、二人が担当する。
アスターネから話す。
「はい。指揮官で光る者は少ないです。おそらく、王のご子息くらいかと」
ここでフュンは報告直後に誰にも聞こえないようにその場で呟く。
「なるほど。やはりアインに才能がありますか。んん。でも彼女は見つけてもらえなかったか。成長しなかったのか・・・駄目だった? いや、それはないでしょ。彼女の力はそんなもんじゃ・・・よし、これは僕が直接見ようかな」
この時点でフュンには誰か目星がいたらしく。
ここの議題に、とある少女の話題がのぼって来なかったことを少し残念がっていた。
「そうですね。本当はね。ここにフラム閣下の後継者が欲しいんですがね。そっちは来年かな」
フュンの計画ではそれぞれの分野で、それぞれの後継者が欲しかった。
今の指揮官で言えば、後方支援の指揮官に一人若手が欲しいのだ。
考えとしては、アナベルともう一人が欲しいのである。
そして、ここにアイスも話に加わる。
「王。あともう一人、ジョーがいます。ですが彼は本気で戦いません。いつものらりくらりと、はぐらかしています。本来はもっとできると思うのですが・・・」
「ああ、その子は無視していいです。気にしないでください」
ジョーがジルバーンだと知っている者は、この中ではフュンだけ。
皆には彼の身分を隠しているのだ。
「そうですか? 王が推薦されていましたし、期待しているのかとばかりに。それに、もったいない気がするのですが」
「大丈夫ですよ。アイス。彼は気にしないで」
「わかりました」
学校でも最高クラスの人間になれそうなのに、ここで成長を促さないとは珍しいと思った。
アスターネとアイスは見つめ合ってから首を傾げた。
「ミシェル。あなたはここと武将訓練でしたよね。どうですか」
「はい。そうです。指揮官の方はアイスとアスターネの言う通りです。しかし武将の方は、無理かと思いますね。さすがにここはですね。戦う才能に加えて、勘。もしくはセンスが必要ですからね。今年はいないかもしれません。ですが。これからの成長を見守るのがいいでしょう。このくらいの年代です。いつ開花するかは分かりません」
「そうですか。わかりました」
指揮官部門と武将育成部門を担当するミシェルは、武将育成では、指揮能力だけじゃなく、個人の武の強さも基準にして生徒を見極めている。
「そうですね。それにもっと広くかな。来年あたりには、地方都市でも試験をやりましょうかね。広く集めるのにも、来てもらうよりも、行ってしまった方がよさそうだ」
王都の学校試験は、王都で受けるのが基本だった。
だがここで、せめて元帝都と元王都くらいでも入学試験をやるべきかもしれないとフュンは思った。
「それはありだろうな」
スクナロがいつもの腕組みのまま答えてくれた。
「そうですよね。スクナロ様」
「ああ。優秀でも、お金が無くて、ここまで来られないような子供がいるかもしれないからな」
「そうですね。その調整をしないと駄目だな。リナ様。そこをお願いできます? 国のお金と相談してくれますか?」
「わかりました。おまかせを」
リナが学校の教頭である。
スクナロが出来ない事をやってくれている。
「あとは内政官かな。どうです。計画通りですかね。サティ様」
「はい。そうですね。キリ。ショーツ。パイロン。シャン。レミーナ。ルライア。これくらいですかね。三年後には良い位置に来そうです」
「そうですか。キリはどうです」
「彼女は面白いです。ですが、まだ甘いですね。良い成長が必要でしょう」
「わかりました。三年後まで、サティ様の目にその時も留まるようならば、ブライト家の計画に乗せましょう」
「はい」
キリには厳しくあたっていた。
期待しているからこそであり、サティは甘くなかったのだ。
自分の後継者にするのにも、しっかりブライト家を守ってくれるような子じゃないといけないからだ。
「アン様」
「は~い」
「元気ですね。いつも通りだ」
「うん。もちろん。それで、ボクの報告。いいかい?」
「ええ、お願いします」
アンは、学校の教官としてだと、製造業担当である。
主には鍛冶である。
「そうだね。製造関係で、鍛冶師に適性があるとすると、たぶん、ガイア君かな。あの子、凄いよ」
「ガイア君・・・ああ、あの彫刻を作った子ですね。面接の時に持って来ていた」
面接の際。
フュンの考えた質問で、自信がある事や好きな事がありますかとの質問があった。
その際に、ガイアは自分が作った彫刻を見せてきたのである。
それを見た面接官が、彼の作った彫刻があまりにも美しくて、すぐにフュンに見せたいと思って、その場にまで呼んだという話がある。
「うん。精密だったよね」
「ええ。とても綺麗な像でした。自分なりの女神像でしたっけ?」
「うん。器用っぽいよ。物を作るなら何でも出来る」
ガイア・ビクトニー。
のちにアンの家。ビクトニー家の当主となる男の子だ。
この時は物作りの天才として、学校に通っていた。
かなりの変人で、マイペース神と呼ばれている。
「アン様。彼を見ておいてください。どう伸びていくのか。楽しみですから」
「いいよ。わかった」
これで、アンの回が終わった。
最後にフュンが話す。
「軍。内政。製造業。その他諸々。様々な分野で、力を伸ばしていきたい。そのためにどんどん伸びていく子を育てたいですね。ミラ先生が僕にしてくれたことの応用で、もっと広く人を育てていきたいです。今は軍だけじゃなく、アーリア大陸としては、平和な部分がありますから。ここを上手く利用して、内政も充実させましょう。僕らももっと成長して、ワルベント大陸に負けず発展しないといけません」
教師陣が頷いた。
「ええ。それでは、子供たちの育成計画を進めます。アーリアを希望ある未来へ進めますよ。僕らが頑張る時はここです。元王国も元帝国も関係なく、一緒に頑張りましょうね」
「「「おおお」」」
アーリア歴元年から、フュンが考えた計画が発動。
次世代育成計画。
これがアーリアを更に発展させる計画である。
都市や経済。軍。それらも大事。でも人が一番大事。
それがフュンが考える最も大事な事だった。
この話は、その昔。
里で会議していたミランダと重なります。
彼らとは少々規模が違いますが、やり方はほぼ同じです。
人それぞれの特徴に合わせた育成です。
大陸で優秀な人物を集める。何か光る才能を持つ子を育てる。
それか、とてつもなくやる気のある子を育てる。
それはフュンやゼファー。
ミシェルたちがそうであったようにです。
ここのフュンは、色々な子をこの学校に集めて、未来のアーリアの希望を育てていこうとしています。




