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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
王子の舌戦

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第51話 貴族集会 Ⅳ

 「それでは。皆さんのお邪魔になりそうなので、僕はここらで。楽しかったですよ。皆さん、ありがとうございました」

 「おう」「ええ」「また」

 「あ! そういえば・・・フュン殿。トイレに行った際にですね。フュン殿のことを話している人たちがいましたよ」

 「え、僕のことですか?」


 フュンの別れの挨拶に、皆は返事をくれたがタイローだけが忠告してくれた。


 「えっと、あれは、ヴァーザック様の取り巻きでしたかね。フュン殿を呼ぶとかなんとか、廊下で叫んでましたね。ええ、かなり息巻いていましたね。鼻息も荒かったですね」

 「「え!?」」


 フュン以外が驚く。


 「ヴァーザック様・・・・・それは誰ですかね?」

 「田舎者、知らないの?」

 「いや、僕。そういう貴族さんたちの名前を知らなくて。田舎者にはイマイチ貴族の方のお名前が・・・・覚えられないんですよね。あははは」


 田舎者は、まったく貴族に興味がなく、名前を覚えるのに苦労しているのである。

 元々、興味がある事にだけ強いタイプなので、フュンは貴族という人種に一ミリも興味がないので覚えるのが一苦労であるのだ。

 それと、今更だが、自分のことを田舎者と認識していた。


 「お、覚えておいた方がいいかと思います。ヴァ—ザック様はターク家の筆頭貴族の様な御方ですよ」

 「へぇ~。それは大切な事をお聞きしましたね。覚えないといけませんね」

 

 タイローは丁寧に教えてくれた。


 「ヴァ—ザック様って言えばな。お前の方が詳しいだろ」


 マルクスが、サナに顔を振って話を振る。


 「まあな。私の父よりも立場が上だ」

 「え!? サナさんのお父上よりも!?」

 「ああ。あの人は、スクナロ様の片腕と言ってもいいな。だからあの人は・・・武家貴族の頂点と言ってもいいぞ」


 サナは目を瞑って答えた。その強さを思い出しているようだ。


 「へぇ~。なんでそんな人が僕の事を? 僕には関係ないですよね」


 フュンはヒルダの目を見て言った。


 「し、知らないわよ。私に聞かないで頂戴よ。田舎者!」


 ヒルダは突然の質問に慌てた。


 「んん。会いに行った方がいいのかな。わざわざそちらから挨拶されるよりも・・・どうなんでしょう?」

 「だ、だから知らないわよ。私には関係ないわ」


 頼りにされて悪い気はしない。

 でも自分の判断で、彼の難しい判断を促してはいけない。

 意見の拒絶にも彼女なりの配慮があった。

 意外にもヒルダは悪態をついてもフュンの事を思っていた。


 「ヒルダ。別にそんな言い方しなくてもいいでしょう・・・フュン殿はただ私たちに聞いているだけなんですから。それでは、フュン殿。一ついいでしょうか。もしヴァ—ザック様に、お会いするならば、気を付けてください。失礼がないようにしたほうがイイですよ」

 「それは、そうですよね・・・」


 優しい物言いのタイローは、ヒルダとは違って優しく助言してくれる。


 「そうよ。あなた、ターク家に帰順するつもりでいかないとね。私のようにね」


 でもなんだかんだ言って助言はくれるヒルダであった。


 「へ? ヒルダさんってターク家なんですね!?」

 「そうよ。悪い!」

 「いえいえ。悪くはありませんよ。へぇ。それじゃあ、タイローさんもですか?」

 「いえ。私はドルフィン家です」

 「え!? 別なんですね。てっきりご一緒かと思ってましたよ。あははは」


 フュンは、二人が別な家に仕えているのに驚く。


 「なんでよ」

 「いや、とても仲が良いから……てっきりいつも一緒なのかと」

 「ま、な!? 何でいつもタイローと一緒にいなきゃいけないのよ。タイローは私の付き人なの」

 「ええ。そうだったんですね。私は友達では、なかったんですねぇ」

 

 仲良い二人は敵同士のような形であったのだ。

 タイローはがっかりし、ヒルダは言い過ぎたとバツの悪い顔をしていた。


 「ふむふむ。それじゃあ、フュンさんは。ターク家に入るのかな?」


 マルクスが素朴に聞いてきた。


 「僕ですか。いえいえ。入りませんよ。無理ですね。武家なんて僕の気質には。あははは」

 「それじゃあ、ドルフィンか?」


 サナがぶっきらぼうに聞いてきた。


 「いえ。そっちも入りません。僕はダーレー家に入りますからね」

 「「ダーレーだと!?」」

 

 サナとマルクスがフュンの両肩にそれぞれ手を置いた。

 フュンは体を揺さぶられる。

 

 「おろろろろ」


 頭が揺れて微かな声を出す。

 

 「本当に君! やめておいたほうがイイよ。あそこは弱小だよ。いい人そうだからさ。生き残って欲しいと思うからの忠告だよ」

 「私も、やめておいた方がいいと思う。ほんとにあそこは戦姫以外酷いからさ。気を付けた方がいいって言うよりもやめた方がいい」

 

 二人の辛口評価である。でも世間一般の評価でもある。

 皆の周知の事実がダーレー家が弱小という認識なのだ。

 

 「いえいえ。僕はお二人に良くしてもらってるのでね。恩がありますのでね。はい」

 「君、なんて仁義に厚い男なんだ。でも無理しちゃダメだ。うんうん」


 マルクスが諭してくれているが。


 「では、どちらの方が言っていたのでしょうか。タイローさん」


 フュンはタイローに自分の噂をしていた人物の居場所を聞いた。


 「え? ああ、ええっと・・・あ、あの人たちですね」

 

 会場の上座付近に数人でいる人物たちを指さした。


 「では、行ってみます」

 「やめとけって」「おい、あんたやばいよ」


 マルクスとサナが止めているがフュンは思い切って行ってみたのであった。

 フュンとは命知らずの恥知らず。

 もらう恥が恥ではなく、行かぬ恥が恥であるのだ。

 

 これが貴族集会でのフュンの戦いの始まりである。


 

 ◇


 

 「えっと、僕って、あなたたちに呼ばれることになっているんでしょうか、確認お願いしたいです」


 黒い服の男二人に向かってフュンは話しかけた。

 いきなり誰とも知らぬ者に話しかけられた二人は怒り出す。

 まあ当然の反応である。

 ここは貴族の世界なのだ。

 目下の者である者が突然と許可なく目上の者に話しかけてはいけない。

 

 「なんだ貴様は」

 「帰れ。若造が」


 二人の男は、蚊でも追い払うかのように手を振って拒絶した。


 「はい。ですが、なんか僕の噂をしているとあちらで聞きましたので、何か用があるのかなと思いましてね。わざわざそちらから声をかけてもらうのも悪いかと思いましてね。こちらから来てみました!」

 「なんだと。誰が貴様のような小僧に。我々が用があるだと」

 「まあまあ。そんなに怒らないでくださいよ。僕は、フュン・メイダルフィアと申します。もし僕の話じゃなければ、このまま帰りますから。あはははは」


 この男。

 度胸がありすぎたのだ。

 普通ならば引き下がる。

 ・・・いや、そもそもここに来ようともしないのである。


 「フュンだと!?」

 「それって・・・」


 フュンが名を名乗っただけで、二人の顔色は変わり、奥へと引っ込んでいく。

 豪勢な椅子に座る男性の元へと行った。

 あそこに座っているのが、もしかしてヴァ—ザックさんかなと、心の余裕があるフュンは、周りの様子を確認していた。

 受け付けてくれた男2名を含んで、取り巻きは5名。

 武家の名門であるからにして、おそらくはここにいる人たちも武家の出だろう。

 動きの良さと姿勢の良さを感じる。

 ただ、シルヴィアに比べれば、全てにおいて大したことはない。

 フュンは最高の人物を目にしている分、基準が高いのである。


 「通れ。貴様の通行を許可する」

 「はい。ありがとうございます」


 (通行許可ってなんだろう。皆と同じ会場にいるのに)


 とフュンは、普通の疑問を心の中で思っていた。

 ごくごく普通の一般人の思考をしているのがフュンという人物なので、普通の疑問が勝手に湧き出てしまうのであった。

 口に出さないのが偉いのである。

 たぶん、出してしまえば激怒ものだろう。


 「貴様、何故ここに来た。無礼であろう」


 座っている男の右脇にいる眼鏡男性がフュンを怒鳴る。

 威圧をしているつもりだろうが、フュンには効かない。

 なぜなら度胸レベルが違うからだ。

 それに、もっとドスの利いた声をウォーカー隊で聞いているので全く効果がない。


 「えっと、先程。僕の話をしていると。聞いたものですからね。何だったらそちらから来られるよりも、僕から行った方がいいかなって思いましてね。まあ、こちらに来た所存であります。用があるのは僕ってことよりも、たぶんそちらではないかと・・・」

 「誰が・・・貴様の様な辺境の・・・」

 「おやめなさい。スカーゼン」

 

 座っている男の左脇にいる赤いロングの髪を持つ女性がスカーゼンを窘めた。

 まだ文句を言いたげな顔をするスカーゼンを差し置いて、女性は話し出す。


 「貴殿が、フュン・メイダルフィアですね」

 「はい。そうです。私がサナリア王国第一王子、フュン・メイダルフィアと申します」

 

 失礼な態度ではない相手。

 真摯な態度で話を聞いてくれそうな人には、フュンは丁寧なあいさつを心掛けている。 

 だから、フュンは最敬礼までして、女性に頭を下げた。


 「なるほど。最低限はしっかりできていますね。辺境の王子と言っても礼儀は心得ていると・・・」

 「いえ、私はまだ若輩者。色々な方に教えをいただかないと、まともな暮らしが出来るような立場ではありませんので、ご指導して頂ければ嬉しい限りであります」

 「ふふふ。益々、礼儀正しくなるとは面白い。私は、スカーレット・ストレイルであります。そっちにいるのは、私の不肖の弟スカーゼン・ストレイルです。そしてこちらが我らが姉弟の父。ヴァーザック・ストレイルであります。フュン王子」

 「・・・うむ・・・貴様があのフュンか」


 一言を発しただけで、フュンの身体が重くなった。

 ズシンと体の芯にまで声が響いた気がしたのだ。

 この感じは、皇帝と会った時に近しいと、フュンは即座に思う。


 「ヴァーザック様。スカーレット様。スカーゼン様ですね。以後お見知りおきをお願いします。フュン・メイダルフィアであります」


 名を教えてもらったお礼であるとして、もう一度深々と頭を下げた。


 「うむ。貴殿があの辺境の王子・・・・なかなか鋭い目だ。戦いは素人のように見えるがな。目がいいな」

 

 ヴァーザックはジロリとフュンの瞳だけを見た。

 深淵を覗くような、そんな視線にフュンは緊張する。


 「ありがたいお言葉であります。それで、用とはなんでしょうか。もしも何もなければ、あなた様に会おうとしたことに対する。突然の訪問の御無礼をお許しいただきたい」

 「うむ・・・スカーレット」

 「はい。お父様」

 

 ヴァーザックが座る椅子は会場の床よりも二段くらい高い位置にある。

 なので、その隣にいたスカーレットが直々に下に降りてまで、フュンの元に来た。


 「私共の用件は……貴殿を、我が陣営にお誘いしようかと思っていたのです。我が主。ターク家の軍門に下りなさい。サナリアの王子フュン・メイダルフィア。そして、サナリア王国よ」


 これが戦いの幕開けである。

 フュンの戦いは帝国の権力争いの内部にまで及ぶのだ。




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