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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第193話 挨拶

 アーリア歴元年12月22日。


 「校長先生から挨拶があります」


 全校生徒五千人が運動場に集まった。

 軍の施設のように大きな運動場。

 一万五千人を配置できる規模にしないといけないので、相当な広さである。


 登壇した校長は、体が大きく、後ろの方の生徒が見ても、誰だかはっきり見えていた。


 「よし。皆。解散! 以上」


 端的な挨拶に、学生たちは拍手をした。

 長々と話さない男の名は、スクナロ・ターク。

 王都アーリアの学校の校長先生である。


 「で。では、続きまして、アーリア王からも挨拶があります」


 あまりの短さに司会進行する先生も焦りながら話を進めた。


 ◇


 スクナロが席に戻るところと、フュンが登壇するところのすれ違いの場面で会話が起きる。


 「ちょっとスクナロ様。話が短すぎますよ」

 「義弟よ。すまん。こういうのに慣れていないのだ。これでもいいだろ」

 「まったくもうlわかりましたよ。僕がちょっと長めに話します」


 フュンは、スクナロが多く話すと思っていたので、自分の方を短めに済まそうとしていた。

 だから、急遽文章を付け足すことに決めた。


 「すまん」


 スクナロは軍部をほぼ引退していて、顧問という形でアーリア王国に存在していた。

 でも軍人として生きてきたので、どこかでそれを活かしたいとの話を聞いたので、フュンが特別講師も兼ねて、学校の校長になってくれませんかとの打診をしたのだ。

 それを快く引き受けたはずなのだが、昔からスクナロは兵への鼓舞ならば出来るが、堅苦しい挨拶が苦手である。

 フュンの最初の茶会時にも、忙しいと言って、ヌロが担当していたくらいに、挨拶が苦手なのだ。


 「それではね。僕からも挨拶しますけどね。皆さん、まだ一年もこちらにいませんがね。試験的に、一カ月間の冬休みにしていますよ。これからね、故郷に帰ったり、どこか旅に出たり。たくさん、良い経験をして、来年に会いましょうね。それじゃあ、皆さんの健康を祈っていますので、頑張ってくださいね。良いお年を~」


 自分にとっては軽い挨拶程度のつもりだったのだが、運動場が揺れるほどの拍手が起きた事でフュンは、ビックリした。

 大したこと言ってないのにな。

 と首を傾げながら降壇するフュンは自分の席に戻った。


 隣にいるスクナロと話す。


 「さすがだな。義弟よ」

 「さすがじゃないですよ。僕、大したこと言ってないですよ」

 「そうか・・・そうだったのか」

 「そうですよ」


 歳を取っても二人の義兄弟の絆は変わらない。

 仲の良さは、外から見ても分かるほどで、本当の兄弟のようなのだ。


 「最近のリティは、どうですか」

 「リエスタか・・俺にも分からん。たまにしか家に帰って来てくれんからな!」

 「え? そうなんですか。あ、じゃあ。ロイは? リティの方にいるってことですか?」

 「いいや。ロイは、ジーヴァが見ていて、家にいる。あの子はジーヴァが見てくれている」

 「え!? じゃあ、スクナロ様とジーヴァの二人暮らし?」

 「うむ。実際は、メイドと執事はいるがな」

 「それは・・・たしかに、リティは何考えているんだ」

 「俺は別に気にしていないぞ。ジーヴァは良い男だからな」

 「ええ、そうでしょ。彼は強くて良い男ですよ。お母さんを大切にしていますからね」

 「そうか。そういう男だったか」


 スクナロは、ジーヴァの人生の細かい部分を見ておらず、ジーヴァそのものを気に入っている。

 さすがは、竹を割ったような性格の持ち主だ。


 「ところで、義弟よ」

 「はい」

 「顧問って何するんだ。軍部の事を聞いていないのだが」

 「ええ。まだ軍がですね。正式に動き出していなくて、前の状態を維持しています」

 「前?」

 「はい。王国と帝国。それにラーゼ。この三つのバランスを取るのに頭を悩ませていましてね。主に配置ですね」

 「なるほどな・・・たしかに各将をどの位置に持ってくるか。そういうことか」

 「はい。どうしたらいいですかね。ここはまだギルとクリスとは相談してるんですけど決めてはいなくてですね」

 「そうだな。内政で一杯一杯だろうからな。軍の事まで気が回らんか。後、次の戦争の事でも頭がいっぱいだものな。三軍でいくんだろ」

 「はい。ラーゼ市街地戦です。僕らが自由を勝ち取るための防衛戦争です」

 「なるほど・・・それを後で見せてもらえるか」

 「もちろんです。作戦の最終形が完成したら、お見せしますね」 

 「ありがとう。義弟よ」


 ラーゼ市街地戦争。

 それが、フュン・ロベルト・アーリアの初陣である。

 アーリア大陸を守るための第一戦だ。


 「義弟よ」

 「はい」

 「無理はするなよ。シルヴィアが強引に王にさせたからな。負担は大きいだろう」

 「ええ。ほんとそうですよ。スクナロ様だけですよ。僕をわかってくれるのは!」

 「ハハハ。でも俺もお前が王なら満足だと、賛成したがな」

 「スクナロ様もですか。誰か、反対する人いなかったんですか。一人でもいて欲しいですよ」

 「ん。たしか・・・・・・・いないな」


 遡って考えてみても、誰一人反対する者がいなかった。

 スクナロは過去を思い返す意味がないと思って鼻で笑った。


 「ホントですか。ひどいな。皆。まったく」

 「まあ、なるべくしてなった。と思ってだな。いい加減、諦めろ。義弟よ。王となって、一年は経つのだぞ。ガハハハ」

 「はぁ。酷いなぁ、みんなぁ」


 王になったのに、まだ王じゃないと思いたいのか。

 とスクナロは腕組みしている姿勢を変えずに、笑顔で子供たちの事を見ていた。



 ◇


 式が終わった後。

 現地解散のようになったこの場は、親御さんたちや、迎えに来る者で人が溢れた。

 さすがにここまで人が集まると、手狭に感じて来る。

 

 ここでも、ルライアとアインは同じクラスなので隣同士でいた。

 ルライアの親が来るまでは一緒にいたのだ。


 「あ。お父さん。お母さん」

 「ルライア」「ルライア!!」

 

 ライノンが近づいてきた。

 彼は、先にアインに挨拶をする。


 「アイン様。お久しぶりで」

 「ライノンではないですか。お久しぶりです」

 「はい」

 「お元気でしたか」

 「はい。もちろんです。アイン様もお元気そうで・・・」

 「ええ。もちろん。それとロゼリアさんも。お元気ですか」

 「はい!」


 アインは二人と明るく会話をしたのだ。

 こちらの二人とは以前にあった事がある。

 そしてその後にルライアは両親とどこかへ移動した。

 

 近くの学友たちが親たちとの会話になっていく。

 だからアインも、自分の家族はどうなんだろうと思いつつも、さすがにフュンとシルヴィアがこの場に来るのはありえないと思っていた。

 王と王妃がここに来たらパニックになるからだ。

 

 そんなことを思っていると、ここで騒ぎが訪れる。


 「うわあ」 

 「本物だ」

 「な、なんでここに?」

 「き、綺麗・・・美しい」

 「でも恐ろしく強いと・・・触れたら斬られるとも」


 学生たちや、親御さんたちの驚きの声が聞こえる。

 アインもそちらの方に顔を向けると、一際輝く女性がやってきた。

 何も話さずとも歩くだけで覇気がある。


 「おい。アイン。いくぞ」

 「・・・・は!? ね、姉さん!?」

 「ほれ。帰るんだよ」

 「いや、僕はさすがに帰っても意味が・・」


 家も学校も、王都にあるのに、わざわざ帰るのも変だと思っていた。


 「何言ってんだ。皆来てるんだよ。とりあえずな。ウインドのお屋敷に集合なのよ。いいからさ。後はお前だけなんだ。つべこべ言うな」

 「みんな?」


 レベッカが、強引にアインを連れだした。

 学校の正門に行くと人が溢れて危ないので、裏門に行く。

 すると、アインにも姉が来てくれた理由が分かった。


 「ツェン。フィー」

 「お兄様」「アーちゃん」

 

 フィアが飛び込んできたので、アインはそれを抱っこして、ツェンの方にゆっくりと近づいた。

 

 「お兄様。お疲れ様ですよぉ」

 「ええ。ツェン。元気でしたか」

 「はいぃ」

 

 相変わらずゆったりしてるなと、アインは思った。

 

 「アーちゃん。フィー。ハスラにいるよ」

 「そうですね。どうですか。ジーク様とナシュアとは。楽しくやってますか」

 「楽しいよ。お父さんとお母さんだもん」

 「そうですか。それはよかった」

 「うん。アーちゃん。久しぶり」 

 「ええ。そうですね」


 頬を寄せて来る妹が可愛いと思いながら、アインはレベッカと話す。


 「それで姉さんまで、どうしてここに? 訓練所にいるのでは?」

 「ああ。私の所もしばらく休みにした。ニ週間くらいな。新年くらいまではな。それぞれの家族といた方がいいだろう」

 「そうですか。団員さんたちにも休息が必要ですもんね」

 「まあ、そういうこった。よし、久しぶりに姉弟でいよう。小腹空いたし、屋台かどっかの美味しい店に食べに行くぞ。後で夕食食べなきゃいかんから軽くだぞ!」

 「え。駄目ですよ。警護は。危険では」

 「お前、頭堅いぞ。ここに私がいるんだぞ。誰が手を出してくるんだ。一瞬で殺されるとこに誰が攻撃を仕掛けてくる?」


 レベッカの顔が真剣で、本気になって言っていた。


 「いいか。アイン。アーリア王国のどこに、私たちに攻撃を仕掛けてくるような奴がいるんだ? 特にお前たちに触れた瞬間。問答無用で私の刃が降り注ぐんだぞ。それはひとたまりもないと分かっているはずだ。それが分からんかったら、相手がどうしようもない馬鹿であると思え」

 「た、たしかに」


 神の子と呼ばれるレベッカ・ウインドがそばにいる限り。

 王家一家に危害を加えようとする人間なんていないだろう。

 攻撃を仕掛けた瞬間に、死が確定するのは間違いない。

 その恐怖で、無造作に近寄る事なんて出来ないはずなのだ。


 「いいでしょう。姉さんについていきますよ。でも、僕。お金を持ってませんよ。学生ですもん」

 「アイン。お前は気にするな。金なら私が出す。いくぞ。アイン。ツェン。フィー」

 「はい」「はいぃ」「は~い」


 仲良し姉弟は、再会を楽しんでご飯を食べに行ったのだった。



レベッカは長女として、弟たちと妹を愛している。

アイン。ツェン。フィアの三人もそんな姉が大好きだ。

姉弟が仲良く育った要因は、フュンとシルヴィアの仲が良い事。

その下にいてくれた家臣団も仲が良い事。

さらに、ガルナズン帝国時代の皇帝一家の結束力が強い事が大きい。

ドルフィン家。ターク家。ダーレー家。

この三家が、とにかく家族として仲が良いのだ。

四人を見守ってくれているのである。


昔の御三家のように、仲が悪かったりしたら。

もしかしたら、この四姉弟も別な運命だったかもしれないのである。






 

 

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