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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第192話 経過報告

 アーリア歴元年10月


 大忙しさの中にいるフュンは、執務室の中の書類に埋もれていた。

 机の上は山積みの書類が数個あって、彼の姿は入口からは見えないほどだ。


 そして今は、部屋に一人。

 ギルバーンもクリスも別件で外に出ていた。


 「おおお。終わらない~~~。どうしましょ~~~~。ギル~~~。クリス~~~。助けて~~~~」


 一人で黙々と作業するにも辛いので、こんな独り言が出ていた。



 そして、しばらく経ち。

 書類整理の途中で、光が現れる。

 フュンの正面やや右に出てきた。

 書類が片付いた場所から顔が見える。


 「ん? おお!」

 「アーリア王」

 「ジルではないですか。影も使えるのですね」

 「ええ。全般できます」

 「そうですか。優秀ですね」

 「ええ。もちろん」


 両親に似て優秀。

 謙遜しないジルバーンに、フュンは笑顔で頷いた。


 「それで、何かありました?」

 「はい。アイン様は、入学早々お疲れでありまして」

 「え? 入ったばかりでですか? あれま・・・変だな。彼でも授業についていけないと?」


 アインの頭脳レベルで、学校の授業に苦戦するとは思えない。

 フュンは腕組みをして悩んだ。


 「いえ。そういうことではなく。子供たちが、彼にひっきりなしに挨拶に来たのです。寮の自分の部屋と授業以外は、ほとんど挨拶を受けていました。大切なお時間を拘束されていたのです。あれでは、休まる時が無いと言い換えた方がいいでしょう」

 「・・・はぁ。なるほどね。そこは想定外ですね。なるほど。なるほど。考えてあげればよかったな」


 自分の考えがそこまで及んでいなかった。

 息子に変なところで苦労を掛けたかもしれないと、フュンは我が子に申し訳ないと反省していた。


 「それで、何かの変化があったのですね」

 「はい。それでルライア嬢が、手助けをしてあげると言っても、拒みました」

 「なるほどね。アインなら、そうするでしょう。ルライアさんに迷惑が掛かりますからね」

 「はい」

 「自分で何とかするとか、言いましたね。彼ならね?」

 「王は、どこかで見ていたのですか?」

 「いえいえ。見なくてもわかりますよ。親子ですからね」


 普段から子をよく見ている。

 学校生活を一つも見ていないのに、アインの行動を想像できるフュン。

 だから、ジルバーンは素直に尊敬できた。


 「しかし、その状況ではね。名前を全部覚えてあげられないでしょうね。さすがのアインでもね」

 

 フュンならば、自分から話しかけに行って、それで名前を覚えてしまって、逆にその場を収めるという手が取れる。

 人に対しての記憶力が異常にいいので、使える手であった。

 だが、アインは優秀であるが、そこの分野の優秀さはない。

 

 「彼の得意な事はそこじゃない。人を動かすことが得意ですからね。そもそも記憶することが得意なわけじゃないですからね。それに彼は、反復しないと覚えません」

 「え? 反復ですか」

 「そうです。彼は、本をよく読みますが、一回でもある程度は理解しますがね。彼の場合は、複数回読み込むことで完全に理解します。だから戦術の本も、何遍も読んでからね。本当にね彼は天才のように見られますが、本当の所は努力型。秀才なんですよね」

 「そうですか。努力型・・・秀才か」


 ジルバーンは思い当たる節があった。

 あれだけ分厚い教科書にいくつかの付箋と書き込みが存在していることに、後ろの席から見ていたのだ。

 今のフュンの言っていた事と合致する行為だと思った。


 「ただ、一回覚えたら忘れませんよ。そこが長所です。なので、その挨拶も、ひっきりなしに入れ替わりであるとすると、彼の頭がパニックを起こすでしょうね。余計に子供らの名前を覚えられない」


 人読みが完璧である。

 ジルバーンは、フュンの事をますます尊敬した。


 「それで、もしかして、ジル。あなた、アインを助けてくれましたね」

 「な。なぜ。それを・・・分かったのでしょうか?」


 報告をしようとする前に、言い当てられた。


 「君、そういうのを見過ごせませんよね」

 「・・・わかりますか」

 「ええ、なんとなくね。飄々としていて、君たちとは関係ないよと、線を引いて立っていても、困っている人は見過ごせない。そうでしょ。君の性格はそんな感じに思えますね。あくまでも、僕の予想です。ハハハ」


 フュンの笑顔にちょっとだけジルバーンは安心する。

 見ていろというのが指示だったので、基本から外れた行為でそばに近寄ってしまったからだ。


 「そうですね。よくおわかりで」

 「ふふ。まあまあ。僕の勘ですからね。それで、あなたがバランスを取った後は、どうなりましたか」

 「つつがなく、学校生活を送っています」


 と報告したが、フュンには通じず。


 「いいえ。問題ありでしたね」

 「ん?」

 「周りの子に少し迷惑が掛かりましたね」


 ジルバーンは観念した。 

 王の目を誤魔化すのは不可能だと思った。


 「・・・はい。キリという女の子に、少々嫌がらせが入りました」

 「その子は大丈夫ですか?」

 「問題ありません。俺が直接指導《制裁》しました」


 顔色と声色も変えずにジルバーンは淡々と説明した。


 「そうですか・・・それにしても・・・その子と仲良くなったのか。さすがはアインというべきか」

 「ん? 王はキリをご存じで?」


 フュンの言い方が引っ掛かった。


 「ええ、もちろん。キリは僕が合格にした子です」

 「な!? まさか、その試験の時の答えを見てですか」


 ジルバーンは、キリが以前に聞かせてくれた理論を思い出した。


 「そうです。あの考えは僕らも考えていた事。それを次の世代の子が提案してきた。これは喜ばしい事です。彼女はこちらとしても大事にしなければいけないとして、全額免除の特権を僕とサティ様で決めましたよ」

 「なんと・・・サティ様も・・・」

 「はい。僕らの予定では、彼女が順調に育てば、ブライト家に入ってもらいます」

 「え!?」


 動揺することのないジルバーンが、目を見開いて王を見た。

 ブライト家はこの国で十三家しかない貴族だぞと。


 「ど、どういうことですか。キリをですか。一般人ですよ」

 「ええ。それのどこか問題がありますか?」

 「な。いや、しかし・・・貴族になるとは・・・」


 一般人からの貴族入り。

 それが衝撃的だった。


 「では君は、彼女に才が無いと思います?」

 「あります。それだけは言えますね」

 「でしょう。彼女の身分が、ただの一般人なだけで、才能は特別ですよ。それにね。身分はどうでもいいです。この国は奴隷もいませんからね。まあ、彼女は奴隷出身じゃないですけどね」

 「それはそうですが・・・」

 「僕とサティ様の目が彼女に向かっています。実は、裏では順調に育ってほしいと思っているんですよ。僕とサティ様の基準に到達していれば、卒業後はブライト家への弟子入りです」

 「・・・・・」


 キリ・ブライト。

 のちのアーリア王国ブライト家当主。

 サティの秘蔵っ子となる少女は、今はまだ未完の大器である。


 「まあ、でも必ずそうなるとは限らないですよ。君も楽にしていてください。それと」

 「はい」

 「ジル。アインに近づいて不安になりましたか?」

 「ん? なんでしょう?」

 「いや、監視しろって僕から言われたのに、アインに接触しちゃったら任務失敗かなって思ってましたよね? どうです」

 「・・・ええ、バレましたか。正直、殿下に近づいた時点で、任務も終わりかなっと思ったんですよね」

 「ハハハ。いいですよ。君のやりたいようにしていいです。それで、アインに正体がバレちゃったら、バレちゃったなくらいの軽い感じに捉えてください。それにその時にアインから怒られても、僕のせいにしてください。あなたは何も悪くありませんからね」

 「はい。わかりました。そうします」

 「ええ。ですからあなたの好きなようにしてください。それと」

 

 ジルバーンがホッとしている所に、再び呼び掛けられる。


 「今を楽しんでください。ジルも学校を目一杯楽しんでくださいね。うんうん」

 「は、はい。ありがとうございます。失礼しました」

 「ええ。学校頑張ってね」


 目の前の人は、確かに王様なんだけど。

 話している内になんだか学友のお父さんにしか見えない。

 身分と実際の雰囲気が一致しない王との会話で、ジルバーンは不思議と穏やかな気持ちになってから寮へと帰るのであった。

 


ジルバーンの能力だと、テストをすれば、ほとんどの教科で満点を叩き出せるくらいの成績を出せる。

しかし、ジョーの場合だと、85点をキープするような動きをしている。

絶妙な優秀さにして、成績を抑えているのだ。

ジルバーンは、実際の所。

文武にも優れているので、やりすぎると悪目立ちしてしまうためである。


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