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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第190話 アインとキリ

 「キリちゃん!」


 ルライアが隣の教室にいるキリを呼んだ。


 「ルライアさん。は~い。お待ちを~」


 のほほんとしている女の子が、パタパタっと音を鳴らしながら歩いて来た。

 左右に体が大きく揺れる独特な歩行だった。


 「一緒にご飯どうですか? こちらのお二人ともいいですか?」


 ルライアが聞くと、ジルバーンとアインが挨拶をする。


 「うっす」

 「よろしくお願いします」


 その返事に一人ずつ丁寧に返していくキリ。

 最初にジルバーン。次に王子に挨拶をした。


 「あ、はい。よろしくお願いします。よろしくおね・・え・・・王子様!?」


 だいぶ遅れてアインに気付いた。


 「はい。申し訳ない。僕がいても、よろしいでしょうか?」

 「・・え・あ・・そ、は、はい」


 だいぶ、しどろもどろだった。

 でも、これはアインが嫌だからそうなったのではなく、王子がそばに来たので驚いていたのだ。


 「でも、あなたの迷惑になるようなら、僕はここから去りますので」

 「迷惑だなんて、大丈夫です。ただ、私が失礼を働いちゃうのかなって思ってて・・・失礼だったら私を追い出してください」

 「いえ。そんなことはありませんよ。僕の方が迷惑を」

 「いや、私の方が失礼を」

 「いえいえ、僕の・・・」

 「いやいや、私の・・・」


 迷惑と失礼のキャッチボールがしばらく続くので、ジルバーンがじれったくなった。

 

 「いいから、早く食堂に行こうぜ。そこはどうでもいいんだよ。とりあえず一緒に飯を食べる。まずは細かい事なんて、食べてから考えればいいのさ」

 「「あ、はい」」


 二人が承諾した。


 ◇


 四人は食堂で一つのテーブルを囲う。

 会話の先手は、ジルバーンから。


 「あんたがキリね。キリちゃんね」

 「はい。キリです」

 「あんたは、どっかの名家の出なの」

 「いえ。ただの普通の家の子です。ババン出身です」

 「ババンか。近いな」


 ジルバーンは驚いた。

 里に近い都市はババンだからである。


 「ジョーも王国出身だったんですか」


 アインが聞いた。


 「まあ、そうだな。俺もそこら辺の出身だ」


 実際は少し遠い。 

 月の戦士たちの里は、ババンの裏の山の奥地である。


 「じゃあ、ちょうどいいですね。私、ラーゼにもちょくちょくいた事があります。そうなるとここはちょうど三国になりますね。バランス取れてます」


 実際は帝国人なのにルライアが場を明るくするためにこう答えた。

 人に気を許していると、笑顔がたくさん出るようだ。


 「そうだな。王子が帝国だもんな」

 「僕は・・・厳密に言うと、なんなんでしょうかね。サナリアもありますよ」

 

 アインは、サナリアと帝都を行ったり来たりして育ったので、サナリアにも愛着がある。


 「そうか。アーリア王がサナリアだもんな」

 

 ジルバーンが頷いた。


 「キリさんは、どうして学校に?」


 アインが聞いた。


 「私はですね。この学校、優秀だったら寮が無料だって聞きまして・・・私のお家は、たくさんお金があるわけじゃないので、学校に行きたかったからその制度を利用しようと・・・だから頑張って勉強して入ってみました。リンドーアだと、そこが無料にならなくて大変なので・・はい」

 

 成績優秀者の制度が、王都アーリアの学校にはあった。

 上位三百名の優秀者または特別なモノを感じた人には、学校から、寮費、学費、その他諸々が、提供される制度がある。

 これはフュンが作った次世代プロジェクトの一部であって、ミランダが無償で教えてくれた事から派生した制度である。


 「それじゃあ、あなたは寮が無料なのですか?」

 「はい。認められて、ラッキーだなって思いました」

 「そうですか。優秀な方なんですね」

 「いえ。それが全然なんです。私、自分の成績を知らなくて学校に入ったんですよ。この間の小テストは、千番くらいでした!」

 「千番!?」


 どうやら彼女は、上位三百番に入らないのに優秀者になったらしい。


 「私、何が認められたんでしょうか。不思議で不思議で・・・」

 「それはたしかにね」


 アインは頷いていたが、ルライアが言う。


 「キリちゃん。面白いからじゃない。あの作戦が面白いよ」

 「作戦?」

 

 アインが聞いた。


 「ええ。キリちゃんが考えたんですよ。ええっと、新経済構築のための新都市開発って作戦ですね」

 「なんですか? それは?」

 「アイン様。キリちゃんに聞いてみてください。面白いですよ」


 ルライアの言葉は、アインに対して言っているが、ルライアの顔は、キリに話せと促してる。


 「わかりました。キリさん。どういうことでしょう?」


 それを察したアインは、キリに聞いて、彼女が話し出しやすくした。


 「はい。試験の最後にあった。何か伝えたい事がありますか。という点数にもならない。おまけの問があったので、そこに勝手に自分の考えを書いてみました」


 キリが考えた新経済構築。

 それは王都アーリアを中心とした経済圏の作成である。

 王都はアーリア大陸のど真ん中。

 それに合わせて、大都市を結んでいく大計画。

 東西。南北。北西南東。北東南西。

 これらを一直線に結んで、経済を活性化させる計画をキリは試験の紙の最後に書いた。


 北のハスラとパルシス。

 北東のロベルト。

 東のサナリア。 

 南東のササラ。

 南西のミコット。

 西のババン。

 北西のルコット。

 

 これらに加えて、一つ。

 彼女が提案したのは、南のアージスであった。

 アージス平原に大きな都市を築くと、これらの経済圏に相乗効果で上手くいくはずだと、書いたのである。

 新たな都市を構築するのにも、ロベルトを参考にして構成すると良いとも提案したのだ。


 「なるほど・・・それはまさか・・・父さんたちが・・・以前に」


 これはまさに、若かりし頃のフュンたちが考えたことのある計画だった。

 ちなみに、この計画を進めていないのは、アーリアとロベルトを先に作るためにアージスは一時凍結となっていたためである。

 これは、門外不出の計画なので、この少女が自分の力で考えたのだと、アインは驚きで止まっていた。

 彼がこの事を知っていた理由は、サティとの勉強の時に聞いていたのだ。

 アインはサティの弟子でもあるのだ。


 「私はこれが上手くいけば、きっと全体が上手くいくと思っています。王国と帝国。双方の行き来が活発になると思っています。こうすると、大陸のどこに住んだって暮らしていけるのかもと思ってくれますよ。それに、王都を経由するように富が回るので、王都が経済的に一番になる可能性が高いです。どの都市よりもやはり王都。それが重要だと思います。他の都市が王都よりも潤うのは、今のアーリア大陸では危険かと思います。王がいる場所が一番じゃないと、いずれはいいんですが、今はよくないと思うのです」


 キリの顔がいつの間にか自信のある顔になっていた。

 経済関連の話になると夢中になるらしい。


 「ほう・・・あんた。商人の子か?」


 テーブルに肩肘を突いているジルバーンは、この子の考えが鋭くて面白いと思って聞いてみた。


 「いいえ。普通の子です。父は、ババンの城壁勤務です。母は専業主婦です」

 「そいつは・・・普通だな!」

 「はい!」


 王国で、奴隷でもなく、兵士の幹部候補でもなく、城壁勤務という事は、上位層でも下層でもなく、中層の中層で、普通である。


 「素晴らしい。キリさん。あなたは、きっとこの王国で重要な人になるんだ」

 「え?」


 アインは立ち上がって、キリの手を取った。

 両手で彼女の手を握りしめると、真剣な表情で褒め続ける。


 「あなたの考えは非常に鋭い。指摘も。何もかもだ。このままいきましょう。ここでしっかり勉強すれば、未来はきっと開けるはず」

 「あ・・はい」


 アインの勢いに押されていたが。


 「一緒に頑張りましょうね。キリさん」

 「はい」


 最後のアインの笑顔で、緊張していた心がスッと軽くなり、キリは素直に返事を返せた。


 ジルバーンは、彼のその顔を見て。

 『なるほど。太陽王に似ているな。この感じ・・・』

 そういう感覚を得ていた。


キリは先天性で足が少しだけ悪く。

両足首が動かしにくいです。

だから左右に揺れる独特な歩き方をしています。

他の人が見ればハンデのように見えますが、当の本人はこれを当たり前だと思っているので、ハンデだと微塵も思ってないです。

そもそもこの子は明るい性格をしていますので、ハンデだと思っても笑い飛ばすでしょう。

あと、経済を勉強している時が一番の幸せらしく、父と母にも熱弁するくらいに勉強しています。

そこの情熱が、ルライアとほとんど同じです。

アイン世代の頼りになる内政官となります。


ちなみに・・・彼女に関する次の情報は、すぐに小説に出るので、ここでは割愛します。

続きをお楽しみに。

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