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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第189話 アインとジルバーン

 アーリア歴元年9月22日


 この時期になっても、生徒たちの自己紹介付きの挨拶が終わらなかった。

 そのためにアインの顔は、げっそりとやせ細っていた。

 疲れがピークだったのだ。

 どこかのタイミングで、休ませてくれれば、多少は回復するかもしれないと思いながらも、子供たちを軽くあしらう事はせずに、アインはなんとかしてやりくりをしていた。


 授業前。


 「これは・・・さすがに・・・厳しい」

 「やっぱり、ここは私が!」

 「いえ。駄目です。せっかくお友達も出来たのでしょ」

 「まあ、いますけど。アイン様がこんなに苦しんでいるなら、お手伝いしますよ」


 ルライアはこの一カ月近くで隣のクラスに友人が出来ていた。

 キリ・ミースという一般人の女の子で、ちょっと変わった女の子と知り合った。

 ルライアも変わっているのでちょうどよいのである。


 「いえいえ、大丈夫・・・何とかします」


 その子の為にも、ルライアの為にも、アインは一人で頑張る事にしていた。

 もしここで手伝ってもらったら、二人も巻き込まれ事故に遭うだろう。

 優遇とみられ、下手をすればいじめに発展するかもしれない。



 ここで二人の後ろの席にいる青年が話しかけてきた。

 突然の事に驚いて、二人で同時に振り向く。


 「おいおい。そこの少年」

 「は、はい?」

 「顔色が悪いけど、保健室に連れて行ってやろうか」

 「いや、大丈夫です。平気です」

 「いやいや、平気そうには見えないぞ。俺が連れて行ってやろう。ちょっと君。次の授業内容さ。あとでノートを見せてくれないか。いいかな」


 青年は、ルライアにノートを見せてほしいと言った。


 「あ、いいですよ。書いておきますね」

 「ありがとう。じゃあ、行こうぜ少年」

 「いや、大丈夫ですって」

 「いいからいいから、俺が連れて行ってやるって」


 青年はアインの手を引っ張っていった。



 ◇

 

 教室を抜けて、廊下を歩き、階段を登る。

 二階が教室だった彼ら。

 保健室は一階なのに、階段を登っていった。


 「ちょ・・・保健室なら下ですよ」

 「いいのいいの。ある意味保健室さ。心を癒しに行くのさ」

 「え? どういうことでしょうか」


 アインは手を振りほどくこともせずになすがままに階段を登っていく。

 屋上にまでやって来た。


 「どうよ。最高の景色だろ。あっちを向けば、デカい城だぜ。良い城だ。カッコいいからな」 

 「え・・ええ。そうですね」

 

 お城の見える北の方角を向いて二人で座った。


 「あんた。王子なんだって」

 「え? あ、はい」 

 「そうか。だからそんなに挨拶だらけだったんだな」

 「え。まあそうですね」

 「大変だったな」

 「いや、平気ですよ」

 「ん。そうは見えないぞ。辛そうだ」


 顔色の悪い事を把握している。 

 だから、この人は他とは違う。

 アインはそう思った。


 「俺は、ジョー。あんたは?」

 「僕はアインです」

 「アインか。大変だな。王子ってのは」

 「いえ」

 「俺も、親父がちょっと変わっててさ。それと、お袋の方がかなり変わってるからさ。俺が住んでるところじゃ、大変だったんだ」

 「そうなんですか」

 「ああ。だからさ。あんたの親、王だろ。なんとなく気持ちがわかるよ。でもよ。なんであんたさ。彼女の提案を受けないんだ? あの子、あんたを助けようとしてたじゃないか」


 ジョーは、後ろの席で、ルライアの言葉をずっと聞いていた。

 助けようと何度も声を掛けてくれているのに、毎度アインが断っていた。

 

 「ええ。それはですね。彼女にあそこで救ってもらうと、彼女を巻き込みます。そうなると彼女の学校生活に支障が出ますからね。僕は僕のせいで、誰かが不幸になるのが許せない」

 「そうか・・・なるほどね。そういう意図があったのね」


 ジョー。

 ことジルバーンは、このフュンからの任務では、アインの観察だけで済まそうとしていた。

 でも、彼の学校生活があまりにも厳しいので、救いの手を差し伸べてしまった。

 さらに、自分が救われそうな策が目の前にあるのに、彼がその選択を取らなかったことで、アインの心の根っこの部分を知りたいと思ったのだ。

 

 「それで、なぜあなたは僕をこんなところに連れ出したんですか」

 「あ? いや、いい景色を見て、気分転換よ」

 「え?」

 「いいか。あんたの顔色の悪さも気分から来るものさ。だから、心を変える事に徹する。そして、ひっきりなしに挨拶に来る連中に会わなくても済むのはここだけ。それにだ。いつも同じ環境に閉じこもってばかりじゃ、良い作戦は浮かばないのよ」

 「作戦ですか」

 「そう。それで。俺はこれをプレゼントしようと思う」


 ジルバーンは、アインの首に立て札を掛けた。

 

 「これ、なんですか?」

 「いいか。ここにこう書く。挨拶に来た奴から、顔も名前も覚えてやらない。これでどうだ」

 

 ジルバーンはペンで大きく字を書いた。


 「は?」

 「挨拶に来たらこれを見せな。あんたの顔も名前も覚えねえぞって宣言だ。顔も名前もさ。普通は、こっちから覚えるものだしさ。それによ、名前とか顔ってさ。押し付けられて覚えられるわけがねえんだよな。無理無理」

 「たしかに・・・そうですね」

 「そうだろ。覚えるのってのは大変な事なんだぜ。俺は無理。ここはさ。五千人もいるんだ。一人一人覚えていたら脳みそが爆発しちまうぞ」

 「ふっ。たしかに」

 

 アインは久しぶりに笑顔になった。

 ルライア以外で、この学校で普通に会話することなどなかったのだ。


 「だから、もっと楽に考えよう。あんた。王子だけど。もう少し、自分の方に、事を寄せて考えていいはずさ。立派な王になるのもいいけど、その前に一人の人間として、今を楽しまなきゃな。せめて、ここではさ」


 学校に通う間だけでも、王子じゃなくアインでいるべき。

 ジルバーンはそう考えていた。


 「それにあんた、この三年が終わればさ。嫌でも王子に戻るんだ。だから、ここでは王子の肩書きは忘れた方がいいぜ。あの子の手助けも得た方がいい。それで彼女が辛くなったと彼女が言って来たらその時考えればいいのさ。だって彼女が友達になってくれるんだろ。だったら、良いじゃないか。五千の他人より、一人の友達。だろ!」

 「そ。そうですかね。王となる者が・・・それでいいんでしょうか」

 「まあ、王とか王子としてだと、良くないだろうけど。でもここは学校だ。学生の時は学生の考えでいいはずさ。あんたが学生から王子に戻ったら、この考えを捨てればいいだけ。五千人も大切にしていこう。臨機応変さ」


 考えをコロコロ変えろ! 

 安易な言い方に、アインは笑う。


 「ふふっ。発想が柔軟ですね」

 「そう。物事は一面を見ちゃ駄目だ。裏もある。表もあるけど、横もあるし、斜めもあったりする・・・ということよ」

 「なるほど。多角的に見ろ。ということですね」

 「そういうこと」 


 ジルバーンは言い切った後に大の字になって寝そべった。

 空を見ていた。


 アインはジルバーンの言葉に納得した。

 面白い人がいたものだと一緒になって横に寝そべった。


 「どうよ。空が綺麗だろ。今日もさ」

 「ええ。そうですね」

 「だから、明日も綺麗だといいじゃん」

 「はい」

 「でも、突然雨になったりするからさ。今。この時。この瞬間を楽しんだ方がいいんだぜ」

 「なるほど」

 「だから、仕掛けよう。俺と彼女が、アインのそばにいてみようか」

 「え?」

 「お昼休憩になったら、教室に戻ろうぜ。保健室に行ってた感じで戻るぞ」

 「あ。はい」


 嘘をつけるかと心配になったアインであった。

 正直者の彼には難しい指令である。

 


 ◇


 お昼。


 教室に戻った二人は、ルライアの元に戻る。


 「ルライアさん。僕のそばにいてもらってもいいですか」

 「はい。いいですよ。私がおそばにいましょう」

 

 ルライアは、すぐに承諾してくれた。

 元々彼女はアインが頼ってくれるのを待っていた。


 「やっぱそうだよな。じゃ、俺はジョー。あんたはルライアだったな。ルライアちゃんでいいな」

 「はい。そうです」

 「それじゃあ、ルライアちゃんの友達もいいかな。仲間は多い方がいいんだ。いいかな。敵がこちらに来た時に、追い返せる確率が上がるんだよね」


 敵って・・・学友では?

 と思うアインは横目でジルバーンを見た。


 「いいですよ。彼女の所に行きましょう。隣のクラスです」

 「おう。いこうぜ。アインも来いよ」

 「は、はい」


 三人で隣の教室に行った。


 


学校でのジルバーンは、ジョー・モルゲストという人間になっています。

潜入するための仮の名ですね。

彼の凄い所は、ジョーという人間のベースを作り上げて、それになりきっている所で。

本来のジルバーンの実力はもっと上で、トータルバランスで言えば、アインをも越えます。

アインも非常に優秀で、文武に優れていますが。

ジルバーンは、太陽の技も使えるために上です。


ですが、ジョーの実力設定は、あえて1.5流くらいのレベルにしています。

更にここでの凄さは、抑えているというよりもその実力が限界であると思い込んで演じている点です。

ですから、普通の先生が彼を見ても不自然には見えません。

ただし超一流には見抜かれる恐れがありますから、ミシェルやアイスたちがそばにいた場合は気をつけていたりします。




 

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