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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第183話 フュンからアインへ クリスからファルコへ

 アーリア歴元年5月5日


 フュンは王都アーリアの執務室に、アインと共にいた。 

 連絡を受けていた紙を見る。


 「なんともまあ・・・」

 「どうしました? 父さん」

 「ええ。これをどうぞ」

 

 紙を見せてもらったアインは。


 「なるほど。フィアのせいですね」

 

 二人の結婚は、妹がしでかした事だと思い笑った。


 「ええ。でもいいでしょう。僕もその方がいいと思っていましたからね。よかった。これは嬉しい事ですね」

 「はい。ジーク様にも幸せになって欲しいです。もちろんナシュアにもですけど」


 アインは笑顔で答えた。


 「アイン。この後で、あなたがハスラに行ってもらえますか。父さんはちょっと忙しいので、この調整の部分とお祝いはあなたに一任します。『フュンは、とても賛成ですよ』と、あなたの口から伝えてくださいね」

 「はい。わかりました。父さん」


 フュンは、アインを高く評価していた。

 自分の代わりをするのにも十分な逸材だと思っている。


 「アイン」

 「はい」

 「レベッカは、ウインドになりました。ツェンはメイダルフィア。フィアはダーレーです」

 「そうですね」

 「そして君は、ロベルト・アーリアになりましたね」

 「はい」

 「これの意味。わかりますよね」

 「はい。兄弟力を合わせて、アーリア王国を守る・・・ということですね」

 「そうです」

 「そして、アーリアの為に生きる王家とならないといけない」

 「はい。そうです」

 「お任せを、アインは父さんのように、民に寄り添う者となります」

 「いいでしょう。よろしい」


 満足のいく回答をしてきたので、フュンは頷いた。


 「ではアイン。もし父さんに何かあった場合。あなたが王となります。二代目の王となるのでね。先に注意をします」

 「は、はい」


 フュンは継承することの意味を教える。


 「二代目は生きていくうえで、色々と注意しなければなりません。僕は国家を維持するためには、初代よりも二代目。三代目よりも二代目。ここが重要だと思っています。ここが無能では国が無くなると思っています。僕の弟みたいなことをしてはいけません。あっという間になくなりますよ。ここがいかに大国であろうともね」

 

 自分の弟が無能だったばかりに、サナリアは崩壊した。

 現状のサナリアだけを知る者には、信じられないだろうが、サナリアは消えた国家なのだ。

 弟の記憶など、今の民たちにはほとんどないだろうが、フュンの中には深く刻まれている。

 あんな弟でも愛していたからだ。 


 「国家を形成した者と、国家を維持しようとする者では役割が違います。そして反発も違います。よろしいですか。あなたがこれから戦うのはこの僕が率いた家臣団となります」


 サナリアの四天王剣のラルハンとも戦ったフュンは、実体験から忠告していた。


 「は。はい」


 戦う相手が仲間となる。

 アインは想像していなかった。


 「そこに勝つには、取り込むだけではいけません。あなたの独自の政策が必要となりますが、そこに至るまでには少々面倒も出てくるでしょう。なので、ここは信頼が出来る部下を先に作っておいた方がいい。それも、旧世代との融合が出来るような優秀な部下だ。いいですか。今のうちに人脈を作りなさい。なので・・・学校に入りましょう。九月。王都の学校に入学しなさい。一期生です」


 フュンが建国を先延ばしにしていた原因の一つに、学校づくりもあった。

 アーリア王国の初年度に合わせて、開校しようとしていた。


 「僕がですか?」

 「ええ。学友がいた方がいい。武でも知でも、いいえ。とにかく信用の出来る友達が必要でしょうね。今の段階だと、とりあえずはね。僕の最初の頃には、ゼファーがいましたからね。そこから、ヒルダさんたち。ウルさんたちと。色々な人と友達になれましたからね。あなたもたった一人の友人からでもいいので、始めていきましょう。その機会としての学校です」 


 やはりフュンの中ではゼファーは従者でなく友人だった。


 「わかりました」


 フュンは更に教えを説く。


 「それにね。あなたは、兄妹の方に力が入っていますからね。学友は貴重になるでしょう。それと、僕としてはもう一人会って欲しい人物がいるので、今、呼んでいます」

 「会ってほしい?」


 『コンコン』


 ちょうどその人物がやって来たらしい。


 ◇


 「フュン様。失礼します」

 「クリス。どうぞ」

 「はい」

 

 クリスがやって来たのは通常の事だが、その後ろに小さな少年がいた。

 鋭い目つきで、相手を威嚇しているように見える子だった。


 「ファルコ・サイモンです。アーリア王、お久しぶりであります」


 最敬礼をしてから、フュンを見る彼は、まるで大人のような振る舞いをした。


 「ええ。ファルコ。お久しぶりですね。お元気でしたか」

 「はい。おかげさまで・・・ん。そちらのお方は」


 アインに気付いたファルコは、フュンに聞いた。


 「これは、息子のアインです」

 「なるほど」


 ファルコは、値踏みするかのようにアインを見た。

 そう感じるくらいに、鋭い目をしていた。


 「アイン様。私はファルコ・サイモンです。よろしくお願いします」

 「はい。僕はアイン・ロベルト・アーリアです。お願いします」

 

 最初の出会いはここフュンの執務室である。

 しかし、この出会いはアインを警戒させるだけであった。

 なぜなら、ファルコから出る異質な気配に、驚きを隠せなかったからだ。


 ◇


 全体の挨拶が終わった後、フュンは、クリスに話があるためにアインを執務室から出した。

 彼が出て行った後。


 「ファルコ。あなたの試験の結果はどうでしたか」

 「満点でありました」


 ファルコは九歳にして王都アーリアの学校入学試験に挑んでいた。


 「そうですか。どのくらいで解いたのです」

 「全問の事ですか? それとも大問の事ですか?」


 ファルコは二つの意味があると思って聞いた。

 難問である大問。

 それは正解が一つではないフュンオリジナル問題だ。

 これはかつて、ミランダが出してくれた問題に酷似している知恵の問題である。


 「どちらもです」

 「全問は二十分です。大問に十分要しました。なので短縮も可能かと」

 「なるほど。わかりました。あなた、来年も試験を受けてください」

 「またですか」

 「はい。もう一度試験を受けて、次回入学しましょう。10歳で入ってください」

 「わかりました」


 フュンの頭の中では、とある育成計画があったのだ。

 次世代を作り上げる。

 それは昔ミランダが自分の為にしてくれた事と同じである。


 指示の中身が不思議なので、クリスが聞こうとする。

 

 「フュン様。どうして、ファルコが来年であるのでしょうか?」

 「ええ。ファルコが九歳で入る場合。ちょっと体力的に難しいですからね。十歳ならいいでしょう。それに今年は彼女を入れますので、もしアインが大変になったら彼女に助けをもらいます」

 「彼女?」

 「はい。ルライアさんを入れてみたいのでね。少しずらします」

 「ルライア・・・ああ、ライノン殿の」


 クリスは、その名前から思い出した。


 「そうです。彼女もまた聡明な子なので、アインの下についてもらえると嬉しいですね。一応ですけど、ライノンは一般人なんで、通常の枠で彼女は来ると思いますが、とにかく優秀なので、試験は余裕で合格するでしょう。それにちょうどよい。クリスの子もそういう扱いになりますから。十三騎士以外での友人となってもらえればうれしいと思いますね」


 王家の他に貴族は十三騎士だけ。

 それ以外に特権はない様な作りをしている。

 それは領主補佐官となっているライノンもまた一般人の枠になっているのだ。

 だから特別扱いする家じゃない。


 「なるほど。ルライアですか。たしかに彼女も優秀でしたよね。一度試験を見た気が・・・もしや、フュン様が、ここまで彼女を学校に入れなかった理由とは」


 元帝都でも試験を受けていたのに、ルライアは合格していない。

 フュンが、入学を不許可にしていた。


 「え。いや。まあ。この王都アーリアが出来るのが決まっていたのでね。帝都の学校に入れるのはもったいないと思って延期させていただけなんですよ。どうせだったらね。アーリアの学校に入れたいのでね。王都アーリアの学校は今年開校です。先輩もいませんので、面倒ごとは無くて済む。アインにも、ルライアさんにも良い環境となるでしょう。一つ一つ。彼らが歴史を作ればいいだけだ」


 元帝都の学校は地方の学校として存在していてる。

 そして、これにて王都アーリアに学校が出来た事で、アーリア大陸に学校は四つとなった。


 王都アーリアに一つ。元帝都に一つ、リンドーアに一つ、サナリアに一つであった。

 それぞれに特色がある。

 元帝都。リンドーアは、アーリアと同じ全寮制の学校。

 サナリアの学校は門徒を広げているために年齢層に幅があり、無料で学習が出来る施設となっていて、文字や簡単な計算などのシンプルな学習に留まっている。

 だから、サナリアの学校は、元帝都の学校に行くための準備のような学校だった。

 現在は王都アーリアの学校に入るのが目的となっている。


 そして、王都アーリアは非常にバランスの取れた学校にしようとしていて、フュンの計画では、色々な先生を置くことにしていた。

 ミシェルやアイスなどの軍事系統。

 ウィルベルとリナなどの内政関連。

 それにアンやジャンダなどの開発系統。

 かなり豪華な指導陣となっているのだ。


 「僕は次世代を誕生させていく予定です。クリス。協力してくださいね」

 「はい。もちろんですよ。フュン様」

 「ええ。僕らは、ミラ先生にしてもらったことを、そのまま下の世代に渡すのです。思いもです。先生がしてくれたことは大切な事ですから」

 「はい。おまかせを」


 英雄たちの師ミランダ・ウォーカーがしてくれた事。

 それを、若い世代にそのまま返す。

 それが、彼女の教えをもらった自分たちの役目だと思っているフュンたちであった。



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