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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
最終章 新世代を守れ 太陽王の愛弟子

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第179話 王と友

 アーリア歴元年2月2日。


 大都市ロベルト。

 完成したのは王都アーリアとほぼ同時期である。

 鉄鋼都市バルナガンの鉄の町の雰囲気も持ち合わせながら、ラーゼの荒々しい海の男たちも存在する。

 二つの都市の良い所が重なり合って、素晴らしい都市となった。


 「フュンさん」

 「タイローさん。敵はまだでしょうが、いざとなったらラーゼの跡地を捨てます。破壊されても仕方なしですね」

 「ええ。わかっています」

 

 フュンとタイローは、親友たちとロベルトの高台にいる。

 

 「大元帥・・・じゃなかった。アーリア王」

 「ちょっとサナさん。よそよそしいですよ」


 フュンが言った後、サナとマルクスが続く。


 「すまん。でも、フュン王よりは言いやすいんだ! だから、これでいくよ」

 「たしかにな。サナの言う通りだ。フュン王って言いにくいよな」

 「そうよ。やっぱり王かアーリア王だよな」


 四人は友人としてここにいた。

 戦略上で重要なラーゼを見下ろすようにして四人はいる。


 「んんん。じゃあ、サナさん。何か僕に話したかったのでは?」

 「ああ。そうだった。えっと、時期がいつだっけ。連絡が来てたんだよな」


 答えてくれるのはフュンではなく、マルクスだった。


 「この間。最後の偵察だと。タツロウ殿からの連絡があったんだよ。サナ。あれ、お前に伝えたよな?」

 「悪い。覚えてない。それで、いつよ」

 「去年の夏」

 「半年前くらいか」


 二人の後に続いたのが、タイロー。


 「ええ。私の所まで手紙を置いてくれたようで、去年ラーゼで受け取りました。その時で、残り三年だそうです。前後はするかもしれませんが、その期間を目途にした方がいいでしょう」


 フュンが海を眺めながら言う。

 

 「間に合いますかね。僕としては不安もあります」

 

 昨年。

 タツロウからの手紙が届いた。

 前もって指定していたラーゼの西のガイナル山脈の隠し場所に封書があったのだ。

 筆跡などが一致しているので、それがタツロウからの本物の手紙だと思う。

 だが、確定したとは断定できないので、本当だと仮定すると、彼らはこちらの偵察を済ませたという事だ。

 

 手紙の内容は。

 『三年後、狙い。ラーゼの港。潜水艦2 輸送艦1 兵一万』

 という情報だった。

 必要な情報を羅列しただけだったので、これは余裕のない中での手紙であったと予想される。

 タツロウの字も殴り書きのようで、時間のない中での事だったみたいだ。

 彼はまだ命懸けの任務をしてくれているのだ。

 おそらく今もフュンの作戦に沿って動き出してくれている。



 ここでフュンとしては、助かっていた。

 攻撃が来る箇所として、一番に予想をしていた場所への襲撃であったからだ。

 フュンは最初。アーリア大陸の北。

 つまりは、ラーゼ。もしくはバルナガンが保有している港。それともルコットが攻撃を受けるかもしれないと 三カ所の予想をしていたので、兵の準備もバラバラに設定していたのだ。

 それが、ラーゼ狙いである事が判明するのなら、それは非常に助かる。

 重点的に防御を固めればいいからである。


 「それに、南は元々ないと思ってましたからね。ワルベント大陸は、僕らの北の先にあるのでね。ラーゼとバルナガンが一番近い。そこを落とさずにして、他の港を攻撃することはないと踏んでいましたし、タツロウさんがもしかしたら僕の作戦通りに動いてくれたのかも。とりあえず、よかった」

 「そうですね。アーリア王」


 マルクスも王と呼んできたので、フュンがジトっとした目で見た。

 さすがに友人には王と呼ばれたくなかったらしい。


 「駄目ですよ。さすがにもう諦めてくださいね。あなた様はすでに大元帥などではなく、アーリアの王ですからね。諦めなさい」


 マルクスが笑顔で諭す。


 「でも、友達ですよ」

 「それはそうですが、公私混同をしないために日頃から、こう呼ぶのです。人が要るところでね。間違えて『フュンさん!』なんて呼んだら、こっちが恥ずかしい思いをするんですからね。こちらにも気を遣ってくださいよ」

 「・・・そ、そうですか・・・諦めましょうか・・・んんん」

 「その顔、諦めてないでしょ。もう」

 

 そう言われたら、諦めるしかない。

 自分が我慢すればいいだけだ。

 と思っていても、フュンの首はがっくりとうな垂れている。


 「まあ、いいじゃなねえか。気にすんな。マルクス。大体、王はさ。我儘なのよ。自分が殿上人くらいに偉くなっているというのにさ。こっちに名前で呼べっていう方が酷だろ! ハハハハ」

 「「うんうん」」

 

 サナの意見に、マルクスとタイローが頷いた。


 「だから王。あんたそろそろ慣れろよ! もうアーリア王なんだからさ。呼ばれ方なんて、慣れちゃえばいいのさ!」

 「・・・そうですか・・・全っ然! 慣れないんですよね」

 

 王になった。

 その実感が絶妙にない。

 皆から言われるがままに王になった事。

 それに王子から人質にされた事での資格停止状態だったことが、王になりきれない要素となっていた。

 周りからの強い勧めが、自覚を見いだせない原因にもなり、人質という身分が自分にはその器がないのだという自信の無さに繋がっていた。

 アーリアの偉大な王だったフュンは、意外にもそこに悩んでいたりする。


 「フュン様」

 「あ、ヒルダさん」


 友人同士のおしゃべりに、ここで後から来たヒルダが参加した。

 ニッコリ笑うヒルダが言う。


 「慣れましょうね」

 「もしかしてさっきの話、聞いていたんですね・・・」

 「ええ。慣れましょうよ! おほほほ」


 ヒルダはいつもの姿で笑ってくれたのだ。


 ◇


 「僕らが集まると貴族集会に来た時を思い出しますね」

 「そうですね。私も申し訳ないことをした。苦い思い出が出てきますね」


 フュンの言葉にすぐにタイローが反応を示した。

 タイローは、あの時の自分を恨んでいる。

 もっとフュンに寄り添って、あんな危ない事をしなければとも思っていた。


 「いやいや、あれは仕方ないですよ。あの時にはナボルが邪魔でしたしね。それに僕、今も生きてますし。気にしない気にしない。大丈夫、大丈夫」


 そんな心配も無駄であり、フュンは、そんな昔の事は全く気にしていない。


 「ですがね。そんな事が出来ればね。私の人生に、後悔と苦労はないですね」

 「大丈夫。大丈夫。僕生きてますから!」


 嘆きの部分をほとんど聞いていないな。

 と思ったのはなにもタイローだけじゃなく、他の三人も同じだった。


 「さて、本題ですね」


 急にフュンが真面目な顔になった。

 真剣な話に変わる。最初はタイローからである。


 「フュンさん。私たちは、こちらにいればいいんですか。それともロベルトに下がるべき?」


 ロベルトの民たちの動きを聞いた。


 「僕は、とりあえずラーゼの港には人がいてもらいたいと思っています。人がいるように見せかけないと駄目だと思っていますからね」

 「なるほど。ラーゼが稼働しているようにみせるという事ですね」

 「そうです。攻撃が来た場合に、元ラーゼの場所にいる住民には緊急退避をしてもらい、ロベルトまで、にげてもらいます」

 「それで一般人の被害はなしにする。ということですか」

 「そうです。こうなると、戦場には一般人がいなくなる・・・僕らの人生でも、ほぼ戦ったことのない。市街地戦です。これをやりましょう。それにこれが、ミラ先生も考えてくれていた作戦ですね」  

 「・・・わかりました。そのように動きます」


 市街地戦。

 フュンの時代では、戦場が城壁内になる事など、ほぼない事だった。

 大体、城壁の上での戦闘で終わるのが当時の人々の戦いである。

 それが、城壁内の市街地での戦闘など、ほぼやったことがないに等しかった。

 直近だと、ミランダのククル攻城戦くらいである。


 「都市のこの位置。中央ですね。ここらで、一斉に戦います。各地での分断を行うために、建物を利用して奇襲をする。それが僕らの戦い方だ。持っている武器が違い過ぎますからね」


 相手が持つ銃に対抗するため、射線を切る動きをしなければならない。

 戦い方はこの先で変えないと勝てないのだ。


 「だいげん・・・じゃないや、アーリア王」

 「ん? サナさんどうしました?」

 「これ、他の都市はどうするんだ? 念のために呼ぶのか?」

 「そうですね。まず元バルナガンには、サナさんとデュラとアイスを配置します」

 「私か」

 「はい。ラーゼに一番近いので、次に危険です。その次にルコット。こちらには、シャニとララとマルンさんを置きます。これで陸と海を補強しますが、これも念のためです」

 「そうか・・・じゃあ、ここは? 誰が抑えるんだ」


 ラーゼ戦。

 この市街地を守るのは・・・。


 「ゼファー。タイローさん。そして、レベッカです。つまり、ゼファー軍。ロベルトの戦士。ウインド騎士団の王国最強の三軍で、少数精鋭にします。相手が一万前後。それでこちらが、ゼファーが二万。ロベルトとウインドが千程度で行きたいと思っています」

 「なるほど。倍以上で勝つってわけか」

 「はい。これ以上だと都市で戦うには多すぎる。なので、人の強さを持って戦います。とびきり強い人たちだけで編成します。ある一定の強さについて来れない人は連れて行きません」

 

 マルクスが聞く。


 「フュンさん。海は?」

 「ああ。言うのを忘れてました。ここはヴァンにお願いします。潜水艦。その輸送艦。攻撃するタイミングが大切ですからね。海軍大将の彼にお願いしたい」

 「それで準備万端にするんですね」

 「はい。これで僕らは戦う。あ、あとはサブロウたちが必須ですかね。彼の新武具の調整をしてもらいたい」

 

 この時点でフュンは勝つための作戦を組み立てていた。

 それは所々で不安がある作戦。

 だから友達である四人に聞いてもらう事にしたのだ。

 そこからもう一度、作戦を練り直して、戦う。

 フュンには信頼できる部下だけじゃなく、友達もいた。

 それこそがこの大陸を左右する局面を生み出すのに重要な事だった。


 戦いまで、あと二年。

 アーリア歴三年が、王となったフュンの英雄としての戦いの始まりである。


 ラーゼ市街地戦。

 伝説の幕開けの戦いである。



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