第178話 よみがえる! 伝説のウインド騎士団
アーリアの居城メイダルフィア城の玉座の間。
幹部がずらりと並ぶ部屋に、フュンが玉座に座り、シルヴィアが王妃の席に座る。
皇帝の重荷も取れて、戦姫としての役目も終えたシルヴィアの顔はだいぶ穏やかなものとなっていた。
満面の笑みでニコニコとしていたくらいだった。
昔の彼女では想像がつかないほどの笑顔を周りに振りまいて、王であるフュンの隣の席が何よりも心地良いものであるようだ。
対して、隣にいるフュンの方は、居心地の悪そうな顔をしていた。
正直に言って、この環境に納得いかない。
煌びやかな服装が動きにくいし、席すらも豪華で、座り心地も最悪と言える。
皆のせいで、王にさせられてしまったという心がどこかにある。
要は、不満たらたらなのである。
この対照的な夫婦の姿を前にして、クリスが声を発する。
いつもの表情よりも少し柔らかいのは、フュンの顔が面白いから。
主が不満そうな顔をするのが珍しくて、写真にでもおさめたいと思っている。
「それでは、フュン王」
「あの・・・出来たらいつものでお願いします。王ってなんだか慣れなくて・・・」
「わかりました。フュン様」
クリスとしては王と言いたい所であったが、フュンからそう言われたら訂正するしかなかった。
「ありがとう」
「はい。では。まずは人事です」
クリスがいつものように淡々と発表しだした。
アーリア王国の人事は、全土から採用される形式であった。
軍。
五大将軍 ゼファー・ヒューゼン ゼファー軍
ネアル・ビンジャー 元王国軍
イルミネス・ルート 司令部軍(近衛兵など)
デュランダル・ギミナー 元帝国軍
タイロー・スカラ ロベルトの戦士
指令部 ギルバーン・リューゲン
クリス・サイモン
フラム・ナーズロー (後方司令官)
顧問 スクナロ・ターク
ジークハイド・ダーレー
(大軍師)ミランダ・ウォーカー
これらに簡易のようにまとめられた。
アーリア王国は、各軍をシンプルな形に落とし込んだ。
それは、ある一人に力が入り込まないように、分散させる形式を取ったのだ。
それと、この下に各将たちを配置するわけだが、基本はそれぞれの五大将軍を移動するという形を取っている。
誰かと誰かが強く結びつかない形式を取っていた。
それといざ誰かが、内乱などで暴れても各将たちが分散しているので、叩くことも可能となっている。
ここはやはり全ての大陸が、ここに集約されたことによる警戒も込めた人事である。
それと、ミランダにはアーリア王国がある限り、永久的に顧問となり、大軍師の称号が与えられている。
初代王とその王妃を育てて守ったことから与えられた偉大な功績に対する称号であった。
これにより、ミランダは、生きた事のないアーリアの時代にも名が残っている。
太陽王と双璧を成すかのように伝説の大軍師として名が永遠に残るのだ。
内政。
三宰相 クリス・サイモン
ギルバーン・リューゲン
リナ・ドルフィン
都督 シルヴィア・ウインド
ネアル・ビンジャー
相談役 ウィルベル・ドルフィン
後は各大臣となる。
内政も一人に力が集約されないように動いている。
十三騎士の家じゃないクリスが入る事で、中立性を整えていた。
この後、内政などは大きな変化があるが、アーリア王国建国当初は、ひとまずこの制度で進むことを決めたのだ。
三宰相が内政の意思決定の基本形で、多数決で内政が進んでいく。
そして、ここで発表の最後に、重要な事が決まる。
それは、アーリアが世界に誇ることになる最強の戦闘集団。
五大将軍とは別の独立した軍が誕生した瞬間である。
「そこで、もうひとつ。アーリア王国に軍を配備します」
「例のですか」
「はい。では、そちらの団長に来てもらいましょう」
扉が開くと、威風堂々とした女性が、王までの直線の赤い絨毯を歩く。
その姿を見ただけで、皆が頭を下げていきたくなるほどだった。
ここには、王がいるので、そう簡単に頭を下げる事が出来ない。
皆は我慢していた。
彼女は王の前に到着すると、深く跪き、そして彼女に従って歩いて来た四人の人物たちも跪いた。
クリスが、彼女らをフュンに紹介する。
「レベッカ・ウインドが率いる独立軍。ウインド騎士団です」
「そうですか。ここで完成したと・・・」
「はい。では紹介します」
クリスが続けて各人物を紹介する。
「団長レベッカ・ウインド」
「はい!」
スッと立ち上がった女性は、子供の頃のお転婆な印象が消えて、強き美しい女性へと変貌を遂げていた。
全身から出る闘気。覇気。
これらはこの年代が放つ才ではなかった。
眩い光に包まれているように見えた。
「副団長兼一番隊隊長ダン・ヒューゼン」
「はい!」
レベッカの後ろに控えていた男性も、武人の風格を持っていた。
主を守る守護者である。
「二番隊隊長リエスタ・ターク」
「はっ!」
いつも通りの自信満々の表情は変わらずにリエスタは返事を返した。
「三番隊隊長ランディ・バード」
「はい」
不敵な笑みを絶やさない。
ランディだけはリラックスしていた。
「四番隊隊長ルカ・ゴードン」
「は!」
静かに立ち上がって、静かにお辞儀をした。
「以上がウインド騎士団です。フュン様」
「そうですか。こうも名将たちが・・・まあ、揃ってしまえば、強力な軍となるのは間違いないですね・・・う~ん。レベッカ」
「はい。王」
礼儀正しくいる彼女は、フュンの事を父とは呼ばなかった。
「これであなたは、独立軍ですが。このアーリア大陸で、責任を持つ立場になりましたよ。わかっていますか」
「はい」
「あなたの言動。あなたの態度が。その後ろで支えてくれる隊長たちに影響します。独立軍の自覚を持ってくれますか」
「もちろんです」
「うん。いいでしょう。これであなたは、ゼファー軍。ロベルトの戦士。これに並ぶ、アーリア大陸三大軍の一つとなりますのでね。気をつけてくださいよ」
フュンは、二回目の釘を刺した。
あなたの軍の力は、この国でもトップクラス。
それを何としてでも自覚してもらわないといけない。
強力な力を持つ責任を持ってもらいたいのだ。
「はい。アーリア王、承知しました」
「レベッカ。何か言いたい事がありますか」
「そうですね・・・・」
レベッカが少しだけ前に出た。
「それでは母上。父上」
「なんでしょうか」
「ん?」
二人が見つめて来てくれてから、レベッカは話し出した。
「師匠の意思を継いだ私は、お師匠様の言葉をもらっています。今がその時かと思いますので、お二人にお伝えします」
◇
修行の最後。
「レベッカ」
「はい」
「お前には、お嬢の秘密を教えただろ」
「はい」
「それで、あの秘密をシルヴィアが知った時、シルヴィアがウインドになるのか。それとも、お前がウインドになるのか。のどちらかだと思うんだ」
「私が、ダーレーではなく、ウインドですか」
「ああ、お前は本当にヒストリアによく似ている。話し方とか、戦う雰囲気とか・・・あの戦いの女神の化身にな」
ミランダは空を見上げた。
「まあな、筋肉のバネとか。お嬢もいい線をいっていたがな。やっぱりお嬢はユーさんに似ているのさ。きめ細かい技。動きのキレ。それらがあたしの記憶の中のユーさんに重なる。でもお前は、完全にヒストリアと重なるのさ。だから最強になる器がある。あれは神だったからな」
「神ですか? それほど強いと」
それほど最強ならば、レベッカは一度会ってみたかったと思った。
「そうだ。真の怪物。戦いの女神。それがヒストリア・ウインドだ。そんであたしが憧れた騎士団。ウインド騎士団の団長だった。エスにユーさん。あれも化け物だった・・・たぶん、将の質から言うと、あっちが上だ。ウォーカー隊でも勝てねえ。あの二人みたいなのは、いねえな。ザイオンやエリナとはタイプが違うしな」
「・・・そうなんですね」
「ああ。そこで、お前には、ウインド騎士団を託したい」
「え?」
ミランダは刀を預けると共に、騎士団の事も託していたのである。
思いはここへと繋がれと・・・。
「あたしが、あいつらを倒すために作ったのがウォーカー隊だ。だから、そのあたしが作ったウォーカー隊を越えて、この国で最も強い部隊を作ってくれ」
「私が最強をですか」
「そうだ。そしてお前なら作れる。武を見抜くセンス。人を惹きつける圧倒的な強さ。あとは、戦いのセンスよりも、戦場での立ち回りを覚えればいいだろう。場数を踏んで、色々な経験をすれば、いずれはヒストリアを超えるだろう!」
「私が・・・お祖母様をということですね」
やる気の炎が、レベッカの目に宿る。
彼女は、師匠から炎を受け継いだのだ。
「ああ。超えてくれ。いや越えられるだろ。それにお前が越えたら、あたしは嬉しい」
「え? お師匠様がですか?」
「ああ。そうだ。だってよ。あのヒストリアの野郎が、悔しがりそうだからな。あたしの弟子が、あんたを越えたってなりゃあ、あの世で歯ぎしりしてるぜ。ざまあみろ! へへへ。あたしの勝ちなのさ!」
最後までヒストリアに悪態をつくミランダであった。
◇
「そんなことをレベッカにだけは、伝えていたのですね・・・先生。まったく。私たちにも教えてくれないと。言ってくれたらよかったのに・・・」
シルヴィアが呆れていると。
「さすがですね。ミラ先生は!」
フュンは喜んでいた。
二人の脳裏には、いつものミランダの笑顔が浮かんでいた。
そこでレベッカが、二人に向かい宣言し始めた。
「なので、母上、父上。この私。レベッカ・ウインドがこの場で宣言します」
全身が痺れるくらいに覇気のある声が部屋に響く。
「我が師、ミランダ・ウォーカーとの約束を果たすため。レベッカ・ダーレーは、完全な自由な風となり、ウインド騎士団を。アーリア大陸一の戦闘集団にします。大陸最強となるのは、ゼファー軍。ロベルトの戦士。この二つではなく、この私! レベッカ・ウインドが率いるウインド騎士団です! 私たちは、挑戦者として、この二つに挑んでいきます」
周りの皆は「おお~」という声を上げて感心していた。
だが、正面で彼女を見つめるフュンは頭が痛くなっていた。
『なぜ、自国内で勝負をしようとしているのか』
意味が分からない。
我が娘ながら、この言葉をこの場で言うのであれば、まるで敵対国への宣言のように聞こえるでしょうと諫めたかった。
そしてまだレベッカの話は続く。
「母上」
「なんでしょうか」
「今後、私がウインドとして、当主となりましょう。母上が戦えなくなった。その腕の分。この私が働きます。母上の戦姫。それも私にお預けください。その戦姫。剣姫としてレベッカが継承します」
堂々たる宣言にシルヴィアは満足した。
「・・・いいでしょう。今日からあなたが当主です。ウインドを任せます」
「はい。母上はゆっくりしてください。父上の隣が、一番の休息場所でしょう」
「ええ、もちろん。よく分かっていますね。レベッカ」
「当り前です。母上と同じ気持ちですから」
シルヴィアとレベッカは見つめ合って微笑んだ。
同じ気持ち。
フュンがそばにいれば心が休まるという気持ちだ。
「では、母上。ウインド家はお任せを」
「ええ。お願いします」
これで正式にレベッカが、ウインド家の当主となった。
フュンが二人の話を聞いた後。
「そうですね。それじゃあ、ダン。リティ。ランディ。ルカ。娘を頼みますよ。あなたたちに託します。むしろ、あなたたちが頼りだ。レベッカ・ウインドを支えてあげてください」
「「「「はっ。太陽王」」」」
四人が頭を下げた。
伝説の騎士団『ウインド騎士団』の復活。
それがアーリア歴元年1月2日の出来事であった。
かつて帝国最強の名を意のままにしていた騎士団。
それが時を越えて、復活する。
目指すはゼファー軍、ロベルトの戦士を超える騎士団となる事だ。
そして、彼らの事を少々説明すると。
ウインド騎士団団長レベッカ・ウインド。
剣姫レベッカは、最強の剣士としてこの大陸に君臨する。
のちに大陸最強の剣士の称号を得て、剣姫から剣神となる。
ウインド騎士団副団長ダン・ヒューゼン。
一番隊の隊長を務めながら、レベッカを制御することのできる最高の補佐官。
彼がこの騎士団にいるといないとでは、他のメンバーの負担が違うのだ。
のちに彼は、四人の剣聖の一人『疾風のダン』となる。
ウインド騎士団二番隊隊長リエスタ・ターク
お嬢の良き理解者で、お姉さん的ポジションに立つ。
母となっているので彼女を導くことも可能となった。
彼女は、四人の剣聖の一人『円雷のリティ』となる。
ウインド騎士団三番隊隊長ランディ・バード
心に情熱の炎を持った男性で、ウインド騎士団の教育係である。
熱心な指導は団員たちに好評だ。
彼は、四人の剣聖の一人『灼熱のランディ』となる。
ウインド騎士団四番隊隊長ルカ・ゴードン
絶妙なバランス感覚を持つ男性で、攻防一体のスタイルはこの騎士団では稀。
仲間たちの相談役である。
彼は、四人の剣聖の一人『静水のルカ』となる。
「アーリア王。我らも端の席にいてもよろしいですか?」
「ええ。いいですよ。レベッカ。あなたも今日からアーリア王国の幹部です。いいですね」
「はい。アーリア王」
フュンに頭を下げる娘は、ずいぶんと立派な人間になっていた。
名だたる騎士を従えて、堂々たる姿を見せてから、部屋の隅へと移動をしたのである。
その姿に、師のジスターや母のシルヴィアの目は熱くなっていた。
甦る騎士団、ウインド騎士団。
それは、あのミランダが待ち望んだ騎士団。
思いはここに繋がり。
ヒストリアからミランダへ。
ミランダからレベッカへ。
戦う意志も繋がっている。
彼女らの英知が、ここに全て集約されるのであった。
ここが始まり、伝説の騎士団の完全復活であった。
始まりました最終章。
序盤のお話は少し長いです。
それと中身は、新世代の波です。
でもこれらの新世代で紹介するのは、ほんの僅かです。
ここで詳しく紹介する新世代は、フュンの時代に活躍する新世代だけに絞っています。
ようやくフュンが、ミランダの立場に立ちます。
彼ら、彼女らを鍛え上げるために、フュンがどのような指導をするのか。
それがこの章の始まりです。
最初はゆったりと進みますが、最終章中盤に入ると、一気に物語が展開していくので、よろしくお願いします。




