第176話 フュンとネアルの対談
リリーガの執務室。
来年には王都アーリアとなるリリーガ。
現在の執務室がそのままフュンの仕事場となる。
「ネアル王」
フュンの部屋にはネアル王がいた。
「大元帥。いい加減私をネアル王と呼ばないで、いただきたいですな」
「そうですか。でもまだ王様ですよ」
「んんん」
口で勝つには難しい。
ネアルですら太刀打ちは出来ないのである。
「まあまあ。難しい顔をしないで、こちらにどうぞ」
ネアルをお客様用のソファーの方に誘導した。
「それで、何の用でしょうか?」
「それがですね。ネアル王。僕の国が出来たらどうするつもりですか」
「ん?」
「いや、あなたの動きがなんだか、退こうとする動きに見えましてね・・・それはちょっと」
「・・・・」
ネアルは見破られたと思った。
実際にフュンが就任したらリンドーアから撤退して、退こうとしていて、七の家には就任するが引退状態での権力行使をしないことを決めていたのだ。
「やっぱり」
フュンは何も話さないネアルの顔で判断した。
「これはさすがにですね。私は引いた方が良さそうです」
「それはない!」
強く言い切った。
「え? いや、二重支配になりそうでは? 特にリンドーアは」
「まあ、それでも良いと思っています。今の所の話。僕が急に支配者ですよってなってもね。いきなり王国側の考えが変わるなんてないでしょ。だったら、あなたという王様が支配している領土が一つでもあった方がいい」
「しかし、そうなると、内乱がしやすい状況になるのでは?」
「大丈夫。むしろ王がいることで、抑え込めるとおもいます。これいない場合ですよ。たぶん好き勝手暴れられるんじゃないでしょうか」
ネアルがリンドーアにいない場合。
誰かが秘密組織などを作り上げて、打倒アーリア王国を目指す輩が現れるんじゃないかと、フュンは、思っているのだ。
「なるほど」
「それにですよ。もしそれらの組織が出来たとしたら、そこにネアル王がいれば。簡単につぶせます」
「ん?」
その意見は、自分の頭にない。
ネアルはフュンの意見に耳を傾けた。
「その組織らがアーリアを裏切ろうとする場合。必ずネアル王に話を持ち掛けるからです!」
「・・・なるほど。と言う事は私の役割とはまさに・・・裏切り!」
「そうです。裏切りの裏切りです」
「ハハハハ。あくどい。素晴らしい案ですな」
「ええ。そうでしょう。僕ってズルいんですよ。あの時戦ったのに知りませんでした?」
「ハハハ。ええ。それは良く知ってますよ」
ネアルは笑い過ぎて喉が渇いたので、お茶を飲んだ。
「あれって、もう一回戦えば、必ず僕の負けですからね。あの戦いは騙しのテクニックですよ」
「え?」
「いや、あの時も言いましたが。僕ってあなたと戦って、十回戦って、一回しか勝てませんよ」
「それは・・・そうかもしれませんね」
フュンとネアルでは戦闘力が違う。
確実にネアルの方に武があるのだ。
「だから、僕はね。その一回をもたらすために、あなたを騙したんですね。ズルでしょ!」
「いや、あれは想像外の動きをしたあなたが素晴らしかった。それにあれを攻撃につなげると私が予測すればよかっただけの話。と言う事はあれも実力なんですよ」
「そうですかね。まあ、もう一回戦ったら絶対負けますからね。あははは」
騙して勝った。
それがフュンの抱いている決闘での事で。
動きを予測して対処が出来なかった。
それがネアルが思っていた決闘での事だ。
だから意外とだが、結果に対して、フュンの方が満足しておらず、ネアルの方が満足していたりする。
自分の武力で勝ちたい。
それがフュンの本音で、武人らしい考えを持っていたのだ。
「それで、そんな話で私を呼んだわけじゃないでしょう」
「ええ。そうです。僕としては、貴族としてあなたにいてもらいたいんですが、どの役職に入りましょう? ここが問題でありましてね」
「なるほど・・・たしかに、リンドーアの領主というだけでは、七の家を担当するには・・・足りないとお考えなんですね!」
「そうなんです。何かいい塩梅のポストについてほしいです」
「・・・んんん。何が良いでしょうか。軍師などは、ギルバーンたちがいますからな・・・う~ん」
「はい。そうなんですよね」
軍関係は、大体が帝国と王国の役職のままにスライドさせていたりする。
この中にネアルをどこに入れ込むかが問題となっていた。
「奥方様はどのような役職に」
「シルヴィアですか」
「はい」
「彼女は何もいらないと。ウインドを維持すると」
「そうですか。でも役職は必要でしょう。私と同じように・・・」
ネアルが言ったように必要である。
それは元王国。元帝国。
双方をまとめてアーリア王国とするためには、長い期間が必要。
だから双方をまとめ上げるような役割が欲しいのだ。
「ここは・・・西。東・・・都督・・というのはどうでしょう」
「都督?」
「はい。西の元王都を私が。東の元帝都をシルヴィア殿が。互いに管理することで、王都アーリアを支える形にするのはどうでしょう? フュン殿の下に。完全支配下の中に入る事で、王都アーリアの権威を上げるという考えです」
「・・・なるほど。大きな枠組みの前に小さな枠組みですね」
「そうです。そして、私とシルヴィア殿があなたに忠誠を誓えばよい。という形がベストかと」
「・・・なるほど。考え方としてはいいですね。西の都督。東の都督。これでいきましょう」
「はい」
アーリア王国の頂点は、フュン。
だが、その二つの下に置くのがこちらの都督という役職。
重要な役割となるのは、二つの地域を一つにするための一時的な物なので、期間は三十年となった。
徐々に全体の意識も融合となれば、この役職も必要のないものになる。
ネアルも、一時的なものであると認識しながら、こちらの役職に就任することになる。
ここで二人がいる部屋のドアが開いた。
兵士が探し回っていたらしい。
「ネアル王! ここにいらっしゃったのですね」
「「ん?」」
二人が同時に振り向いた。
「何かあったのか?」
「ブルーさんが!」
兵士が叫んだ。
「なに! なんだ!!」
ブルーに何かあったのかとネアルが立ち上がった。
「妊娠したらしいです!」
「は!?」
「おお! それは良かった。何か月ですか?」
即座にフュンが聞いた。
「たしか、四だと」
「なるほど・・・それは気をつけましょう」
フュンはまだまだ安心だとは言わなかった。
それに、もう一つ懸念点がある。
「ネアル王」
「え? あ。え?」
ネアルは喜びと驚きで止まっていた。
「ネアル王! 話聞いていますか?」
「あ。フュン殿、申し訳ない」
「ネアル王。失礼を承知でお聞きしますが。ブルーさんっておいくつです?」
「彼女の年齢ですか」
「はい」
「40くらいかと」
なぜか曖昧だった。
ネアルは年齢を気にしないらしい。
「そうでしたか・・・初産が40。これは気をつけねば」
「どういうことですか」
「体力的にも精神的にも気をつける。僕とタイローさんが全面的にバックアップしましょう。無事に生まれるように気をつけていきましょうね」
「それは・・そうなのですが。そんなに危ないと」
あのネアルが不安そうだった。
さすがに妻の体についてあるからだ。
「いえ全然。そこまで不安にさせる事じゃなくて、ブルーさんは体力がある方なんで大丈夫だとは思いますよ。ただ初産は気をつけた方がいいとのことです。僕の医療知識でも、大体統計が取れてましてね。超危険ってなわけじゃないですけど、念のためです。気をつけていきましょう」
「わかりました」
お産は専門じゃないけど知識としてはある。
フュンは彼女の健康に気をつけていこうと、ネアルと共に注意していく事を決めた。
「それで、リンドーアではなく、こちらに来てください。それとタイローさんも呼びますので、ラーゼの医療をこちらに持ってきます。あとはシルヴィアもですね。彼女は四人産みましたから経験者がそばにいた方がいい。それに、そこにソロンも医療チームの方に加えます。そうなれば女性もいるし、ブルーさんが安心するでしょう」
「わかりました」
「丁寧に連れてきてください。お体に注意してですよ」
「わかりました」
「では、こちらにお屋敷を用意しますので、ネアル王は、一度リンドーアに戻っていいですよ。ここでの話は一旦終わりにしましょう。これは緊急事態で重要案件ですからね! 僕の方は、後でギルバーンなどと話を合わせておきますので、そちらに行った方が良い。急いでブルーさんに会いましょう」
「ありがとうございます。今、いってきます」
「はい。いってらっしゃい。ネアル王」
フュンが笑顔で送り出してくれた。
何よりも大切なのは人命。
フュンは色々と話したくても、ネアルの人生の方を重要視したのだった。




