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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 アーリアに偉大な英雄が誕生する

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第174話 ルイスからウィルベルへ

 そして、その二日後。

 フュンは、バルナガンのとあるお屋敷に招待された。

 懐かしい。

 ヒザルスのお屋敷であった。


 現在、ここにいるのは、ルイスである。

 サナリアからこちらに帰って来ていた。

 彼にとっても故郷に近いのがバルナガン。

 それにフュンが一人でも、もう大丈夫だろうとして、相談役としての仕事には就いていながらの事である。


 「ルイス様」


 部屋のベッドに横になっているルイス。

 だいぶな高齢で、いったいいくつなんだと思う年齢にまで到達している。

 この屋敷の中では、一番死んでもおかしくないのに、誰よりも元気である。

 

 「フュン様。お久しぶりで・・・」

 「今日は、何用で?」

 「それが今日が最期で・・・別れになりそうで・・・」

 「ってのは嘘ですよね。お元気そうですよ」

 「ははは。見破られたか。さすがはフュン様だ」

 「顔色がいいですもん。ルイス様は病気なんかでは死にませんよ」

 「ははは。だといいですな」

 

 いきなり、とんでもジジイジョークを披露するルイスは笑っていた。


 「それで、ここは重要な事を一つ教えるために、もう一人呼んだのですよ」

 「ん? もう一人?」


 部屋に入って来たのはウィルベルだった。


 「あれ、ウィルベル様では」

 「ええ。大元帥。ルイス様に呼ばれてきましたよ」

 「そうでしたか」

 

 フュンはウィルベルに返事をした後、ルイスに聞く。


 「これはどういう意味で?」

 「それは、私の仕事を継承させようかと思いましてね」

 「ルイス様の仕事?」

 「ええ。新たな国の相談役。これにウィルベルを置くべきかと思います」

 「な!?」


 ウィルベルが驚いた。


 「ルイス様。それは無理かと。私は罪があるのですよ」

 「まあ、待て。ウィルベル。私の話を聞きなさい」


 ルイスは優しく諭した。


 「フュン様。新たな国の創設。それは正しい判断かと思いますぞ。王国。帝国。双方にあるだろう。憎しみ。これを受け継がずに済む。帝国が全てを吸収していくよりも断然良いはずですぞ」


 皇帝に連なるものであるがルイスは、建国に大賛成であった。


 「でもですよ。僕としては、ガルナズン帝国に悪いかと思っています。それにルイス様に申し訳ない。皇帝の系譜を持つあなたがいるのに・・・」

 「それは気にしないでほしいですね。私はもう皇帝に連なるものじゃない」

 「いえいえ。あなたは系譜にいますよ」

 「しかし、私は御三家戦乱の反対側にいた罪人でもあるのです」

 「でもそれは、罪はなかったはず。陛下との密約だから、陛下が守っていたはず」


 エイナルフの力によって、反逆者であるルイスは無罪となっている。

 

 「そうです。罪としてはなくとも、心に罪があるのです」

 「つまり・・・なるほど」


 ルイスが言いたい事がなんとなくわかったフュンは、口を挟むのをやめた。


 「だからウィルベル」

 「はい。ルイス様」

 「お前の罪も同じだ。心に残った罪に苛まれているだけ。この私と一緒なのだ」

 「・・・」

 「だから、ウィルベル。相談役になれ。その方がいいのだ」

 「しかし・・それでは他の兄弟たちにも悪い」


 兄妹に負い目があるのは、重々承知。

 ルイスもフュンもウィルベルが深く反省しているのを知っている。


 「いいか。むしろ、相談役になった方が戒めになる。自分が二度と国を裏切らないと、心に誓えるのだ。この私もそうだからだ」

 「裏切らない・・・そうなれると・・・」

 「ああ、そうだ。国の為に動くことになる相談役はお前に適していると思う。あらゆる分野に精通しているし会話も上手いからな。フュン様の良き相談役になるはずだ」

 「・・・そうですかね」


 ウィルベルは悩んでいるが、フュンはその判断が良い判断だと思った。

 自分の国に新たな重鎮を置くのは、助かる面がある。 

 それはルイスが悪いとかではなく、今はミランダがいないためにすぐに相談できる人物が欲しい面もあった。


 「たしかに。ウィルベル様を相談役にすれば、皆が気軽に相談しやすくなるかもしれない。これは良い案かもしれないな」

 「大元帥!」


 ウィルベルは、簡単に乗せられるなとフュンを睨んだ。


 「いや、ウィルベル様。僕からもお願いしたいですね。そもそも僕は今後の計画で、あなたに相談したい事が山ほどあるんですよね。リナ様や、サティ様との調整が出来るのだって、あなたしかいませんからね。相談役。なってもらえれば、僕は助かります」

 「それは・・・」


 フュンから頭を下げられたら、断りにくい。

 ウィルベルは悩みに悩んだ。

 裏切り者が新王国の相談役?

 ありえない人事で、やってはいけない事に思ってしまう。

 でも本心では、この男が王に相応しく、仕える仕事なんて、やりがいがあるに決まっている。

 この身を感謝の意味を込めて息子と共に捧げても良いと思っているのだ。

  

 「どうでしょう?」

 「ウィルベル、その方がいいのだ。私が安心する。今の私ではフュン様にこっちに来いと言われて、すぐに向かう事が出来ないからな。身軽に移動が出来るお前に相談役をお願いしたいのだ」


 ウィルベルは、二人から迫られて決心した。

 

 「わかりました。私がやりましょう。ルイス様のような立派な相談役にはなれないと思いますが、アーリア王国の相談役。こちらに私がなりましょう」

 「本当ですか。よかった」

 「そうか。そうか。これで安心だな」


 二人も喜んでいた。

 

 こうしてウィルベルは、アーリア王国の相談役という立場に立った。

 罪人でも更生すれば仕事があるという道を示す形になった。

 それと、彼の罪はガルナズン帝国の終焉と共に消えるという状態にしてあるので、ウィルベルの気持ちの中だけで罪が残る状態になったのだ。

 でも、アーリア王国の中では罪人にはならない。

 

 しかしこの人事、異例ではある。

 元ナボルで帝国の元最有力後継者と言ってもいい人物が、新たな国の相談役となった出来事は、恐らく別の大陸では起こる事のないことだろう。

 裏切り者。正統後継者。 

 この二つを乗り越えて、相談役になる。

 こんな人事を実現させることが出来るのは、フュンしかいないだろう。

 だけどこれは非常に重要な事だった。


 ミランダを失い、ルイスが自由に動けなくなり、エイナルフが存在しない。

 この三人は、フュンが新たに国を建国する時に、非常に重要な人材だったはず。

 

 自分よりも上の存在に相談するという環境が必須だった。

 王たる立場、自分が一番。

 だけどフュンとしては誰かと共に進みたいので、自分の上が必要。

 そこにちょうどいいのが、ウィルベルである。

 切れ者であり、内政を重要視できて、しかも実際は親族だが、妻のお兄さん。

 これは、適材適所と言ってもいいだろう。

 フュンの心が少しだけ軽くなったのだ。


 「大元帥・・・いや、フュン様。私が支えましょう」

 「はい。ありがとうございます。ウィルベル様」

 「ウィルベル様はな・・・やめて頂きたいな、こちらが厳しいですぞ・・・」

 「それは、僕には無理ですよ! ね、ルイス様」


 フュンはルイスに聞いた。


 「そうですな。この人に、指図なんて出来ないでしょう! ウィルベルよ。アーリア王だからな。ハハハハ」

 「あれ? そっちですか」


 僕の擁護じゃないんだと思ったフュンの首がうな垂れた。

 ルイスとウィルベルは、くすくすと笑ったのであった。


 この後、ルイスはフュンに会えた事で、更に元気になって、また庭の手入れなどを楽しんだ。

 彼はまだまだ死ぬことはないのである。

 大都市ロベルトが出来上がってそちらにも住んだとされている。

 化け物ジジイは、本物の化け物だった。



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