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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 アーリアに偉大な英雄が誕生する

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第172話 大都市ロベルト復活へ向けて

 帝国歴538年4月

 ラーゼ近郊の大地にて。

 フュンとタイローが、数カ月ぶりに出会った。


 「フュンさん」

 「おひさしぶりですね。タイローさん」

 「はい!」


 友人である二人は、のんびりとしているわけではない。

 ここでとある場所の為の下見をしていたのだ。

 建物が次々と建っている場所で話し合う。


 「フュンさん、ここが中心?」

 「いいえ。もっとバルナガン寄りにです。そちらの人も呼びたいんで」

 「そうですか。中央予定地ってあります?」

 「はい。あるんですけどね。今ちょうど、文献を調べてましてね。僕らは正確に当時の都市を再現しようと思っています」

 「なるほど。王都アーリアを作りながら、こちらも作るという事ですね」

 「はい。そうです。そうだ。人手とか足りますか?」

 「大丈夫です。ババン。ウルタスなどの王国側の職人も来て、一気に出来上がってますから」

 「そうですか。それはよかった」


 王都アーリア計画の他にもう一つの計画が進んでいた。

 それが、大都市ロベルトの復活である。

 この都市は、計画によるとラーゼとバルナガンを再び融合させる大計画であり、これの主な理由は、ワルベント大陸との戦いにあった。


 「タイローさん。ラーゼ。あそこを潰してしまう事。皆さんに納得して頂けましたかね」

 「・・んん。寂しいですけどね。おそらく。納得はしてくれたと思いますね。でも港はそのまま使用してもいいのでしょ?」

 「そうです。ちょっと遠くなりますが、ラーゼもバルナガンも、港だけは使用可にして、漁師さんもお仕事できるようにしましょう」

 「ええ。それならたぶん大丈夫だと思いますね」


 ラーゼのタイローから、ロベルトのタイローになる事が決まっている。


 「ロベルト誕生。その理由は、市街地戦にあります」

 「そうでしたね」

 「はい。あのラーゼ。もしくはバルナガンで戦うとなったら、街を犠牲にしたいのです。人は犠牲にしたくないからの決断ですね・・・申し訳ない」


 フュンの狙いは、敵襲が街に来てほしいのだ。

 敵に上陸してもらい、そこからの局所戦闘をしようとしている。

 その際、住民に被害が出ないように空の都市にしたい。

 これを可能にするために、大都市ロベルトを誕生させるのだ。

 そしてもう一つ。

 大都市には掲げている目標がある。

 過去に敬意を、今の人たちに安心を、未来に希望をもたらす都市。

 これが新たな都市ロベルトの信念になっている。


 「僕の名前もここに置いておきます。タイローさん。常に一緒の気持ちですからね。ロベルトをお願いしますよ」

 「はい。おまかせを」


 フュンとタイローは、ロベルトの予定地を後にして、ラーゼへと戻った。


 ◇


 『ラーゼ』タイローのお屋敷。


 迎え入れてくれたのは、ヒルダ・シンドラ。

 それと第二子であるアルマ・タイロー。

 フュンとタイローが、帰ってくるとすぐに挨拶をするために、二人が急いで表に出て来た。


 「フュン様・・・・わーい」

 「おお。アルマさんですね。元気一杯だ」


 フュンは自分に向かって走って来たアルマを抱きしめてから、たかいたかいをした。

 子供をあやすのも、手慣れている。

 四児の父である。


 「アルマ。駄目です。フュン様になんて失礼な事を!」


 ヒルダが叱った。


 「お母様。怖い」

 

 アルマが言うと、続けてフュンは笑顔で言う。


 「そうらしいですよ。ヒルダさん、こわ~いらしいですよ」

 「あ。フュン様!」


 冗談を言っているフュンを鬼の形相でヒルダが睨んだ。


 「わあ、僕も怒られましたよ。怖いですねえ、アルマさん」

 「フュン様かわいそう。よしよし」


 フュンが可哀そうなので、アルマはフュンの頭を撫でた。

 小さな手が可愛くて、フュンは思わず満面の笑みになる。


 「あら、アルマさんはお優しいですね」

 「うん。ボク、フュン様を守るよ」

 「あら。アルマさんも、僕を守ってくれるんですね。ありがとうございます」

 「うん。ボク、お父様みたいに強くなるんだ」

 「それは、なんとも頼もしいですね。タイローさんみたいになるのなら、とても強くなりますよ。凄いですね」

 「うん!」


 アルマとフュンが笑顔で会話していると思い出す。

 それは第一子が亡くなる際に、フュンが一緒に涙を流してくれた事を思い出すのだ。


 タイローとヒルダの最初の子は、生まれて三年後に病死した。

 亡くなったのはちょうど最初の二大国英雄戦争の後で、皆が停戦後のドタバタの際の出来事だった。 

 だから哀しみを内に秘めて隠していたのだが、フュンはそんな忙しい中でも駆け付けてくれて、共に泣いてくれたのだ。

 しかし、その直後に、このアルマが生まれる事が分かり、ちょうど生まれ変わりのように感じていたのが、三人であった。

 だから、その第一子の分の愛情も注いでいこうと、二人と一緒にフュンも自分の子供のようにアルマを愛している。

 幸いにもだが、このアルマはずいぶんと体が丈夫なようで、まだ五歳であるが、太陽の戦士の訓練を見様見真似で出来るくらいに頑丈でもある。


 「ボク。太陽の戦士になるんだ!」

 「おお。そうですか。期待してますよ。アルマさん」

 「うん!」


 フュンが抱っこから降ろすと、彼はすぐに父親の元に行った。


 「あ、私は?」

 

 抱っこしようとしてたのに無視されて肩を落としたヒルダに、フュンが話しかける。


 「ヒルダさん。今日、いいんですか? 僕ここに泊まっても? ほら、僕って泊まる時は小さい所が好きなんで、別にラーゼの宿でもいいんですけどね」

 「ええ。いいのです。フュン様は、私たち二人の大切な友人ですから、ぜひお泊りになられて、お話やお食事を楽しみましょうよ」

 「そうですか。んん。だったらサナさんたちも呼べばよかったですね」

 「ふふ。そうですね。皆で懐かしく語らうのも良かったかもしれませんね」

 「はい。お友達会が良かったですよね」


 アルマを抱っこしているタイローが近づいて来た。


 「フュンさん。それじゃあ、おやつにでもして、ゆっくりしませんか」

 「いいですね。そうしますか。お邪魔しますね」

 「「はい」」


 二人が明るく返事をすると、アルマが言う。


 「フュン様、いいよ」

 「あら、アルマさんも許してくれるんですね」

 「うん」

 「優しい子ですね。イイ子ですね」

 「うん!」


 フュンは子供をあやすのが得意であった。



 ◇


 雑談後。


 「それでですね。あの、お二人には今の生活を捨てる事になり、大変申し訳ありませんが、スカラ家という僕の十三騎士の一家になってもらいたいんですけど。ヒルダさんは奥様と言う事で。シンドラの家を潰すことになりますが、よろしいでしょうかね?」

 「はい。私はいいですよ。タイローは?」


 ヒルダはあっさりとしていた。

 

 「はい。私も良いです。ついにフュンさんの配下となれるんですよね。いやあ、肩の荷が下りるというか。楽になるというかね。助かりますよ」

 「え?」

 「いや、今の立場だと、あなたが私たちと同列に見てくれているのが大変でしてね。ねえ、ヒルダ」

 「はい。タイローの言う通りです」


 二人は心底今の立場に疲れていた。


 「正直に話しますよ」


 ヒルダは正直者なので、ここで包み隠さず話すことになった。


 「私たちは、そもそもフュン様の正式な配下になりたかったのです。お友達をやめるとかの話ではありませんよ。ただ今の立場を捨てたくてですね。ずっとそう思っていましたから、助かります」

 「え? なぜ。不満だったんですか」

 「いえいえ。不満なんかじゃありませんよ。十分感謝しています。でも、フュン様は、私たちの事をあまりに大事にしてくれているので、何だか申し訳なくてですね。本当は帝国の方たちのように、あなた様の配下になっていれば、もっと楽に暮らせるんじゃないかって思っていたんです」

 「それは・・・気付かなかった。僕が重荷になっていたんですね。申し訳ない」


 フュンは申し訳なさそうな顔で頭を下げた。

 

 「重荷という程ではありませんが、こちらの気持ちの問題ですね」

 「そうでしたか。でも今回の件はどうです? 重荷になりそうですか」

 「いや、嬉しいですよ。これで正式にあなたにご恩を返せばいいのですから、ねえ。タイロー」

 

 ヒルダはタイローにも答えを委ねた。


 「はい。ヒルダの言う通りで、私も大変うれしいですよ。フュン王と呼べばいいのかな」

 「いやいや。フュンさんでお願いしたいですね。お友達なんで」 


 そこは断固として拒否。

 フュンは首と一緒に手も振った。


 「それは・・・難しいですね。あなたは、ついに王となられるのでね。私は一貴族という立場なんでしょ。それは線引きしないと・・・これからは太陽王にしましょうかね」

 「またまた。ご冗談を。あの時の事、本当にトラウマなんですからね。やめてくださいよ。もう!」


 フュンは、皆からの脅迫じみた『王になれ』にトラウマがあるのだ。

 

 「フフフ」「ハハハハ」


 友達二人に笑われて、この日のおやつ会は終わった。

 王となっても友達が支えてくれる。

 そんな幸せな王は、このフュン・メイダルフィアしかいないだろう。

 大陸の英雄となろうとも、そばにいてくれる人たちは一人一人が大切な人たちであった。

 絆で結ばれている家臣団を持っていた太陽王。

 それが彼の真の強さ。

 歴史に名を残す伝説の王の強さの秘訣である。



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