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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 アーリアに偉大な英雄が誕生する

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第161話 油断

 「あ。そういえば、あなたはギルバーンとお呼びした方がいいんですか?」

 「まあそうですね。本名がそうであります」

 「そうですか。ではギルバーンは、結婚されているんですか。先程の会話を無下にしなかったのが気になりましてね。ネアル王のことですから、あなたなら茶化すでしょ」

 「ええ。まあ、そうですね。結婚はしてます」

 

 ギルバーンの答えに驚いたのはネアルとブルーだった。

 全く知らない話で一人者だと思っていた。


 「「なに!?」」

 「なんだよ二人とも。そんな顔して。俺は言わなかっただけだ。結婚はしてる」

 「私になぜそれを言わん。いつだ」

 「ずっと前」

 「誰とだ」

 「はぁ。あんまりさ。あいつはじゃじゃ馬なんで紹介を・・・」


 したくないと言おうとした瞬間に、彼の背後に光が現れた。


 「あなたは・・・先程の・・・メイファ殿」

 

 ゼファーは先程出会った女性だと思った。

 ゼファーが相手の名前を一度で覚えているのは彼女が強いと判断しているからだった。


 「またお会いしましたね。ゼファー殿」

 「はい」


 手を滑らかに動かして挨拶をするメイファがやって来た。

 指の動きがしなやかで、武芸の達人に見えるのに指先まで綺麗だった。


 「クソ。出てきやがった」

 「なによ。私は黙ってここで見てたのに。それなのに、私の名前を出し渋るから。ちょっと怒ったわよ」

 「当り前だ。お前は、自由人だからな・・・はぁ、どうしよう」


 珍しくも困惑するギルバーンを置いて、メイファはフュンの前に立つと、すぐに頭を下げる。

 

 「あなた様が、太陽の人ですね。お初にお目にかかります。メイファ・リューゲンと申します」

 「あ。はい。僕はフュン・メイダルフィアですよ。メイファさんですね」

 「はい」


 挨拶を交わしただけ。それだけでも心が満足した。

 メイファはフュンと会話しただけで、不思議な気分になっていた。

 念願の待ち侘びた太陽の人との対面である。


 「我が夫が、度重なるご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。時にはあなた様の人生に苦難を与え続けた事。ご了承ください」

 「んん。苦難? それってどんな事ですかね?」

 「それを説明するにはたくさんの事がありましたからね。簡易でお伝えするに。一番大きく関与したのはラーゼですかね。ラーゼ防衛戦争が起こる事を知っておきながら、この人はそれを無視していましたからね」

 

 メイファはギルバーンの肩を叩いた。


 「いてっ。何すんだ」


 ギルバーンがメイファを睨むが、涼しい顔でメイファは話を続ける。


 「この人。あなた様を成長させるためにいろいろ仕組んでいましたから。ごめんなさい」

 「そうでしたか。でもいいですよ。メイファさんもお気になさらずに。これからは手伝ってくれるのでしょ」


 仲間となるのなら、気にしないでください。 

 こうして会話が出来るのならば、フュンには敵味方という概念が生まれない。


 「もちろんであります。太陽の人の為に、我ら月の戦士は存在していますから」

 「ならば、今までの事は気にしないで。これからを共に生きましょう。ギルバーン。あなたもですよ。僕への後ろめたさはいりません。いいですね。あ、それとネアル王もブルーさんもです。これからは仲間です。敵なんかじゃない。わだかまりも、どこかに飛ばしてください。それと遠慮もいりませんのでお願いします」

 「「ありがとうございます」」


 ギルバーンとブルーが言った後。

 ネアルも頭を下げた。

 

 「そうですね。これからは大陸の為にですね。私も頑張りましょう」

 「ええ。ネアル王。一緒に戦いましょう」

 「もちろんですとも。大元帥」

 

 これからは共に戦う仲間。

 フュンの笑顔にはそのような事を信用させる何かがあった。


 ◇


 「まあ、これで大体の話は出来ましたね。僕らの事とそちらの事をすり合わせるにはおそらく、ギルバーンとクリスが意見交換をするのがいいでしょうね。切れ者同士に色々と決めてもらいましょう。それで、ネアル王とブルーさんはこちらの帝都に来てもらって、少し懇談会でもしましょうか。僕らの動きにも慣れてもらいたいですから」

 「そうですね。私も賛成です。他の大陸の情報も欲しい所ですからね」

 「そうでしょう。とりあえず、リンドーアにでも移動して、アーリア全土に知らせを出しましょうかね。この戦いは終わったとね」

 「わかりました。王国にも連絡します」

 「はい」


 フュンとネアルの戦いが終わった。

 しかしこれからが本当の戦いの幕開けを予感させる。

 二人の英雄が、大陸を守るために戦うことになるとは、少し前の二人では想像も出来ない事だった。


 「ギルバーン殿。メイファ殿」


 ゼファーが話しかけた。


 「なんでしょう?」「はい」

 「お二方。とんでもなく強いのですが、お手合わせなどしてもらえるのでしょうかな。それと姫にも稽古をつけてもらいたい」

 「「姫???」」


 二人が同時に首を傾げた事で、この二人が夫婦である事がよく分かる。

 喧嘩もするけど、仲が良いのだ。


 「すみません。ゼファーが言っているのは、僕の娘のことです」

 「ああ、そうか。レベッカ殿ですね」 

 

 ギルバーンが答えた。

 

 「はい。そうです」

 「ええ。フュン殿。俺で良ければなんですが。こいつと一緒にゼファー殿の稽古に参加しましょうか」

 「こちらこそいいのですか。僕はもちろんいいんですけど、ゼファーが願っているみたいで嬉しいですね」


 ゼファーが直接頼むのが珍しいので、フュンは喜んでいた。


 「では、いずれそちらへ、俺たちが行きましょう」

 

 ここでフュンの後ろからレヴィとサブロウがやって来た。


 「ギルバーン! おいら。ショーンって奴を紹介して欲しいぞ。そいつが使っている道具。気になるぞ」

 「いいですよ。ショーンですね。メイファ。ショーンを頼む」

 「ええ。いいわよ。私に任せて。サブロウ殿こちらへ」

 「ありがとぞ!」


 私がやりますと、メイファはサブロウを連れて行った。


 「私はギルバーンに用が」

 「ん。レヴィさんが強引にこちらに来るとは珍しいですね」


 フュンの命令なしにそばに来たのが滅多にない事だった。


 「フュン様。この方は、シャルバーンという男の子供です」

 「シャルバーン?」


 その名をフュンは分からなかった。

 レヴィの昔話にも一瞬だけ出てきた人物であったからだ。


 「はい。ソフィア様と、私を逃がしてくれた方の息子さんなんです」

 「え!? ギルバーン。あなたが・・・そうなのですか。では元はドノバンの民なんですね?」

 「ええ。まずはレヴィ殿。手荒な真似をしてすみませんでした。先の戦いでは、そうせざるを得なかった。無礼を働きました。申し訳ない。重ねて、太陽の戦士たちにも失礼を。それにジーヴァを強引に使ってしまい。そこも申し訳ない。本来は戦わせる予定がなかったんですがね。彼にも悪い事をしました」


 ギルバーンの計画では、ジーヴァを太陽の戦士たちと戦わせることはなかった。

 しかし、思った以上に帝国に迫られたので、あそこで止めなくてはならなかったのだ。


 「い。いえ。私も頭に血がのぼっていましたし、それはいいのです」


 先程の態度とは打って変わって、ギルバーンは真摯に謝ってきた。

 正直な話ギルバーンも好きでフュンたちと戦うわけではなかったのだ。


 「それであなたは、どういう立場なのでしょうか。シャルさんの子なのに。なぜそちらに?」

 

 シャルバーンは気障なセリフが多かった人で、自分たちの兄貴分のような男性だった。

 ソフィアとレヴィの二人にとっては、親交のある太陽の戦士の一人だったのだ。


 「まあ、厳密にいえば、俺は母が王国人なのですが。一応はそうです。ドノバンの民です」

 「・・・な、なんと。ここまで生きていてくれたのですね。お父上は?」


 ドノバンと聞いてフュンが驚く。


 「死にました。ナボルの追撃にあって。あっさりとね」

 「そ、それは・・・残念です。レヴィさんの他に母のことを知る人がいるかもと・・」

 「ああ。でも俺は知っています」

 「ん?」

 「俺、夢を見るんですよ。親父の体験した事が見れるんです。その時のあなたのお母様は、全部。笑っていましたよ。それは本当に太陽みたいでした。周りを照らして、本人まで輝く。そんな人。俺は見た事がない。あなたを見つけるまではね」

 「僕がですか。またまたそんな大層なもんじゃないですよ」

 「いえいえ。そんな事はない」


 ギルバーンの体験する夢は、正確に父親の記憶を見ているようで、特にシャルバーンの別れた後の戦いの様子は、レヴィの記憶と一致するようだった。


 「ではギルバーン。あなたはどうやってナボルに?」

 「俺はですね」


 ◇


 俺は親父とお袋が殺された後。

 何とか生き残ったのは良かったんですが、敵に追跡されたら逃げきるのは難しいと思って、そこから都市には逃げずに山に逃げたんです。

 都市に行く平坦な道だと、足跡などを消してしまえば逆に追跡がしやすくなると思い、消しても気にならない山の方に行き、そこで、子供一人ですから、遭難もして、飯も無くなり、死にかけのような状態になった時にたまたまハッシュさんというお爺さんに拾われまして。

 そして運がいい事にその人が月の戦士の民でして、俺はドノバンの民の子として受け入れてもらえたんですよ。

 

 そこからは元々親父に鍛えてもらえていたこともあって、月の戦士たちとほぼ同等に戦えることで、月の戦士たちにもすんなり認められて、彼らと共に情報収集に努めて、太陽の人であるソフィア様を探し出そうと動いていました。

 月の民の役割ってのは、元々ドノバンの民の裏の行動を担当していたのです。

 なので、月の戦士は、常にドノバンの動向を知っていたんですね。

 ですが、あの時の襲撃事件のせいで、その情報が完全に途絶えてしまい、探し出すのにも苦労しました。

 それであの事件に巻き込まれたドノバンの民たちも救うために、ナボルの監視の目を掻い潜って保護していたりしてたんです。


 その時に俺は、保護活動をしている最中に、ここまで酷い事をされるのであれば、いっそナボルごと根こそぎ倒そうと思いましてね。

 ドノバンを救っただけでは、ナボルを倒せないと考えて、そこから、俺はとある計画を立てました。

 それで、その前に、まず太陽の人が生きているかどうか。

 ここの確認が重要でした。

 彼女が生きていれば、まだ太陽の戦士たちの復活はあり得る。

 月の戦士と共に動き出せば、太陽の戦士が復活しますからね。

 そして、敵であるナボルの動向や中身。ここも重要でした。

 それで、敵自体を知る事が必要だと考えた俺は、ナボルに潜入をする決意をしました。

 この頃の俺は影の力も手に入れていましたから、場所さえ分かれば潜入が可能だと思い。

 とにかく人の流れがおかしい点を月の戦士たちと共に調べ上げて、見つけたのがバルナガンの東にある隠れ施設です。

 そこはナボルを養成する場所でありまして、俺はそこに潜り込んで、俺の口八丁で、すぐに敵を騙せましてね。

 幹部候補生までいって、信用を得ました。

 その時に得た情報が、あなたの存在でした。

 太陽の人は生きていて、そして子供がいた。

 これが衝撃的な事件でありました。


 ◇


 「なるほど。それで僕が生まれていたことを知ったのですね」

 「ええ。その頃の俺も、まだ子供だったんで、なかなか難しいものがありましたが、何とか出世して、あなたの情報を掴みました。そして、レヴィ殿がいる事も掴んだ」

 「え。その頃の私は、ナボルには見られていませんよ」


 レヴィが答えた。


 「そうです。あなたはナボルには見られていない。ただ、こちらの月の戦士に見られています」

 「な!? そんな」

 「はい。こちらの技も、結局は太陽の戦士の技ですので。俺たちがあなたを見る事は容易い。最初に出会った時、俺はあなたを見ていましたからね」


 第七次アージス大戦の停戦時。

 ギルバーンは、太陽の戦士たちを見ていた。

 しかも、一番の達人であるレヴィの事をしっかりと見ていたのである。


 「そうでしたか。それで、以前話してくれた作戦をしていたと?」


 レヴィは戦いの際に、自分を守っていたとの話を聞いていた。


 「そうです。送り込む刺客の情報を、その見張りをしていた戦士に流して、処理してもらっていました。それで、ナボルには、レヴィさんの情報を伝えずに、アハトが倒したと文書を偽造して報告。太陽の人を、サナリアで処理することは難しいと判断させていました。そこからのサナリアへの攻撃を渋らせていました」

 「なるほど。そうでしたか」


 ここでフュンの疑問が一つ解決していた。

 それはナボルの目をごまかすのに、アハトが倒したとの情報を怪しまれずに済んだ理由である。

 正直影との戦いで、アハトが倒せたとの情報は、信用に足らないのではないかと思っていたのだ。


 「ただ一つその時の残念な事は、まさか、あのソフィア様が命懸けで実験をしている事でした。あれを止めるべきか。それとも止めないべきか。月の戦士たちで話し合いをかなりしました。守るべきは彼女なのか。それともあなたなのかと」


 ギルバーンの暗い顔にメイファの悔しそうな顔を見て、フュンはよほど悩んでくれたんだと思った。

 本当に自分と母のことを思ってくれていたのだと、その表情だけで分かる。


 「彼女の研究はナボルの毒についてです。実は、その当時の月の戦士たちでは、その知識が薄かったのです。そして俺もまだ候補生でガキだったから、毒についての情報を取れませんでした。だから、彼女の行動を止めるということが勿体ないと思いました。毒に対抗できる手段を得られる最後のチャンスかもしれないとして、最終的には彼女を止める事を選択しませんでした。フュン殿が生まれていたので、次の太陽の人がいたから、止めない判断を取ったということもあるかもしれません」


 母をみすみす見過ごしたという事じゃない。

 全てはナボルを倒すための作戦であったとギルバーンは言っているつもりなのだ。

 だからフュンも怒る事はしなかった。


 「それで、俺がナボルの幹部入りしてからは、あんまり手を出さないようにしていました。俺はその時には王国に潜入する形をとっていて、ネアルを見つけた頃ですね。それで、あなたが一人でナボルを乗り越えられないようでは、この優秀なネアル王子には勝てないと思っていたので、俺はナボルを利用してあなたの成長を待っていました」


 フュンを強引に成長させる作戦でもあったのだ。


 「・・・なるほど。多くの戦いはあなたが仕組んだと言ってもいいから、メイファさんが謝って来たのですね」

 「そうですね。でも俺が、奴らの作戦の根幹に関与したものは、ほとんどないんです。まず誘拐事件。あれはあの馬鹿どもが仕組んでいて、たまたまうまくいきそうになったものです。でも俺は、レヴィ殿がいる事も気付いているし、月の戦士も送り込んでいましたから安心していました。それよりもですね。俺はあの時には、ジーヴァを使っていました。彼の母に、あなたの人となりを見る指令を出していました」


 最初の事件に関与なしだった。

 むしろジーヴァの件に関わりがあった。


 「そして、貴族集会。あれもストレイル家のスカーレットの独自の判断です。タイローを操っていたウィルベルの行動の一部でもあります。そこも俺は無視していました。それに派生して、あなたのサナリアの反乱。あなたの弟ですね。あれも一部始終を見ていただけでしたね」

 「そうでしたか。お恥ずかしい限りで」

 「ウィルベル如き・・・いや彼じゃないか。セイスの策に踊らされるくらいに、あの弟は残念ですからね。単純すぎましたね。あと、欲に目がくらみ過ぎだ」

 「そうですね」


 フュンでもかばう事は出来ない。

 それくらい情けない弟である。


 「それと。シンドラ事変。ラーゼ防衛戦争。これらは奴らが仕組んだものをちょいと利用しました。あれらが同タイミングから少しだけズレるように日程を調整しましたよ。あなたがギリギリであれらに対処できるような日付に設定しました。本来は、あの海軍の連中が知らせに行くなんてこともなく、スカーレットがラーゼを攻めるのはもう少し早かったですからね。それとあなたがラーゼにいるのはほとんどがナボルだと気付くようにも仕向けています。ラーゼの幹部たちを見殺しにしていますのでね」


 ラーゼにいたナボルを簡単に処理できたのは、ギルバーンの援護があったようだ。

 そこもフュンの合点のいく点だった。

 あの時、あまりにも敵に手ごたえがないと思っていたのだ。


 「なるほど。そうか。あの時と・・・それとタイローさんと敵を捕縛した時ですね」

 「そうです。でもそれをあなたが見事に乗り越えてくれた。ああ、そういえば、その他にもシーラ村などもありましたが。全てあなたは自力で乗り越えましたよ。俺はただ見守るだけでしたからね」


 生きていることの確認くらいが仕事でもあったようだ。

 それほど、フュンに対して救いの手を出していなかった。

 全てはフュンの成長を待っていたのだ。


 「・・・そうですか。でもそれ以外にも、あなたが何度か裏で手を回していたのでは?」

 「まあ、そうですね。ナボルが潰れるようには仕向けていましたね。奴らの影を秘密裏に弱くしています。指導官をこっそり月の戦士にしていたりしてましたからね」

 「なるほど。今までの事。なんだかあなたのおかげな気もしますね。あなたはそう言う事を自慢げに言う人物ではないでしょう。身を粉にして僕の為に・・・ありがとうございます。ギルバーン。あなたのおかげで僕は生きて来られたみたいです」


 フュンが深く頭を下げると、滅相もないとギルバーンが慌てた。

 

 「いやいやいや、俺の力は関係ない。あなたの力だ。それに太陽の人が俺なんかに頭を下げてはいけませんよ。それにですよ。俺は勝手にあなたを利用したようなものだ。ナボルを倒すためにね」

 「いえいえ。そんな事はない。あなたのおかげですよ。ね!」

 「・・・ふっ・・・これが太陽の人か」


 感謝を拒んでも、拒ませない。

 強引な面がある太陽の人。

 でも明るい笑顔を見ると、そんな事はどうでもいいと、考えが吹き飛んでいき、この人と共に人生を歩んでみたいと思わせる何かがあるような気がするのだ。

 ギルバーンは珍しく笑っていた。


 「ギルバーン!」

 「は、はい」

 「今まで、ごくろうさまでした」

 「え?」

 「そして、これからも、よろしくお願いしますよ。今度からは、裏ではなく、僕を表で支えてもらいますからね! まあ、自信満々に言う事じゃないですけどね。あははは」

 「・・・ふっ。ええ。そうですね。こちらこそよろしくお願いします。フュン様」

 「はい。お願いしますね」


 ここから新たな主従関係となる。

 ギルバーン・リューゲンを手に入れたフュンは、翼を得た。

 大陸を跨るために、空へ羽ばたく。

 その翼を得たのだ。

 全てはワルベント大陸に勝つためにだ。

 ギルバーンとクリス。

 この双方の頭脳を最大限に引き出せるのは、この大陸にフュンしかいなかった。

 この戦争の結果とは、新たな仲間たちを得たという巨大な戦果だったのだ。


 「それで、俺もお伝えしたい事がありまして。こちらにいる将軍で、ノ・・・」


 話の最後に、ギルバーンがフュンに対して、ノインの説明をしようとしたその時、事件が起きた。



 王国側、帝国側。

 双方の幹部らは全員が等しく油断していた。

 それは、長らく続いた戦争が終わったという安堵感。

 それと、相対した将たちが、互いを認め合っていたという満足感が、それぞれの油断を招き、たった一人の監視を怠ってしまっていたのだ。


 「きゃあああああああ」


 この事件が最悪の結果を招く。

 

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