第157話 英雄決戦 最後の謀略
戦場に穴が開いた後。
フュンは真っ直ぐ突き進んでいった。
ネアルまでの道を一本道として、周りの仲間たちが導いてくれるのであった。
「ウルさん。シェンさん。今は道が開いているので、これがもし閉じていきそうなら、壁となってください。それと、ウルさん。クリスの方で連携を。ウルさんは後ろで僕とシェンさんを見守って欲しいです」
「「了解」」
「レヴィさん。いきますよ。太陽の戦士たちで、最後の穴を開けてもらいます。そこから、ここの固定を任せたい」
「ええ。わかりました」
「それでは、太陽の戦士たちが先行で、僕が親衛隊を率いて後方に控えます!」
「はい。おまかせを」
最終局面。ネアルを守る本陣に風穴を開けようとしたのが太陽の戦士たちと、フュン親衛隊。
突撃の最初は太陽の戦士たちで、彼らは一撃で敵を粉砕して、その次に親衛隊が突撃をしていく。
それで上手く攻撃が嵌り、もうすぐで敵本軍にまで辿り着きそうになったその時、二つの軍が止まった。
それは、太陽の戦士たちの中で動きを変えたものがいたからだった。
太陽の戦士長の一人ジーヴァが、太陽の戦士長たちの前に立ちはだかった。
「「「ジーヴァ!」」」
太陽の戦士ママリーとリッカ、ハルが叫ぶと。
「何をしているのです。ジーヴァ」
レヴィも一緒になって叫んだ。
「ごめんなさい。皆さん。ここは下がっていてほしいです」
「何を言っている? ジーヴァ」
「ラインハルトさん。僕と戦うのはやめた方がいい。ここは止まって欲しい」
「何?」
七人の太陽の戦士長たちのうちの一人ジーヴァは、味方全員に忠告した。
「そうだな。やめておいた方がいい。太陽の戦士長たち」
「だ。誰だ」
声だけが響き、太陽の頂点たるレヴィの目にも映らない。
何処だと思って、次の一声を聞いた瞬間、ジーヴァの隣からだと気付いた。
「レヴィ殿。あなたはここで止まってほしい。ここではあなたたちの後ろにいる彼の手伝いをしてはいけない」
男が現れる。
「あ、あなたは」
「それと俺もあなたとは戦いたくはないんですよね。太陽の母のような存在をね。この手で葬るのも良くない」
「ヒスバーン!?」
レヴィの驚いた声に太陽の戦士長たちも驚く。
「戦うという事。それは死力を尽くさないといけなくなる。二対八だ。こちらとしては、本気で戦わざるを得ない」
「そちらが二? あなたの一ではなくですか!」
ジーヴァが仲間。
あなたの数として、数えるとは言語道断とレヴィは怒った口調だった。
「ええ、二です。ジーヴァは元々こちらの人間ですからね」
「そちらのですって?」
「ええ、月の戦士の末裔リヴィエラの子ですので、今は彼女が、どの名になってるか忘れましたがね」
「リヴィエラ?」
「はい。彼女はこちら側の人間。大元帥殿がどういった人間かを調べ上げる仕事をしていたのがリヴィエラでした。当時、彼女は子供を持っていましたので、自分の子をわざと置き去りにして、検証したのですよ」
「なに。そんな。まさか。あの時ですか」
「ええ。もちろん。この子は、その当時。母の任務については知りませんでしたがね」
人質誘拐事件。
あれの真相は、仕組まれた迷子であった。
「あとはあなたも監視させていただきました」
「・・・ん? 私ですか! フュン様ではなく」
「ええ。もちろんです。太陽を守らせるために色々と手を尽くしていたのでね」
「あなたはいったい・・・何者!?」
足が止まった太陽の戦士長たちのそばに、フュンが後ろからやって来た。
「どうしました」
「フュン様」
「進みましょうよっとはいかないか・・・ヒスバーン! ここで現れましたか」
フュンが言うと、ヒスバーンは優雅にお辞儀して、右手で中へ進めと促す。
「大元帥殿。どうぞ。中へ」
「え?」
「王は、あなたをお待ちしてますよ」
「・・それは・・・招待ですか」
「ええ。それを望んでいる。彼も、そしてあなたもだ」
「わかりました。ここはあなたを信用しましょう。通してもらいます」
「ええ。ありがとうございます」
ヒスバーンは再び丁寧にお辞儀をした。
「レヴィさん。ここを任せます。反対側のウルさんが固定に入っているので、あなたたちはここを」
「わかりました。必ず駆けつけますのでご心配なく」
「ええ。無理はせずに」
「はい」
と言ってフュンはこの場の事情を置いて、ネアルの方に向かって行った。
まだ疑問は残る中でも、現場では最善を尽くさねばならない。
フュンも、レヴィもである。
「戦うしかないのですね。ジーヴァ」
「そうですね。レヴィさん。出来たら引いてくれると嬉しかったのですけども」
「本当に敵なのですね」
「敵ではありません。僕も太陽の戦士・・・になりたい人間だ。ただ、僕のルーツが月の戦士であっただけ。なので、申し訳ない。足止めします」
「ジーヴァ!」
レヴィが飛び掛かるようにジーヴァを攻撃しようとすると、ヒスバーンが立ち塞がった。
「やれやれ。ジーヴァとレヴィ殿では、互角すぎて、殺してしまうからな。ジーヴァ」
「はい。ギル様」
「そっちの六人の戦士長の方を頼む。俺はこっちだ。少しレヴィ殿と、話がしたいしな」
「わかりました」
「いけ。全部許可する。場合によっては全力を出してもいい」
「はい」
ジーヴァは太陽の戦士長六人との戦いに入った。
そしてレヴィとヒスバーンの戦いが始まる。
◇
「ヒスバーン。貴様。何を企んで」
「ええ。レヴィ殿。あなたは太陽の人にとって非常に重要な役割をしていました。影ながらナボルを倒してたのがあなた。そして、影になりながら成長を見守っていたのもあなた。表に出てからも守っていたのもあなただ。でも、最初の頃。ヘンだとは思いませんでしたか」
「え? 最初の頃?」
「ええ、ナボルが、ソフィア様をサナリアで見つけた時と、その後の襲撃の事件を比べて、おかしいと思った点はありませんか」
「ど、どういう意味でしょうか」
「敵の数が足りない。もしくは、実力が足りないと思った事はありませんか」
「・・・たしかに私一人で対応が出来ていましたし、あのアハトが影に対応ができていた」
思い返せば、不思議な点はあった。
影の力を持つ者が、影の力を持たざる者に敗れるなど滅多にない。
それもいくつかの襲撃があったのにだ。
「あれは、私がナボルにいたために起きた現象です」
「え? あ、あなたがナボル!?」
「そうです。私がナボルにいて、襲撃の計画を全て把握していました。それを阻止するために月の戦士を使って、敵を間引いていたのです。あなたでも倒せるようにね」
ギルバーンが、敵の中にいた理由は、太陽の人を影ながら守るため。
ナボルの幹部のフリは、全て太陽の人の為である。
「な!? なに。私にも倒せるように?」
「ええ。お一人で、数十人ものナボルを殺すのは不可能だ。あの襲撃というのは、本来三十名以上がいたのですよ。それを四、五人までに減らして、そちらに送り届けていたのです」
「な。なんでそんなことを・・ナボルにいて、ナボルと敵対する行為を?」
「ええ、私はナボルの人間などではない。しかし、ナボルを知らなければ、ナボルを殺せぬと考えたのです」
敵の中にいてこそ敵を殺せる。
ヒスバーンの考えは毒そのものだった。
中でじわじわと相手を弱らせるために潜入していた。
「なに? 敵の中に入っていただけ?」
レヴィは、今までの裏側を知るたびに、頭が混乱していた。
「そうです。私はナボルの幹部になり、情報を得ました。親父だけの情報では足りないと思ったのでね。太陽の人と世界の詳しい現在地を知るために、私はいろいろ手を尽くしたのです。そこで、目をつけたのがナボル。王国ではネアル。そして、太陽の人を見つける。この三つのバランスを見て、俺はナボルを選択してから、奴らを破滅させる道を選んだ。完膚なきまでにあなたたちに壊してもらうためにだ」
「・・・なぜ、あなたがそこまで」
ヒスバーンは、ゆっくり歩いて、レヴィの前に立った。
そして、真の名を告げる。
「私の名は・・・いや、俺の名は、ギルバーン・リューゲンだ。あなたならばこの名の意味を知っている!」
「りゅ・・リューゲンだと!? ま、まさか・・・あなたは・・・」
その名を聞いて、理解が出来るのは、レヴィだけ。
懐かしき名を聞いた彼女は、驚きのあまりに一歩後ろに下がった。
「この名を以てして、俺は太陽を登らせるのさ」
「まさか、あなたは・・・シャルバーンの子!?」
「そうだ。そしてこれに見覚えがあるはず。あなたは知っているはずだ。太陽の人ソフィアの従者レヴィ・ヴィンセント!」
ギルバーンが取り出した武器を見て、レヴィは目を点にさせた。
「それは、竜翼!? シャルバーンの・・・」
「そうです。俺の父シャルバーン・リューゲンの愛用武器だ。竜爪で、技が使えぬあなたでは、俺に勝てない。だから、ここで大人しくしていろ。レヴィ!」
「そ、それは出来ない。フュン様のそばでお守りせねば」
「それでは駄目だ。彼は最後の試練に向かわねばならない。英雄の階段を一人で登らないといけないのだ」
「なに? それはどういう意味・・・」
太陽はより強く輝いてもらわないと困る。
アーリアを照らすために・・・。
「太陽の人は、人に認められてこそ。太陽の人だ。つまり、彼は肩書きでアーリアの民に認められてはいけない。全土の民に認められるには、それ相応の結果が無ければならんのだ。それが、英雄決戦。この二人が織りなす最後の戦い。英雄戦争だ」
「英雄戦争・・・」
「アーリアをまとめるには、強き英雄が必須。だから、その素質のある二人を戦わせることで、アーリア大陸に真の英雄を誕生させる。それはこの大地から誕生したということが重要だ。太陽の人という理由では、まだ足りない。別大陸から来た人間が、この大陸の英雄になってはいけない。それが以前の太陽の人だからだ!」
以前の太陽の人は、別の大陸から来たから、アーリア大陸にある国の中で成功しなかった。
ならば、数百年経った今の太陽の人ならば。
それに、フュンにアーリア人としての自覚があるだろう。
ギルバーンの考えはあくまでも大陸が基準だった。
「そして、今回は。フュン・メイダルフィア。そしてネアル・ビンジャー。どちらかに真の英雄になってもらわないといけない」
ギルバーンは、説得するようにレヴィに話しかけていた。
「双方ともに、性質は違う。性格も違う。そして、考え方も違う。だから、どちらが勝っても十分なのだ。おそらくどちらのやり方でもアーリアは強くなる」
「それだったら、月の戦士だというあなたたちは、フュン様を選べばいいではないですか」
「そう、俺たちは選んでいる。心ではな。でも、彼が大きくなるには、実績が必要だ。大陸最大級の実績。英雄撃破だ。ネアルという偉大な王。イーナミアに現れた不世出の王を倒してこそ、彼は初めてアーリアの全ての民に認められるんだ。その際は、運でも、戦略でも、何でもない。男として生まれたからには、あとは本能。闘争本能で決着を着けてもらいたい。だから待て。彼らの決着をだ」
他の者の邪魔は許さない。
ギルバーンの目の輝きはそう言っていた。
「ふ、ふざけるな。遊びじゃないんだ。戦争は! フュン様の命。それをお守りするのが私だ」
「はぁ。親すぎる! レヴィ。ここは見守るんだ。フュン・メイダルフィアという一人の男を信じて、待つこともまた従者たる人間の役割。そして、母代理を務めたあなたの最期のお役目だ」
「・・・ギルバーン。そこをどけ。私はフュン様の元へ行く」
「俺は行かせるつもりがねえ。もし来るなら、全力であんたを倒さないといけない」
「ん!? まさか、扱えるのですか。竜翼を」
「爪では勝てんぞ」
「それでも、やるしかない」
「はぁ。手加減はせん。あちらの戦いの邪魔はさせん!」
太陽の戦士レヴィと、幻の語り部ギルバーンの戦いが始まる。
フュンとネアル。
英雄二人の戦いの前には、様々な場所で戦いが起こっていたのだ。




