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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 フュンとネアル 二人の英雄

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第155話 英雄決戦 最後の作戦へ

 中央軍の突撃前。

 フュンは、隣にいるクリスに話しかけた。

 

 「ここが最後の戦いですね。僕がやりましょう」

 「フュン様」

 「ん?」

 「ここでいいのですか。勝負をかけても・・・もう少し先でもなく?」

 「ええ。いいですよ。クリスは全体のバランスを見ていてください。僕は彼を見ていますからね」


 フュンは遠く先にいるネアルを指差した。


 「わかりました。配置はこれで?」

 「ええ。鋒矢でいきます」

 「防御を考えないと?」


 鋒矢の陣での勝負。

 フュンは攻撃に特化させることを考えていた。

 今までの彼ではない。ここでも荒々しい作戦が目立つ。

 

 「はい。圧倒的な攻撃力を前面に出す動きをしますが、それが出来ない場合。ある作戦がありますので、安心を」

 「いえ。その心配ではなく・・・まさかとは思いますが、フュン様もですか」

 「ん? ああ、僕自体の心配ですか」

 「そうです」

 「ええ。もちろん。僕だっていきますよ。ここは僕も戦いに出るべきですからね」

 「そうですか。しかし」


 フュンも前に行くことが不安。

 クリスは言わずとも顔に出ていた。


 「クリス」

 「はい」

 「最後。僕が突撃する時には、あなたは本当の意味の本陣を担当してください。この太陽の戦士と親衛隊の残りの部分をあなたに預け、全体の指揮権を委譲します。よろしいですね」

 「わかりました。私が後ろを担当します」

 「ええ。ではいきます。シガーに全速力だと指示を出してください」

 「わかりました」


 クリスが信号弾を放った。

 戦いの合図は敵からも出ていて、やはりここでも彼とは気があう。

 フュンは自分たちの合図と敵の合図を見て笑っていた。


 「あなたも、僕と同じです。ネアル王。でも僕の方は挑戦者のつもりでいきますよ」


 フュンが全体に声を掛けた。


 「アーリアの最後の戦いだ。皆さん。僕と共に出撃です。全軍! 前進だ」

 「「「「おおおおおおおお」」」」


 戦いは最後へと向かう。



 ◇

 

 鋒矢の陣の先頭。

 傘になっている部分には、シガー部隊とフィアーナの狩人部隊が混在して存在していた。

 その後ろの棒部分に、縦三列で、三つの軍が控えている形。

 左からシャニ、デュランダル、アイスが率いている軍だ。

 三人はシガー部隊の後ろで、並んで先頭を走っている。


 「シャニ。お前は左だからな。大将の作戦が発動したら展開しろよ」

 「わかってるだよ。なんで拙者の方に聞くだよ。そっちにも聞いてほしいだよ」


 デュランダルは、シャーロットの方を向いて、アイスを親指で指差した。

 

 「こっちは、作戦をわかりきってるんだよ。アイスは大丈夫なの。でもお前の方は不安なのさ。なあ。アイス!」

 「ええ、デュラに一から言われるまでもない。私は完璧に任務を遂行します」

 「ハハハ。その言い方、可愛げがねえな」

 「な! あなたに言われたくありません!」

 「もう少しな、笑顔になれよな。そしたら可愛い感じになるぞ」 

 「あ、あなたにだけは言われたくありません!」


 アイスは頬を赤く染めているが、そこまではデュランダルは見抜けない。


 「そうかい。悪かったな。んじゃ。そっちは頼んだ。今からシガー殿の攻撃が始まる!」


 三人が前を向くと、大盾を構えたシガー部隊が敵陣に突っ込んでいった。


 ◇


 「押せ。押し切って、押せるだけ押すのだ」

 

 シガー率いるシガー部隊は、盾を展開して前に押し込む。

 鋒矢の陣は。突破することに特化している。

 矢印の先の部分になっている所から上手く嵌れば、そのまま敵陣を切り裂く事に成功する。

 しかし、これが立ち止まるとなると、たちまち危険な状態になる。

 それは、魚鱗よりも防御が薄いからだ。

 中が弱い状態なので、一度勢いを止められるともろに反撃を受け、立て直しが効かない。

 諸刃の剣の陣形である。


 「いけ。こっちも押すんだ」


 止まりかける所に、シュガが補佐をする。

 押し込めるように、敵を斬っていた。


 「まだまだ。敵には面を食らってもらわないといけない」


 王国を倒す。

 そのためには、ここである程度押し込むことが大切であった。

 勢いは徐々に消えゆくあるが、それでもかなりの圧力を与えて、王国を押し込むことに成功していた。



 ◇


 王国本陣。

 ネアルとヒスバーンは隣同士にいた。


 「ほう。ここまでの圧力。ここまでの攻撃特化。これは・・・珍しいな。ヒスバーン。そうは思わんか?」

 「んんんん」


 ヒスバーンは悩んでいた。

 敵の最後の行動でのこの意味を考えるに、理解不能な点がある。

 それは今までバランスを重視していたフュンが、ここに来ての攻撃特化の行動を始動させたことだ。

 それもほぼ防御を考えていない陣形である。


 「どうした?」

 「ああ、変だよな。大元帥が、ここまでの攻勢で、戦闘構築するなんてな」

 「私も思う所だ。今に勢いが消え、そして、あれは我が軍に飲み込まれるだろうからな」


 これは、守り切って反撃を仕掛ければ、あとは勝ちが確定する戦い。

 だからフュンが選択した戦略は、こちらにとっては手応えのないものだ。

 もっと知略を駆使した行動をとって、知恵比べからの戦いで終わるのだと二人は思っていた。

 知的な語り合いをしたかったというのが、この二人の本音で、なぜ武人のような真っ向勝負で決着がとも思っていた。


 しかし。ここで彼の真意に気付くのは、二人ではない。

 光と共に現れたメイファがヒスバーンの隣に立つ。


 「ねえ、ちょっと」

 「ん? あ、チッ。お前、出てくるなって言っただろ」

 

 ヒスバーンのイラつきがネアルに伝わって、横を向いた。


 「その女性は? 誰だ」

 「あ、ああ。こいつは俺の・・だ」


 ごもごもとヒスバーンが言ったので、ネアルにはある部分が聞こえなかった。


 「そうか。部下か・・・知らん奴だな。マイマイとルイルイなら分かるが」


 メイファは知らない。

 ネアルは部下の部下までの情報を頭に入れていない。


 「ええ、お初にお目にかかりますわ。ネアル王」

 「うむ。で、誰だ」

 「私はメイファと申します」

 「メイファか。わかった。それで、何か分かったのか。ヒスバーンに話す内容を私に教えよ」

 「よろしいので? 見知らぬ者からの指摘でも?」

 「うむ。よい。今の私はそんな些細な事は気にしない。意見は誰にでも言う権利がある」

 「わかりました。お話しします」

 

 メイファはネアルの器の大きさを知ったことで、ギルバーンが言っていた。

 勝つ英雄はどちらでもいいとした真意を理解した。

 こちらが勝っても我々の目標は達成できるのかもしれない。


 「では、あの陣形。おかしな点があります」

 「ほう。なんだ?」

 「あの陣。盾部隊で突撃したこと自体がおかしいです。いくら、相手が斧のシガーだとしても、持っているのは盾。それで敵を押し込むことを主体にして行動を起こしています。それでは意味がありません。あの陣形は攻撃特化なのですよ。攻撃をすべきです」

 「そうだな。その通りだ」


 肩肘を突いて椅子に座るネアルは、メイファの聡明さを理解した。


 「それで、次に。敵の背後にいるのが、シャーロット、デュランダル、アイス。この三名。帝国でも攻撃が上手い将軍で、それが盾の後ろに控えているのです。これは逆だとは思いませんか」

 「逆?」

 「はい。本来ならば、この三人こそがあの陣形の先頭を走るべき。なのに、後ろの縦三列に収まっている。意味の無い行動をしない大元帥です。ではその理由は一つしかないかと思われます」

 「・・・わかった。そういうことか。あっちの三軍が本命か」

 「そうです。ここから切り離しが始まると思います。ですから、こちらの指示を出さねば、彼の狙いは・・・」

 

 メイファの指摘で、二人は気付いた。


 「「ここへの到達か!!」」


 フュンの狙い。

 それが、ネアル本陣だ。

 彼の陣に対して、自分の本陣をぶつける作戦。

 中央突破のフリをして、鋒矢の陣から分裂して、三方向を攻めるのだが、そこから更に中央突破を仕掛ける作戦なのだ。

 だからネアルの指示は。


 「真ん中・・・ここを破られないように・・・端の軍に指示を通す・・・のはだめだな。将でなければ崩壊するか。ここはブルーに左を頼むか。しかしそうなると右が」


 ネアルが焦っていると、メイファが一歩近づく。


 「私がやりましょうか」

 「貴殿がか・・・いいだろう。右をまかせた。ずいぶん優秀そうな女性だからな。まかせても大丈夫だろう」

 「はい。おまかせを」


 この人は知らぬ者に一つの戦場を任せられるのかと思いながらも、メイファは命令を受諾して、右翼へと移動をした。


 「ヒスバーン」

 「なんだ。ネアル」

 「もし、彼の軍がここまで来られるのであれば、私が戦いたい。お前は邪魔を排除してくれるか」

 「いいだろう。それはやっておいてやるわ」

 「任せた。しかし、彼の作戦。あまりにも無謀だ。だが、やり遂げるつもりだろうな」

 「そうだな。そのお手前をここで見守るとしようか」

 「うむ。面白い。難しい陣形だろうからな! 出来るのであれば、手放しで称賛しよう」


 ネアルとヒスバーンは、英雄の行動を理解してなお余裕の構えであった。

 フュンの作戦は成功するかどうかもわからないもの。

 しかし、すでにネアルはそれを選択する勇気を褒め称えていた。

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