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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 フュンとネアル 二人の英雄

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第152話 英雄決戦 戦いは一進一退

 初戦以降。

 互いの手の内を知る両軍は、適切な戦いを続けて、対応を間違えない。

 そんな消極的とは言わないが、慎重な戦いに切り替わっていた。

 相手の隙を狙うとか、強引に行って敵陣に穴をあけるなどの話ではなく、互いに攻めない雰囲気を読んでいるという状態だった。

 それはまるで、個人で戦うような戦法に近いのかもしれない。

 ここが、勝負の時だと踏み込む瞬間を二人は待っている。

 そんな戦いがしばらく続いたのだ。


 そして、二人の勝負勘は、ニ日目三日目ではないと囁き、勝負だと叫んだのが四日目となる。

 戦いは決着を迎える戦いに入った。




 ◇


 帝国歴536年9月4日。


 風は、西から。

 フュンは向かい風の中にいた。


 「ここでしょうね。双方ともに動きがぎこちない。それは、ここが勝負だと、皆が感じているからですね」

 「王子」

 「ウルさん!」


 フュンの隣にウルシェラが立った。

 彼女も親衛隊として、ここがフュンの為に命を張る時であると思っていた。


 「いくの?」

 「はい。シェンさんとレヴィさんにも準備をお願いしますと」

 「わかったわ」

 「ええ、ここで決めます。最後は道を開けたら僕がいきます。親衛隊と太陽の戦士で道を作って進みます。いいですか」

 

 フュンが合図をするタイミング。

 それは戦争が激化するタイミングだった。


 ◇

 

 それに対してネアルも。


 「合図を出す。ブルー。出したらお前は私の前の軍を動かせ」

 「はい」

 「私も彼と戦うことにしよう。最後の戦いだ」


 自分が彼と戦う時、それが全ての決着の時だと、覚悟をしていた。


 二人は奇しくも全く同じタイミングで、全軍に突撃の命令を下した。

 

 英雄の考えと、英雄の気持ちは同じであった。


 「ふっ。勝負はこの時だと・・・さすがだ。我が宿敵。フュン・メイダルフィア・・・ここが勝負だ。私が勝つ」


 ◇


 「僕と全く同じか。いいでしょう。ネアル王。ここが僕の集大成となる戦い。いきます。全軍前進だ」


 死力を尽くした突撃が始まった。


 ◇



 この戦いの終盤。

 それは王国、帝国、双方の軍全てが前進するという勇ましい戦いだった。

 中央軍のみならずの左右両方の軍も出撃タイミングが同じだった。

 でも速度が違う部隊が一つだけあった。

 それが、やはり前回と同様で、ゼファー軍である。


 「我に続け。ゼファー軍! 全軍で押しつぶす」

 「「「おおおおおおおおおお」」」


 勢いは双方の軍で一番ある。

 勝ちが見えるのが分かるからだ。

 それは遠巻きで見守るミシェルが一番感じている事だった。

 

 「順調ですね。最初から押し込める。ここは一気に叩いて、相手にプレッシャーをかけた方がいいのでしょうかね。特にネアル王に対してが、ここでは有効的なはず」


 初撃から相手の陣を乱すことに成功している。

 ミシェルは一挙に押し込むことを決意した。


 「リョウ。左と右にゼファーよりもさらに押し込めの指示を頼みます。両翼からいきましょう」

 「はい。指示を出します」


 ゼファー軍が敵への圧力を強める。

 中央軍の突進よりも左右を強めて、敵を挟撃する姿勢を見せる事で、後ろに下がらせる。

 押し込んでいく形を続ければ、こちらの攻撃だけが入ってくるだろうという単純な戦略を仕掛けた。

 でもこれが一番の有効な手なのだ。

 ゼファーの武力を最大限に活かすことが出来る布陣だからだ。


 これはフュンやクリスがいても、同じ戦略を組むだろう。

 だが、この判断が間違えていた。


 敵の後退は、意図的に仕組まれていたのだ。



 ◇


 戦場が狂い始めていたのは途中からだった。

 ゼファーの突撃で、一歩分だけ引いている王国ノイン軍の中央。

 その最後方から一部の部隊が離脱していた。

 その事に突撃しているゼファーも気付いていない上に、後方のミシェルも見えていなかった。

 なぜなら、ゼファー軍は左右軍も全力突撃に出していたために、敵の動きが目隠しになっていたのだ。



 軍の左翼の更に左から、セリナの部隊がやって来た。

 ここでの本陣急襲は起死回生の一撃。

 逆転の一手を仕掛けてきたのが、王国ノイン軍だった。


 「なに!? 迂回してこちらに来たのか」

 「奥方様。下がって」

 「いいえ。ここは下がれない。背を見せたら背後を突かれるだけ」


 セリナ部隊5千。

 ミシェルの本陣は勝てると踏んでいたために千。

 数の違いが圧倒的となる。


 眼前にまで迫られたのだ。


 「あなたがミシェル。ここであなたを消せば、ゼファー軍の勢いは消える。だから亡くなってもらいましょう」

 「セリナ・・・負けませんよ」


 ミシェルは、槍を構えた。


 「片目になってしまったあなたでは、私に勝てませんよ」

 「いいえ。負けるつもりはありません・・リョウ! ここの指揮を頼みます。私はこの人に集中します」

 「でも、奥方様」

 「リョウ。いいから頼みます。時間がない」

 「は、はい」


 指示を聞いたリョウは防御態勢を整え始めた。

 

 リョウではセリナを止める事が出来ない。

 その判断だった。

 ミシェルも、以前の両眼が見えていた頃の自分じゃないと、戦えない相手だと思っている。

 片目のない状態で戦ってはいけない相手だと本能では理解している。

 でも、戦術家としては自分が戦うしかないと理解しているのだ。

 

 ゼファー軍が勝利しそうな戦場で、ミシェルが窮地に陥っていたのだ。

 


 ◇


 イーナミア王国右翼軍ノイン軍。

 中央はもう荒らされている。

 ゼファー軍の突進能力を止める手立てがなかったからだ。

 至る所で敗北が起こっていた。


 だから、本陣には彼が居た。


 「ノイン。観念しろ。我に勝つのはありえんぞ。一人ではな」

 「ふっ。俺が勝てないと思ってるんだな」

 「ん? 自信があるのか」

 「後ろを見ろ。貴様の力を半減させる手を打ったからな」

 「なに!?」


 前だけを見ていたゼファーは、ここで初めて後ろを確認した。

  

 「まさか。ミシェル!?」


 ミシェル狙い。

 この戦いで、初めてゼファーが動揺した瞬間だった。


 「終わりだ。貴様の妻はな」

 「くっ」


 ゼファーが踵を返して戻ろうとすると、ノインがその動きを止めた。


 「貴様。どけ」

 「いかせないぞ。ゼファー。俺の戦いは、ここから変わる」

 「どけ」


 鬼と影の戦いはここから激化したのだった。


 ◇


 「ほら、諦めなさい。ミシェル。あなたの体は限界なはずです」

 「ま、まだまだ・・・」


 目を失った方。

 敵が徹底的に右から攻めて来る。

 これに気を取られながら戦い続けるのは非常に厳しいものだった。

 体力から失い始め、次第に怪我が多くなって、体が動きにくくなる。

 この悪循環がミシェルの戦いに起きていた。

 膝をつき、セリナを見上げる。


 「あなたのような武人を切り捨てねばならない。そんな戦いは寂しいものですね。戦争とは・・・ノイン様はいったい・・・・これからどうしたいのでしょうか」


 セリナは悲しげな顔をした。


 「ん? ノイン? ネアル王じゃなく?」

 「ええ、ノイン様です・・・あっ」


 しまったという顔をしたのを、ミシェルは見逃してなかった。

 ネアルよりもノインに忠誠を誓う姿に疑問を持った。


 「あなたには関係ない。ここで終わりますよ」

 「くっ。何かあるのか。あなたには・・・」


 セリナには何らかの事情があると思ったミシェルは、ここで自分が終わりだと思った。

 槍を握っても、落としそうになる。

 握力まで失った体では、彼女の攻撃なんて受け止めきれない。


 「奥方様!」

 「リョウ。来てはいけません。あなたは脱出路を。つくりなさい。私はここから、この人を倒します」

 

 その体で、どうやってですか。

 と言えないリョウは、涙ながらに敵の配置を確認した。

 ミシェルの意思に背く方が、ここは悪いと思った。

 見捨てでも、ここは部隊が生きる方に動くしかない。

 リョウはタイミングを待っていた。


 「それでは、死になさい」

 「ここか!」


 敵の最大の攻撃の瞬間がチャンス。

 ミシェルが立ち上がり、走り出した。

 最後の力で、死を以てしてセリナを封じようと動いた。

 その一歩目の瞬間。

 自分を追い抜く人が現れた。


 「相変わらずですね。ミシェル。あなたはいつもそうです。自分を犠牲に・・・いけませんよ。あなたも生きて、リョウも生きる。そして、ゼファーに会い、ダンを育てる。それが重要な事ですよ」

 「え!? だ、誰」


 セリナの振り下ろされる刃に、細身のレイピアが重なった。

 セリナが驚き、そして彼女にかばわれたミシェルも銀閃の煌めきを見つめて叫ぶ。


 「お嬢!?」


 ここで、皇帝ではない。

 戦姫シルヴィア・ダーレーが戦争に参加となった。

 遊撃軍としての働きを十二分に理解していたのだ。


  

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