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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 フュンとネアル 二人の英雄

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第149話 英雄決戦 英雄の頭脳クリス・サイモンの覚醒

 「うん。僕の考えをあっさりと越えてきた。策を見破ってきましたね。凄いですね。彼はね・・・うんうん」


 負けている。

 一目見て分かる戦場なんて、久しぶりの事だった。

 でもフュンは暗くなったりしない。

 いつもの明るさを保っていた。


 「フュン様。どうするのですか。アイス。デュランダル。シャニたち・・・・帝都軍を投入しますか?」

 「いいえ。入れません。ここはですね。やめます。一度兵を引かせましょう。横陣で下がらせて。あと敵が攻撃に来るなら、フィアーナの弓で援護です」

 「わかりました。指示を出します」


 味方を下がらせると、フュンは考え始めた。


 「んんん。ここの最善策は、恐らく・・・」


 三分で思いついた事。 

 それはクリスの考えを超えるものだった。


 「ここは、クリス」

 「はい」

 「あなたにお任せします」

 「え?」

 「クリス。僕が考える事じゃない事を考えてください」


 フュンの思いついた作戦は、全てをクリスに託すであった。


 「え? ど、どういう意味で」

 「あなたはいつもね。僕が考えそうなことを考えようとしています」

 「え??」

 「いいですか。クリス。そんな事では、あなたは本来の力を発揮できない。実際に、あなたは僕なんかよりも遥かに優秀な人です。ですからもったいない」


 フュンからの評価はいつも高いのに、クリスにはいつも自信がない。

 自分なんかが役に立てているのかと不安に思っているほどだ。

  

 「そんな人がね。僕がやりたい事に集中できるようにしてくれている。でもそのせいで、君は僕が考えることを考えようとしています。これはもったいないです。それでは所詮僕どまりの思考に終わるからですよ。いいですか。あなた本来の思考の方が重要なんですよ」

 「し、しかし」

 「ええ。それは、あなたが僕を信頼しているからの証でもある。でも僕はね。君の本当の力を見たい。僕の考えを考えるんじゃなくて、僕でも思いつかないような事で、僕を驚かせてほしいですね。うんうん」


 フュンは、クリスの唯一の弱点を知っていた。

 考える事が僕基準。

 それでは、自分の考えを超える事は出来ない。

 クリス自身が、自分を縛っていたのだ。

 だからその無駄な鎖を、フュンは解き放とうとしていた。


 「さあ、今が、君の羽ばたく時だ。相手はあのヒスバーン。思う存分戦ってもいいはずです。いきましょうか。あなたの本当の力を見せる時が来ましたよ」

 「本当の力ですか・・・私の?」

 「ええ。今までは仮初の力です。まあ、それだけでも十分に凄かったんですけどね。でもここからは、違いますよ。あなた本来の力でいきます。さあ、帝国中央軍。これらの指揮権をあなたに預けます」

 「私にですか。この全軍を・・・」

 「はい。あなたにお任せします。あなたの才は、ここにいる誰よりも輝くはず。今ここでヒスバーンを倒せるのは君だけだ。それに出来ますよ。だってね。僕はあの頃から君を頼りにしてますからね」


 サナリアの反乱当時から、フュンはクリスを信頼している。

 それは出会った時から変わらない思いだ。


 そして、この思いに応えねば、家臣ではない。

 忠臣たちの多いフュンの部下の中でもひと際目立つ忠臣は、やはりゼファーとクリスである。


 「わかりました。私がヒスバーンと戦います」


 クリスの漆黒の瞳が輝いた。


 ◇


 中央軍の戦いはいったん落ち着いた。

 それは、帝国軍が一度下がったことと、ヒスバーンも同時に王国軍を下がらせたからである。

 ただし、ここから同じ戦略を組めば、負けることが確定している。


 だからクリスは、本陣から離れて一人で考えていた。


 「私が戦う・・・んん。先程の盾部隊での攻防。あれをもう一度やると負けます。ではそれをやらずにして、フュン様なら・・・じゃないですね。またフュン様の考えを、考えようとしていました」


 今までの癖を振り払うのは難しい。

 ついついフュンが考えそうなことを考えていた。


 「ここは、自分で考えないといけません。よし」


 顔を叩いて気合いを入れたクリス。

 考えを戦場に向けてから、個人個人に向ける。

 

 「いきます。これでしょう。私の策は・・・これだ。柔剛一体でしょうね」


 ◇


 最前線の盾部隊。

 シガーとシュガは並んで待機していた。


 「勝てなかったか」

 「父上。混乱もしてしまいましたね」

 「うむ。あれほどうまく敵にしてやられるとは思っていなかった」

 「私もです」


 悔しいとの一言までは、意地でも言わなかったが、親子は心底悔しがっていた。

 

 「お二人とも」

 「え!?」「な、クリス」

 「はい。シガー様。私がここを預かります。なので、作戦をよろしいでしょうか」

 「何故クリスが来たのだ。お前は、フュン様のそばに?」

 「ええ。フュン様が私に指揮権を預けてくださいました。それで私が好き勝手してよろしいと」 

 「なんだと」


 シガーが驚いていると、隣にいるシュガは冷静だった。


 「そうか。ついにお前の出番というわけか」

 「ええ。シュガ殿」


 クリスなら当然だ。

 シュガは彼の顔を見て、託されていることに気負いがないと思った。


 「何か、案があるのだな。クリスがわざわざこちらまで来るなんて珍しい」

 「はい。私がこちらの重装盾部隊を率いて、シュガ殿とシガー様で、相手の考えの裏を突きます。相手は間違えているんです」 

 「ん、間違えている?? どういうことです?」

 

 シュガが聞いた。


 「この部隊が防御部隊だと勘違いしている」

 「いや、現に防御部隊だろう」

 

 驚きから立ち直ったシガーが聞き返した。

 

 「違いますよ。シガー様。あなたのお名前。お忘れになられましたか。それにシュガ殿もね」

 「私の・・・私たちのか」


 シガーは首を傾げた。


 「ここからは、こうします・・・・」


 クリスが説明し終えると、二人は同時に笑う。


 「ハハハ。わかったぞ。やってやろうじゃないか。血が騒ぐな。この歳にしてな」

 「いいでしょう。私も父上と共にいきます」

 

 二人を見て、クリスも笑った。

 無表情の彼の頬が少しだけ緩んだ。


 「ええ。ここが私たちの腕の見せ所。フュン様に我々の強き姿を見せましょう! サナリアはここにいるとね」

 「おお」「はい」


 三人は再度決戦に挑んだ。



 ◇


 重装盾部隊の武装は、重たさそうな見た目を軽いように見せるために、白を基調としていたりする。

 特に、盾は、展開すると晴れ晴れとした空色をしている。

 だから彼らの見た目は、意外にも爽やかなのだ。


 そこに、漆黒の男が一人現れた。

 彼だけが黒いから、とりわけ目立つ。

 その彼は軍の中で待機するのかと思いきや、先頭にまで踊り出た。


 「ヒスバーン。あなたが出てくるとは思いませんでした」

 

 ヒスバーンからの返事を待たずして、彼の話は止まらずに続く。


 「フュン様が用意した策。それを初見で見破るとは、素晴らしいお手前。この私でも見破れないあの策をいとも簡単に。本当に素晴らしいお方だ。ヒスバーン」


 褒めて褒めて褒めまくる。

 クリスは言いたいことを言いながら、前に出た。


 「しかし、ヒスバーンよ。その策。本当の意味で見破った訳ではない。フュン様の作戦に失敗などない・・・それを私が証明してみせよう。我が主フュン様の片腕たる・・・このクリス・サイモン。私があなたを封じてみせましょう」


 ここで、クリスの人生最大の叫びが指令となった。


 「前進だ。サナリア軍!」

 「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


 激の後に、後押しの檄があった。


 「どの軍よりも。我らサナリア軍こそが、我らが主フュン・メイダルフィアの最大の理解者だ! この戦に、魂を滾らせて、想いを爆発させよ。サナリア軍! 我らの主に勝利を捧げるぞ」

 「「「「だああああああああああああああああ」」」」

 

 クリスは、言葉でサナリア軍に魔法をかけた。

 それは、フュンのそばにいて、彼を守って勝たせるのが、自分たちであるという元々持っている自負に、更に重石を加えて、サナリア軍の心を焚きつけたのだ。

 燃え上がる士気に、命まで燃やす勢いを付け加えたのだ。

 

 主に敗北などあってはならない。

 させてはいけない。

 あるのは勝利のみ。


 クリスは、フュンのように人の心に寄り添ったのではない。

 操ったのである。

 

 だから、人は彼を漆黒の魔術師(ブラックマジシャン)と呼んだのだ。

 

 大陸の英雄フュン・メイダルフィアの、その頭脳はここで覚醒したのである。

 大陸最強の頭脳は、ありとあらゆる手段を用いて、敵味方を操る悪魔と化す。



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