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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 フュンとネアル 二人の英雄

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第148話 英雄決戦 幻の語り部ギルバーン・リューゲン

 「ん?」


 フュンは、最初から違和感を感じていた。


 「どうしました。フュン様」

 「おかしい」


 本陣で待機しているフュンは、最後方の位置から全体を見ている。

 そして、まだ互いが繰り出す攻撃の一撃目で気付いた。


 「これは、ネアル王の指揮じゃない」

 「え? まさか。この戦いで、ネアル王が出てこないなんて。ありえるんですか」

 「・・・そこは、わかりません。ですが、これは違う。彼じゃない」


 フュンの勘が彼じゃないと言っている。


 「これはまさか。ヒスバーンかもしれない。僕は、ブルーさんならば、性格を掴んでいる。でも、彼の情報が僕にはない。この分からない角度からの一撃・・・これはヒスバーンの可能性があるな」


 重装盾部隊の防御を無効化する動き方。

 それは、盾の前に行った兵士たちが、その盾に抵抗することなく、押し合いをせずに、後ろに下がっていくというものだった。

 想像しているよりも押せていることにシガーの盾部隊たちは戸惑い。

 どんどん前ヘ進んでしまって、前後の隙間が生まれる形となる。

 そこに、投げ槍。投げナイフ。弓。

 これらで同時に攻撃を仕掛けることでシガー部隊が押しているのに負け始めるという。

 なんとも珍しい形で敗北し始めたのだ。


 「うまい。あれは、サナリア封じの指揮だ」

 「ほ、本当ですね。シガー様が後ろに下がるなど、見た事がない」


 不動のシガーを下がらせる。

 この動揺が、フィアーナの狩人部隊の精密性にも繋がっていた。

 珍しく彼女の弓部隊の矢が外れている。


 「ヒスバーン。やはり素晴らしい参謀でしたか」


 フュンは自分の基本戦術の全てが通用しないと判断した。


 「では、例の防御方法を試してください。シガーに連絡を」


 シガー任せにせずに、ここでフュンは盾部隊を直接指揮し始めた。


 ◇


 王国中央軍の後方で、ヒスバーンはその陣形を見た。

  

 「なんだ。このジグザグな防御陣は? 横一列から、半円になったりするなら分かる。しかしこれは、意味があるのか。頂点になった奴らは、良い的になるだけだぞ」


 一瞬こちらの攻撃に耐えかねて移動したのかと思ったのだが、それは違うようなのだ。

 わざとあの陣形に変わったように見えた。

 王国兵も一人一人戦術を理解しているようで、容易にこの陣形に近づいてはいけないとして、その場に止まっていた。

 

 「面白い。これは、彼が考えていた戦略なんだろうな」

 「そうねぇ。私もそう思うわ」


 ヒスバーンの隣には、いつの間にか妖艶な女性がいた。

 しなやかな指が帝国軍を指差す。


 「ああ、そうだよな・・・って、なんでお前がここにいるんだ!?」

 「ん? いいでしょ。別に」

 「いやいや、呼んだら出て来いよ。お前は家にいろ!」

 「呼ばれなくても出てくるわよ」

 「里に帰れよ!」

 「帰りませ~ん」


 女性は『べ~』だと言って舌を出した。


 「メイファ! 帰れ!!」

 「・・・そんな顔しても、帰らないわよ」


 意地の張り合いをしても無駄。

 ギルバーンは諦めて会話を展開する。


 「はぁ。なんでいるんだよ」

 「だって、見たいじゃない。太陽の人。直接この目でね」

 

 メイファは、腕組みをして目の前の敵軍を見た。 


 「見えねえだろ。あの奥にいるんだからな」

 「そんなことわかっているわよ。この軍を倒さないと前に進めない事もね」

 「お前、戦場には出るなよ」

 「なんでぇ?」

 「なんでもなにもな。お前が出ちまえば、戦況が一遍してしまう。ここでは圧倒的な武力はいらないんだよ」

 「私、そんなに強くありませんのよ。オホホホ」


 メイファは上機嫌になった。


 「嘘つけ。お前の武力は、あのゼファー殿とほぼ互角だろうが」


 じゃじゃ馬のような女性に、ギルバーンは頭を悩ませていた。


 「その方にもお会いしたいわね。ぜひ一度会ってみたい。イイ漢だという噂だしね」

 「そればっかだな。お前は相変わらず」


 戦場を見ていたメイファはここで敵のポイントを指摘した。

 弱点を発見した。


 「あとギル。ここはね。あれだと思うよ」

 「ん? あれ?」

 「あそこの頂点にいる盾に攻撃しちゃ駄目ね」

 「どういうことだ」

 「あそこの兵士さんを見てちょうだい。あなたの命令を無視して突撃し始めるみたいだから。私が言った事の意味、分かるわよ」


 こちらの一部隊が、帝国軍の頂点部分に突撃する構えを見せていた。

 この会話の間に、一瞬で味方の行動を確認できる。

 メイファは戦術家としても優秀だった。


 「・・やっぱりお前だけは里に置いていた方がいいみたいだ。ちっ。伝令で使ったのが失敗だったか。表に出さない方が良かったな」

 「失敗って、酷いわね」

 「はぁ。お前は優秀過ぎる。お前がここに参加したら、王国が完全勝利をしてしまうからな」

 「あら、そう?」

 「そうだ。だから下がっていてほしいんだ。計画が台無しになりそうだ」

 「台無しって、私がそこまで無茶苦茶するわけないじゃない」

 「・・・・」


 ジト~ッとした目でヒスバーンはメイファを見た。


 「なによ」

 「無理だな。台無しにする。絶対に」

 「いくらなんでもそこまでの馬鹿じゃないわよ。マイマイとか、ルイルイとは違ってね」

 「・・・たしかに、それはそうだな」


 あの二人に、失礼な二人であった。


 「計画ってあれでしょ。太陽の人育成計画でしょ。それと並行した英雄計画の事でしょ」

 「ああ。そうだ」

 「あなた、よく頑張ったよね。ギル」

 「ん?」

 「だって、太陽の人と敵対してまで、進めた計画。これのおかげで、ついにあなたが育てたネアルと対決させることに成功したんだもん。結果は、どうするんだっけ。太陽の人の勝ち?」


 メイファは聞いた。


 「違う。ここの結果は、どちらでもいいんだ。彼が勝ってもネアルが勝っても、どっちでもいいんだよ」

 「ふ~ん。そうなんだ。太陽の人。苦労して見つけて、ここまで成長させたのに、いいの?」

 「ああ、どっちでもいい。ただ、俺はその決着の邪魔をしない。俺がやる事は、二人の英雄の結末を見守る事だ」

 「へ~。じゃあ、ここはわざと負けるの?」

 「あ?」

 「だって、あなたが邪魔しない。だったら、ここであなたが負けないと、ネアルが戦場に出て行かないわよ」

 「いや負けねえ。ここは俺が勝つ。悪いが、この初戦は、彼に負けてもらおう」


 ニヤリと笑ったヒスバーンは、動いてしまった自国の軍の戦闘を見守った。


 ◇



 戦いの最初、シガーの盾部隊は、横陣をジグザグにした形にして、頂点の王国方面に近い兵士にある仕掛けをしていた。

 最初に攻撃をもらいやすい頂点の兵士たちは、敵の攻撃をもらうと同時に、盾で防ぎながら後ろに下がる。


 攻撃が上手く入ったと思った王国兵たちは、どんどん帝国側に誘き寄せられていった。

 ここで、王国側と帝国側の頂点同士が移動して、波を打つ。

 入れ替えのような形で突出していく兵士たちがすれ違う際に、武器を挟めるのだ。


 「入れ替えを起こして、あとは矢だ。クリス。フィアーナに指示を」

 「はい」


 二つの軍を連動させて、攻防が入れ替わる。

 サナリアの兵士たちの独特な動きは、王国を苦しめた。

 さっきまでの苦戦が嘘のように、反撃が上手くいった。

 しかし、一度目はそれでよかったが、二度目からは上手くいかなくなった。


 本陣のフュンが気付く。


 「え? 対応された!?」

 「フュン様。これはまずいのでは」

 「・・・ええ、そうですね。ヒスバーン・・・彼の頭脳はどうなっているんだ・・・たった一度見ただけで!?」


 フュンは敵将ヒスバーンの優秀な戦略に手こずった。


 ◇


 「へぇ。そうやって対応するんだ。ギル」

 「まあな。あれは、頂点を攻撃しただけじゃ駄目だ。それにどうせこっちが押さなくても、へっこんだ方の頂点がこっちに来てくれるんだ。だから逆に迎え撃つ。その想定を彼がしていない。あれは反撃メインの戦術だったな」

 「一発で見抜かれるなんてね。思ってもないんじゃない。彼?」

 「そうかもな。さあ、太陽の人。俺はあなたに負けるつもりはないぜ。どうやって俺を倒す」

 

 ギルバーンは、敵軍を見つめた。


 「ギル。どうするの。このままやれば圧勝よ」

 「ああ。でもこのままやる。ただし、俺はこのままいくとは思わない。彼はそんな軟じゃない。彼はこれくらいの困難は困難だと思わないだろう。さて、どう対処する。策の根本を間違えているんじゃない。あなたの作戦が悪いわけじゃない。この俺が強いだけだ。さあどうする。太陽の人フュン・ロベルト・トゥーリーズ」

 

 嬉しそうにギルバーンは笑った。


 「あなたの方が、私よりも駄目じゃない。はぁ。私、あなたにだけは言われたくないわよ。あなたにだけはね・・・幻の語り部(ファントムトーカー)

 幻の語り部(ファントムトーカー)ギルバーン・リューゲン。

 今まで、多くを語らずにいた彼は、話さずとも多くを語っていた。

 彼は、フュンの歴史の裏で暗躍し、ネアルの歴史の表に君臨していた。

 全ては、この大陸に太陽を。

 二人の英雄の集大成となる戦いを見守るために、一番いい席に座っていたいのだ。

 

 二大国英雄戦争アーリア決戦。

 これが、二人の最後の戦いであるからこそ、ギルバーンは表舞台に出現したのである。

 

 

  

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