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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 フュンとネアル 二人の英雄

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第147話 英雄決戦 英雄の裏にいた影たち

 「おいらを知っているぞ? なんでぞ??」

 「あなたが、英雄たちの影。サブロウだ」

 「たち???」


 理解できない言動。

 サブロウは、長年の経験でマイマイを警戒した。

 こういう人物は、アホか優秀かの二択である。

  

 「おい。お前さん、いったい誰ぞ?」

 「私はマイマイですよ」

 「マイマイ・・・なんでお前さんはレヴィの武器を持っているぞ」

 「これですか。これは私たちの里の武器です」

 「里?」


 マイマイは自分の方に全ての糸を手繰り寄せた。


 「それを使えるのは太陽の戦士だけなはずだぞ。お前さん、まさか」 

 「その答えは、もうすぐですね」

 「もうすぐ? 今じゃない?」

 「はい。そうです」


 態度が変わり、マイマイが真剣な表情にも変わる。


 「でも一つ教えてあげます! 私たちは待っています」

 「ん?」

 「この大陸に日が昇る事を・・・待っているのです」

 「なに?」


 彼女の気配が変わった。

 漂うのは戦う戦士の気配だ。


 「しかしそれは、どちらの英雄でも良いのです・・・けど、私たちが望むのは、より強き光であります。弱々しい日の光では足りません。アーリアを照らす光は、端から端まで。全てを照らす輝きでなくてはなりません」


 この大地を照らす、あの太陽のように・・・。


 「それはおいらたちの太陽の事を言っているのかぞ」

 「それはどうでしょうか。人々を照らすための太陽なのか。それとも地を這ってでも進む英雄なのか。それは分かりません。でも私たちは二人の決着を見たい。それだけであります。そのための動きをしておりますからね」


 私たちの目的は、太陽の完成。

 それがマイマイが言いたい事だった。


 「よくわからんぞ」

 「ええ。そこで、私たちは邪魔者だけは消す。裏に潜んだあれらと・・・・それとあなたたちが邪魔するようでは・・・英雄に必要な成長を促すためには、死が必要なのかもしれません! それで、あなたたちの幾人かには死んでもらわねばなりませんかね? それとも生きている方が成長するのか。そこは悩みどころであります」

 「ん? 何を言っているのぞな?」

 「ひとまず。サブロウ。あなたが死んでくれると、彼の動きがわかります。彼が成長するのか。それとも弱体化するのか。どちらかに転ぶはずです」

 「なに!?」

 「いきます。竜爪」


 突如として、戦闘態勢に入ったマイマイが全力を出し始めたのだった。

  


 ◇


 王国左翼本陣。


 「マイマイの勢いが止まった? 右翼部隊の行動が止まっていますね。という事はですよ。彼女の武を止める人がいるということです。なので、ここは、マールではない。彼では彼女を止められない。次、エリナも無理。マサムネも同様。ならばここはサブロウか。ミランダ殿の思考はこの目の前の軍から感じられるので、彼女を止められるのはサブロウだけだな」


 一歩も動いていないイルミネスは、まるで問題の場所にでも行ったかのように、戦場の事態を言い当てた。

 

 「まあ、マイマイならサブロウにも負けないでしょうが、長く戦うと戦争自体がまずいですね。こちらの攻防に慣れてきたのかもしれない。さすがはミランダ殿だ。こちらの戦術を理解し始めているのかもしれないですね」


 イルミネスはミランダの弱点を突いていた。 

 それは細かい部分を個人頼みにしている所だ。

 ウォーカー隊は一人一人が強い。

 だから、動きが独特で力勝負が主な戦いの方法。

 

 それに対抗するためにイルミネスは軍に個人戦術を仕込んでいた。

 敵の動きを細かく再現しての訓練を重ねてきたので、仮想ウォーカー隊と何度もやり合って来たので、彼らの動き方を理解していたのだ。


 「封鎖は無理となると、そろそろ引いた方がいいかな。そうしただけで、彼女は混乱するかもしれない」

 

 前回同様、あえての攻撃放棄が、ミランダの決断を鈍らせるはず。

 なにせ、今の彼女は混沌を使用できないとも思っているからだ。


 「うん。まあ、まだいいでしょう。でも、この動きは、どこかで変わりますからね。注意はしましょうかね。それとあちらも叩いておきたいですね」


 イルミネスは、自分の左側の戦場を見た。


 ◇


 「だ。誰だ!?」

 

 マサムネは、背後に人の気配がした。

 影の能力で言えば、隠れる事が上手いはずのマサムネ。

 という事は見つける力もあるはずなのに、その姿を完璧に捉えることが出来なかった。


 「……おら。この人と戦うんか。気乗りしないな」

 「ん!? お!」


 突如姿を現した男から、ナイフが飛んできた。

 正確に急所のみに攻撃が来ることから、敵の得意な攻撃が投げナイフであった。


 「危ない。なんだ。お前」


 マサムネはギリギリで全てを躱す。


 「……おら。戦うの好きじゃないんべ。どうするべ」

 「急に出てきて、何を言って・・・」

 「……マサムネさん。あなたは、出来だら逃げてもらえると嬉しいんだべ」

 「は?」

 「……おら、ここで戦えっで言われてっからさ。やるしかないんだよ。んだからさ。ここは下がっててくれよ。ここで、おらがやってるわって、あいつにアピールするがらさ。そしだらさ。まあまあイイ感じの所でよ。逃げてくれっと嬉しいんだべ」


 段々と男性の喋りに訛りが強く出てきた。

 

 「ほいじょ。おらのとっておきでいぐでよ。大玉返しだ!」

 「待て。お前は誰だ。何者なんだ。さっきから何を言ってんだ?!」


 男性は両手でやっと持てる大玉を後ろにいる兵士たちから受け取った。

 空に投げるモーションの中で話す。

 

 「……おらか。おらは、ショーン。月の戦士の一人だわな」

 「月?」

 「ん゛! 太陽の影で、太陽を待っていた戦士の一人なんだべ。だから今のおらたちはよ。みんな、楽しいのよ。ようやく、おらたちにも太陽を拝ませてもらえそうでな。んじゃ、マサムネさん。逃げなよ」

 「は?」

 「上、注意するんだよ。じゃあ、おらはここで下がるんだべ」

 「なに! 待て、お前!!!」


 マサムネはショーンの忠告を聞いていなかった。

 下がれと言われていたのに、前に出て行ってしまった。


 『ぐわ~ん』


 銅鑼が最初から響いたような音が空中で鳴る。


 「な、なんだ。あれは」

 

 マサムネが頭上の大玉の様子を窺うと、爆発した。


 「な!? ナイフが降ってきたぞ。まずい。離れろ。ここから下がれ」


 マサムネは周りの仲間たちに指示を出しながら、後ろに下がっていった。

 事前に下がるように動いていた王国軍の方は、無傷で終わるが、ウォーカー隊の方にはダメージが入る。


 頭上からの小型ナイフは無数に降り注ぐ小雨のようで、回避が不可能なくらいの数だったのだ。


 「なんていう数だ。皆。とにかく致命傷だけは避けろ。そして下がれ。ここから離脱だ」


 ウォーカー隊の前線が後ろに下がり、王国側の兵士たちも距離を取ったので、さっきまでの戦場にはぽっかりと穴が出来る形になった。

 傷ついた肩に手を置いてマサムネは今の戦場を見る。


 「これで戦いが止まるのか。なんて攻撃だったんだ・・・いや、それよりもあれはなんだったんだ。ショーン? 知らない奴だな」


 敵の正体が分からない。

 ただ、影の力。

 しかも太陽の力に近い感じであったと、マサムネは相手の力を警戒したのだった。

 

 ◇


 「やばいかもな。左右が落ち着いたんじゃなくて、押されているのか」


 自分の所は戦えている。けどそれは、今は戦えているだけかもしれない。

 エリナは冷静に自分の状況を把握しようとしていた。

 マサムネの場所は止まった。

 戦いに静けさがある。

 しかし、マールの方は声でもどよめきがある。

 一時、激しい戦闘があったような気がするが、また一瞬止まり、また一瞬動き出す。

 その繰り返しが、そちらの戦いにはあった。

 だから戦況的にはどちらにも転んでいないだろう。

 

 そして、自分が担当する中央は、攻勢に出ていけている。

 押せば押せる。でも引くと引かせない。

 べったりくっついたような、一対一で言えば、インファイト状態でこの戦争が走り始めていた。


 「この・・・野郎・・・イルミネスだったな。今まで一番、嫌な相手だ。何か、こっちが対処が出来そうで、でも出来ない。このモヤモヤする感じがイラつくぜ」

 

 補佐型の将エリナは、肌感覚で戦場を判断する面が強い。

 同じ補佐型でも、タイムは思考型。シュガは本能型。エリナは感覚型。

 補佐が上手い三人にもそれぞれの特色があった。

 そのエリナが、相手と戦ってみて、究極に自分と相性が悪いと思い始めたのだ。


 イルミネス。


 この男が使う戦術が、自分にとって最も苦手な部類であると思う。

 でもそれは自分にとってであって、ミランダにとっては違うと思いたかったのだ。

 しかし。


 「クソ。なんとかしたいが、両翼がな。どっちかが、ぶち破ってくれれば、それに合わせられるんだけどさ。それにミラがな。何か策がないのかよ。せめて混沌でもいいからよ」


 同数で戦っているというのに、あの好戦的なミランダが混沌を使用しない。

 その意図がなんなのか。

 エリナは、ミランダにしては消極的な動きだと思った。

 いつもの不敵な笑みからの、相手を圧倒するような策を披露しないなんて、今までになかったことだった。


 「いや、待てよ。それくらい、イルミネスという男を警戒しているのか。ミラ・・・お前がこんなに相手を警戒するなんて・・・今までなかった事だぜ」


 数多くの戦場をミランダと共に戦って来たエリナ。

 今の状況はミランダにとって初めての状態じゃないかと、彼女を良く知るエリナだからこそ分かる事だった。

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