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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 フュンとネアル 二人の英雄

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第146話 英雄決戦 曲者は曲者と

 「どれどれ。私の所はウォーカー隊ですか。予想通りですね」

 「そうですね。イルさん」

 『バリっ』


 もう隣から聞こえる音にも慣れてきたイルミネスは、マイマイの方を見ずに戦場の方を注視していた。

 いちいち言うのも疲れてきたのである。


 「マール。地味ですがとても良い将ですね。中央のエリナ部隊と息が合っています」


 イルミネスは、敵将とその部隊を観察していた。

 敵将左翼部隊マール部隊。

 彼が率いるウォーカー隊は連動していた。

 中央でバランスを取っているエリナのバランスを更に取っているようなイメージだ。

 エリナが動きやすいように動いてくれているのだ。


 「それと、右翼。あれはマサムネでしたよね」


 イルミネスはマサムネが書いてある部分の資料を読んだ。


 「この男。あまり情報がありませんが、非常に良いです。感覚が良いのでしょうね。特に攻撃察知能力がある。つけ入る隙がほとんどない」


 資料に情報がほとんど載っていない。

 だから、現場で評価を下そうと、イルミネスは敵右翼を特に観察した。


 「これに、ザイオン。シゲマサ。ザンカでしたね。ウォーカー隊というものは・・・なんてすばらしい将たちがいたんでしょうか。でも失っているんですね。惜しい人物たちでしたね」

 「イルさん。何を余裕ぶっこいているんですか。ちょっとは指示を出したらどうです?」

 「ええ。そうですね。しかしこのままでいいはず。彼女は混乱していると思いますよ」

 「彼女?」

 「はい。ミランダ殿。私の尊敬する人物は、この戦術を疑問にもつはずです」


 イルミネスは自分の戦術に自信があった。


 ◇


 「クソ。のらりくらりか。こいつ、あたしの癖を見抜いているのか。それとも考えを理解しているのか。とにかく全部を知られているような感じがするのさ」

 「ん? 何言ってんだぞ? 上手くいってるじゃないのかぞ」


 ミランダの隣にはサブロウがいた。

 今回、思った以上に戦場作りが上手くいったらしく、フュンは自分の所に将が多いなと判断したために、ウォーカー隊の将の中にサブロウを戻したのだ。

 

 「サブロウ。お前、いざという時は影部隊を連れて、救援に行ってくれ」

 「ん? おいらがぞ?」

 「ああ。もしかしたら、このままだとあたしらが押される時間帯が来るかもしれない」

 「今、押しているのにかぞ?」

 「ああ。なんだか変なんだよ。押しても押した気がしないし、あっちの攻撃が軽いと思っても、結構痛手になっている箇所がある」


 ミランダの頭では、この原因がなんなのかに気付いていないが、勘で気付いていた。

 どこかで誘導を受けていて、戦うことに失敗している。

 そんな印象を抱く戦場は初めてだった。

 対戦相手の思考も読めないのは非常に珍しい。


 「こいつは・・・あたしを知っている。サブロウたちみたいにさ。一緒に戦って来た仲間のように、あたしのことを知っているみたいなのさ」


 ミランダが思った事は、イルミネスの考え自体が、自分の大切な戦友たちと変わらないであった。

 こいつらが自分と戦ったら、こういう戦い方を選ぶだろう。


 「ちっ。なんだかやりづらいな」


 戦闘の初めから、一度椅子に座って考えを精査するミランダだった。

 

 ◇


 戦闘から三時間。

 中央軍のフォローまでしていたのに、今はそれができない。

 自分の持ち場だけで精一杯になった。

 それに今の自分の持ち場での戦闘すらも何だかズレていく。

 マール軍から戦いの手ごたえが消えていった。

 将マールは、相手の動きに変化がないのに、自分の行動が嵌らない現状にため息をついた。


 「どういうことですぜ・・・・何が起きてこのズレが生まれている・・・のだろう」


 なんかちょっと違う。

 この考えに敵の幹部たちが至るように仕組まれているのがイルミネスの罠。

 人の心を操るのではなく、出し抜くのでもなく、狙っているのはなんだかおかしいである。

 だから、上手くいかないのは、相手のせいじゃなくて自分のせいに感じてくるのだ。

 

 「防御も出来なくなっているように感じるですぜ。特に左が削れている???」


 部隊の端が徐々に削れていく。

 だから、マールはそこを重点的に補強して、後ろの兵士たちを援軍に出していった。

 

 「これで・・・な!? しまった。それが狙いだったのか」


 余裕のなさから来る判断の間違い。

 マールはここで自分の援軍の判断が間違っていることに気付いた。

 敵の狙いは左に厚みを持たせてからのマール部隊の中央を薄くさせる事。

 そして、敵はその薄くなった中央に突撃を仕掛けるのが目的だった。


 先頭を走る女性の強さに導かれるかのように、王国軍はマール部隊を抉り始めた。


 「ほい。はい。そい!」


 戦闘の掛け声とは思えない態度の女性がマールにまで迫った。


 「あなたがマール! ですか??」


 最初の勢いある言葉掛けからの疑問。

 独特な女性は、質問してきた。


 「そうですぜ。そういうあなたは誰ですぜ?」

 「私は、マイマイです。よろしくお願いします」

 「あ。ああ」


 調子が狂うくらいに明るい女性は戦闘の準備をし始めた。

 今までの剣をしまい、別な武器を取り出した。


 「それでは、マールさん。あなたは、ここで退場してもらいます。敵将ミランダが持つ重要な人物の一人。戦術を裏で支える将マールには、今ここで倒れてもらいますよ」

 「お前・・・それは・・・その武器は!?」


 彼女が持っていたのは、マールにも見覚えがある武器。

 フュンを守護する最強の女性の愛用の武器を持っていたのだ。


 「竜爪!」

 

 鋼の糸は煌めきながら襲い掛かる。


 「ちっ。まずいですぜ。これは」


 一本目を躱しても、二本目が間髪入れずに襲い掛かってくる。

 マールの竜爪は、十本の指分の糸があった。

 五本目までは躱せた。

 でも六本目からは武器でいなして、七本目はかろうじて防ぐ。

 そして八本目で武器が。


 「クソ。絡めとられ・・・しまっ」


 九本目でマールの脇腹が削られて、地面に倒れ込む。

 

 「ごはっ・・や・・・・まず」


 すると十本目が顔面に降ってきた。

 倒れそうになるマールにはこれを防ぐ方法がなかった。

 武器もない。余力も無くなった。

 だから、致命傷にならないために首を傾けて、頬を斬らせようとしたのだが。

 糸が途中でうねった。


 「なんだ。こいつ・・・強すぎるですぜ」


 幸いにも首に来ていた糸は、マールの首を掠るだけに留まった。


 「ぐっ。い」


 地面に背中を突いたと同時に鋼の糸も地面に突き刺さった。


 「ぎ、ギリギリ生きているか。あっし・・・」

 「そうみたいですね。でも、次。いきます」

 「なに、こんなに上手く操れるのか。あの糸を・・・」


 起き上がろうとして手をついた。

 マールは前を向いて彼女を確認すると、既に十本の糸が彼女の元に戻っていた。


 「あっし・・・ここまでか。体がもう動かない」


 襲い掛かる十本の糸を止める手立てがない。

 マールは死を覚悟した。


 「兄貴。ここまでみたいですぜ。あっし。まだまだ。兄貴のようにはいかないみたいで、中途半端で申し訳ないですぜ。誰も守れず死ぬようです」


 全ての糸が集合して、一本の糸となって、マールを襲う。


 「貫け。火竜爪!」


 糸はマールの心臓を狙っていた。

 まっすぐ伸びていく一筋の糸が到達する寸前。


 「いやいや。マール。お前さんが最後まで粘らないのかぞ。簡単にあきらめるとは、珍しいぞ」

 「ん!?」


 マールの前に現れた男が、ご自慢の特殊ダガーで対抗した。

 伸びている糸の真上の位置から、ダガーを放り投げる。

 すると、小規模爆発を起こし、糸が撓んだ。

 マール狙いの糸が、マールから外れていき、地面に落ちた。


 「ほいぞ・・・これでどうだぞ!・・・あんた、誰ぞ?」

 

 マールを救った男が、マイマイに向かって言った後。

 肝心の彼女が。


 「あなたは、その姿・・・キャハ!」


 その男を見ると嬉しそうに笑った。


 「サブロウだ!」

 「ん! おいらを知っているぞ?」


 マールの窮地を救ったのはミランダとフュンが最終的に使う切り札。

 サブロウ・クキ。

 アーリア大陸の影で最強の男の名だ。

 

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