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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 フュンとネアル 二人の英雄

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第142話 英雄決戦 人の心と考えを読む怪物

 戦地に到着して、更に本陣から、ウォーカー隊とゼファー軍が左右に別れた後。

 フュンと二人きりになる場面になったので、クリスが話しかけた。

 皆がいる場面では遠慮して発言を控えていた彼は、表情が若干悲しげである。


 「フュン様」

 「はい。なんでしょうか」


 本陣の机の前でも、書類作業をしているフュンが、クリスの方を見た。


 「あ、あの・・・今回。私には任せられない。ということなんでしょうか」

 

 彼の表情が不安そうにも見えるので、フュンは笑顔で対応する。


 「え。任せない? 何をです。色んなことを任せっきりですよ」

 「そ、そうではなく・・・私に一軍が無理だという。フュン様のご判断なのでしょうか」

 「ああ、そういうことですね。いえいえ、そんな事はありませんよ。今回はゼファーの方がいいという判断をしただけです」

 「私では駄目だと」

 「いや、あなたが駄目とかじゃなくてですね。ええっと、そうですね。ここは説明した方がいいですね」


 クリスの不安を取り除くために、フュンは説明してあげる事にした。

 今回、将に任命しなかった理由は、実力がないからなどという酷い理由ではない。


 「クリス。今回、あなたが僕のそばにいるのは、まず第一に。あなたの頭脳が重要だからです。それと僕個人としても、君に隣にいてほしいからです。僕と君で。ネアル王と戦うんですよ」

 「それは・・・たしかにそうですが」

 「そして次です」

 「次?」


 フュンはいくつかの理由があってクリスを傍に置いていた。


 「クリス。あなたが、もし左右のどちらかの将軍になった場合。出て来るのはヒスバーンになります」

 「え? 彼が」

 「はい。そして、イルミネス。これが出てくるのは決まっていると思っています。ミランダ先生が出撃してくると敵が想定しているからですね。先生と一度戦っている彼をぶつける。これは当然なんですよね。たぶん、定石ですよね」

 「そうですね。ババンでの戦いで、癖がわかりますから」

 「はい。そうだと思うんです」


 帝国右翼軍ウォーカー隊。王国左翼軍イルミネス軍。

 これは確定事項であるとこの時からフュンは断定していた。


 「それで、こちらの左翼。あれをゼファーにしたのは、あちらから出て来る相手をノインに絞りたいからです。ヒスバーン。あれが自由に一軍を任されたとなると、あなたでも難しい戦場になる。今は、ネアル王にだけ集中したいのに、ヒスバーンの軍も同時に見なければならない。そんな状態をこちらから作るのは愚策ですよ」


 ネアルにだけ集中したいフュンは、ヒスバーンを将にするような形をやめたかった。

 出来るだけ強敵は自分の目に届く範囲の中で暴れてもらいたい。

 その考えからクリスが外れたのである。

 

 「ですからここはノインを引っ張り出したい。あれならば、こちらも御しやすいでしょう」

 「ゼファー殿が将だと、引っ張り出せると?」

 「はい。そうです。あなただと、ヒスバーンを当ててくるんですよ。でもゼファーだとノインを当ててくるのですね」


 フュンの考えだと、クリスよりもゼファーの方が、全体が戦いやすくなるという事だ。


 「そうなのですか」

 「ええ。それにです。ゼファーにヒスバーンを当てる方が向こうが苦しいはずです。なのでノインを選択してくるはずだ。そしてその方がこちらとしては助かる。ゼファーが同タイプの人間に負けるとは思えないからですね」

 「ゼファー殿と奴が同タイプですか」

 「はい。ゼファーは猛将です。彼は直感を大切にして本能で戦う鬼ですね。軍の先頭を行く将軍です。おそらく、ノインもまた軍の先頭を走るタイプ。ただ、戦いにおいての直感がある人かはわかりません。資料を分析するに、そこが読み解けないのでね。なので、分があるのはゼファーだと思っています。ゼファーは優秀です。最近は頭も使うようになりましたし、ミシェルがそばにいますから、あれはもうこの国の最強軍です。だから負ける事はほぼないと思っています。なのでね。あなたが弱いからとか、実力が足りないからとかの理由で、一軍を任せないわけじゃないんですよ。あなたは、僕の所に必要だから、いてもらうだけです」

 「は、はい。頑張ります」


 君が必要なんだ。

 こう言われてしまえば、反論が出来ない。

 その上で嬉しいにもほどがある。

 フュンならではの褒め言葉だった。


 「ええ」

 「ですが、本当にノインが王国の右翼軍になるのでしょうか」

 「・・・それは明日。わかるでしょうね。あちらは今。一個になって本陣で集まっていますからね。明日の朝あたりで、ここから相手は三軍に別れるでしょう」

 「そうですね」

 「まあ、僕の予想はあくまでも予想。違う布陣で来たら、また考えればいいだけですよ」

 

 フュンの行き当たりばったりでもいいやと言う言葉を聞いたクリスは、『これもどうせ当たっているのだろう』そう思ってこの日を終えたのであった。

 人の心を読むことに長けているフュンなのだ。

 ネアルの心の内を読み切っているに決まっていると安心していた。


 ◇


 翌日。


 敵陣の移動を見て、クリスは呟く。


 「さすがです。フュン様。我が主は、人の心に寄り添う怪物だ」


 一言に全ての想いが籠っていた。

 フュンの予想通りの王国側の布陣であった。


 ◇


 王国側の今朝。

 第一声からネアルの指示が出ていた。


 「左翼軍をイルミネス。お前に任せる。いいか?」

 「はい」

 「よし。次に。右翼軍はノインだ」

 「わかった」


 対照的な二人の将は、イルミネスは頭を下げて、ノインはそのまま直立の形で命令を受け入れる。


 「うむ。ではそれぞれの移動を頼む。相手は強い。勝つことよりも足止めを頼む。私は、目の前の大元帥殿に集中したい」

 「わかりました」「俺は勝つつもりだ」

 「ああ、ノイン。期待しているぞ」


 二人を送り出した後。

 ヒスバーンがそばに来た。


 「ヒスバーン。あれでいいのか」

 「まあ、いいだろうな」

 「貴様が、右翼を担当しなくてもよかったのか」


 ネアルの当初の予定ではヒスバーンであった。


 「ああ。いいんだ。俺があっちにいくと。お前。厳しいぞ」

 「ん?」

 「俺は、お前の所が負けると思っている」

 「貴様」


 馬鹿にするなと怒り出した。


 「まあ怒るな。これはお前が彼に負けるという意味で言っているんじゃない」

 「ん?」

 「ネアル。気付け。中央軍。そこに誰が配置されるかだ」

 「中央にか。それはだな。東にウォーカー。西にゼファー。この二つの軍に配属されない人間。それ以外の将だろうな」

 「そう。それ以外がまずい。お前。深く考えろ。あそこには、サナリアの名将が二人。飛び道具が一人。そして、クリスという切れ者が一人だ。それとあと一人。お前忘れたわけじゃないだろうな」

 「あと一人だと・・・誰だ」

 「お前も以前戦った・・・・皇帝だ。戦姫シルヴィアが、今あそこにいるんだぞ。お前一人で、全部の相手が出来るわけがない。俺もブルーもここにいなければ、あっという間に敗北するぞ」

 「・・・・たしかに。お前の言う通りだな」


 帝国の各将は、素晴らしい実力を持つ者たち。

 その中でも、フュン。クリス。ミランダ。

 この三名は、ネアルの中でも最高クラスの名将だと思っている。

 その内の二人が相手でも厳しいのに、その名将たちの肩に並ぶどころから、見ようによってはさらに上の名将がもう一人いる事に気付いた。


 戦姫シルヴィア・ダーレー。

 

 この名は、第三十二代皇帝よりも、名が通っているのだ。

 彼女の燦然たる輝かしい戦歴は、ネアル・ビンジャーに引けを取らない。

 フュン・メイダルフィアの妻という肩書きよりも、戦姫の肩書きが格上である。


 

 「そうだ。本当にそうだ。私と互角の打ち合いをした怪物だったな」

 「そうですよ。ネアル王。大事な事を忘れていたらいけません」

 「そうだな」


 ブルーの意見に頷いた。


 「ここはそうだな。中央軍。ひとまずヒスバーン。お前に預けようか」

 「ん? 俺にか」

 「ああ、最初の激突を任せよう」

 「ほう。どういう風の吹き回しだ? お前が人を頼るとは」

 「私のリズム。これを彼は知っていると思う。だから、お前の指揮でいってみようか」

 「なるほどな。俺の戦闘指揮情報が少ないからこそ、俺に任せるってことか」

 「うむ。やってみるか。ヒスバーン」

 「いいぜ。でも大一番で、俺でもいいのか」

 「やれるだろ? 自信があるはずだ」

 「まあな。お前の出番。無くなるかもしれんぞ。ふんぞり返っているだけで終わる可能性があるぞ」

 「ふっ。だったらそれでもいいぞ。ハハハ。やってみろ」


 冗談ばかりをいってくるヒスバーンに先鋒を託したのだった。


 「いいぜ。やろう」


 こうして、ヒスバーンが中央軍の指揮官となった。

 ネアルが初めて、戦闘の初めを人に頼った戦い。

 それがこの英雄らの最終決戦。アーリア決戦での最初の出来事である。


 そして戦いはここから始まる。

 最初は互いの幹部が出会う事で開戦となる。

 

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