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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 アーリア決戦 帝都防衛戦争

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第140話 家族が大切。僕らはもう一度・・・

 捕まってから、自分の父が亡くなるとき以外では、初の帰還。

 ウィルベルは、帝都が別な場所に感じるくらいに、アーベンの光の監獄に慣れていたのだ。

 懐かしい故郷に戻ってきた。

 その感想が胸の中で一杯になった。


 「ああ。帝都・・・だな・・・うむ」


 涙ぐむのはウィルベルだけじゃなく、隣にいるバルナもだった。

 自分の父がまさか帝都に帰って来られるとは思わなかった。


 「父上・・・良かったですね」

 「ああ。これも、大元帥のおかげか。レベッカ。お前の父に感謝するぞ」

 「いいえ。叔父上。これも叔父上がアーベンで頑張って来たからであります。私は何もしておりません」

 「ふっ・・・殊勝で・・・立派な・・・まるで大元帥ではないか・・・」


 ウィルベルは、レベッカに優しく微笑んでいると、南の門からアインが降りてきた。

 駆けつけてきて早々。ウィルベルに頭を下げる。

 

 「皆さん。ありがとうございます。ウィルベル様! ありがとうございます。ククルからの援軍。それがここでは重要でした。勝利はウィルベル様のおかげです」


 お世辞半分。本音半分のアインは、さらに深くお辞儀した。


 「いや、アインよ。この勝利はお前のおかげだ。あの時間を生み出した戦略。見事であったぞ」

 「え?」


 なぜそれをと、疑問に思う。


 「私は知っているのだ。諜報部隊をこちらに送り込んでいたからな。お前の演説も一言一句。教えてもらっている。見事な遅延行動であった。私も、こちらに来るのを遅らせる事が出来たからな」

 「な。まさか。援軍のタイミングを図っていたのですか」

 「うむ。リリーガから兵が出たとの連絡も受けていてな。だから逆算して、ここに到達する時間を計算して、タイミングを合わせたのだ。なにせここは三千しか兵がいないから、タイミングでも合わせないと、敵に勝つことは不可能だ。ただの無謀な攻撃で終わってしまう」

 「・・・たしかに。さすがはウィルベル様」


 大きな盤面から戦略を練る。

 本来のウィルベルの大局図を描く才能が、ここでは役に立っていた。

 彼はナボルでなければ、王国に勝つ絵を描けた人物なのだ。


 それに今回のこの作戦だけが、勝利のルートである。

 ククル軍とリリーガ軍との連携が重要であり、この方法しかこの戦争の勝利はなかったと言えるのだ。

 つまりは、アインがいかに様々な手を打とうとも、ウィルベルがいなければ完璧な成功を得る事はない。

 そういう防衛戦争であったのだ。

 だから逆に言うと、アインは幸運の持ち主でもある。

 のちに彼は、偉大なる王になった時に、この時のことを幸運だったと振り返ったくらいなのだ。


 「兄様」

 「お!?」

 「兄様がこちらにですか」

 「ああ、サティ。それに・・」

 「ウィル兄!」

 「アンも帝都にいたのか」

 「うん。よかった。ウィル兄が来てくれたんだ」

 「ああ。また会えたな。嬉しいぞ。サティ。アン」

 「はい」「うん」


 久しぶりの兄妹の再会は、嬉しいものであった。

 

 「兄様。シャイナ義姉様は?」

 「今はククルにいるぞ。こっちにいる間も、夫婦でいてくれとの事だった」

 「なるほど。やはりそこはフュン様ですね。そういう所で配慮しているのですね」

 「うむ。そうだな。家族が一番。それが彼の考えの基本だからな」 

 「ええ。そうですね」

 

 今の会話が気になったので、アンが言う。


 「じゃあ、シャイナ義姉さんも呼ぼう。使いを出そうよ。久しぶりに会いたいし」

 「ん。しかし、今は戦時中だぞ。こんな事で移動をするなど」

 「大丈夫です。私がやりましょう。レベッカ。依頼を出します」

  

 サティがレベッカの方を向いた。


 「はい。サティおばさん」


 正式な場ではないので、普段の呼び方に戻っていた。


 「あなたの隊に、シャイナ義姉様の護衛の依頼を出します。お金も出すので、ダンと一緒に行ってください」

 「わかりました。今はダンがいないので、こちらに戻ったら行きます」

 「ええ。お願いします」


 家族は揃った方がいい。

 サティは、出来るだけ家族を帝都に集める事にした。


 「それでは兄様と私で、この帝都を守りましょう」

 「そうか。基本はサティで頼む。私は相談役くらいにおいてくれ」

 「いえ。兄様が重要です」

 「うむ。じゃあ、光信号で、連絡をしよう。ここが攻められているのはどこも分かっているはずだからな」

 「わかりました。連絡を入れます」


 家族が一堂に集まりながら、次の計画を立てていく。

 エイナルフの子供たちは、皆優秀なのだ。


 ◇


 この日。

 帝都防衛とその立役者の情報が、帝国領土を駆け巡った。


 ビスタ。


 「兄上!? 兄上???? ま、まさか。ウィルベル兄上が!!」

 「どうしました。スクナロ様?」


 ヒルダの声に反応する。

 

 「ヒルダ。聞け。信じられないが、あの兄上が帝都を守ったと」

 「ウィルベル様が!? まさか・・・なぜ?」

 「義弟だ・・・それしか考えられない。ハハハハ。そうかそうか・・・義弟は、今でも兄上も家族だと思ってくれていたのか。ハハハハ」


 大笑いをしていても、スクナロの目からは涙が流れていた。

 

 ◇


 リリーガ。


 「フラム。この知らせ」

 「ええ。そうですよ」


 リナが驚きの表情でフラムを見る。


 「あなたは知っていたのですね」

 「はい。私とフュン様だけの考えです。もしもの時にだけ頼ろうと。二人でお願いに行きましたからね」

 「・・・そうですか・・・そうでしたか・・・ありがとう。フュン様」


 記されたメモを抱きしめて、リナも涙を流した。



 ◇


 ギリダート。


 ここには、フュンのフォローをするためと、最前線の情報分析をするためにヌロがいた。

 レイエフになって、城主としての仕事もこなしていた所。

 連絡が来た。


 「これを」

 「なに!?」

 「僕も驚きましたよ。兄さん」

 

 ベルナから渡された紙には。

 ウィルベル・ドルフィンが帝都を防衛とだけ書かれていた。


 「兄上・・・ふっ。そうか・・・大元帥。やはりあなたは、私たち兄弟の全てを家族だと思ってくれているのですね」

 「そうですね。フュン様はそういう人ですね」

 「ああ。そうだな。ありがたい人だ・・・本当に我ら兄弟にとって・・・重要なお人だ。全てを支えてくれる。繋いでくれる。柱のような人だな。もう彼が居なくては我ら一族はいなかったかもしれないな」

 「そうですね。さすがは太陽の人です」


 ヌロとベルナは、フュンがいる南西を見て感謝した。

 


 ◇

 

 パルシス。


 相手を封鎖した状態で、悠々自適に時を過ごしているジークの元にも連絡は来ていた。


 「へぇ。ウィルベル兄上がね」

 「驚かないんですか」

 

 キロックが聞いた。


 「驚かないね」

 「まあ、旦那が驚くことなんてないですもんね」

 「まあな。というよりもだ。フュン君ならば、当然に思いつく策じゃないか」

 「・・・そうですね。大元帥なら当然ですね」

 「そうさ・・・家族が大事。それがフュン君なのさ。そうじゃなきゃ、あのシルヴィが惚れないのさ」

 「たしかに。お嬢が惚れる男ですものね。イイ男に決まっていますものね」

 「ああ当然だ。それに、あの恋愛下手だった少女がだぞ。フュン君以外の男なんて眼中にない。べた惚れなんだぞ」

 「ハハハハ。たしかに」


 ジークはフュンを良く理解していたからこそ、ウィルベルの登場に驚きもしなかったのだ。


 

 ◇


 リンドーア手前。

 本陣で会議を開いていたフュンは、幹部たちと共に連絡を聞いた。


 「フュン! あなた」

 

 シルヴィアの強い語気に対して。


 「なんでしょうか?」


 フュンはすっとぼけた態度でいた。


 「これは。どういうことでしょうか。私に事前の連絡は?」

 「ええ。これは僕と、フラム閣下しか知りません。あなたにも連絡していませんよ」

 「それはないでしょう。クリスだって先生だって、知っていたはず」

 

 シルヴィアが二人の方を向くと、二人とも首を横に振った。

 二人とも知らなかった。

 

 「な!? フュン! 先生たちにも!?」

 「はい」


 本当に知らせていなかった。


 「こんな重要事項。せめて事前に」

 「ええ。お伝えしたかったですが、今回、ウィルベル様が出撃する可能性はないと思っていたのでね。ククルにいるだけで終わると思ってたんですよね。だから無駄に皆さんに気を遣わせるよりも、僕らだけの秘密にしようかって事になったんですよね」

 「だとしても、せめて私に」

 「はい。そうも思いましたけどね。あなたの迷惑にはなりたくないって、ウィルベル様がおっしゃるからですよ。黙っていたのです」

 「兄様が?」

 「はい。罪人を表に出したのが皇帝だ。なんてことになってしまったら、あなたの名誉に関わると。だから、出来るだけ誰にも知られない方がいいんだって」

 「兄様・・・そんな事。私にはどうだっていいのに・・・」

 「いいえ。ウィルベル様はあなたを大切に思っているのですよ。今はもう、昔の彼ではありません。今はまさに、エイナルフ陛下の長兄に相応しい人なんですよ」

 「そうですか・・・兄様」


 フュンの言葉を重く受け止めて、シルヴィアは兄に感謝した。

 帝都を守り切る事。

 それはこの戦場を左右する事だったからだ。

 補給路が切れるのだけは避けないといけない事だった。

 でも、帝都を守り切ったことで、順調な補給を継続できるのである。


 「さあ、僕らは、全てが一丸となり、この場面を生み出しました。この重要局面。戦うのはここにいる君たちだ」


 この時を待っていた。

 そう言わんばかりの自信に満ち溢れているフュン。

 皆の顔を見続けていく。


 「ゼファー。シャニ。シガー。フィアーナ。ミシェル。シュガ。ソロン」


 一人一人と目を合わせて。


 「エリナ。サブロウ。マサムネさん。マールさん。ウルさん。シェンさん。レヴィさん」


 頷き合う。


 「そして、ミラ先生。クリス」


 フュンは、ここからだった。


 「シルヴィア。勝ちにいきますよ。ガルナズン帝国大元帥フュン・メイダルフィアは、アーリアに勝利をもたらすために、戦います。力を貸してくださいね」

 「ええ。もちろん。あなたを信じていますよ」

 「はい。では、ここからが僕らの出番だ。ネアル・ビンジャーとの直接対決にいきましょうか」

 「「「おおおおおおおおおお」」」 

 

 アーリア決戦最終局面。

 英雄決戦が始まろうとしていた。

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