表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 アーリア決戦 帝都防衛戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

460/741

第135話 8月23日 偉大なる王の片鱗

 「帝都に残っている諸君。この門は開けてもらえないのですね。どうやら敗北を宣言して頂けなかったようで・・・残念だ」


 ホルスは城壁に掲げられた旗が、変わらずに国旗のままであったことにがっかりした。

 白旗さえ上がってくれれば、ここで戦わなくてもよかったのにと思っていた。

 今から始まるのは一方的な攻撃だと思っていたからこその優しさくる気落ちだった。


 「しかし、そちらの選択です。ここは、攻撃させてもらいます」


 ホルスが宣言をすると、城壁の上にいるアインが立ち上がる。

 声を拡張させるサブロウ丸シリーズの完成形。

 『君に声を届ける(くん)』をアインが使用した。

 以前の物よりも性能が強力で、サブロウ曰く、元の声が少量でも爆音で君に届ける力を持つらしい。


 「あ、ああ・・・はい。話しますよ。あなたは、こちらを攻めるつもりなのですね。あなたはどなたです」


 音量を調節してから声が響く。

 その声が少年のもので、ホルスは驚いた。

 

 「だ、誰でしょうか。え?」

 「ここですよ。ここにいます」


 城壁の縁近くに立つ小さな子が、こちらに向かって手を振っている。

 

 「な! こ、子供は下がっていなさい。怪我をさせたくありません。こんな危険な所に、子供を入れるなんて、帝国は何をお考えに! すぐにでも下がらせなさい」


 ごもっともだ。

 と思うのは何も王国兵だけじゃない。帝国兵も当然思っている。

 今から戦うことになる戦場のど真ん中に子供がいるなんて。

 まともな感覚を持っていれば誰だって思うのだ。


 「いえいえ。ご心配ありがとうございます。でも僕は平気ですよ。それより、あなたはどなたですか」


 しかし、周りは正しくとも、この男には通用しない。

 常識外れのアインは、堂々としていた。


 「子供には名乗りません。いいから下がりなさい」

 「そうですか。残念ですね・・・では、そうですね。目下の者から自己紹介をした方がいいでしょう」


 年下の方が相手を敬って挨拶をするのが当然。

 アインは、丁寧に自己紹介した。


 「私は、ガルナズン帝国第三十二代皇帝シルヴィア・ヘイロー・ヴィセニアと、ガルナズン帝国大元帥兼大宰相かつ、サナリア辺境伯フュン・メイダルフィアの第二子。第一皇子アイン・ロベルト・トゥーリーズであります。以後お見知りおきを。そちらのお方。このような簡易な挨拶で、あなたの名を知らぬ事をお詫びします。失礼がないようにしたかったのですが、そちらが名乗って頂けないので、このように挨拶するしかありませんでした。申し訳ないです」


 将クラスの人物どころか、思った以上の偉すぎる人物の登場に、王国の兵士たちは一人も残らずに驚いた。

 開いた口が塞がらない状態となる。


 「ま・・・な。あ、あなた様が、皇帝陛下の第二子?」

 「はい。そうです。アインと申します。王国の軍長さん。もう一度お聞きしますが、お名前を教えていただけると嬉しいです」

 「あ、は、はい。私は、イーナミア王国少将ホルス・マーキュリーです」


 命令をされたわけじゃないのに、ホルスは何故か答えないと失礼だと思った。


 「そうでしたか。少将さんで。ホルス殿ですね。よろしくお願いします」


 威圧した言葉じゃないのに、威圧された。

 ビリビリと全身が痺れたような感覚にホルスは陥った。


 「ぐっ。なんて子なの。まるで、ネアル王の前に立ったみたいな」


 ぼそっと呟いたホルスの言葉はアインには届いていない。

 目の前にいるのも恐れ多い。

 そんな感情になったのはネアルの前に立つ時くらいだ。


 「それではホルス殿。お聞きします。ホルス殿はこのまま帝都を攻めるおつもりですか」

 「と、当然です。ですから、そこを明け渡して頂ければ、無益な戦いをしなくて済みます。そちらに兵力がない事は知っています。なので、負けを認めていただければ、無事でいられる」

 「・・・そうですか・・・」


 アインは敵の言葉を聞いて、この人は優しい人だなと思った。

 丁寧すぎる人物に、心苦しい所だが、アインは態度を変えていく。

 徐々に相手を追い詰めるような形に持っていく。


 「それはありえません。降伏はしません」

 「な、なぜ。無駄に民を死なせては、皇帝の末代までの恥となりましょう」

 「いいえ。そんなことにはなりません」

 「え?」

 

 アインは、強く宣言する。

 

 「ガルナズン帝国は、イーナミア王国に一つも負けません。それは他の戦場の事もですが、今のこの戦場すらも負けはしないのです」 

 「・・それこそない。兵数がないのに、勝てるわけがないでしょう」

 「いいえ。この私。アイン・ロベルト・トゥーリーズが帝都にいる限り。帝都は落ちない。皇帝陛下と、太陽の人の子として、ここを守り切るからです」


 数の違いで若干落ちていた帝国兵の士気が、一気に上がったような気がした。

 血が沸騰したように熱い気持ちが、兵士たちに湧いてきていた。


 「な・・・地位だけで守れるのであれば苦労などありません。ふざけないでください」

 「ふざけていません! 私がこの帝都を守る」


 ここでアインの口調が強く変化した。


 「この宣言をここでしたからには、これが絶対となる。この私、アインがこの場で宣言したのだ。帝都を守り切るに決まっている。それと、帝国少将ホルスよ! 私をただの子供だと思うな。私はアイン・ロベルト・トゥーリーズである!」

 

 跪け。

 とは言ってはいないのに、まるでそのような感覚になるほどに力強い言い方だった。


 「く。威圧をしても無駄です。そちらの方が不利なのです。強がっても無駄だ」

 「そうか・・ではこれが強がりじゃない事を証明しよう。王国兵よ。かかって来るがいい。このアイン率いる帝都軍が、あなたたちを完封し、見事な防衛をしてみせよう。私がいる限り、あなたたちが、帝都に足を踏み入れる事はない! 出来ぬことは最初からしない方がよかろう」


 アインの挑発後、ホルスが王国軍の指揮を取った。


 「王国軍。突撃開始だ」


 今の挑発が最大チャンス。

 問答を繰り返して押されるよりも、今の挑発のタイミングで、こちらの士気が上がった瞬間が良いだろうとホルスが判断した。

 良い判断だった。

 だが。

 

 「そうですよね。そうなりますよね」


 アインは下の様子を見て、納得した。

 

 「「「あああああああああああああ」」」


 王国の兵士たちの声が響く中で、アインは音声を最大にした。

 アインはそもそも敵の声に、自分たちの最大の声をぶつける気だったのだ。


 「聞け! 帝国兵。そして帝都民よ」


 この声は、ここいら一帯にいる人々に聞こえていた。

 そう帝都中に聞こえたのだ。


 「勇敢なるガルナズン帝国の民。それを最も体現することが出来るのが、この帝都にいる民だ。勇気を示すのは、あなたたちしかいないのだ。そう。君たちならば、このくらいの戦場など乗り越えられるに決まっている。この私、アイン・ロベルト・トゥーリーズと共にだ。我らは負けるために戦うのではない。味方の為に時間稼ぎをするために戦うのではない。今、ここで、王国に勝つために戦うのだ」


 子供とは思えないほどの言葉の数々に、民たちは胸を震わせる。


 「自由を手にするのは、アーリアである。だから、アーリアに希望をもたらせるために、ここで帝国人は、過去との因縁に決着を着けるために、ここで立ち向かうのだ。国の為に、大陸の為に、そして我らは、輝かしいアーリアの未来の為に戦う……さあ、皆の者よ。魂から奮い立て、そして戦うのだ。ガルナズン帝国の戦士たちよ! 今、この時より、アーリアの戦士となるのだ!!」


 兵士も民も、全員合わせて戦士である。

 鼓舞は兵士に向けてではなく、帝都にいる全ての人に向けられたものだった。

 アインの声は、帝都中にいる民の心に響いたのだ。

 

 だから

 『どっ』

 と爆発音のような音が鳴ってから。

 

 「「「だああああああああああああああああああああああ」」」

 

 王国兵の声がかき消されるくらいの大声が帝都全体から出てきた。

 しかも、その音の音圧で、王国兵の足が重くなる。

 そんな不思議な現象まで起こしたのが、まだ子供であったアインである。


 兵士ではなく、民すらも鼓舞が出来る。

 それがアインの声の力。

 太陽の継承者アイン・ロベルト・トゥーリーズの伝説の始まり。

 それがこの帝都防衛戦争からだった。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ