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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 アーリア決戦 帝都防衛戦争

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第132話 ゼファーの子 疾風のダン

 ラサリの戦いは、開幕から両部隊の全員が大激突する。

 三千対三千。

 それらが何の計略もなしに、真正面でぶつかって、力と力の戦いを始めていくのだ。


 なので多人数での戦争じゃなくて、一人一人がそれぞれの敵と戦う。

 一対一のような決闘がそこら中で行なわれる形となるのだ。


 レベッカとダンが並んで走り、その後ろを部隊が走る。

 二人は誰と戦うかを決めていく。


 「私、ルカがいいんだが、あれが邪魔をしそうだな。ダン」


 ルカの隣にいる女性が自分の戦いの邪魔をしそうだ。

 レベッカはその女性を指差して、ダンに指示を出した。


 「はい」

 「あれ。頼む」

 「わかりました」


 少ない言葉で全てを理解したダンは、レベッカの為に道を作る動きをした。

 レベッカよりも速く走り、全体に指示を出す。


 「皆さん。もう少し広く。自分の前にいる人をお願いします」


 一人一人の間隔を広げて一対一の状況を作る。

 ダンは的確な指示を出して、自分自身はルイルイの方に行った。


 「レベッカ様。これでよろしいでしょうか」

 「よくやった。さすがだぞ。ダン!」

 「いえいえ」


 それ以上は言わず、ダンはルイルイの足止めに入るために、レベッカの護衛から外れていった。


 「それでは私もいく! こっちはルカだな!」


 二つの強者の戦いが始まる。


 ◇


 「あれ? ルイはこの子と戦うことになるの」


 ルイルイは、爽やかな青年の前で立ち止まった。


 「そうですね。あなたのお名前はルイさんですか?」

 「ううん。ルイルイ」

 「ルイルイさんですか。よろしくお願いします」

 「うん。よろしく」


 青年は、表情以外にも、態度も爽やかで、挨拶が丁寧だった。

 深くお辞儀した姿が板についていた。

 

 「ルイルイさんは、戦えますね。強いです」

 「ん? 見ただけで分かるの?」

 「はい。気配がミシェルさんに近しいです」

 「ミシェル・・・聞いたことがあるね」

 

 ルイルイは首を傾げていた。

 どこかで聞いたことのある名だと思った。

 

 「それでは、私から戦ってもよろしいでしょうか。手加減はしない方がいい?」

 「自信があるみたいだね。君・・・」

 「ええ、あります。ですが、傷つけたくないので、本気は控えます」

 「・・・ん!?」

 「本気を出せば、傷つけそうですからね」


 いつもお茶らけているルイルイ。

 でも意外と負けず嫌いな性格で、彼女の目が真剣になった。

 敵の挑発行為に乗るまではいかないが、今のダンの発言が多少は効いたようだ。


 「いきますよ。はい」


 と掛け声が終わった直後。

 目の前にいた青年が消えた。

 移動に音がなく、影の技に近いのかと思ったが、それも違う。

 ルイルイも一流の影使いだからこそ、影の力を相手が使用したならばこの目で追えるのだ。

 でも力の痕跡がない。

 という事は単純な速度の違いで、目が敵を追えていないのである。


 

 ここで、風が吹いた。

 自分の右の方で、突風のような風が吹き荒れる。

 肌がその風を感じて、そしてすぐに止んだ。


 「こちらですよ。目が追い付いていないですね」


 風が止まったと同時に出現したのが青年。

 瞬間移動のような動きで、風のみが彼の移動先を示していた。


 「な!? 速すぎる・・・」

 「これはどうですか」


 レベッカと同様に刀を使用する青年。

 そのメイン攻撃は、突きだった。

 右肩を引いて、刀に地面と水平にして、刃の下を左手で支える。

 独特なフォームで戦いに出る。

 しかし、この姿。誰かに似ているのだ。

 そうゼファーの槍を持つ姿と重なるのである。

 刀を槍のようにして扱う剣士。

 それがダン・ヒューゼンなのだ。


 「あ、あぶな・・・」

 「躱しましたね。やりますね」

 「きょ・・・距離を取らないと駄目かも・・・この子、速過ぎ」

 

 ルイルイは突き攻撃を躱した直後で、バックステップをした。

 思いっきり後ろに体重を傾けての飛び込みで、大きく移動して相手との距離を取れたと思っていた。

 

 だが、この風は止まない。

 彼は、疾風のダンなのだ。

 移動は、風と共に。

 風が止んだら出現の合図。


 そして、彼の基本攻撃は、神出鬼没の怒涛の攻撃である。

 

 「な!? もうこっちにいる。後に移動したのに、先回りされた!?」


 移動先で着地しようと右足が地面に着く寸前で、ダンが左から現れた。

 躱しようのない体勢に、ルイルイは焦る。

 ダンの再びの突き攻撃をもらいそうになり、弱音も出る。


 「だ、駄目だ・・・これは・・・死んだかも」

 

 思わず目を瞑ってしまった。

 開いていた時に見た剣の軌道は、自分の喉を貫く一撃だった。

 だから、自分の死は確実だろうと思っていたのだが。

 

 「終わりましょうかね」


 優しい言い方の後。

 顔面に風が吹きつけられた。


 「はい! これで終わってもらえると嬉しいですよ」


 閉じていた眼。

 片目だけ開くと、ルイルイの喉の先に刀が置いてあった。


 「あなたの負けでどうでしょう。この先も戦わないといけないとなると、本気にならないといけませんからね」

 「・・あ!? こんなに強いの・・・君。誰? 強すぎだよ」


 自分の里でも王国の間でも情報にもない人物。

 レベッカ・ダーレーは知っていても、こっちの青年が誰だか知らない。

 

 「私は、ダン・ヒューゼンです。ゼファー・ヒューゼンの息子であります」

 「なに・・・ゼファーの子!?」


 ゼファーには記録上。血縁の子供はいない。

 その情報は、王国でも知られている事実であるのだが、養子がいる事は知られていなかった。

 

 「はい。ゼファー様には大変申し訳ありませんがね。私は息子だと思っています」


 ゼファーが自分の事を子供だと思ってくれているのかが分からない。

 だから、ダンは自信無さげな言い方をした。


 でも、ダンには分かって欲しい。知っていてほしい。

 ゼファーは愛情表現に乏しいだけで、ダンの事は本当の息子のように大切に思っていることを。

 

 彼は、父を幼い頃に、母も早くに亡くしているので、家族の関係に親子というものがないのだ。

 伯父とは良好。祖母と祖父とも良好。

 でも親がいないから、親としての愛情表現の仕方を知らないだけなのだ。

 ゼファーは、表現がないだけで、愛情がある。

 不器用な男の不器用な愛がいつ伝わるのかは、二人のみぞ知る事である。


 「ああ。あ~あ、無理だよね。ここからは、いくらなんでも勝てなさそうだし・・・ごめんねルカっち」

  

 自分の敗北を素直に認めたルイルイは両手を挙げて降参した。


 「・・・君。ルイの負けでいいよ」

 「そうですか。では、少しの間失礼しますよ」


 勝利したことで、ダンはルイルイの手を縛って拘束した。

 これが、疾風のダンの初陣での初勝利となった。



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