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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 アーリア決戦 二人の英雄の仲間たち

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第123話 8月16日 海と陸から

 ルコットに集中しているララとマルン。

 敵の艦隊は撃破しているが、都市は落とせずにいた。

 その理由は、都市に大砲が配備されていた事と、それに加えて、こちら側の切り札の一つ濃霧砲を使い切ってしまったためであった。

 最初の海戦の際に持っていたのが、計四発で二個命中せずに失敗に終わったのが痛い。


 だから、王国大将であるセリナの砲撃を利用した防御が上手く機能していて、ララ海軍は上陸に手こずっていたのである。

 

 ◇


 上陸させまいとした砲弾が次々と撃ち込まれる。

 相手の砲弾を封じる手が無くなっていたララは海上で悩む。


 「苦しいな。マルン。どうするべきか」

 「そうですね。一定の距離までしか近づけませんね」

 「ああ。どうするべきか。難しいぞ。私としても悩む」


 海戦で悩む事などない。

 そう言い切れるくらいにララは水の上では戦略家だった。

 そのララが、敵の攻撃を防ぐための行動と上陸の方法。

 この二つの解決案が全く思い浮かばなかったのだ。

 戦闘狂の状態で悩むララなど滅多に見られない。


 「ララ殿。一隻。沈めますか」

 「ん?」

 「一隻だけ、敵から集中砲火を浴びてもらい。他の船は上陸に向けて突撃する。というやり方があります」

 「・・・それはその船に犠牲になれと・・・いう事だな・・・」


 大型船を一隻だけ犠牲にして、他の船で上陸していく。

 マルンが提案してきたのは捨て身戦法だった。

 こちらの犠牲を問わない戦法は、正直好みでない。

 それはフュンが、最も嫌いな戦法でもあるからだ。

 ララ。そしてヴァン。

 この二人にとって、フュンとは、心の底から慕っている人。

 二人は元海賊であっても忠臣なのだ。

 主が好まない戦法を、扱うわけがなかった。

 たとえ、フュンと戦う戦場が違っても、思いは常に一緒である。


 「他にも策があるはずだ。マルン。考えよう」

 「しかし、このままでは上陸は出来ないかと思いますよ」


 たしかに、そうだが・・・。

 ここで、ララが都市の様子を見ると、沿岸にいた兵士たちが少しずつ減っていく。

 大砲は変わらない量を撃って来ているが、兵士自体は少なくなっている。


 「変だな・・・なぜだ・・都市の兵士など港側に来ていたはずなのだが・・・ここにきて陸側にいくだと?」


 ここで、港とは反対側から信号弾が見えた。

 黒い光信号が白い雲に映る。


 「あれは!? マルン!」

 「・・・あ、光信号ですね」

 「読み取れ。誰だ」

 「は、はい」


 優秀なマルンはフュンの光信号を理解している。

 読み取った内容は、戦況を一変させる通信であった。


 ◇ 


 ここより五日ほど前のパルシス。


 「キロック。俺的にはさ。このままじゃつまらん。という事で、ここは大きく騙くらかしていこうかなと思うぜ」


 ジークはただパルシスを囲うだけじゃつまらないと思った。

 なので策を思いついたのである。


 「はい? 何言ってるんですか? 頭でもおかしくなりましたか? 旦那は、いつも誰かを騙しているでしょ。何を今さら言って」


 何をアホな事を言ってんだと思ったキロックは、ジークの言葉を鼻で笑っていた。


 「なんだとキロック。俺が悪徳商人みたいな言い方をしやがって」

 「だってそうでしょ。王国の船。あれ、今もこっちの船でしたし。内部構造を知っていれば、どういう風に動くかとか分かるもんでしょ。手の内を晒している状態なのを王国って知らないんですよ。可哀想なもんですよ。王国の人たちって」


 これは、ジークとキロックだけの秘密である。

 裏で手を回しているジークは、相手の水軍に自分の船を押し付けていた。

 王国の船の中で、大型船はさすがに違うが、小型船と一部の中型船は、ジークらが作った船である。


 「そんなもん。こっちのせいじゃないだろ。あっちが俺から買っているのが悪い」

 「ほら。騙された方が悪いって言い方。悪徳商人そのものですよ。知りませんよ。地獄に行っても」

 「ふん」


 話の内容はこれじゃないと、ジークは気を取り直して、会話を元に戻した。

 

 「で、ここは俺の策を発動させようと思う」

 「どんな策ですか」

 「あれ。持って来てるだろ」

 「あれ?」

 「人形だ」

 「あ~あ、たしかに。あれですね・・・大量の人形ですね。あのサブロウ殿の試作機の奴ですね」

 「ああ。そうだ。五千くらいあるだろ。あいつ馬鹿だから大量に作ったもんな。あれを並べていく事にした」

 「へ?」

 「一部の兵士を人形に変える。それで人を後ろに引かせるわ。夜の間にやるか」


 ここで、ジークは、兵士一万人を移動させることにした。

 それも、日中ジークが目立つように南の門で派手に動き、夜も注意を引いている間に、北でキロックが調整して、兵士をガイナル山脈側に隠していったのだ。

 兵士たちは、そのまま山を利用して西へと向かい、ルコットへと進んでいく。


 彼らを率いたのは、リアリスだった。


 彼女と狩人部隊は、ガイナル。ルコット。パルシス。

 どの戦場にも対応できるようにと、ハスラで待機していた。

 そして、ガイナル方面での敵の動きが少なかったので、中間地点であるパルシスに移動となり、そこでも動きが無かったので、彼女と部隊の弓の宝の持ち腐れだとしてルコットに送り出されたのだ。

 

 そして、ルコットに到着した彼女が、ララがいる海に向かって光信号を送ったのである。

 


 ◇


 『こちらリアリス・・・攻撃を仕掛ける事が出来る』

 「なるほど。リアリスか」

 

 マルンからの報告を聞くララは、援軍の知らせにホッとした部分があった。

 悩んでいた所に、ここからの展開に厚みを持たせることが出来るからだ。


 「マルン。こちらからも合図を送れるか?」

 「出来ます。待ってください。部下にお願いします。私はこのまま解読で」

 「わかった。マルン頼む」


 部下が光信号を準備している間、マルンは光信号を読み取る。


 『ルコット。援軍は・・・一万』

 「一万か」

 『ただし、パルシスを騙して移動したため・・・・・攻城兵器を運び出せなかった・・・・梯子も持ってない・・・基本ここにいるという圧力のみ・・・・』

 「まあ。それでもいいな、いないよりかは助かる」


 ララはリアリス側の行動に納得していた。


 『でも城壁の兵に弓は当てれそう・・・・あたしなら出来そう』

 「なるほどな。あいつらなら出来るか・・・それだと、もっと兵をあちらに引っ張る可能性があるか」 

 『あたし、話したよ・・・どうすればいい・・・あれ・・・・返事は・・・』

 「おい。準備はまだか」


 会話が一方通行でリアリスは途中で不安になったようだ。

 こちらの準備は進んでいるが、すぐに光信号を出すのは無理である。


 「会話が切れたらまずいな」


 ララが悩んでいると解読してくれているマルンが提案する。

 

 「ララ殿。信号弾を撃ちます。青の三連でいきます」

 「三連?」

 「はい。この場合の三連の合図は、準備中です」

 「わかった。やれ」


 マルンが信号弾での連絡を出した。

 こちら側の準備中であるとの連絡は、リアリスに伝わる。


 『準備だったのね。了解・・・・あたしらは、このまま。南と東側にいる・・・一万しかいないから、二方向だけ抑えるね』

 

 ルコットは北が海。

 なので陸地の門は、東と南と西の三門構成である。

 一万しかいない兵では、三門を同時に押さえるには厳しいので、リアリスは二つに絞った。


 「この戦力では、正しい門の押さえ方だろう。どう思うマルン」

 「私もそう思います」

 「いや、待て。相手が慌てているのは確実だ。これならば、もしやだが。今、こちらに向いている大砲が移動する可能性がある」

 「あの大砲がですか」


 目の前の大砲たちの一部でも移動すれば、こちら側は楽になる。

 ララの考えは前艦隊で港を襲撃する事だった。


 「ああ。一万の弓。あれは強烈だぞ。下からだろうが。リアリスの狩人部隊だ。弓の差が出るだろう」

 「そうですね。ですが、攻撃は上手くいかないと思いますよ。梯子が無ければ、無視する形でもいいはずでありますからね」

 「いや、そうなった場合は、リアリスたちには、ガイナル山脈の脇に行ってもらうか」

 「脇に?」

 「ああ。敵が無視するなら、リアリスを移動させて、船に乗ってもらう。彼女たちの弓の力を船から使用してみるか。こちらの大砲をピンポイントであちらの大砲に当てるんだ」

 「なるほど。同時攻撃が出来ないなら、彼女らの力を得ると・・・・」

 「そうだ。だが、そこまでしなくても、こちらの大砲が少しでも外れさえすれば、こっちでも押していけるはず」


 敵が取るかもしれない行動を予測して、対処作戦に踊り出た。


 「そうだな。光信号で突撃タイミングを合わせてみよう。矢を放つ時を向こうに任せて。こちら敵の様子を見守るぞ」

 「わかりました。やってみましょう」


 マルンが光信号を送った。

 内容は・・・。



 ◇


 ルコットの南にいるリアリスは、返事が来るかもと空を見つめていた。


 「来た・・・」

 『こちらマルン。十分後、突撃してもらいたい。十秒前。信号弾の赤を出します』

 「なるほど。それじゃあ、返信の合図を出して! 了解って」

 

 指示が出ると、部下たちが頷く。

 光信号のやり取りが続いている最中に、リアリスの背後に気配が生まれる。


 「ん!? あ。なんで、ここに?」

 「リアリス。俺が突破口を一つ作るわ」

 「え。カゲロイ。あなたがどうしてここに」

 「時間がねえだろ。疑問に思うな。駆けつけてやってんだからよ」


 カゲロイは、フィックスとナシュアの二人と、ガイナル山脈での連携を取っていたのだが、あまりにもガイナルが動かなかったために、カゲロイが前線にいないのはもったいないと判断したナシュアがパルシスに送り出したのだ。


 それでさらに、ジークも動きのない包囲戦争の中にカゲロイを置いても、仕方ないとして、リアリスの戦場に送り出したのである。

 だから本人としては、たらい回しにされている気分であった。

 ちょっぴり不満そうな顔をして登場している。


 カゲロイが取り出したのは、両手サイズの大きめの玉である。


 「リアリス。俺のこいつに矢を当てることが出来るか。これを投げるから、空中で射ってくれるか」

 「え。まあ、そんなに大きかったら出来るけど・・・なんで?」

 「こいつは、ただの目くらましだ。目を使えなくさせる閃光弾で、大体二分くらいは目が死ぬ」


 カゲロイは、チョキのポーズで、自分の両眼を指差した。


 「・・・げ、酷いね。それ」

 「ああ。ピッカリ号だとよ」

 「ダサ! サブロウね。それ」

 「ああ。そうだ。あいつの改良作らしいぞ。んで。こいつで敵を停止させたら、あそこの南門を破壊する」

 「え? どうやって。攻城兵器ないよ。それに梯子だってないよ」

 「わかってる。だから次にこれを門に叩きつける」


 カゲロイが次に見せたのは小型の弾だった。


 「それなに? 今度はちっちゃいね」

 「こいつは小型爆弾だ。これをお前の狩人部隊の矢じりに括りつけて、門に叩き込む。そんで大きく破壊すんのよ。門に直接穴を開けるのさ」

 「ふ~ん。出来んの?」

 「出来る。こいつは中々威力があるし、それにお前の狩人部隊なら、同じ場所に当てる事が出来るから、門をぶっ壊せるはずだ。門さえ壊れれば、兵士たちは港よりもこちらに注目するしかない。それで船が上陸できるはずだ」

 「・・・わかった、やってみよう。あっちにも連絡してあげよう・・」


 リアリスが連絡しようとすると、カゲロイが止める。


 「待て。リアリス。あっちに知らせなくていい」

 「なんで?」

 「こっちに敵兵が来ない場合に、ララの方に迷惑が掛かるからさ。これは上手くいけばいいなくらいに留めて置いた方がいい」

 「・・・そうなの?」

 「ああ。それに海のララがあっちにいるんだ。どんな状況になっても冷静に事態を把握するはずだ。マルンもいるしな」

 「そうね。船の上にいるララなら大丈夫よね。頼りになるものね」


 二人は、凶暴性を前面に出しているララを想像しているけど、船の上で戦う限りは、信頼感を持っていた。 

 

 「じゃあ、あと何分だ・・・えっと、あと三分だよ。カゲロイ。どうするの」

 「んじゃ。この弾をお前の部下に。五十個ある。ほらよ」


 カゲロイは、どさっと地面に弾を置いた。


 「え。だ、大丈夫なの」

 「大丈夫だ。こいつは、火をつけてから、二十秒後か。どこかに着弾したら、爆発するようになっているからさ。このくらいの衝撃では爆発しねえ」

 「そうなんだ。それじゃあ、準備しよう。皆。矢につけて」


 リアリスの部隊の中でも名手五十名に、爆弾付きの矢を持たせる。

 その矢の波状攻撃で、この戦場は一変する。

 カゲロイの作戦はここから始まったのだ。


 

 

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