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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第四章 二大国英雄戦争最終戦 アーリア決戦 二人の英雄の仲間たち

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第113話 王国の動き

 帝国歴536年8月2日

 最前線ガイナル山脈

 

 「始まったんだよな?」


 昨日が開戦日だとルカは知っている。

 それは各地を担当している将の全員も知っている。

 日程は皆に共有されている事項の一つだった。

 

 「静かだ・・・敵が来ない。来る気配がない・・・やはり、ギルの言う通りなのか」


 東の要所に偵察を送ったのが一昨日。

 その時の報告は『山に敵の影すらなし』だった。

 なので、昨日から軍を東寄りにして、要所にも立ち寄ってみると、やはり敵軍なし。

 たやすく確保できたのだ。

 しかしここで、『敵が来ないんで、暇すぎる』なんて悠長に事を構えるつもりはないが、時が止まったようにここで悩んでしまっていた。

 ネアルやヒスバーンが考えた戦略でも、最初は帝国からの攻撃が来るとの予定だった。

 でも、この状況。

 何も起きないのが確定過ぎて、ルカとしては何をするにも少し慎重ぎみになっていた。

 

 「ここは無理はしないで。味方の情報でも集めようか」

 

 帝国の情報よりも王国の情報。

 伝令兵を使い、各都市の情報を得ようと動いたのがガイナル山脈の戦いだった。

 こちらはここから一週間以上、動きがなかった。


 

 ◇


 8月8日。

 ビスタにて。


 城壁の上にいるドリュースは敵の動きが見えていた。

 東より来る軍。シャルフ軍が二日前から遠くの場所で待機していた。

 どのタイミングでこちらにやって来るのかと待ち構えていて、敵が来たら迎撃からの反転攻勢を狙っていたのだが。


 ここで、報告としては、敵がビスタに来るとは、別な情報が入ってくる。


 「閣下」

 「どうした?」

 「それが、船が」

 「船?」

 「はい。大型船の船団が、アーリア大陸南の海を移動し、そして海戦が始まったとのこと」

 「何!? 戦いだと。待て待て、いや、そもそもどこに行く気だ。ここが落ちていないのだぞ」

 「おそらくは、ミコットのようです」

 「ミコットだと!? まさかここを攻めずして裏を攻めるのか。挟めば終わるのだぞ」

 

 ガルナ門にも兵はいる。

 だから、ビスタで裏取りしようが結局は挟み撃ちが出来るし、それにミコットを攻めても王国の領土であるのだ。そこから自由に攻めるのは難しいはず。

 だからまずビスタを落とすことが先決だろう。

 その次にルクセントを落としてこそ、ミコットを攻める意味がある。

 これらの手順を追わないと、アーリア南の戦場を支配したとは言えないのだ。


 「帝国は馬鹿なのか? いや、それはない。あの大元帥が単純な攻撃を仕掛けるわけがない」


 同時攻撃は何の意味があるのだ。

 疑心暗鬼に陥ったことで、ドリュースは更に防衛をすることを決意して、目の前に迫ってくるだろうシャルフの軍を迎え撃つことに集中した。


 ◇


 同日。


 アーリア大陸の南西の港町ミコット。

 船団も兵も用意はしている。でもこちらには攻撃が来ないだろうと都市にいる全員が予想していた。

 なぜなら、アーリア大陸の南は王国のものなのだ。

 ビスタから西を占拠している王国。

 だから、その一帯の南側の海は、王国の海であると言っても過言じゃない。

 だったら、その奥地にあたるミコットを船で攻撃したとしても、孤立してしまうだろう。

 だから奪えても、維持が難しい場所を攻撃して来るなど無いと高を括っていたのだ。


 しかし。


 緊急の知らせをもらったゼルドは港に来ていた。


 「こちらに!? なぜだ。ビスタを落としたとでも言うのか」


 前線を飛ばして、後方のこちら側に攻撃を仕掛けてきた。

 ゼルドは味方が敗れたのかと勘違いした。

 

 「船を出せ。出せる船から出すしかないぞ」


 急遽、海戦の準備を始めたのである。


 ◇


 さらに同日。


 アーリア大陸の北西の港町ルコット。

 こちらもミコット同様に船員も船の用意だけはしていた。

 しかしこれも念のための物なのだ。

 なぜなら、ガイナル山脈を支配した王国は、敵を攻撃する箇所を自由自在に決める事が出来る。

 それは当然。ハスラ以外にもラーゼ。バルナガンの両都市を狙う事だって出来るのだ。

  

 だからその状況で帝国側が、船を使ってこちら側を攻めてくれば、そちらの港自体が手薄になってしまうのだ。

 自国の防衛の事を考えれば、こちらのミコットまで攻撃の手を伸ばして来るとは考えられなかった。

 この現象は、ほぼミコットと同じ考えである。


 だが・・フュン・メイダルフィアは、そもそも防衛の事を考えていない。

 全てを攻撃に特化させて、相手を圧倒する戦略を組んでいたのだ。

 攻撃は最大の防御。

 今までのフュンの戦略とは違う。

 圧倒的な攻撃力を前面に出した戦い方である。


 「セリナ様」

 「はい」

 「敵が来ました」

 「なんですって」


 執務室で、援軍関連の微調整をしていたセリナの元に、副官のマリアスが報告しに来た。

 敵襲がある。

 それは思ってみない事だった。

 まだガイナル山脈にはルカがいるというのに、こちらに攻撃が来るなどありえない話なのだ。


 「まずいですね。すぐに船を出して」

 「はい。グラスを派遣します」

 「そうしてください。港を封鎖して、住民は退避。それにこちらも兵士を準備です。陸上の方も、守りに入りましょう」

 「わかりました」


 準備をしてきたので、急遽な事にも対応が可能。

 セリナは、将としても優秀な女性であった。


 ◇


 そして、さらに同日。

 パルシスにて。

 フュン・メイダルフィアが率いる軍が、パルシスの南に到着。

 

 パルシスの将アスターネは、南門の上で彼らの軍を見た。


 「三万??? 本当に三万だけ???」


 ここを落とすには少ない。

 最低でもその倍は無いと落ちないのに。

 アスターネは、敵兵を見ながら思った。


 「包囲をする気があるようだけど・・・」

 「アスターネ閣下」

 「ん?」


 部下に呼ばれたアスターネは、左を見た。

 東門の兵が慌てて、こちらに来ていた。


 「閣下。あちらから敵が・・・ハスラから出陣のようです」

 「なんですって! ハスラ!?!?」

 

 ピクリとも動かなかったハスラの西の門がドンと開くと同時に小型船と兵士が出撃。

 ものすごい勢いでこちらに迫って来るが、こちらとしては、そちら側に兵を派兵できない。

 それは、フュンの軍がこちらに向かっていたために、船を川岸に用意しておくことが出来なかったからだ。

 

 「これは、連動!? まさか。大元帥がゆっくりこちらに来たことが・・・罠なの?」


 進軍が遅いために、注視していたのは南側になっていたパルシスの兵士たち。

 目の前のハスラの事を監視していたとしても、つい意識がフュンの方に向かっていた。

 それにハスラだって防衛を考えるはずで、ガイナル山脈方面に気を取られる状況なのだ。

 ここにきて、パルシス方面に軍を派兵するなど考えられないのである。

 

 アスターネは、動揺の中でも冷静な分析をしていた。


 「どちらにしても城壁で守るしかない」

 「しかし。アスターネ閣下。合わせれば兵数がありますよ。こちらも、ざっと数えただけでもハスラから出撃してきたのは三万くらいだそうです」

 「そうなると。合流で、六万!? 厳しいかもしれない」

 

 計六万の兵がやって来る。

 当初の予定とは違う防衛戦争に入るのだと、アスターネは焦っていた。


 フュンたちが西と南を囲い始めたので、アスターネは東と北をハスラの兵が抑えるのだと思った。

 彼らが川から移動中、フュンたちが城壁を囲う。

 

 「ファラン。誰が来ているか分かる?」 

 「待ってください。確認します」

 

 アスターネの部下たちは、船でやって来る将を確認するために望遠鏡を使った。

 東の城壁ギリギリの所から身を乗り出して探すと。

 帝国側の要職に就いている人物の中で、とにかく目立ちたがりの人物を発見した。


 「あ、あれは・・・まさか」

 「どうしたの」


 前方三人の偵察兵の内、一番左の偵察兵が望遠鏡を落として呆然とした。


 「閣下・・・あの特徴は、ジークハイド・ダーレーです」

 「な!? 右将軍ジーク!?」

 「そ、そうです。大将はジークハイド・ダーレーのようです」

 

 ついに右将軍自らが英雄戦争に参戦する。

 ド派手好きの男は黄金に輝く甲冑を着て、先頭にいた。


 「フュン・メイダルフィアとジークハイド・ダーレーがここに? 帝国の狙いは、パルシス。本命がパルシス!!??!」


 帝国の狙いは自分たちの所。

 本命がリンドーアだと思っていたパルシスの兵たちは、自分たちの場所に本命の攻撃が来た事に驚きを隠せない。

 しかし、彼らは知らなかった。

 この時、実は王国のほぼ全域が、同時に攻め込まれている現状をだ。

 

 そしてこの中で、フュン・メイダルフィアの本命とは、果たしてどこの都市であるのか。

 戦いは少し前に巻き戻り、最初の戦いに戻る。


 

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