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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第三章 同士たちよ 希望は捨てるな 太陽の人はここにいる

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第111話 秘密と秘密と秘密

 「お嬢」 

 「はい。先生」


 シルヴィアの隣に座ったミランダの頭が、フラフラと揺れている。

 レヴィに敗北した後遺症が残っていた。

 彼女の目に映るシルヴィアの顔は三つもあった。 


 「おいおい。くそっ。お嬢が三人いるのさ。やべえ、まだまだレヴィの方が酒が強えのか。眩暈みたいになっちまってるのさ」

 「先生。お休みになられた方がいいのでは」

 「いや。いい」


 酒飲み対決に敗北しても、まだ倒れないだけ成長した。

 前回のミランダはザイオンと共に協力して戦っても勝てなかったのだ。


 「お嬢。戦いが終わったら、こいつをやる」


 ミランダは内ポケットから鍵を取り出した。


 「鍵・・・ですか?」

 「ああ」

 「お嬢。これにはお嬢の秘密が詰まっている」

 「え? 私のですか。なんでしょう。秘密って・・・」


 戸惑うシルヴィアを見て、ミランダは微笑んだ。


 「おっさんから、箱をもらっただろ」

 「はい」

 「それの鍵だ。そこにはお前の秘密。ダーレーの秘密が眠っている。あと、おっさんの想いもあると思うのさ」

 「父上とダーレーのですか?」

 「ああ。そんで、その時になったら、あたしの屋敷の寝室にある壁掛けの裏に、この鍵が刺さる。そこの秘密の部屋にもいけ」

 「そんなところがあったんですか。あのお屋敷。まだまだ隠し部屋があったんですね」

 「まあな。んで、そこにも秘密が眠ってるからな。いいな」 

 「わかりました。先生」


 酒に飲まれている割には、この話には具体性があった。


 「お嬢・・・いや、シルヴィア」

 「はい」


 珍しく名前を呼んでくれたと思い。

 背筋が伸びた。

 

 「お前がどんな事を知っても、お前はお前だ。大丈夫だ。お前は変わらない。それとあたしはお前を愛しているからな。忘れんな。いいな」

 「は。はい」

 「あと、これも忘れるな。あたしは、シルクさんの娘だ。だからお前の事は年の離れた妹みたいなもんだと思ってる。ジークと同じく、大事にしているのさ。そんで、大切な弟子の一人だ。いいな。これも忘れるなよ」

 「・・・はい。先生」

 「それともしだ。それを見るのが怖くなったら、ジークと共にその箱と部屋を開けろ。あいつはお前の大事な兄貴だ。支えてくれる。いいな」

 「わかりました」


 シルヴィアの真剣な目を見て、ミランダは安心した。

 近くのお猪口を持った。


 「よし。また飲むか」

 「駄目ですよ。先生。それ以上は危ないです」

 「いや。まだ飲めるからよ」

 「だったら、私と飲みましょう。ゆっくり少しずつです」

 「・・・そうだな。それもいいな。よし、お嬢。酒飲むか」

 「はい」


 師弟は静かに飲み始めた。


 ◇


 宴会の席を抜けて、山を登ろうとしているジーヴァは呼び止められて振り向く。


 「ジーヴァ?」

 「はい?」


 お酒を片手に持つママリーは、上機嫌そうだった。

 鼻歌も歌っていた。


 「ねえ、どこにいくのよ。私たちはこっちだよ。飲もうよ」

 「待ってください。ママリーさん。こっちに珍しい動物がいまして、鑑賞してからそっちにいきます」

 「わかったわ。じゃあ、後でね。飲もうね」

 「ええ、はい」


 太陽の戦士長たちは、フュンたち一行の下座の位置にいた。 

 護衛の為である。

 しかし、なぜかジーヴァだけが山の山頂の方に向かっていく。

 とある大きな木の前で止まった。


 「さてと・・・レンさん、いますか」

 「おう」

 「少しだけ時間がありますよ。何を報告すれば?」

 「そうだな。どの手を取るんだ。太陽の人は?」

 「そうですね。電光石火の作戦のようですよ。一気に攻めるらしいです」

 「本当か。全容は?」

 「わかりません。最近のフュン様は、太陽の戦士たちとは別行動を取っているので、私たちに情報を教えてくれません。でも、もしかしたらレヴィさんとラインハルトさんは知っているかもしれません。それに作戦の要の部分は、最上位の三人だけが知っているようです」

 「そうなのか・・・まあいいか」

 

 ジーヴァが一人で会話をしているように見える。

 木に向かって話しかけていた。


 「あの人から追加の指示は?」

 「彼からか? ないな」

 「じゃあ、私はどう動けばいいんですか。変わらずですか?」

 「シーヴァはそうだな。お前は太陽の人の為に動け。それが重要だろうな」

 「もちろん。それは当然ですね。心の底から尊敬していますからね」

 「そうかよ。いいな。お前の任務はさ! 直接話せる任務だぞ。おい、なんだよ俺の任務ってさ。コソコソしてるだけだぜ」


 ジーヴァの向こうで話す人物は少しだけいじけた。


 「そうだ。ジーヴァ。母はどうした?」

 「元気ですよ」

 「そうか。よかったな」

 「はい。今はサナリアで楽しそうに暮らしています」

 「・・・まあ、あいつも嬉しいだろうな。太陽の人の故郷で暮らせるのだからな」

 「ええ。当然ですよね」

 「そうだぞ。俺だってな、サナリアで暮らしたいんだぜ。太陽の人の故郷なんてさ。夢みたいなもんだぞ。俺ってさ、いつまで諜報員やるんだろうな?」

 「それは、私にも分かりかねます。イルミネスさんとかの指示はないんですか」

 「ないな。だからずっとこっちに張り付いてんのよ。お前との中継点だしよ」

 「そうですよね」


 ジーヴァがいる木の裏に誰かがいるのか。

 そこから深いため息が聞こえてきた。


 「はぁ・・・計画ってどんな感じで進んでいるんだろうな。俺、いまいち、分からんのだけど」

 「確かに、僕らみたいな下っ端ではわかりませんね」

 「ああ。でもまあいいか。ジーヴァ。怪しまれずに合流しておけ。俺もとりあえずの報告してくるわ」

 「ありがとうございます。レンさん。お気をつけて」

 「おう。じゃあな」

 「はい。また」


 話し終えたジーヴァは皆と飲むために山を下った。



 ◇


 イーナミア王国の作戦会議室。

 ここにいるのはヒスバーン。ルカ。イルミネスの三人である。

 ヒスバーンから話が始まる。


 「イルミ」

 「はい。ヒスバーン。なんですか?」 

 「お前は、ババンにいろ」

 「はい?」

 「その後、ネアルの所に配置する」

 「そうですか。あなたは?」

 「俺はネアルのそばにいる。あ、それとあいつらも呼んでおけ。影で使う機会があるからな」

 「彼女らですか。それじゃあ、あの子はどこに?」

 「マイマイはお前の方だ」

 「・・・ああ、わかりました。彼女は、私の所に置きましょう。マイマイか、私の方が苦労しそうだ」

 

 三人の前にはアーリア大陸の地図があった。

 ヒスバーンが指摘している場所は王都リンドーアだった。


 「じゃあ、俺はどうなんだ。ギル」

 「ルカは、ガイナルにしようと思う」

 「ガイナル山脈かよ。面白くなさそうだわ」


 つまらなそう。という顔でルカは嫌々答えた。


 「いいや。これを見ろ。ほれ」

 「ん?」


 ヒスバーンは資料を放り投げて、ルカに叩きつけた。

 びしゃッと顔面に資料が来る。


 「おい! 普通に渡せよ」

 「読んどけ。つまらなくなんかないからよ」


 さっきの一言にイラっと来たらしい。

 ヒスバーンにしては言葉に棘があった。


 「はいはい。どうだ・・・はぁ!?」


 読み進める内に、敵の計略が見えてくる。


 「ルカ。出来るか?」

 「いや、待てよ。帝国って、こういう戦略で来るのかよ?」


 ルカは、疑いの目でヒスバーンを見る。


 「ああ。それで来ると思う。ガイナル山脈を無視した形で戦争を仕掛けてくるはずだ」

 「まじかよ。東の要所すら捨てて、山を完全に放棄だと。それにこれは・・・」

 「そう。向こうは道路を基準にして行動。降りてきた軍を狩るつもりだ。しかもこの広域でな」

 「おい・・・・これでどうやって俺が敵と戦うんだよ。無理しない方がいいじゃないか」

 「それもいい。だけど、俺の計画だと。こっちの方がいい。別なプランを見てくれ。そっちが良いと思う」

 「別なプラン?・・・これじゃねえのな」


 ルカは資料のページをめくる。


 「あった・・・はぁ!? これ、本気かよ」


 全てを読むと難しい策であると理解する。


 「ああ。イルミが提案した。ビスタの策。あれをドリュースが実行するらしい。だからお前の方でも、やってやらんとな」

 「・・・おい。いいのか。この二つ。成功したら帝国に勝つことになるぞ」

 「いい」

 「マジか。ギル。お前・・・」


 ルカが、呆れた顔をした。


 「この程度の策。彼が乗り越えられないようではな。この大陸に太陽は一生登らないだろう。そうだ。これが彼の最後の試練だ」

 「・・・いいのか。ギル。俺は本気でやるぞ。こういう時に手加減はしない」

 「わかっている。お前は好きなようにやれ。俺が許可する」

 「そうか。わかった。こいつは戦争が楽しみだな」


 ルカは決意を固めて、表情が引き締まった。

 戦う男の顔になっていた。


 「イルミ。お前のババンでの判断は早めにしてくれ。軍は維持でだ。どうせウォーカー隊が来るぞ」

 「ええ、もちろん。わかっていますよ」

 「よし。これでいいか。俺たちの準備はこんなものだろうな」

 「待ってください。王国全体の準備はいいのですか。それと、ノインとセリナは?」

 「そうだな。王国は、これで良いと思う。これで圧倒的に負けるなら、ネアルもそれまでの男だったという事だ。そしてノインとセリナは、まあどうでもいいな。あいつらは、後で何をしてもいいだろう。捕まえても殺しても。どっちでもいいや。今の現状。ここでは、あんまり気にすることないと思うな。あいつら雑魚だしな」


 ヒスバーンは、吐き捨てるように言った。


 「そうですか。あなたが所属していたリーダーと副リーダーではないのですか?」

 

 半分馬鹿にしたかのような薄ら笑いでイルミネスが聞いた。


 「ん? 俺が所属していた?」

 「ええ。そうでしょう。たしかナボルでしたよね」


 完璧に知っているのに、イルミネスは曖昧な言い方をした。


 「俺がそんなところに所属するわけがねえだろ・・・俺は俺だ。ナボルなんかじゃねえ」


 ヒスバーンは立ち上がって宣言した。


 「俺はナボルのシンコじゃない。俺は親父の意思を受け継いだ。ギルバーン・リューゲンだぞ。誰がそんなところに所属するもんか。俺は俺の意志で、やり遂げる・・・俺と親父の夢を叶えるんだ」


 さらに不敵に笑った。


 「俺の計画も最終段階に入った。この大陸に強烈な陽が登るのか。その全てが・・・ついに彼次第となったんだ。ようやくここまでこぎつけた・・・長かった。俺も彼も・・・長い苦難の旅を過ごしたな。これで、ようやく結末を迎える事になる」


 この大陸の近い将来を予言する。


 「全ては二人の英雄が、直接対決することで始まるのさ。真の英雄の誕生・・・それが次の戦争の結末だ。英雄は一人で十分だ。フュン・メイダルフィアか、ネアル・ビンジャーか。ここからが面白いんだ。次の戦争こそ。それこそがアーリアの歴史に、燦然と輝くことになる戦い。未来永劫。歴史に刻み込まれることになる戦いとなるだろう・・・いや、そういうシナリオになってもらわねば、俺は困る。長年、英雄の誕生を待っていたからな。フハハハハ」


 最後に高笑いをして、会議の幕を閉じた。

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