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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第三章 同士たちよ 希望は捨てるな 太陽の人はここにいる

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第110話 頼もしい楽しい仲間たち

 「タイム君。あ~ん」

 「え? なんで?」

 「はい。あ~ん」

 「ええ。し、しかたないぃ」


 リースレットに食事を提供してもらっているのはタイム。

 恥ずかしい気持ちで一杯だけど、彼女が一生懸命なので、一口分のご飯をもらった。

 

 この二人は、夫婦となっていた。

 

 「リースレット。自分で食べられますから。いいですか。自分でやります」

 「だめ!!! はい。あ~~~ん」

 「はぁ・・・」

 

 ため息をついても、結局はリースレットの為にご飯を食べるタイムである。

  

 「タイム。酒飲もうぜ」


 タイムの右隣の席だったカゲロイは、サブロウの世話が終わったので隣に座る。


 「ええ。いいですよ。何を飲み・・・」

 「あ。カゲちゃん。夫婦の愛のあ~ん攻撃の邪魔しに来たの」

 「は?? 何言ってんだ??? つうかさ。それって攻撃だったのか。まあいいや、邪魔はしねえよ。それはやってていいから、俺がタイムの隣で酒飲んでるだけだ。こいつの隣が一番落ち着くからよ」

 「そうなの。じゃあいいよ」

 「だろ。じゃ、乾杯」


 カゲロイは自分の杯をタイムの杯に合わせた。

 

 「ちょっと。カゲロイ。僕を助けてくださいよ」

 「なにを? 嫁さんに飯食わしてもらっていいじゃねえか。なあ。リアリス」


 カゲロイは自分の右隣にいたリアリスに話しかけた。


 「え? う、うん。いいんじゃない」

 「何ボケッとしてんだ?」

 「うん。あたしさ、どうしたらいいんだろうね。はぁ」

 「おいおい。自信のねえリアリスは気持ち悪いな」

 「うん。あたし。この先、大丈夫かな。弓だって通用しなかったし」

 「ああ。そいつはしょうがねえよ。俺も情報を見たけどさ・・・あれは化け物だろ。ノインだっけ?」

 「うん」

 「じゃあさ・・・」


 カゲロイはリアリスとの話に夢中になった。

 タイムの方を見ていない。

 その間。


 「はい。タイム君。あ~ん」

 「はぁ。誰か止めてください。この子・・・」


 嫁の暴走を止められないのが、タイムという男であった。

 あれだけ人の調整が上手い男でも、お嫁さんの行動を調整できなかったのだ。


 ◇


 「殿下の子!」「アイン!」

 「ん? なんですか。ニール。ルージュ」

 「「これ飲もう」」

 

 アインの前に来たのは双子だった。

 オレンジジュースが入ったコップを持ってきた。


 「いいですよ」

 「はい」「どうぞ」


 アインは、それを受け取った。


 「ええ。ありがとうございます」

 「飲むぞ」「飲むぞ」

 「はい」


 アインがコップの下に手を添えて、飲もうとすると。


 「「駄目だぞ」」

 

 双子が注意した。


 「こうだぞ」「アイン!」


 双子は、右手だけでコップを持って、左手は腰に置いた。


 「ぐびっと飲むのだ」「ごくごくと飲むのだ」

 「え? なぜ?? 飲み方などなんでもいいのでは?」

 「だめだ。これは」「お酒だ」

 「え? お酒なんですか???」

 「「オレンジジュース!!」」

 「ジュースなんでしょ。なんで嘘を?」

 「嘘じゃない」「お酒飲めない」

 「我らお酒飲めない」「その気分味わう」


 双子はお酒が飲めなかった。


 「ああ。なるほどね。それで僕と飲もうってことですね」

 

 アインは双子の考えを理解してくれた。

 この中だと、一緒に飲む相手がいない。

 だから、自分とジュースを飲んで、少しでもお酒を飲んでいる気分を味わいたいのだと理解したのだ。


 「そうだ」「殿下の子」

 「ええ、じゃあ、飲みましょうか」


 理解力のある優しいアインは、双子に付き合ってあげたのだった。


 ◇


 「ゼファー」

 「なんですか。姫」


 レベッカを姫と呼ぶことにしたゼファーは優しく言った。


 「稽古をつけて欲しい」

 「我がですか? いや、我なんかよりも数段強い。ミランダ先生から師事を受けたではないですか」

 「うん。でも槍では訓練していないんだ」

 「・・・ああ、なるほど。姫」

 「はい」


 レベッカの言葉の真意を読んだ。


 「いろいろな武器での訓練をしたいのですね」

 「そう。そうなの。師匠は剣だったから、あとは弓とかさ。色んなの」

 「わかりました。それじゃあ、あとでゼファー軍の所に来てください」

 「いいの」

 「ええ。どうぞ。姫の好きな時に来てください」

 「じゃあ。私とダンの軍で行く」

 「ダン? 軍???」


 ダンと軍が頭で結びつかないゼファーは、戸惑っていた。


 「うん。私作ったんだ。まだ予備兵たちだから、仮の部隊だけどね。レベッカ部隊にしているけど、後で正式名に変えるんだ」

 「そうだったのですね。わかりました。その時が来たら、我に連絡を」

 「うん。ありがと。ゼファー」

 「待っておりますよ」


 ゼファーの言葉を受けて、嬉しそうにしたレベッカは彼の隣にいるダンと一緒にご飯を食べた。


 ◇

 

 この場には、少しだけサナリア組もいた。

 シガーとフィアーナ。それとシュガもである。

 三人と会話になっていたのは、フュンだった。

 シュガは二人に遠慮をして奥にいた。


 「大将。これがラストか」

 「ええ。最後のアーリアの戦いです」

 「そうか。じゃあ、あたしらもラストになんのかな」

 「まあ、そうだな。私は最後となりましょう。フュン様。この戦いが終わったら私はサナリアの将を引退します」

 「え? シガーがですか」

 「ええ。もうだいぶな歳です。若い者に託していきます」

 「何を言ってますか。シガー。あなたはまだお若いですよ」 

 「いえいえ。私も、もう60近いですからね。引退でしょう」

 「・・・んん。でもですよ。サナリアの領主代理はいいのでしょ?」

 「そうですね。それだけは、しばらくやりましょうか。その方がフュン様が助かるでしょうからね」

 「ええ。もちろんです。ですが、残念ですね」

 「ありがとうございます。フュン様」


 シガーは、フュンに頭を下げた。


 「ん。ちょっと待ってくださいね。もしかして、フィアーナも将を終わろうと思っているのですか?」

 

 フィアーナの表情の違いにフュンが気付いた。

 いつもの自信満々な表情じゃなく、落ち着きのある顔をしていた。


 「まあ、そうだな。あたしもだいぶな歳だわな。数えてねえうちにそんな歳か・・・」

 「私とそんなに変わらんからな」

 「あれ。いくつだ。あたし? シガー。わかるか?」

 「私が59だからな。お前は55じゃないか?」

 「そんなになったか。長い時を戦い続けたもんだな・・・そういや、大将。いくつになったんだ」


 自分の年齢も分からないので、フィアーナは当然フュンの年齢も分からなかった。


 「僕は・・・35ですね。いやあ、自分ではそんな歳になったとは思えないですね。なんだか15の時くらいから数を数えてなかったから・・・自分が幾つになったとか。そこまで成長したとか実感がないですね」

 「それは分かるな。あたしもこの歳になっても全然成長とかの実感がねえわ・・・にしても、大将が35か。じゃあちょうど20年前に大将は人質に行ったわけだな」

 「そうですね。皆さんから離れて、故郷を離れて。20年も経ちましたね。でもこうして、20年経ってもお二人と一緒にいられるのは嬉しいですよ。あとはゼクス様もいれば・・・もっと嬉しかったですけどね」


 人質生活なんて、誰にも会えない。故郷にも帰れない。

 そんな寂しいものだと当時は思っていた。

 でもそれが今や誰にでも会える立場になるとは、フュンは自分の立場を不思議に思った。


 「まあな。あの堅物。居ればうるさいけどな」

 「ふっ。たしかに。ゼクスは意外と口うるさいからな」

 「ああ。シガーはしょっちゅう喧嘩をしてたな」

 「何の記憶違いだ。お前の方だろ。お前がいい加減だから、ゼクスとよく喧嘩していただろう」

 「ん? そうだったか」

 「そういう部分がまたゼクスを怒らせる。あいつは、意外と怒った内容を覚えているんだぞ」 

 「ああ、そうだったわ・・・あれが駄目。これが駄目って、何回も怒られんのよ。いつの時の事なのかさ。分からないくらいに前の話もするからよ。あいつ。ネチネチ男なんだよ。まったくよぉ」

 

 二人の思い出話に笑うフュンは、一緒になってゼクスを思い出す。


 「ゼクス様ってそうだったんですか。僕、怒られた記憶がないんですよね」

 「それはフュン様」

 「はい」

 「あなたを大切にしていたからですよ。それにフュン様は、ゼクスを怒らせるようなことをしたことがありません。あなた様は、いつでも礼儀正しく、誰にでも優しい人でありましたから。だから、怒るような場面が無かったのです。こいつのように、いい加減だったら常に怒られていましたよ」

 「んだと。あたしがいい加減だと・・・・・いや、いい加減だよな。めんどくさがりだし」

 「なんだ? 急に」

 「いや、思い返せば、あの堅物とは性格正反対だったなと思ったのよ」

 「今更か」


 二人がすぐに喧嘩になりフュンが笑う。


 「ふふっ。お二人はいつまでも戦友なんですね。仲が良いですね」

 「そうだな。あたしがガキの時から世話になったからな。特にゼクスにはな」

 「私たちと、ゼクスとラルハン。この四人は、若い頃のほとんどを。アハト王と過ごしましたからね」

 「いいですね。戦友がいて」

 

 二人がすぐに切り返す。

 

 「フュン様。あなたにもいるでしょう。ゼファーが」

 「そうだぜ。大将。あんたには、その身ひとつで守ってくれたゼファーがいんだろ。何があっても一緒だったろ?」

 「ええ。そうですね。彼こそ、僕自身よりも大切な人ですよ。僕の命よりも大切です」

 「それはいかんな。あんたよりも大事なものはない。それが従者だからな。次にしてやんな」

 「そうです。フィアーナの言う通りだ。フュン様。自分の次に大切。こう言われた方がゼファーは嬉しいですよ」

 「そうなんですか。それは分からなかったな。ははは」


 従者たるもの。一番大事なのが主の命。

 その主が次に大切なのが従者だと言ってくれた方が嬉しいに決まっている。

 自分が大切にしているものの次が自分だなんてこれほど栄誉なことはないからだ。


 「大将。生きろよ」


 ずっと笑顔だったフィアーナが真剣な表情になる。


 「はい?」

 「いいか。あたしらに何かがあっても、あんただけは絶対に生きなきゃいけねえ。あんたは、この大陸に必要な人だ。いいな。何が何でも生きろ。周りが死んでも、あんただけは死んじゃ駄目だ」

 「そうです。フィアーナの言う通り。あなた様が生きていれば、我々の負けはない。あなた様は生きて、必ず大陸に平和をもたらすのです」

 「何を言って? あなたたちが死ぬような言い方。嫌ですよ。僕は許しませんよ」


 フュンが怒った。

 しかし二人はお構いなしに話す。


 「そんなのは聞かん! いいか。子供じゃなねえんだ。あんたは前へ進め。あたしらは、あんたの背を見ている。追いかけるから、必ず進むんだ」

 「はい。私もその背中を守ってみせます。支えてみせます。フュン様。ここがあなた様の集大成の戦いとなるでしょう。サナリア人はあなたを全力でお支えします」


 無礼講の飲みの席でも、二人は頭を下げた。

 頭が地面に突きそうなくらいに深々としたものだった。


 「お二人とも・・・わかりましたよ。僕は死にませんよ。そのかわり、お二人も生を諦めないでくださいよ。生きて僕と、新しい世界を作りましょう。僕らは同じサナリア人ですからね」

 「はい」「もちろんだ」

 

 二人の配下は、かつてのサナリアの四天王。

 今はフュンの大切な部下である。

 飛翔のフィアーナ。不動のシガー。

 両者はフュンの行く末を見守る。

 偉大なサナリア人である。



 

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