第109話 共に進もう。全員で
帝国歴536年6月14日
帝国の要人たちを玉座の間に集合させたフュンは、皆が整列してから話し出す。
「皆さん、集まってくれてありがとうございますね。今日は普段通りでいきます」
いつもの穏やかなフュンが皆の前に現れた。
会議の風景であるが、雰囲気はフュンの講演のようだった。
「この戦いを展開するにあたって、注意点を先に言います。この戦い。全ては速度が重要です。圧倒的な速度での戦争展開をします。それには皆さんの息が合っていなければなりません。同じタイミングでの行動。これには、自分が立つ以外の戦場が、しっかり動いている。と信じていることが必須です。だから、目の前に仲間がいなくても、そばにいるような感覚で戦いましょう。僕らは絆で繋がっている。目に見えるような繋がりじゃなくて、僕らは魂が皆と繋がっているんだ。そんな感覚で戦いましょう。あとは勝つ! それしかないです。いいですね。アーリアの未来はここにいる皆に掛かっている!」
フュンの言葉に深く頷く仲間たちは、本当に頼もしい仲間たちであった。
「では、先手が僕となります。僕の最初の行動に、敵よりも皆さんの方が惑わされないようにしてくださいよ。いいですね。それで皆さん。その後のそれぞれの行動がこちらです。こちらが皆さんが取るべき作戦となりました」
紙を全員に渡す。
フュンは今回上層部だけじゃなく、その下の大将、中将、少将らにも詳細に作戦を伝える事にした。
「皆さん、今回も難しいです。ですが、皆さんの力を合わせれば、出来ない事は無いと思っています。そして、申し訳ない。皆さんには僕の夢に付き合ってもらいます」
「「???」」
全員が資料から目を離して、フュンを見つめた。
「ここから、平和に暮らせるようにしましょう。ここでは平穏に過ごせるようにしていきましょう。そのために、ここで僕らが踏ん張り、そして次を乗り切るのです。僕らはアーリアに骨を埋めるんです。故郷です。大切な場所なんです。だから。ここからは一つも負けられません。いいですか。僕らが一つでも負けたら、ここは消えます! 皆が大切に思うアーリアの地は、消えてなくなるでしょう」
フュンの想いは、皆の心に伝わっていった。
「共に生きる為。僕らはまず最初に、強大なイーナミア王国に勝たねばなりません。いきますよ。僕らは勝ちます。この電光石火の作戦。ガルナズン帝国の再始動。イーナミアの終曲。アーリアの始まり・・・・アーリア決戦を発動させます」
フュンから始まるのが、二大国英雄戦争最終戦『アーリア決戦』である。
帝国の全ての力が集約された戦争で、そのお手前、お見事と呼ぶべき戦争だ。
フュン。クリス。ミランダが軸になって考えた戦略。
そこに各上層部が意見して練りに練られた作戦。
王国を圧倒するために、帝国が動きだすのである。
「では、僕はこれで。あとは皇帝陛下に頼みます」
「え?」
「はい。どうしました」
「いや、あなたがこういう時は鼓舞するのでは? この作戦あなたのものでしょ?」
「はい。作戦自体はですね。僕が考えてますけど。僕皇帝じゃないですよ。こういう時は皇帝がいい。という事でお願いします。シルヴィア」
「・・・・」
シルヴィアの鋭い眼光がとろけたようなジト目に変わった。
フュンの言い分が正しいことは分かるのだが、でも、本当の所は、自分に仕事を丸投げしたんじゃないのかと怪しんだ。
「仕方ありませんね。あなたには口では敵いませんし」
「それは嘘でしょ。シルヴィアの方が強いですよ」
「どこがですか。全てにおいてあなたの方が上です」
「ええええ」
仕事関係のパワーバランスはフュンでも、夫婦のパワーバランスはシルヴィアの方が上である。
これは嘘偽りなく、証言できると家臣たちは思っていた。
「それでは、私が・・・ガルナズン帝国皇帝シルヴィア・ヘイロー・ヴィセニアから一言言いますね・・・」
シルヴィアが立ち上がった。
自分の持つ剣を掲げる。
「私たちは、他に何も考えず、勝つことだけを考えていきましょう。あとは、失敗しても気にせずに、フュンがなんとかしますからね。だから皆さんも、バシバシ! フュンを頼っていいですよ」
責任丸投げ発言だが、この意見は本当に信頼していないと出来ないし、仲間たちも理解しているから通用する言葉だった。
「それでは、次の時代を切り開くために、フュンが考えた作戦を大事にして、私たちは戦いましょう! ガルナズン帝国の勝利の為に」
「「「「はっ」」」」
皇帝シルヴィアと共に、帝国は前へと進む。
◇
その後、フュンはシルヴィアとウォーカー隊らと共にラメンテに向かった。
人が住んでいない里でも、慰霊碑は綺麗なまま。
誰かがどこかのタイミングで、ここだけは綺麗に掃除しているらしい。
今日の美しさ具合だと、ここ一週間くらいでの掃除だろう。
「久しぶりですね。こちらの里に来るのは」
シルヴィアがしんみりと言った。
里に来るのは数年以上ぶり。
シルヴィアの拠点は、ほぼ帝都となっている。
「そうでしょうね。あなたはもう皇帝ですからね」
「ええ」
献花するためのお花を持っているフュンが言った。
「ササッと報告して、宴会にしようなのさ」
酒好きミランダが、フュンとシルヴィアの肩に腕をかけた。
「待ってくださいよ。ミラ先生。ちゃんと、このお花を置いて、皆さんで拝みましょう。僕らの大切な家族ですよ」
「んなもん。皆で暴れるように酒飲んでりゃいいんだよ。そしたらこいつらも明るく飲んどるわ。あっちでもな」
「はいはい。ミラ先生は第一にお酒が飲みたいだけでしょ」
「バレたか」
「バレバレです。シルヴィア。そちらの花もお願いします。僕が置くみたいに左右対称で」
「ええ。いいですよ」
夫婦で献花する。
共同で作業するのも板についていた。
この準備の間に、ゼファーやミシェルたちは、天幕などを近くに作り始めた。
「よし。これでいいでしょう。皆さん。最初に拝みますよ」
全員が慰霊碑の前に並んだ。
「僕ら、勝ちますよ。ザンカさん。ヒザルスさん。二人のおかげです。あの時、ネアル王を封じ込める事が出来たから、勝てましたよ。ええ」
フュンが先にお礼を言うとシルヴィアも続く。
「そうですね。ザンカ。ヒザルス。私たちのために命をね・・・はい」
「それと僕はザイオンにもシゲマサさんにも感謝を。いつもありがとうございます。今でも見守ってくれているでしょうしね」
二人の後ろでエリナが煙草をふかした。
それに合わせて、サブロウも煙草の煙を空にあげた。
「そうでしょうね。あの二人もきっと私たちを・・・それと、サルトンもです。あなたにも感謝します。あなたのおかげで、里が成長し、だからエリナが里を守れました。里は、十分な役割を果たしましたよ。それに、ライノンまで立派に育ててくれましたね」
後ろで聞いていたライノンは涙を流していた。
「僕ら、夫婦は。ウォーカー隊に感謝しています。そして、今回。皆はいません。ある任務についてもらっています。ここにいる隊長クラスの人だけがいます。ですから、勝って皆でここで飲みましょうね。僕らは家族だ。だから必ず揃ってここに来ますよ。では、また会いましょう」
フュンが黙祷を捧げると、皆が心を込めて黙祷する。
今のウォーカー隊の決意を慰霊碑に捧げたのである。
「んじゃ! 飲むか」
ミランダはとにかく飲みたいらしい。
「しかたありません。どうぞ。ミラ先生。いいですよ」
フュンが許可を出すと、嬉しそうにミランダが飛び跳ねた。
「よっしゃ。じゃあやるぞ。ドカンと飲むんだ。ほれ、誰かいねえか。あたしと勝負だ」
酒樽一つを持って、ミランダが宣言した。
「私がやりましょうか」
「げ?! レヴィは遠慮してください」
「いえいえ。あなたがうるさいので、私が相手になりましょう。どうぞ。こちらに酒樽も用意しました」
レヴィが隣にもう一個酒樽を持ってきた。
「いや、普通は、酒樽から酒を注いでよ。そこから飲み比べなのさ。普通はさ」
「いえいえ。それじゃあ、勝負したことになりません。このまま一気飲みです」
「だから出来ないのさ・・・んなもん。あんたしか出来ねえ~~~」
ミランダの叫びの中で、皆は静かに食事会となったのである。




