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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第三章 同士たちよ 希望は捨てるな 太陽の人はここにいる

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第107話 大陸の未来を守るために、僕は戦う

 「こちらが、潜水艇です」


 ハリソンが紹介してくれた船は、フュンたちにはただの普通の小型船に見えた。

 こんなものがあの大嵐を移動できるものなのかと驚く。

 

 「こ、これが・・・あの海域を? 小さいですね」

 「はい。これは本当の海の底まではいけませんが、潜りながらの航行が可能なのです。あの魔の海域の影響を受けない範囲まで潜り、そこからこちらへ移動するのですよ」

 「なるほど。それならあの嵐を突破できるってわけですね」

 「ええ。そうです。ですが、まだ少し不安がありますね。船体の損傷は多少あったみたいです」

 「そうですか。レガイアを騙す以前に、実際にも完成形に至っていない・・・ということか」


 フュンも興味津々だが、隣のサブロウも興味津々だった。

 海は範囲外だが、未知なるものは幾つになっても嬉しいものである。


 「これの大きなものが潜水艦なんですね」

 「はい。ですが、それはまだ設計図の段階です。試作機もありません」

 「そうですか。これが完成したら段階を踏む。そういうことですか」

 「はい。そういうことです」

 「なるほど。ならば、たしかに六年以上は時間をもらえるかもしれない」

 「そうぞな。これも完璧ではないぞな? ここの横っ腹がへっこんでいるぞ」

 「はい。まだ改良した方がいい点がありますね」


 大型船のサイズまで大きくするにはいくつもの段階を得ないといけないだろう。

 兵器開発もしてきたフュンとサブロウは同じことを思った。


 「ならばまだいけるな。僕らはまだ諦めなくてもいいはずだ」


 その開発直後の段階で攻めて来るとなれば、数十隻の大艦隊でこちらに攻めて来ることはない。

 そこがひとまずの安心を得られる要素だった。


 「それがですね」


 ハリソンは申し訳ないがと、付け加えるように説明した。


 「少ない艦でも、おそらく私たちの大砲とこちらの大砲では精度が違うでしょう。戦力の違いは大きいかと」

 「大砲の精度ですか・・・そうですね」

 「はい。こちらは制御盤によって、大砲を狙い撃ちに出来て、自動で装填もします。連射に近い形で攻撃が出来ます。それで、こちらはどの文明レベルでしょうか」

 「文明レベルですか・・・僕らの大砲は、人の手でですね。精度も人頼みです」 

 「それはまずい。それでは一定の結果が出ない」

 「確かにそうですね。誰が撃っても同じ結果とはなりませんね」

 「そういうことです。こちらは兵士の力が一律なのですよ」

 「しかしですね。そのかわり、僕らは・・・・人の手であろうが・・・・精度は・・・」


 と悩みながら言った後、フュンは突然黙った。


 「ど、どうしました?」


 不安に思うハリソンが聞く。


 「あ、ごめんなさい。少し考えこみました」

 「そうですか」


 ここで、手を振って自分をアピールしてきたのがミュウである。


 「はいはい。みぃも説明したい。したい!」

 「え? 仕方ありません。ミュウどうぞ」


 ハリソンは諦めて、話す権利を譲った。


 「太陽の人。これが、みぃらの武器。銃。ピストルだよ。今はリボルバー式って奴になってる」

 「リボルバー式?」

 「うん。昔はね。一発だけの物だったんだけど、ここが回って、弾が出るの。こんな風に」


 ミュウが近くの木を的にして、弾を放った。

 小規模の爆発音が聞こえると、木に穴が開いた

 

 「な!?・・・これがピストルですか。小型の大砲みたいなものですね」

 「まあ、そんな感じだよね。でもこれでも改良されててね。これの銃の原型が出来たのが百年近く前かな」

 「百年ですか」

 「うん」

 「・・・・それは、この発射口以外の方向に飛んだりはしませんよね」

 「無理だよ。当たり前じゃん」

 「もう一発。同じところに撃ってみてください」

 「いいよ。こんな感じ」


 二度目は驚かない。

 だから、フュンは目を見開いて、弾を見つめる。

 彼女が放った弾は、一発目付近に当たった。


 「まったく同じ場所に当てるのは難しい感じですか」

 「え?」

 「ここズレているんですけど、このさっき通っていった箇所に当てる事は難しい?」

 「うん。それはそうでしょ? 普通は無理だよ」

 「そうですか・・・なるほど。この弾。同じ速度ですか?」

 「え?」

 「いつも同じ速度で、発射されるのですか」

 「う、うん」

 「バラバラにはならない?」

 「そうだよ」

 「なるほど・・・」


 同じ速度で、同じ位置には当てられない。

 だったらフィアーナの弓の方が威力もありながら正確に射貫く。

 それに狩人部隊たちの弓の方が脅威な気がしたのだ。


 そう思ったフュンは何か対策がある気がしてきた。

 戦う時に工夫さえあれば、レガイア国の兵士たちとも戦えそうな気がした。


 「これ、頭を狙って戦うんですか? 弓だとそうするんですけど、出来ますか?」

 「それは無理だと思う」

 「なんでです?」

 「だってね。基本はそうしたいんだけど、動きながらだと照準がブレるよ。狙って撃つなんて難しいんだよ」

 「そうですか・・・」


 じゃあ、それだったらフィアーナの方が強い。

 フュンは自分の自慢の部下たちの武力を信頼した。


 「では、ミュウさんは、兵士の中だとどのくらいの立ち位置です?」

 「立ち位置?」

 「身体能力などは平均? それとも上位?」

 「みぃは、上の方」

 「上ですか」


 フュンは、彼女の体を見た。

 肉付きも背格好も、アーリア大陸に比べると小柄の部類。

 筋肉の量も少なめに見える。

 それでワルベント大陸では上位。

 という事はこの武器を上手く使える人間が評価の対象になると思われるのだ。

 兵士に身体能力が付きものじゃない。

 

 「すみません。タツロウさん」

 「はい」

 「タツロウさんは兵士の中に入ると最上位ですか?」

 「どうでしょう。わかりませんね」

 「では、タツロウさんが、例えば、銃を持っていない警備の人三名くらいと戦うとしたら勝てますか」

 「持ってないなら勝てると思います」

 「そうですか」


 フュンは計算をしていた。

 タツロウの実力は恐らくカゲロイと同程度。

 能力の感じ。見た目の雰囲気。歩行の静けさ。

 色々な角度から考えると、そのくらいの力を持っているだろう。

 こう想定すると、警備兵を十名くらい倒せるのがサブロウとレヴィとなる。


 兵士として強さがあるのはこちらであると思った。


 「地上戦。これにしないと勝ち目なしか。遠距離。大砲合戦。これにしたらダメですね」

 「ん? どうしましたフュンさん? 何か不満でも?」

 「いいえ。不満じゃなくて僕が予想していただけです」

 「どんなものでしょうか?」


 フュンの真剣な様子が気になったらしく、タツロウが聞いてきた。


 「はい。タツロウさんたちは武器の進化。これが起きてしまい。兵士としての強さが無いと思います。こちらとそちらの上位陣が戦うとしたら、圧倒的にこっちが勝つでしょう。僕らが負ける事は無いと断言できます」

 「え? まさか。こちらとの武器の違いは圧倒的なはず・・・」 


 単純な殴り合いになれば確実にこちらが勝つ。

 フュンはその自信があった。


 「ええ。そうです。ですが違いがあってもですよ。僕らは戦乱の世の真っただ中だ。ここ百年以上もの間、互角の戦場を渡り歩いたことで、各兵士たちは強いのです。身体能力がおそらくそちらよりも遥かに上だと思います。だけど、その体を活かすにも、その武器の強さの違いがありすぎる。でもそれさえ封じてしまえば、こちらが勝つ確率があるのですよ。だから、諦めちゃいけない」


 自分たちの実力がある限り、武器性能の差があっても、まだ戦える。


 「ん? 封じる?」

 「はい。今からその武器をこちらが大量生産することは難しいでしょう。それでも作るには作りますよ。でも大量が無理だろうと思います。そこで、僕はこの弾を体にもらっても致命的な事にならない。そんな頑強な軽い防具を作った方が良いと思います。僕らには腕のいい職人がたくさんいますからね。それを大量に作った方が効率が良さそうだ」


 武器生産よりも防具生産の方がいいかもしれない。

 フュンは、あえて身を守る方針を打ち出した。


 「な? それは無駄かと。大砲でやられてしまいますよ」

 「ええ。大砲は危ないと思います。ですが、レガイア国は最初。脅しをかけるのでしょう。そのタイミング。その瞬間ならば、僕らにもチャンスがある」

 「ど、どういうことでしょうか?」

 「脅しをかける。ということは、確実にその姿を見せてから、砲弾を放つのでしょうね・・・たとえば、あちらの海に浮かんでくれるってことですよね。船を僕らに晒すはずですよ」

 「・・・たしかに」

 「ええ、得体の知れない物からの攻撃じゃなく。この船が。今、あなたたちを攻撃しますとアピールしてから攻撃してくるはずだ。だったら、そちらは砲撃の瞬間を見せてくるんですよ。そこがチャンスだ」


 フュンの狙いは攻撃の瞬間。

 それが最大の反撃のチャンスだと思った。


 「モヤモヤ砲。あれを長距離発射できるようにする。サブロウ。この六年でいけますかね」

 「なるほどぞ。海にいる敵に当てるのぞな」

 「そうです。敵の先制攻撃の前に、こちらが先制する。奇襲するんです」


 ここで、その会話にハリソンが加わる。


 「そのモヤモヤ砲がわかりませんが、その砲撃をもらってもワルベント大陸の船は頑丈ですよ。船が壊れるとは思えません」

 「はい。もちろんわかっています。ですが、モヤモヤ砲の真の狙いは別です。船を壊すのが目的ではなく、大砲を撃てなくすることが目的になっています。大砲が使えないと思ってくれれば、敵は上陸しようとするでしょう。それで、そちら側が会話をするか。それとも自慢の銃で攻撃をしてくるか。その二択です。それで、どちらであっても僕らは負けないようにする。そこで相手に話を聞いてもらえるくらいに戦い続けるしかない」

 「な!? そんなことが出来るのですか」

 「ええ。これしかないと思います。こちらの武力をレガイア国に見せた後、僕がそちらの大陸に行きましょう。レガイア国・・・その王にお会いしましょう。僕と、その人の戦いにする! 大陸を守るため。僕はその人と口での戦いをします」


 フュンの目標は、皆で平和に暮らすこと。

 そのためならば、どんな事にでも手を染める考えを持っていた。

 皆が平和になれるなら、自分が犠牲になっても構いはしない。

 でもそれだけの事では、この事態が解決しないのは明らか。

 たった一人の命を差し出した程度では、この大陸を救う事なんて、到底出来ないだろう。


 そして、ここで一つの解決策として、アーリア大陸ごと差し出す手がある。

 それはかつて、自分の父アハトがサナリア国を差し出した手である。

 しかし、この策を取ると、サナリアの時と同様に、この大陸に住む人々の命だけは助かるのだ。

 ただ、それをしてしまえば、この大陸の人々の自由が完全に奪われる。

 ガルナズン帝国とは違うはずの政治体制。

 タツロウの話を聞くに、慈悲もない。

 血も通わない政治をしてきたようだ。

 ガルナズン帝国は、エイナルフの統治下だったから属国に多大な負担がなかった。


 でも、レガイア国は違うだろう。

 このままいけば、アーリア大陸が搾取されるだけの大陸となってしまうのは火を見るよりも明らかだ。

 だったらそれは受けいれてはいけない。

 そんなことを許してしまったら、今までの苦労は水の泡となってしまう。


 だから、フュンはレガイア国に見せる事にしたのだ。

 自分たちの強さを。自分たちの鋼の意志を・・・。


 フュンは、人を馬鹿にするなと言ってやろうと乗り込む気であった。

 突然武力をちらつかせて、支配しようとする。

 そんな傍若無人な振る舞いは絶対に許さない。

 敵がいかに強大であろうとも、立ち向かう事を決めたのである。


 そうなのである。

 フュンは。元人質。元従属国の王子。

 彼が歩んできた人生が、アーリア大陸に訪れた危機と重なっていく。

 フュンのここからの歩みこそが、英雄への道となる。

 彼の人生とは、常に隷従の運命を捻じ曲げていくものだったのだ。

 

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