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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第三章 思いを繋げ 道を進め

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第96話 英雄を見守った男

 「婿殿」

 「はい」

 「余は、婿殿も余の本当の子供だと思っている」

 「え?」 

 「そして余は、婿殿に感謝してもしきれない恩がある。ありがとう。婿殿。そなたのおかげで、余は一人も子供を失わずに済んだ。婿殿がいなければ、余の子らはほとんどが生き残っていないだろう。そうなっていれば、余はこれほど安心して死ねることはなかっただろう。今、この時が、満足いくものとはならなかったであろう」

 「いいえ。それは・・・僕のおかげでは・・」

 「いいや、婿殿のおかげだ。ありがとう」


 ベッドの上に座っているエイナルフは深々と頭を下げた。

 体を折り曲げるのも苦しいはずなのに、丁寧なお辞儀であった。

 でも無理したのか。

 エイナルフは咳き込む。


 「陛下。ご無理をなさらずに」

 「うむ。しかしここは無理をする時。婿殿には多大な恩があるのだ。ここで感謝をしておかないと、皇帝として、義父としてよくない」

 「いえ。それこそ、僕の方が陛下にはよくしてもらえて、嬉しかったですよ。何も後ろ盾もない人質。小さな小さな属国の王子でした。僕は陛下がいなければ、ここで生き残っていないでしょう。陛下のおかげで、僕の今があります」


 フュンの偽らざる気持ち。

 そこにエイナルフは喜んでいる。


 「ふっ。何も変わらない。そんなそなただからこそ、我らヴィセニアの皇族は協力しているのだ。どうかそれを最後まで忘れないでほしい」

 「え?」

 「余らは、そなたを信じている。この帝国を・・この大陸を・・・新たな境地に導く。それがそなただと思っている。だから出来るぞ。婿殿。迷いはあっても、婿殿なら・・・」

 「・・・」


 エイナルフからの応援に素直に返事が出来なかった。

 戦争を何回決意しても迷う心がどこかにある。

 完全な自信が、心の奥底から湧いてこない。

 でも大陸を平和にすることだけは必ずやり遂げたい事なのだ。

 フュンは複雑な思いの渦の中に、全てが沈んでいる状態だった。

 そこをエイナルフに見抜かれていた。

 彼はフュンの心を理解してくれていたのだ。

 だから、ここでエイナルフが掛ける言葉は応援だった。

 彼の言葉が、フュンの心と体に浸透していくようだった。


 「出来る。必ずできるぞ。あのナボルを倒したのだ。そして、この皇帝の家族を救ったのだ。バラバラな家族を一つにまとめた。長らく続いた帝国の内乱の歴史に終止符も打った男なのだ。これほどの難題をこなした男なのだ。何でも出来るに決まっておるのだぞ。これからやろうとしていることもな」

 「・・・そ、そうでしょうか」

 「うむ。自信を持て。前皇帝の・・・このエイナルフがお墨付きをやろう。それに信じている。そなたなら必ずこの大陸に太陽を登らせると・・・太陽の人。フュン・ロベルト・トゥーリーズ殿。あなた様ならば、必ずやこのアーリアに希望を示すことが出来るはずだ」

 「・・・・・はい。やってみせます。陛下」

 「うむ」


 エイナルフ・ヘイロー・ヴィセニアとフュン・メイダルフィア。

 この両者がいなければ、ガルナズン帝国はとっくの昔に崩壊していただろう。

 エイナルフの苦肉の策。

 婚姻外交。そこからの御三家の設立。

 フュンの家族を救う策。

 リナ。ヌロ。そこからのウィルベルの救済。

 これらがなければ、皇帝一家はバラバラなものだったはずだ。

 一人でも死なせていれば、各家が協力関係になるなんて無理だったはずなのだ。


 リナが死んでいたらドルフィン家が無くなり。

 ヌロが死んでいればスクナロの心にわだかまりが生じる。

 ウィルベルが亡くなっていれば、アナベルが協力してくれない。

 サティやアンが、今と同じような立場にはなれない。


 これらを考えれば、フュンがやったことは偉業である。

 人を救い。そして、その人達と協力する。

 バラバラだった家族を、これらの道へと導いただけでも偉業なのだ。

 何せ元々は敵対関係の御三家であったのだから。


 この二人があの時に密約を結んだことが、帝国にとって大きな出来事だったのだ。

 皇帝と婿の密約。

 アーリア戦記でも最も有名な出来事は、ここに来て大きく変化して、未来へと繋がるのである。 

 だから、この二人の関係はアーリア大陸にとって、とても重要な事であった。


 偉大な皇帝。エイナルフ・ヘイロー・ヴィセニア。

 彼が行った帝国の維持政策は、ここに来て花開き、次なる大陸の英雄を生むきっかけとなるのだ。

 エイナルフの思いは、フュン・メイダルフィアに継承される。



 「婿殿」

 「はい。陛下」

 「ん!」

 

 ギロッと睨んだエイナルフは抗議の咳払いをした。

 フュンの『陛下』が気に入らない。


 「わ、わかりました。では失礼します。義父上」

 「うむ。信じておるぞ。婿殿」


 エイナルフの表情が優しくなり微笑んだ。


 「それと、どんなことがあっても、シルヴィアを頼みますぞ」

 「もちろんです。義父上。シルヴィアは僕が守ってみせます」

 「うむ。これで安心だ・・・ありがとう婿殿」


 フュンも笑顔になると、満足そうにエイナルフが頷いた。


 「ああ。そうだ。婿殿。どんなことがあっても、シルヴィアの事を頼むのです。だから、シルヴィアのどんな願いも聞き入れてもらいますぞ」

 「え・・・ん?」

 「婿殿、頼みましたぞ。シルヴィアのこと」

 「はい。それはもちろん。おまかせを」


 二度同じような事を聞いてきたので、フュンは戸惑いながら返事をした。



 こうして、エイナルフは最後の挨拶を終えた。

 この後、彼は二週間後に息を引き取るのである。

 ベルナに見守られて、最後はシルヴィアとフュンのそばで亡くなったとされる。


 エイナルフ・ヘイロー・ヴィセニア。享年77。

 長すぎるわけでもなく短くもない人生である。

 しかしその濃度はどの皇帝よりも濃かっただろう。

 激動の時代の中で生まれ、国のトップの皇帝になれたのに、出来たのは、国を維持する政策だけだった。

 色々な手を尽くしても、上手くいかないと思っていたエイナルフが、最後の最後に出会えた人物。

 それが、アーリア大陸に希望をもたらすことになる英雄フュン・メイダルフィアであった。


 人質であった彼の存在をいち早く認めて、辺境伯、大元帥へと、エイナルフがフュンの事を昇格させなければ、間違いなく帝国は滅んでいただろう。

 だから、この時代にエイナルフが誕生していないといけなかった。

 彼がいるから、フュンがいる。

 彼の存在がフュンの成長に繋がったと言っても過言ではないのだ。 


 フュンを見守り続けた男の最期は、とても晴れやかな気持ちであった。

 なぜなら、この先も英雄の物語が続くことを、最後まで信じていたからである。



―――あとがき―――


お話が短くなったのであとがきを書きます。

ここに他の話を差し込むのはおかしいと思ったので、申し訳ないですが短くなりました。


エイナルフ。

自分としては、主人公以外で、この物語の超重要人物の一人であると思っています。

彼がこの時代にいるといないとでは歴史が大きく違うと思っています。

帝国すらも存在していないと考えています。


IFで物語を考えた場合。

エイナルフがいなかったら、帝国は王家を設立できずに、その王家にするはずだった家々が独立して、少数国家に分裂して、大内乱時代に突入すると思います。

なのでフュンが生きるこの時代まで戦いが続けていたでしょう。

そうなると、王国を統一しているネアルにあっという間に淘汰されて、大陸はネアルの色に染まります。

彼一色の大陸になるでしょう。

しかしそれではいけません。なぜなら・・・。

とまあ、ここらを多く語ると、ここからの話の予想が付くので、切り上げます。


なのでエイナルフの存在は、全てにおいて大きいと思っています。

作中ではあまり多くの情報を出していませんが、偉大な人であったと自分は思っています。

エイナルフの事を少々語ると、彼は父である二代前の皇帝の子で、前皇帝の弟でもあります。

だから、元々はですね。

皇帝として育つわけじゃなかったので、時折垣間見えるフランクな態度は、その頃の名残です。

活発で明るい少年時代から、大混迷となる青年時代を経て、御三家の時代とナボルの時代を生き抜いた男です。


そして、フュンにとってだと、育ての父のような存在でもあると思います。

実の父のアハトは、一概に悪い父だとは断定しません。

でも良き父であったかと言われると、そうですよとは単純には言い切れない部分があります。

彼にはですね。

フュンに対する愛情があっても、そこを素直に表現していませんからね。

実りのある会話が少なかったのもよくなかったでしょう。

この二人は、やはりコミュニケーション不足があります。



ですが、フュンはエイナルフとはかなり会話をしています。

お互いの考えを交換したり、お互いを尊重して、あえて情報を教えなかったりと。

二人は強固な信頼関係があったと思っています。


ガルナズン帝国にエイナルフがいたから、大陸に英雄が誕生した。

皇帝エイナルフと英雄フュンは、この重なる時代に存在しなければなりませんでした。

この二人がアーリア大陸を発展させたのだ。

と思っている作者です。


作者の好きな人物の一人。

エイナルフの最後がこのお話でありました。


長々と失礼しました。

またお会いしましょう。

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