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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第二章 二大国英雄戦争第三戦 ギリダート攻略戦

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第68話 南側は、英雄の頭脳の独壇場

 北側の帝国軍は、三人の将の持ち場のようなものだった。

 シガーの盾兵。フィアーナの弓騎兵。シャーロットの突撃兵。

 この三種の攻防により、王国軍に大損害が出て、撃破数五千以上、負傷数七千以上となり、ネアルが不名誉を背負う形になった。

 

 では、反対の南側はというと。

 シガー部隊の一万五千が、主となり戦っていたのだ。

 攻撃部隊ではない盾部隊。

 やれる事が防御のみとなる。

 だから戦闘の動きは単調になりやすくて、防衛をするに難しい事をしなくてはならない。

 だが、南にはこの男がいた。


 「右から三部隊目のアルトス部隊。右斜めに進みなさい。それで敵は戸惑います」

 

 英雄の頭脳クリス・サイモンである。

 彼の指揮は相手の攻撃の全てを通さない。

 敵は五人の将。

 ルカ。セリナ。ブルー。ゼルド。アスターネ。

 この五人が一万ずつ指揮をして、命令系統が五つある軍を相手に完封していた。

 それぞれの軍に、それぞれの特徴があっても、クリスはその全ての攻撃に対処が出来ていた。


 「左。ノノ部隊。一度引きなさい。盾交換です」


 部隊の入れ替え。戦列の維持。

 クリスの考えは、相手の動きを越えていた。

 未来予知とも言えるほどの戦術の違いがあった。


 「ここで斬ります。盾部隊転進。中央。ブルー軍に強襲です」


 盾部隊の脇から槍が飛び出る。

 前列の兵を斬り倒すと、敵は行動を止めた。


 「・・・あれは盾で殴った方が良さそうだ。中央右。バルトフェリスの部隊が前に出て盾で殴り倒しなさい。それであの軍は止まります。セリナ軍ですね」


 次々と指示を出すクリスは、戦場をコントロールする。

 王国側から見れば、クリスが化け物に見えてしまうはずだ。

 何をしても攻撃が通らない。こちらの攻撃を無効化してくる。

 出て来る感想はそれしかないだろう。

 手を尽くしてみても、全てが封鎖されるのだから、決断が鈍り、命令が滞り、兵士たちの行動も遅くなっていく。

 この指揮の違いだけで、防御側の帝国軍が圧倒したのである。


 ◇


 王国中央軍。ブルー軍。

 

 「なんですか。この軍は? いくら盾が頑丈だと言っても・・・それだけでこれだけの猛攻を防げるのでしょうか」


 ブルーの悩みは、各大将と同じだった。


 王国軍中央右。ゼルド軍。


 「これは・・・なんだこの部隊は??」


 ゼルドも悩み。


 王国軍最右翼。アスターネ軍。


 「ありえないよ。うちらの攻撃が通らないなんて。物量だって出ているはず」


 猛攻を止め続けるのがおかしい。疑問を持つアスターネであった。


 王国軍中央左。セリナ軍。


 「・・・んん? 凄い指揮ですね。どこかが穴にならないか。ちょっかいをかけても、意味がないです」


 穴がない。本当の意味での鉄壁だった。


 王国軍最左翼。ルカ軍。


 「・・・そうか・・・これが、大元帥の片腕。ゼファー・ヒューゼンと共に最大重要人物の一人。クリス・サイモンか・・・頭が良いな。面白いぞ。うん。面白いな」


 ルカだけは、こちらの不利な部分を見ていたのではなく、あちらの優秀な指揮をじっくり眺めていた。

 クリスの指揮は的確。

 精密機械のように繊細でありながらも、攻勢に出る時は強引に前に出て行く。

 このバランスがとても良かった。

 こちらの手を封じながら、更に出せそうな手を潰してくるやり方はお見事である。


 「これは、こっちにあいつが出てこないと駄目だな。あいつに任せないと奴は止められないだろうな・・だから俺の所は、無理しないでおこう」


 ルカは、部下を呼ぶ。


 「おい。前線に攻勢に出るなと言ってきてくれ。俺たちだけは前に出るな。押しても意味ないから、俺たちの部隊は引いて、相手の注意だけ引こう」

 「わかりました。伝えてきます」

 「おう。頼む」


 ルカ軍はここから引いていった。


 ◇


 「最右翼の相手の動きがおかしい。止まりましたね・・・・私のやり方に対して一番有効的な手段だ」


 今のクリスにとって、やられて一番嫌な事は、動きを見せない事だ。

 これが一番こちらの手を難しくする。

 だから敵将の考えの中で、一番良いのはルカであると、クリスはここで認識した。


 「この敵。要注意だ。ルカ・・・名前は、ルカ・ゴードンですね。ここはよく観察しなければなりませんね・・・そうですね。パース」

 「はい」

 「最右翼に連絡をお願いします。相手が来たら盾を出せと。それまでは盾展開をしなくていいとしてください」

 「了解です。いきます」

 「お願いします」


 パースを伝令に使い、クリスは再び戦場を観察し始めた。



 ◇


 「ほう。こいつ・・天才だな・・・俺に対して挑発かよ・・・」


 ルカは、相手の考えを理解して自分の考えをまとめる。


 「俺が動かない事。それが嫌なのはわかる。だからって、わざと隙を作って、こっちを動かそうとするのか。自信がありすぎだぞ。この男・・・」

 

 直接会話をしていないのに、戦場でのやり取りだけで、ルカとクリスは会話をしていた。

 二人とも相手の考えの上を行く考えを出したいと思っている。


 「戦うべきか。それとも、引いていくべきか。この男。俺を試しながら、他と戦闘しているのか。こいつ、どんな頭をしているんだ? 同時にいくつも考えられるのかよ」


 並列に思考をして、全体に指示を出し続ける。

 そんなことが出来るのは化け物しかいない。

 目の前にいるのは怪物。

 ルカは、対面していないのに、クリスが正面にいて圧力をかけてきていると思った。


 「・・・でも引こう。その方が奴は嫌だろう。奴と俺の我慢比べだな。これはさ!」


 ルカとクリスだけが、心理戦に入っていった。

 

 ◇


 「ほう。そうですか。我慢も出来ると・・・ならば」


 クリスは後ろを振り向いた。

 彼は前方だけが見えているわけではない。

 シガーが指揮している方面も見えていたのだ。


 そうクリスだけが、フュンと同じように、この戦場一体を把握しているのだ。


 彼が振り向いた時。

 それはシャーロットが英雄の影ニールとルージュと共に脱出した時である。


 なので、彼女がフュンの元に到着する頃を見計らって、指示を出す。

 

 「パース」

 「はい」

 「もう一度伝令をお願いします。シャーロットをここに。それとニールとルージュもお願いします」

 「はい。行ってきます」


 パースが指令通りにシャーロットを連れてきた。


 「シャーロット」

 「クリス。なんだよ?」

 「あなたには攻撃の許可を出したい」

 「お! どこにだよ」

 「今から、最右翼の盾兵の一番右を開けます」

 「うんだよ」


 クリスは、軍の一番右を指差した。

 彼女にもわかりやすい説明を心掛ける。

 

 「シャーロット。いいですか。そこから斜めに進み。あそこにいる男。見えますか。あの一万の軍の中央にいる男です」


 シャーロットを高台に登らせて、クリスは目線を合わせた。

 

 「おお。うんだよ。あの水色頭の人だよ?」

 「そうです。あの人にちょっかい出してください。いいですか。攻撃をして、倒せそうなら良し。駄目そうなら、三分。戦ってから引いてください。それだけでいいです」

 「了解だよ。任せてだよ」

 「はい。お願いします。ではパースに途中までついていってください」

 「はいだよ」


 クリスは、次にパースに体を向けた。


 「パース。シャーロットと共に進軍を、それで盾兵への指示をあなたが出してください」

 「わかりました。やりましょう」

 「それが出来たらあなたはこちらに戻ってください。お願いします」


 二人への指示が終わると双子が出てきた。


 「クリス」「我らは?」

 「あなたたちは、そのままシャーロットの護衛をしてください。影よりも、そのまま姿を晒しての護衛でいいです。敵との戦闘中。彼女を護衛してください。引く際もあなたたちが暴れていいです」

 「「わかった。ついていく」」

 「ええ、お願いします」

 「「りょーかいだ」」


 クリスの命令。

 それはフュンと同様なのだ。

 だがしかし、この力は昔よりも更に強化されていた。

 それは、フュンがこの戦場にいても適用されるくらいに、同じ権限なのだ。

 フュンとしてはむしろ彼に全権を委任してもいいくらいだと思っているのだが、それを固辞しているのがクリス自身である。

 

 クリスにとってのフュン。

 それは神に近しい存在で、絶対であるのだ。

 自分の上にフュンがいることで、安心を得ている。

 根っからの参謀なのである。

 

 「では、あなたはどう考えるでしょう。こちらはフュン様の隠し玉で攻撃しますがね・・・あなたはどうするのでしょうか。いつまでも待機は出来ませんぞ。ルカ殿!」


 クリスはルカに対して、行動で語り掛けるのであった。

 



 

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