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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第三部へ繋がる章 新たな時代の為に

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幕間 新たな時代へ向けて、ナボルのその後

 王国の某所。


 「どうするんだ。セロ」

 「・・・・」

 「シエテは?」

 「それは・・・・」

 「毎年。こうなるようだぞ。この大陸はな」


 呆れている様子を見せるシンコが腕組みをしながら言っていた。

 この時のナボルはすでに終わっていたのだ。 

 誰もいない。幹部もいない。部下もいない。

 それなのに、青い煙は毎年出て来る。

 それも帝都だけならばまだ良かった。

 帝国全土だったらまだ許せる範囲。

 しかしこの煙は、王国にも焚かれていて、アーリア全土が青く染まる瞬間が毎年訪れる。

 という事は、未来永劫部下を作ろうが、手足となる駒が消えていく。

 組織運営など到底できるものではない。

 

 「俺はもう無理だと思うけど。お前らはまだ何かをしたいのか? 頑張る気か?」

 「私は・・・やらねばならないことが・・・」


 セロの意気消沈している姿は珍しい。

 そんな彼に対してシンコは遠慮なく悠々と質問をしていた。


 「お前。大陸統一が目標だったよな」

 「ああ」

 「お前もか?」

 「そうです」


 シンコは二人に聞いていた。


 「なんでだ?・・・ナボルの目標は帝国に恨みを晴らすことだろ?」

 「・・・・」


 セロは答えなかった。


 「つうかさ。お前らよ。俺たちに言わなかったことがあるよな」

 「ん?」

 「お前とお前。セロとシエテ。お前ら・・・・」


 シンコは今までの疑問をぶつけた。


 「この大陸の人間じゃねえよな」

 「「!?!?!?!?」」


 二人が驚きのあまりのけ反る。

 椅子の背もたれに体がついた。

 

 「お前・・・・本名はトゥーリーズだな」

 「な!?」

 「そっちは分からないけど。従者か何かだな」

 「え・・・」


 セロがトゥーリーズ。シエテが謎。

 それがシンコの今までナボルとして所属した際の疑問の答えだった。


 「ここからは俺の推測。お前らは二世か。せいぜい三世。誰かの意思を継いだ人間に見える」

 「「・・・」」

 

 シンコの頭のキレは正解を導いているらしい。

 二人は黙った。


 「ナボルの目的が大陸制覇になっている事。帝国の最も皇帝に近い人物の皇子を誑かした事。それに王国にもナボルの手を入れた事。そしてお前らがトゥーリーズに関係している事。これらから推測するとだな・・・」


 シンコは二人の顔を見てから答えた。


 「お前の家。あっちの大陸で完全に追われたんだな。負けが確定した家になったという事だ。あっちの大陸から逃げるためにここで足場を作るのか。それとも、国も追われていて、住む場所もないからこっちに逃げて来てるのか。どっちにしても向こうで劣勢になったんじゃないのか。最後の望みでこちらに来た人間。それともその子供。そんな感じじゃないのか。再起を図りたいとかよ。どうなんだお前ら?」

 「「・・・・」」


 まだ話さなかった。


 「ナボルの活動が活発になったのが、王貴戦争の前。ちょうどエイナルフの治世が始まる前。その頃はまだ帝国の内乱を煽るだけの小さな組織だった。そこから徐々に力を着けて、俺が入る前には巨大な組織だ。お前らもその頃の幹部だ・・・だから、二世か三世だと思うんだよな。大きくなるには、一世代じゃ無理だ。ここまで急に大きくなるわけがない」

 「「・・・・」」 


 まだ話さない。


 「それでどうするんだ。これでお前らの野望は不可能だぞ」

 

 いい加減に話さない二人に、シンコはため息をついた。

 

 「はぁ。黙っていてもしょうがないだろ。自分が優位の時だけお喋りな奴か。お前らは?」


 シンコの言葉が、二人の耳に届いていないようだ。


 「じゃあ、ここから唯一取れる手を教えてやるか。阿呆共」

 「なに?」

 「今、聞こえたのかよ」 

 「それは何だ。早く言え」

 「都合のいい耳だぜ」


 自分に都合のいい時だけ聞こえるようだ。


 「しゃあねえ。そいつはこれだろ。お前らが王国に入り込むしかないぜ」

 「王国だと」

 「ああ。俺は今、王国にいるからよ。俺からお前らを推薦してやる。王国に入るしかない」

 「・・・それでどうやって統一するのだ。機会がないぞ」

 「そう。だから、王国で活躍して帝国を倒した後に、ネアルを倒せばいいだろ。お前がそれくらい偉くなれば、王となってもおかしくない。ネアルは傲慢だとか言って罪を着せればいいんだよ」

 「・・・なるほど。そうやって建国するのだな。アーリア大陸に新たな国をだ・・・なるほど」


 納得したセロは一人で頷いていると、シエテが不満を述べる。


 「急にあなたが有意義な提案をするのはおかしいです。なぜですか」

 「俺が? 急だと?」

 「ええ。そうです。いつも眠そうにするあなたが起きているのも不思議です」

 「ああ。そいつは、お前らがこっちに来たからだろ。寝る時間がある。そっちだと寝る時間はない。単純な話だ。お前だってこっちに来るのに苦労しただろ?」

 「え? ま、まあ」

 「そうだろ。だから今は、体がきつくないってだけよ」

 

 シンコは、もっともらしい意見を述べてシエテを説得してから。

 

 「あと、俺はトゥーリーズを見守らないとな。使命のようなものだ・・・」


 最後に誰にも聞こえない声で呟いた。


 「それで、どうすんだ。お前ら。やるなら早くした方がいいぞ。停戦期間の間に出世しないといけない。功を上げないとな。それまでの間によ」

 「そうだな。それしかないか」

 「ええ。そうみたい」

 「じゃあ、お前らの名前。なんだよ。俺、知らねえんだけど」

 「私は、ノイン・トゥーリーズだ」

 「やっぱな。そっちは?」

 「私は、セリナ・スカイです」

 「そうか。じゃあ、名前はそのままでいくか。トゥーリーズとスカイだけは直してな。あとは王国で仕事しな。真っ向勝負よ。今からやるのはな。裏でコソコソしても、もう太陽の人には勝てん。だったら表で彼に勝つしかないぞ。つうか勝ってみろよ。ノイン」

 「そうするか。全力で奴を倒すしかない」

 

 こうして、ナボルという組織は消えた。

 だが、ナボルの幹部はここから表に出てくる。

 逆に彼らは闇から光へとなってフュンに挑戦してくるのである。

 

 フュンの新たな戦いの舞台に、彼らもやって来るのだ。



 

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