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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第六章 新たなる時代の幕開けへ

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第271話 予定をお知らせします

 地べたに座る三人は汗だくになって息が上がっていた。


 「強いだよ。この二人・・・」

 「我もまだまだでした」

 「あい」



 激しい乱取りで三人は同時に戦っていた。

 ゼファーの槍が唸っても、マルベルのしなやかな槍が受け流していく。

 マルベルの回転の良い槍が走っても、シャーロットの柔らかい剣技で受け流していく。

 シャーロットの連続袈裟切りが進んでいっても、ゼファーの剛腕が叩き落としていく。

 三者三様の三人の戦い方は、一ミリのズレもなく互角だった。


 「拙者。気持ちよかっただよ。久しぶりに全力出しても倒せない相手がいただよ」

 「む・・・我もそれだけは同感ですな・・・」

 「ん!」


 返事の加減で、マルベルの言いたいことが分かってきた二人は、やはり共通の武人という意識があるのだろう。

 会話が成り立っていく。


 「マルベル殿の槍は、しなやかですな。それは、どのように手に持っているのですか」

 「あい」

 「おお。この握りで良く落としませんな。これだと手から落ちてしまうのでは?」


 マルベルは思った以上に槍を握り込んでいなかった。

 軽く握って、槍を操っていた。


 「ん・・」

 「なるほど……そちらの方が横の動きに強いと」

 「あい」

 「しかし。それだと縦に振るのは難しいのでは」

 「んん・・」

 「あ、なるほど。振る前に握りを変更するのですね」

 「あい」

 

 とまあ会話が成り立つ。


 「ん!」


 マルベルがシャーロットの剣を指さした。


 「拙者の剣? 我流だよ。教えてくれる人がいなかっただよ」

 「あい」

 「あなたも!? なんだ、一緒だよ~。ニャハハハ」

 

 とこちらも会話が成り立つ。

 そこに、フュンが帰ってきた。


 「それじゃあ、いきますよ。二人とも。帝都に戻ります」

 「はっ」

 「は~いだよ~」

 

 そこからフュンはわざわざマルベルに挨拶をする。

 別に階級からいえば無視してもいいのに、彼はそういう所も律儀なのだ。


 「マルベルさん。ありがとうございました。二人の世話は大変だったでしょう」

 「んん・・」

 「そうですか。大丈夫だと。でもありがとうございますね。それではまた会いましょうね~。またですよ」

 「はい」


 とまあなぜかこちらのフュンも会話が成り立っていた。

 

 ◇


 馬でマールダ平原を東に移動して、帝都を目指す三人。

 馬上でも会話はずっと続いていた。


 「殿下。ここからどうなさるので?」

 「そうですね。まずは、シャーロットをミラ先生に預けますね。とりあえず今、修行中の三人とサナさんの所に入れてもらいましょう。全員女性たちなので、ちょうどいいです。それと、この人は満遍なく基礎をやった方がいいでしょうからね。ラメンテがいいかもしれない。そこから僕の予想だと、とりあえずフィアーナの下に置くのが良さそうだ。彼女の経験を吸収してもらうのが一番かな」 

 「フィアーナ様ですか・・・なんだかフィアーナ様が大変になる気が・・・」

 「大丈夫。気が合うと思いますよ。直感系の子ですからね。直感系の頂点の彼女なら相性がいいはずだ。それと、この人の基本はあなたと一緒ですよ」

 「え!? 我がですか。こいつと一緒。嫌ですな」 

 「ハハハ。でもあなたとほぼ同じです」

 「そんな馬鹿な!?」


 ガックリしているゼファーの隣で、シャーロットは暢気に話しかけてきた。


 「直感系っというのはなんだよ? どういうことだよ?」

 「ええ。あなたは勘で動くタイプと見た。理性系統じゃありません。頭ではなく、体。感覚が物を言うタイプです。戦い方からしてそうです」

 「そうなのだよ? よく分からないのだよ」

 「そうですか。まあ、ここらは修行をしてみないと分かりませんね」


 修行という言葉を聞いて、嬉しそうな顔のシャーロット。

 今まで一人で訓練をしていたために誰かに教わったことがなかったからだ。


 「殿下。他にもいるのですか。こいつと似ているタイプが?」

 「ええ。いますよ。勘を大切にする直感型は、フィアーナ。ゼファー。ハルク。デュランダルですかね。ここら辺が勘が冴えるタイプです。まあ、デュランダルは少し違うかもしれません。彼は完璧な将ですからね。先生に似ているかもしれません。そして、そこから理性系。思考型が、クリス。タイム。アイス。ここら辺ですね」

 「殿下。足りないのでは。まだまだ将はいますぞ」

 「ええ。います。ですが、これら以外は中間ですね。ミラ先生やエリナ。ミシェル。リアリス。ヒザルス。スクナロ様。ザンカ。彼らは両方を兼ね備えた将です。バランス型ですね」

 「なるほど。殿下は?」

 「僕は理性寄りです。どちらかというとバランス型です」

 「そうでしたか。殿下も直感で戦うのかと」

 「そうですね。よく考えてみれば、そんな時もあります。僕にも父上の血が流れているのでしょうね。やっぱりね。サナリアの英雄アハトの息子ですからね。今が戦えると判断する。無謀な面もありますからね。ハハハ」

 「そうですか・・・・そうですよね。ええ」


 ゼファーは朗らかに笑うフュンを見て安心した。

 自身が父となったことで、フュンは改めて自分の父を認めたのだ。

 彼にとって、レベッカの誕生は重要な事だった。

 彼女が生まれたことで、たぶん父を許すことにも繋がっているのだろうと、ゼファーはこの時思ったのだ。


 「それじゃあ、とりあえずシャーロットを預けてから……次はササラに行きますね」

 「はい!」


 ◇


 帝都に戻ったフュンは、シャーロットの事をミランダに任せた。


 「わかったなのさ。リエスタとアイス、リースレットの中にぶち込むわ」

 「はい。お願いします。彼女らと一緒に鍛えれば大丈夫でしょう」

 「おう。まかせとけ」


 修行方針は一任したが、中々面白いのを見つけたなと、楽しそうにしていたので、おそらくシャーロットは苦労するのだろうとフュンは思いながらササラに向かった。

 

 彼がササラに来た目的は・・・。


 「ピカナさん!」

 「あ。フュン君!!!」


 いつもと変わらないピカナはニコニコしながら近づいてきた。


 「いやぁ。久しぶりですね」

 「はい。ピカナさんもお元気で」

 「ええ。元気ですよぉ」


 二人で都市を歩いて、お屋敷を目指す。

 ここの都市の住民は相変わらず領主に気軽に挨拶をしている。

 人気の高い男性であった。

 ピカナが、住民に手を振りながら会話が続く。

 

 「ピカナさん。これから無茶を言うかもしれませんがいいですかね」

 「いいですよ。頑張ります。あははは」


 何も考えていなさそうな笑い声も相変わらずである。

 二人でお屋敷に入り、会議をする。


 「ピカナさん。僕、これをやりたいんですよ。そのためにササラ軍全てを海軍にしたいんです。出来ますでしょうか?」

 「どれどれ。どんな計画ですか?」


 ピカナはフュンからもらった資料を読んだ。

 ゆっくり丁寧に読む姿が彼の性格を表していた。


 「なるほどね・・・ここが海軍にとって重要拠点になるのですね。ヴァンとララを使いたいと」

 「はい。そうです。二人はいますか?」

 「はいはい。いますよぉ。ちょうど帰って来てます。こちらに呼びますか?」

 「お願いします」

 「それじゃあ、呼び出しを頼みましょう。シールドさ~~~ん」


 と執事の人を呼ぶピカナは、人の呼び方一つでもほのぼのとしていた。

 二十分後。


 「兄貴!」

 「フュン様」

 

 ヴァンは嬉しそうにして近づいて、ララは優雅にフュンの前に立った。

 綺麗なお辞儀を披露すると。


 「フュン様。もう少し私とも会ってくださいませんかね。酷いですよ。あちこち移動ばかりで。あなた様の場所じゃない所ですし・・・」

 「ええ。ごめんなさいね。僕の得意分野とは違っていて、君たちじゃないと出来ない仕事ばかりを押し付けてしまい。ごめんなさい」

 「い。いえ。責めているわけではなくて・・・会いたいのです」

 

 ララが焦っていると。


 「兄貴。こいつのはただの我儘っすよ。こんなの聞かなくてもいいんですよ。それで、兄貴がなんて呼んでくれたのか・・・いてっ」

 

 ヴァンがフュンの方をフォローするが、それで彼女の苛立ちを買ったのか。

 ララのヒールに足を踏まれた。


 「うるさいですわ。ヴァン。フュン様と私の会話を邪魔するんじゃないのよ」 

 「いてえええええ」


 だんだん痛みが増している模様。

 

 「こらこら。ララ! ヴァンをイジメちゃ駄目ですよ。海軍の隊長さんですからね」

 「え。ええ。わかりました・・・フュン様がそうおっしゃるのなら・・・我慢します」


 『なんだよこいつ。兄貴の時だけ素直だぞ』

 と思うヴァンは自分の足を労わりながら、横目で彼女を見た。


 「それでは、君たちには、新たな任務を言い渡します」

 「「は、はい」」


 フュンが資料を渡す。


 「こちらですよ。はい。読んでくださいね」


 二人が紙を受け取ると気持ちも伝える。


 「あなたたちが次にやる事です。軍の他にこれを学んでおいて欲しい。予算はピカナさんに渡すので、市長さんと協力して、この港はアーリアで一番の港になりましょうね。お願いしますよ。二人とも! 頼りにしてます」

 「「はっ。閣下!」」


 ピカナ海軍。

 これがのちに、ガルナズン帝国の海軍の頂点に立つことになり、そしてアーリアで一番の海軍となるのであった。

 その長は元海賊のヴァン。

 彼は、アーリア海の覇者になる男である。


 

 

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