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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第六章 帝国を守護する者たちから

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第255話 王国と帝国の停戦から、何かが始まる

 帝国歴524年7月15日。

 フュンの仲介により両軍が停戦となる。

 王国軍をアージス平原の西側。帝国軍をアージス平原の東側に並べて、両軍の大将だけが中央に集まり、その仲介役としてフュンがいた。

 この三者の並びによって行われた停戦会談の事を、世に言うアージス会談と呼ぶ。

 話し合った人間が、ネアルとシルヴィアの二人だけと書き記されたために、フュンの名がそこに刻まれることがなかった。

 なので、いつもの如く、この時期のフュンは歴史の裏側にいた人間となっていた。

 暗躍。

 そう言われる所以はここにある。

 


 「お二人には、これに調印して欲しいです。この紙が重要ですよ。約束を破ったら祟りが来るかもしれないですよ。ハハハハ」


 フュンが二枚の紙を用意していた。

 帝国側には、イーナミア産の紙。

 王国側には、ガルナズン産の紙を用意して、互いに約束を守ってもらうための配慮がなされたものである。

 ちなみにイーナミア産の紙は、ジークからもらったものである。


 「ふっ。それが本来の貴殿か」

 「え?」

 「ずいぶんと軽い・・・風が吹けば飛んでいきそうだ。そんな男なのだな」


 ネアルは、初めて普段のフュンを見た。

 ふわふわとした印象で、軽すぎて、チョンと小突いただけで、遠くまで飛んでいきそうだと思った。


 「まあ。このスタイルが僕ですね。肩の力を常に入れるのは疲れますからね。ね。シルヴィア」 

 「そうですね。でもいつもそんなあなたに驚かされます。はぁ、少々疲れますね。事前に言ってもらわないと・・・困りますね」

 「そうですか。でも面白いでしょ。突然結果が変わるのもね。人生は突然なんですよ。僕の人生。突然だらけでしたからね」


 フュンはまだ笑顔だった。


 「・・・はぁ。まあ、仕方ないですね。あなたですからね。諦めます」


 夫婦でも我慢する部分は当然ある。

 もう少し事前の相談が欲しい所であるシルヴィアであった。


 「ふっ。戦姫殿もご苦労されていると」

 「そうですね。あなたも突然のことに驚いたのではありませんか?」

 「ええ。驚きましたとも。陣に戻ったらご主人がいましたからね」

 「それは大変だ。ご迷惑をおかけしました。ネアル王子」


 シルヴィアが頭を下げて謝る。 

 夫の不法侵入の罪の事である。


 「いえいえ。それで有意義な話し合いになりましたからね。ここからはやらねばならないことがあります。フュン殿。戦姫殿にもお知らせするのですかな」

 「ええ。例の件以外は話します。そちらも基本はブルー殿のみでしょう。こちらも基本はタイローのみでいきます。あなたと条件は同じじゃないといけません。せめて計画の着手の間までは」

 「・・・なるほど。律儀な方だ。よろしい。では調印しましょう。どちらに書けばよろしいでしょうか」

 「はい。イーナミアの紙にネアル殿。ガルナズンの紙にシルヴィア殿が。これで互いのサインを交換して、互いが持つことで、約束を守りましょう」

 「わかりました」「ええ。そうしましょう」


 二人は頷いた。

 互いの紙にサインをして、これにて停戦が完成。

 この先五年は、戦争をしない。

 非常に重要な条約である。

 アージス会談によって、結ばれた停戦条約である。


 王国側は、イーナミア王国の実質の支配者である王子だからこそ、ネアルの判断だけで停戦ができた。

 それに対して帝国側はシルヴィアに実質の支配権がないのに勝手にやってしまった停戦条約となる。

 だがしかし、この条約に文句を言う者は軍部にはいない。

 長い戦いを終わらせることになるからだ。

 ターク家当主のスクナロの許可も下りるだろうし。

 皇帝エイナルフの許可も下りる。

 なぜなら皇帝の代理としてフュンがそばにいるからだ。

 だから、協議で物事を決めるガルナズン帝国でも、多数決勝利が確定しているためにこの停戦も無事に調印できるのであった。

 その計算も当然フュンがしている。

 決して行き当たりばったりで考えた事ではないのだが、そんな風に感じてしまうのは、フュンの行動があまりにも突然であるからだ。


 「さて、これでこちらもそちらも準備にかかりますでしょ。あとは来年です。お願いしますね。ネアル王子」

 「そうですね。下準備が大変そうだ」

 「ええ。それで、ラーゼからルコットにこちらの研究員を派遣しますので、その研究員と共に作成をしてほしいですね。いいでしょうか」

 「それは助かりますね。それで、その方をババンにお連れしてもよろしいでしょうか」

 「ババン・・・ああ、あそこですね。わかりました。あとで返してくださいよ」

 「ええ。もちろんですよ。内密にするにはあそこがちょうど良くてですね」

 「なるほど。新しくした場所の方が新しい人が来てもおかしくない。ということですか」

 「そうです。ルコットでは、目立ちますから」

 

 ババンは以前の兄弟戦争の際に、少し都市を破壊してしまった場所であるために、都市を作り替えた経緯がある。

 今では立派な第二都市と言えるほどに発展した都市となった。


 「では、文をすぐにラーゼから送りますので、いつ行くかはこちらから書きます」

 「ありがたい。その調整はブルーにやらせます」

 「はい。お願いします」


 フュンは頭を下げると、ネアルも軽く頭を下げた。


 「それではやることをやらないといけませんな。こちらもそのための兵を用意しつつ、その計画を実行段階に持っていかないといけません」

 「ええ。そうです。あと数カ月で準備をしますよ。ネアル王子。そちらを頼みますね。おまかせします」

 「いいでしょう。王国の方は任せてほしい」

 「ええ、非常に助かります。それでは、停戦の件と、例の件。お願いします」

 「はい。そちらも大変でしょうけど、戦争の準備も整えてもらえると嬉しいですな」


 ネアルは不敵に笑って言う。


 「あなたとは万全な状態で戦いたい。誰かを気にしながらの戦いは嫌ですからな。我が宿敵なのですからね」

 「ええ。もちろんです。こちらも完璧な状態であなたと戦いますよ。帝国を最強の帝国にして、あなたに挑みたいと思います。私たちが作り上げる真の帝国の力を、あなたにお見せしましょう。強いですよ。覚悟しておいてください」


 フュンは含んだ笑みを浮かべた。


 「ふっ。楽しみだ。ここから楽しいことがあると思って、退屈な日々を明るく過ごすとしよう。ではまたお会いしましょう。今度は敵でありますぞ」

 「ええ。もちろん。次回は敵であります」


 英雄同士の駆け引きが終わり、二人は互いの軍に戻っていく。


 シルヴィアと共にこの場を後にするフュンの道中の会話。


 「フュン。何を企んでいるです?」

 「え? 企む?」

 「しらばっくれても無駄ですよ。分かってますよ。何かする気なのですよね」

 「まあ、そうですね。やらねばならないことがあります。根幹の部分はまだ言えませんが、そこに至るまでの流れはあなたに言えます。僕の事情も後で説明しましょう。帝国に帰る間にでもお話ししましょう」

 「いいのですね。ついに私に話しても」

 「いいです。あなたの協力が僕の強力な援護ですから」

 「なら、早く話して欲しい物です。私を信頼して欲しいですよ」

 「奥さんですから、とっても信頼しているのですよ」

 「駄目です。黙っていたら駄目。言葉で言わないと伝わらないです」

 「ええ。全くその通りだ。でも言えなかったのです。僕の話は、話すだけでも大変危険でありますからね」


 フュンはこの後、帝都に帰る道中で説明をした。

 途中。スクナロたちと別れたり、ハスラの軍やササラの軍、ウォーカー隊たちとも別れて、全部がいなくなった後にサナリア組と帰ることになり、その間も説明は続いていた。


 そして。


 「それで、こちらが僕の太陽の戦士です」

 「戦士?」

 「ええ。出てきてください。皆さん」

 「「はい」」

 

 レヴィを含めて太陽の戦士が五名。光と共に出現するとシルヴィアが驚く。

 

 「な!? ど、どこに?」

 「ずっといましたよ。これが僕の大切な戦士たち。レヴィさん。ママリー。ハル。リッカ。ナッシュの他にもいます。ラインハルト。ジーヴァ。エマンド。ジスター。八人が僕の太陽の戦士です」

 「は、はぁ。そうですか。お強いのですね。この方たちは普通じゃない」

 「ええ。まあね。特殊な訓練を積んでいますから。サブロウの影とは別の力を持っていますよ」

 「そうですか」

 「今の戦士たちは、護衛をしています。レベッカも、ニールたちが守ってくれていますが、おそらく、ジスターとエマンドも守ってくれているでしょう。特にジスターは強いですよ。あなたも勝てないかもしれません」

 「私がですか! それは対戦してみないと」

 「ふふ。負けず嫌いですね。ミラ先生でも勝つのに苦労するのですよ」

 「え? 先生が・・・それは強者だ。一度戦わねば」

 

 シルヴィアはまだ見ぬ強者を求めていた。


 「では、あとは会議ですね。戦後会議です」


 帝都到着と同時にフュンがシルヴィアに言った。


 「でもまあ、その前に休みましょう」

 「そうです。長い戦いでした・・・しばらくはダーレーの屋敷で休みましょう」

 「そうしましょう。フュンもお疲れでしょう。色々戦場を移動したようですし」

 「ええ。そうですね」


 フュンとシルヴィアは、久しぶりの帝都の屋敷で休み、次の会議に備えたのであった。



 

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