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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第五章 ラーゼ粛清事件 太陽と新たな王の激闘

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第241話 ラーゼ防衛戦争Ⅳ 限界

 一日目の夕方。

 各戦場の初撃が終わった後。

 南門前にて。


 「強い……思った以上。いや強すぎる……これがラーゼの力ですか。これが過去の我々が恐れたロベルトの民の力」


 スカーレットは、城壁の上で暴れるタイローたちを見た。

 素手であるのに、相手を圧倒する攻撃力はバルナガン軍にはない。

 稀有な能力だ。 

 装備も軽装だから速度が違う。兵士の装いじゃない異質の兵。

 今までナボルが、ラーゼに手を出さなかった理由がここにあるのだとスカーレットは、そう感じ始めた。


 「今日は引きましょう。ニース。撤退の合図を出しなさい」

 「わかりました」


 スカーレットの指示を受けたニースハーレットが、五つの鐘を鳴らした。

 梯子を使って登ろうとしていた者たちが撤退していく。


 戦った軍を陣に迎え入れる準備の最中。

 スカーレットはとある幹部との相談に入った。

 鐘の音共に現れたのはイルカルである。


 「イルカル。どうしますか。情報は? 分析班でしょ。あなたはセイスですよね」

 「・・・ああ・・・まあそうだけど」


 話が途中で途切れた。


 「・・・んで・・・・ウナ・・・なんだっけ」

 「ウナじゃありません。今は表にいます」

 「・・・ああ・・・そうだった・・・・お前、なんだっけ名前」

 「スカーレットです!」

 「・・・ああ・・・そうだった」

 「はぁ。なんでこの人が情報分析なのですか。ナボルの組織はどうなっているのですか」


 スカーレットは苛立った。


 「・・・知らない・・・セロに聞いてくれ」

 「聞けません! 彼はどこにいるのです? ああそれはいいとして。私たちはどのように戦えばいいですか」 

 「・・・知らない・・・シンコに聞いてくれ」

 「無理ですよ。彼は王国にいます!」

 「・・・そうか・・・じゃあトレスがいいんじゃないのか」

 「だから! 彼もいません!! 今は帝都にいます!!!」

 「・・・そうだったか」

 「はぁ。どうして私が今回、あなたとやらなばならないのでしょう。疲れます」

 「・・・そうだよね・・・疲れる」

 「ええ。そうですよ。では情報を」

 「うん・・・」


 と言った後。

 イルカルはもの凄い早口になった。


 「まず、東は大砲を失った。相手の火炎瓶だそうだ。南はお前が見た通り。タイローに邪魔をされた。西は攻撃に出ていない。囲んでいるだけにとどめているが、下の通路を利用して影を送り込んだ。でも太陽の戦士に邪魔されている。全滅だ。八百は送り込んだが、五名の戦士に追い払われた」

 「五名!?」

 「ああ。そうだ。それが太陽の戦士だ。奴らは強い。間違いなくな」


 五対八百の戦いで、負けるなどありえない。

 ナボルの戦闘部門の幹部ウナことスカーレットが驚いた。

 相手は太陽の戦士。

 油断はするなと事前に言われていたが、まさかここまでの力の持ち主だとは思わなかったのだ。


 「・・・それで・・・どうする」

 「はぁ。なぜあなたは情報を語る時だけ早口なのでしょう。他には興味がありませんか」

 「・・・興味の・・・問題じゃない・・・情報は早く伝えないといけないのだ」


 ナボルの情報担当セイスことイルカルは、変人である。

 普段の会話は途切れるのだが、情報を伝える事と収集する時だけは早口になる。


 「時間をかけずにいって、出来たらドスと合流して帝都を落としたいですわね」

 「・・・ドスか・・・時間をかけずに行くと・・・兵損するぞ」

 「そうですか? では我々だけで落とせますか」

 「・・・ああ。落とせはする。今攻城兵器を取り寄せてる・・・しかし、送るまでに三日だ。それを待たずして攻めるとなると梯子のみで一気に倒す・・・となると、兵士が倒れるのを込みでいかないといけない。俺の予想だと・・・半分は失う。確実に・・・」

 「半分!? 相手は一万ですよ!?」

 「ああ。そうだけど・・・ラーゼは強い。ロベルトの民の流れを汲んでいるから体の強さがある・・・彼らが玉砕覚悟になれば大損害が待っている」


 イルカルの情報分析から来る予想は正しい。

 ラーゼにはまだ眠っている力があり。

 それが解放された時、負けないにしても大損害を被るのは間違いないのである。

 この先の展開で、帝都を落とす予定であり、その時の兵力が多い方が良い。

 そこの考えのせめぎあいが、スカーレットの頭の中に押し寄せてきた。

 兵を減らす判断はなかなかできない。

 それにここに時間をかけると、他から応援が来るかもしれない。

 前線に集中している帝国の兵たちが、戦いから帰ってくるかもしれないのだ。

 時間がないと判断することも、ある意味正しい判断である。


 「イルカル」

 「なんだ?」

 「時間をかけるとどういう戦略になりますか。疲弊を狙うのでしょうか」

 「・・・そうだな。圧迫する」

 「圧迫?」

 「敵に対して、昼夜で襲う。だから各方面。半分の兵にして、交代交代で攻めるんだ。一万五千と一万五千に分けて、全力で攻撃をする振りを、そうだな・・・・三日から四日やる。それだけで、ラーゼは死ぬ。体力よりも・・・人間そんなに気力が持つわけがないからな」

 「なるほど。良い手ですね。四日であれば攻城兵器も来ますし。それでいきましょうか」

 「じゃあ、今日は終わりにして、明日。編成した軍でやるぞ。全力で戦わないで圧力だけをかけるんだ」

 「わかりました。やりましょう」


 バルナガン軍は一日目、夕方から休息となった。

 九万の軍が、ラーゼを囲ったままであった。

 その圧力は攻めてこずとも感じるだろうと、スカーレットは城壁を見上げて、満足げにしていた。

 明日の為。

 こちらが主導権を握るための休息に入る。

 


 ◇


 二日目の戦いは早朝から始まった。

 三方の将フュン。タイロー。メルリス。

 この三人が感じた敵の攻撃は、ぬるいの一言。

 本気でこちらを攻め落とす気のない攻撃が延々と夕方まで続いた。

 しかしそこで日の落ちる夕方で戦いが終わると思いきや、再び歓声が上がり、攻撃が始まった。

 後ろで待機していた交代の兵であった。

 こちら側を休ませない攻撃が、一番の痛手。

 ラーゼは一万しか兵がいない。

 いくら民間人の協力があっても、それはあくまでも梯子から登ってくる兵に対して物を投げつけるくらいで実際に戦うのは兵士のみである。

 数が足りない。休息が足りない。

 足りないもの尽くしの戦いが、夕方を越え、夜を越え、深夜を越えてもまだ来る。

 そこからまた、朝。昼。夜と続いて、ラーゼが休めた時間がなかった。


 限界を超えた戦いに入ったラーゼの疲労具合は、一日休んでも回復しないくらいの疲労度だった。

 そんな戦いが二日、三日と重なっていき。

 運命の決戦となるのは四日目である。


 ◇


 四日目の朝。 

 西の城壁にて。

 

 「う、動きが限界か・・・」


 目の下にクマが出来ているフュンがすぐに見抜いた。

 ラーゼの兵と敵兵の動きの違いが出ていた。

 敵の動きが今までとは違い、明らかにいい。

 これが体力の違いであった。


 「……今日に設定してきたのか。ここが勝負だという事か」


 フュンは現在戦っている場所よりも敵の本陣を見た。

 本陣がもぬけの殻。

 つまり、敵は全軍前進の状態だった。

 

 「・・・みなさん! やるしかないです。ここが勝負。なんとか持ちこたえてください!」

 「「「おおお」」」


 返事は返してくれているが弱い。

 身体の限界を迎えて戦意が低くなっている。 

 フュンが持つ鼓舞の力も伝わらなくなっていた。


 「頑張ってください。みなさん。僕に続いて、ここで下がると敗北します」


 味方のカバーをして指揮をするフュンは、敵を斬り伏せながら一人でも多くの仲間を助けていた。


 ◇

 

 南の戦場。主力の戦士たちは限界を迎えていた。

 

 「私に続いてくだ・・・え!?」


 戦ってもいないのに、戦士たちが倒れ始めた。

 南の戦場で唯一圧倒的な実力差で戦えていたのが、タイローが率いていた戦士たちなのだ。 

 だからこのままでは戦局を維持するのも難しくなる。

 タイローは限界を迎えている仲間たちに声をかけ続けるしかなかった。


 それと同じ頃。東の戦場も急展開を迎えていた。


 「あれは!? 大砲!」


 メルリスたちから奥。バルナガン側から運ばれてきたのは大砲だった。

 敵の運搬部隊が運んでくる大砲。このタイミングでは最悪の代物である。

 距離を保ち、サブロウスペシャルの火炎瓶が届かない位置で、発射させようとしていた。


 「あれだと・・・まずい。フルーセ。都市の中央へ! 中央にいる予備兵から都市全体に知らせを! 砲弾が都市の中に飛ぶ可能性があると! あれは、角度から言って高めに設定されています。門を壊すことが第一でしょうけど、下手をしたら中にまで飛ぶ可能性がある! 急いで!」 

 「イエス。マム」


 メルリスたちの東の戦場も慌ただしくなっていた。

 戦局を一変する大砲の再登場で、戦いは終局へと向かう所である。

 三戦場に限界が訪れたのが、戦争四日目であった。


 

 



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