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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第五章 ラーゼ粛清事件 太陽と新たな王の激闘

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第240話 ラーゼ防衛戦争Ⅲ 太陽の戦士たち

 「……やはり。ここが本命じゃないな。緩い」


 フュンは、ラーゼの西門で敵を待っていた。

 しかし、ここには本格的な攻撃が来ないとも思っている。

 イルカルが仕掛けてくるだろう本命の攻撃は、下であるのだ。


 フュンは地面を見て、タイローたちが掘っていた通路を想像していた。

 レヴィに任せている戦場には、太陽の戦士が四名。それとサブロウの影が五名。

 彼女らを含めてたったの十名で、何人を相手することになるのか。

 おそらく下では、死力を尽くす激戦が予想される。


 「レヴィさん・・・・頼みます。この戦争、あなたたちにかかっているかもしれない」


 彼女らの無事を祈るフュンであった。


 ◇


 距離はまだ遠い。でも闇の気配だけは、すでに感じる。

 レヴィは一本道の通路の先を見つめて言う。


 「来ました……フュン様が睨んだ通りの展開ですね。ハル。ママリー。私の隣に来なさい。ナッシュ。リッカ。最後尾にいて、体力の温存です。ハルとママリーに限界が来たら交代です。いいですね」

 「「「はい」」」

 「影部隊。あなたたちは中間距離で私たちの撃ち漏らした兵を倒してください」

 

 影部隊は返事をせずに黙って頷いた。


 「いきます。敵は突出した三人。私が先行します」


 影移動をしている敵が三人。先行部隊だと思われる。

 裏に潜む必要のないレヴィは、全力で前に進む。

 疾風の如く。高速移動する彼女は。


 「甘い! 隠れているつもりですか。ナボル。我ら太陽の戦士をなめるな。我らは、数倍の差も乗り越える屈強な戦士であるぞ。竜爪」

 

 鋼鉄の糸で敵を切り刻む。 

 今の竜爪は、昔の竜爪よりも頑丈で強力である。

 なぜなら、超一流の鍛冶師アンが試行錯誤して作り上げたものだからだ。

 アンは、元気印だけが取り柄の女性ではない。

 武器に対して細かい配慮もある最強の鍛冶師であるのだ。

 なにせ、この竜爪。

 敵を切り刻んでも、武器としての損傷が少ないのである。

 

 「素晴らしい切れ味。それに耐久性です。さすがはアン様。フュン様が最も信頼する鍛冶師であります」


 レヴィが前を見る。視覚の中に敵はいないが、遠くからまだ近づいてくる気配がある。

 それも無数の影だ。うごめいている影移動に対応をしないといけない。


 「来てます。ハル! ママリー。いきますよ。中央は私が、左右を任せます」

 「はい」「了解です。レヴィさん」


 数にして三十。影がこちらに向かってきた。その奥にも四十の気配を感じる。

 小隊が次々とこの地下道に送られてきている。


 「戦います!」


 レヴィは、竜爪を使わずに生身で戦いに入った。敵の攻撃をかわし、相手のダガーや剣を奪って相手に突き刺す。彼女の戦い方は消耗を避ける戦いであった。それは自分の体力ではなく武器の消耗である。

 連戦に次ぐ連戦をすると、武器の摩耗具合が激しい。継続戦闘が出来ない。

 ならば、相手の持つ武器を使えばいいじゃないか。

 そう考える彼女は、ぶっ飛んだ思考の太陽の戦士長である。


 「ハル! 敵に惑わされてはいけませんよ。動きが硬い!!」

 「は、はい。頑張ってます」


 敵と戦いながら、レヴィはハルに指示を出した。

 彼女の動きも悪くないが、レヴィが思う太陽の戦士としての動きではないという事だろう。

 それと、彼女はやっぱり見えっ張りなので、頑張りますではなく、頑張ってますと答えていた。

 

 「ここを死守して、フュン様に褒めてもらうんだ!!!」


 不純な動機でやる気が漲っているママリーは、相手をなぎ倒していた。

 彼女の得意武器は、針。

 急所に的確に刺して、相手を停止させるのが彼女の戦闘スタイルである。

 

 彼女の前にいる二人のナボルは、首と足に針が刺さり、体が動かなくなっている。

 一歩も動けなくなっていることに不思議に思っている所、彼女の回し蹴りが顔面に刺さる。

 戦闘舞踊に近い動きの彼女は、太陽の戦士の中でも速度重視の華麗な戦い方をする。


 「絶対! 褒めてもらうんだもん!!!」


 敵二人を倒して、ママリーは次へと向かって行った。


 

 ◇


 二時間が経過した西の城壁。


 「今日は、この城壁には来ないのでしょうかね。イルカル。あれらがどう動くのでしょうか」


 ガイナル山脈に近い位置で、本陣を置くバルナガン軍。

 本陣の中央でどっしり構えているのがイルカルだ。

 フュンは双眼鏡で敵を確認していた。


 「たぶん敵の考えとしては。下が中心ですね。こちらの地上は、矢だけで攻撃。これの目的は兵力の温存ですね。ナボル軍は少しでも置いて置きたい。あちらのバルナガン軍よりも多めに手元に置きたい。ん! あれは、相手の兵の連絡がかなり行き来してます。レヴィさんたちを破るのが困難なことが伝わったのでしょうね」


 敵の数を数えていたフュンはここで気づく。

 イルカルがキョロキョロと顔を動かし始め、人を周りに呼び出した。


 「ああ、なるほど。四百程消えています。それで焦りだしたのですかね。今更ですね。あそこは、横で並んでも十名くらいしか通れません。ということは、僕らの太陽の戦士ならば余裕。一度に戦うのが三倍差くらいの兵の数であれば、必ず敵を仕留め続けることが出来ます・・・ただ、体力の問題が出てきますね。そこを上手く管理しているでしょうか。レヴィさん」


 西のバルナガン軍の編成が、全員ナボルであるとされる。

 動き方が影の動きをしているのだ。

 それはラーゼに潜入していた敵と同じような動きだった。

 これほどの軍をナボルだけで構成できる彼らは、やはり強敵である。

 組織というよりも一国という感じを受ける。

 彼らの現在の作戦はおそらく、無理せず西の門を開ける事だと思われる。

 それは、あの地下があるからだ。

 タイローたちが準備していたあの道を利用して内部に潜入して門を開ける。

 それが敵の目的だろうが、こちらとしてはそれをさせない。

 ナボルの天敵である太陽の戦士で、敵を封じ込める。


 数の違いがあっても彼らの力に頼るしかない。 

 だが運が良い事に、あそこの地下道は狭い。

 一度に相手できる数に、天然で制限をかけることが出来る。

 せいぜい10名位が一度に戦える量。

 それだったらこちらの太陽の戦士が3名で立ち向かえば余裕で相手が出来る。

 フュンの作戦は、太陽の戦士であれば乗り越えられると信じて進む作戦だった。

 無理な願いにも近い作戦である。


 「皆さん、こちらも頑張りますが、そちらが正念場だ。しかも初日が一番きついはずです」


 ◇


 「ママリー。交代だ」


 ナッシュが前線に来た。


 「ナッシュ。ありがとう。下がるね」

 「ああ。よくやったよ。安心して休め」

 「うん・・・ナッシュ。フュン様、褒めてくれるかな」


 すれ違いざまにママリーは聞いた。


 「ああ。大丈夫だ。フュン様なら見なくても、この戦いをちゃんと評価してくれるよ」

 「そう・・・だよね・・・休む・・・」


 ママリーはフラフラになっていた。

 訓練では、二時間以上の全力での戦闘を繰り返す作業はしているが、実戦での命のやり取りでの戦いは、想像以上の疲労を生んでいた。

 ママリーは最後方に行って座り込んだ。


 「みんな。頑張れ・・・」


 ママリーは仮眠を取る。

 その前では。


 「ぐっ・・・あ!?」


 ハルが、疲労から来る痙攣で足を滑らせた。

 敵とのぶつかりあいの最中だったから、体勢が崩れた所に追い打ちが来た。

 首元に敵の短剣が迫る。


 「ハル! 危ない」

 「ぐあっ!??」


 敵を蹴らずにリッカが、ハルの方を蹴飛ばした。 


 「いっっった~~~~~い!!」

 「うるさい。ハル!」


 リッカが攻撃目標を失った敵に対してトドメの一撃を出す。

 心臓に刀を突き刺した。


 「私が倒せたのに! ズルい!」

 「どこかだ。んんんんんん。お前、また強がってるな。下がれ」

 「下がらないよ。まだ戦えるから」


 ハルが起き上がろうとして、手をついた瞬間、腕に力が入らなくなった。

 滑るような地面じゃないのに、そこに手を置いたらツルっと滑って、起き上がれなかった。


 「あれ?」

 「ほら、無理だろ。いいから下がりな」

 「ま、まだ戦えるんだ。いけるはず」

 「いいから下がれよ」


 リッカが、高速移動でハルの元に行き、彼女を抱きかかえて放り投げた。


 「すみません。影部隊の皆さん。そいつを休ませてください。言う事聞かなかったら、殴って眠らせてもいいです。お願いします」

 「・・なんですって・・まだ戦え・・・あれ?」


 ハルが抵抗すると思われたために影部隊に殴られたようだ。

 話が最後まで聞こえてこなかった。


 「よし。今度は僕の番だ」 


 リッカがナイフを取り出して、指に挟める。

 計八本のナイフを用意して投射。

 目の前の二体の敵の体にナイフが刺さる。


 リッカの得意武器は投げナイフ。

 サブロウとほぼ同じ八本同時投射が出来る太陽の戦士だ。

 色んなことで悩む事が多い彼だが、ナイフを投げる場所は迷わない。

 たゆまぬ反復練習で自信を持っているからだ。

 

 「乱れ投げ。爛々投!!!」


 八本ナイフを投射後に、即座にナイフをまた投射する。その間一秒もない。

 手の動きが滑らかで高速なのが、リッカの特徴である。


 「ナッシュ!」

 「なんだ?」

 「ここは僕たちでやらないといけない」

 「ん?」

 「レヴィさんに少しでも休んでもらおう。いくぞ。ナッシュ。レヴィさんよりも前に出る」

 「そうだな。やるか。いくぜリッカ!」

 「うん」


 二人が息を合わせた。


 「「出る!!」」


 ナッシュが前を走り、リッカが後ろをついていく。

 縦一列で走る二人が、レヴィを追いかけて抜く間際。

  

 「レヴィさん。休憩してください」

 「お願いします。僕らが敵と戦います」

 「え? いや、駄目です。二人で十人は厳しい」

 「大丈夫です!」「僕らに任せて」


 二人が通り過ぎていくと、前から来る十人の影部隊も同じように走っていた。


 「ナッシュ。牽制は僕だ。3・・2・・1・・爛々投!!」


 ナイフ攻撃と同時にナッシュが加速する。ナイフとほぼ同時に敵の中に侵入したナッシュは、組み立て式の槍を展開。

 薙ぎ払う攻撃に回転を加える。

 暴風のような攻撃で、ナイフに気を取られた敵を一掃した。

 

 「ナッシュ。次が来る!」 

 「わかってる。ナイフが続く限りいくぞ」

 「わかった」


 ナッシュとリッカのコンビネーションが、太陽の戦士一の連携攻撃である。


 この戦いで一番の戦力差があるのが、この地下道の戦いであった。

 現在。太陽の戦士五名は、七百を蹴散らした。

 驚異の百二十倍の戦力差を覆した戦いである。

 かつての太陽の戦士が、ここに完全復活を果たしことを証明する戦いとなったのだ。


 太陽の下で。

 太陽の戦士たちは輝きだす。

 

 

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