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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
第五章 ラーゼ粛清事件 太陽と新たな王の激闘

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第238話 ラーゼ防衛戦争Ⅰ 開幕

 帝国歴524年6月26日。


 スカーレットが布陣しているのは、ラーゼの南側であった。

 彼女が総大将であり、そしてここが肝心要の戦力なのだろう。 

 フュンは、敵の配置を判断していた。

 東が破壊部隊。南が主力部隊。西がナボル部隊。

 前日から確認していると、それぞれの配置にある軍に特色が出ていた。



 フュンとタイローは、共に城壁の上に立って相手を見下ろす。

 ラーゼは、海側に城壁が回っておらず、東、南、西の三方向が城壁に囲まれている。

 攻め口が三つしかないのが特徴の都市だ。

 なので、ラーゼの城壁がない北の海が弱点じゃないかと思われるのだが、そこがむしろ最大の長所。


 彼らは軍船がなくとも、逞しい船乗りたちがいるから、小型船や中型船で大型船を撃破できる。

 だから、敵が海側から攻めるなど不可能であるのだ。

 彼らは王貴戦争の頃から、海賊どもが使用する大型船が上陸する前に、小型船で何度も蹴散らしてきている。

 そんじょそこらの海兵よりも強いのが、ラーゼの民の特徴でもある。

 バルナガンの水軍程度では、攻撃をしようとも考えない。

 無駄と終わるに決まっている。

 だから、陸軍だけでこちらに来ていたのだ。

 

 それに裏をかいて、もし攻撃を仕掛けてきたとしても、サブロウの火炎瓶で撃退する気である。

 すでに漁港を守る一般人たちが、瓶を持って敵を待っているのだ。

 荒々しさと頼もしさがある一般人たちである。



 ◇


 城壁にてフュンがタイローに話しかけた。


 「民たちが戦う意思を持てました。でもそれだけでは厳しいです。戦争はそれだけでは勝てない」

 「フュンさん?」

 「ええ。ですから、初手。ここで一気に戦いを傾けるのです。そう易々とやられはしまいとね」

 「例の瓶ですね。上手くいきますかね」

 「はい。でもそこは疑問じゃ駄目です。自信を持ってやるしかありません。駄目ですよ、弱気は! いいですか。タイローさん。あなたは戦争が初めてです。心を強く保ってください。いきなりで厳しいと思いますが、お願いします。あなたの心が折れると、兵に伝わりますからね。あなたはラーゼの王となる人です。ここからは弱きはいけません。いいですね」

 「はい! わかりました」

  

 フュンは、戦力差がある戦いでは、初撃が重要だと思っていた。

 一万対九万。いくらラーゼの兵が強くとも、その数の差は酷い差である。

 九人で一人を取り囲めば、何もせずとも余裕で勝つだろう。

 それと同じである。


 「それではタイローさん。ここをお願いしますね。僕は西に行きます」

 「やはりフュンさんがここではないのですね」

 「ええ。ここよりも、イルカルと呼ばれた男が気になります。僕はあちらを見てきますね。あそこが恐らく影の部隊が布陣しているナボル軍と言ってもいいでしょう。こちらと東の兵は、動きが普通。なので一般人なので普通のバルナガン軍だと思われます」

 「わかりました。私は南を死守します」

 「はい。お願いします」


 フュンとタイローは、担当する場所へと移動を開始した。



 ◇


 後の世で、フュンの伝説の一部として語り継がれることになる。

 『ラーゼ防衛戦争』

 この戦争は、死闘であると歴史書には記載されている。

 それは、ラーゼ側が圧倒的不利な人数での戦争。

 兵士がたったの一万という数だからである。

 一万。

 この数値は、教科書で読むだけならば、『ふ~ん』の一言で済ませて、頷くだけで終わるだろう。

 だが、実際に現場にいれば、そんな単純な言葉で終わらせてはいけない。

 差とも言ってはいけないほどの力関係だ。

 一人に対して九人が襲い掛かる恐怖。

 それは、いくら城壁に囲まれていたとしても感じてしまうものだった。


 ◇

 

 東の門を担当するのはメルリス。

 ラーゼの一輪の薔薇でも、この戦力差で勝てるのだろうかという一抹の不安があった。

 敵兵たちが並んでいる姿はある意味壮観で、圧巻だった。


 「さて、私どもはあの大砲をやらねばなりません。初撃が大切です」


 バルナガン軍東軍は、敵の中で唯一大砲を所持していた。

 大型で移動に面倒な大砲をわざわざ南や西に再配置するのには労力がいるために、バルナガン軍は、移動の関係上、都市バルナガンから最短距離で置ける東に配置したのだ。 

 

 「フルーセ! 相手の大砲の砲門がこちらに向き次第。やりますよ」

 「イエス。マム」


 フルーセは、ある特殊な槍を持った。

 先端に穂先がなく、瓶が括りつけられている。

 投擲用の槍で、サブロウ丸の雷炎という武装らしい。

 槍を持つフルーセはサブロウからそう聞かされていた。

 

 メルリスは、事前にフュンから戦略を預けられていた。

 それは、一番早く激戦となるのが東門だと予想していたからだ。

 それは、敵が大砲を配置しているために、本格的に攻めてくるとしたら、ここが一番先であるとのことだ。


 それと関連はしているが、本来フュンが全体指揮を取らねばならなかった。

 軍の中央にいて全体を把握する必要があったのだが、彼も最前線で戦わないといけないために、各戦場に指示を出せない。

 大まかな指示だけをして、細かい細部を詰めたような指示が出せない現状。

 だから、彼とは違う各戦場の東と南の大将であるタイローとメルリスは、自分たちで対処せねばならない。

 メルリスは重要な任務に就いたことに対してやりがいを感じていた。

 それとフュンは、事前に彼らに指示を出していた。


 「大丈夫。メルリスさんなら出来ます。僕は信じてますよ」

 「なぜ? あなたと私は出会ったばかりです」

 

 当たり障りのない言葉を簡単に言ってきた。

 だから彼に対して、少しイラっとしたので、メルリスは冷たく言い放ったのだ。

 それでも彼は。

 

 「ええ。大丈夫。あなたの目。あなたの心が。このラーゼを守りたいという意思に基づいていることに僕が気付いているからです。別に僕を信用しろとは言いません。ただ、僕はあなたを信じている。それだけを覚えておいてください。あなたは出来る。自信を持って東を守護してください。お願いしますね」


 なんて穏やかな表情と声で言ってきたのだ。

 何だこの男はと、最初は思った。 

 でも、次第に心地よくなり、不思議と力が湧いて来る感覚に陥る。

 メルリスは、フュンの言葉の力を信じたくなった。

 でも彼を信じるにはまだ早い。しかし彼の言葉と、その奥にある感情には気づいた。


 ここを守りたい。

 友達であるタイローが大事にしている場所で、母の友人であったカルゼンも大事にしている場所。

 人のつながりを大事にする男であると、メルリスは気付いたのだ。


 「フュン・メイダルフィア・・・太陽の人か。たしかに、太陽のように。人々を照らす希望の人なのかもしれない・・・」


 メルリスが呟いた。

 その時、敵の砲門が僅かに動く。 


 ラーゼの城壁に近づけているバルナガン軍の大砲。

 その意味は、確実に門を開けるために精度を上げるためだ。

 だが、それは良くない事だった。

 なぜなら・・・彼ら側でも射程距離であるからだ。


 「フルーセ。左から順次。三門の砲台に槍を投げつけなさい」

 「イエス。マム」


 フルーセが槍を投擲。

 彼が投げた槍は、人間が投げる槍とは思えない勢いと轟音だった。

 大柄な肉体から繰り出させる一撃は、敵も味方も同じように虚を突かれた。

 それ程速い攻撃速度と連投であった。


 次々と投げ込まれる槍は、三門の砲台に突き刺さるが、パリンと音を立てて瓶が割れて終わるだけ。

 無意味な攻撃のように思うのは、何も敵だけじゃない。

 味方もだった。

 フルーセが何をしたいのか分からなかったのだ。


 だが。


 「完成です。さあ、撃ち込んでみなさい。バルナガン軍!」


 メルリスの言葉の通り。

 バルナガン軍が砲門を設定する。

 東の城壁の中央に標準を合わせる。

 そして、いざ三台の大砲に点火しようと火をつけた瞬間。


 『ガゴオ・・・バーン・・・ババーン・・バババババ』


 大砲の中の砲弾が、その場で炸裂して、続けて次弾装填の為の近くの砲弾も爆発した。

 大砲から出る連続した大爆発で、バルナガン軍東の軍は、混乱に陥る。

 右往左往する前に中心地にいた兵士らは消し飛び、四千の兵が消えた。

 初手にして、有効な攻撃であった。

 

 「これで、この国を滅ぼすには、城壁を登って来るしかありませんよ。バルナガン軍! 私どもと真っ向勝負です。かかってきなさい! バルナガン。このメルリスの元まで来てみなさい」


 城壁の上にいるのは三千の兵。

 目下の兵は二万六千。

 まだ八倍以上の兵力の差がある中で、メルリスは悠々と相手が来るのを待っていた。

 勇猛果敢な戦士であり、優秀な指揮官であるのが、ラーゼの一輪の薔薇メルリスである。





三千の兵は軍の数。

さすがに十倍近い戦いに勝ち目はありません。

なので、民兵がいます。民から募集した兵たち。

自分たちが生き残るために死力を尽くす気であります。

主な人たちは海の男でありますが。

荒々しい気性のラーゼの民は、国を守るために女性も参加しています。

ラーゼ全体の力を出して、必死に対抗している戦いとなっています。




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