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人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚  作者: 咲良喜玖
大戦の裏側 太陽の奔走

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第223話 更なる事件へ

 「フュンぞ。ザイオンが死んだ・・・」


 淡々としていたサブロウの言葉が詰まった。

 声がいつも通りであるが、感情が籠っていた。


 「ど、どうして。ザイオンが?」

 「……ああ、右翼でパールマンに負けたらしいぞ」

 「パールマン、奴ですね。ネアルの部下」


 フュンとサブロウが話している脇で、ミランダが刀に手をかけていた。

 今すぐにでもそいつを斬りたい。

 言葉にその思いを出さない分、悔しさがその行動に滲み出ていた。


 「だが、失ってもダーレーは勝ったらしいぞ」

 「勝ちましたか……そうですか。でもザイオンがですか」


 フュンはザイオンの豪快な笑い声を思い出していた。

 いつでもどんな時でも頼ってくれ。

 それがザイオンという兄貴分のような男性である。

 初陣を支えてくれた大切な人で、フュンを指揮官として育てた一人でもある。


 「それでぞ。こんな感じになったらしいぞ・・・」


 サブロウから戦争の詳細を聞かされたフュンは、クリスを褒め称えた。

 

 「さすがだ。彼のおかげで戦争が継続に入った。あの英雄に対して、こちらの手が通用するとは・・・それにシルヴィア。軍を一つにしましたね。あとは再戦ですか」

 「ああ。さすがはお嬢なんだぞ。でもまだ今は停戦中だ」

 「そうですか。長い戦争になりますね。今回は……」


 シルヴィアの方は、ザイオンという大きなものを失ってはいるものの。

 戦争自体は順調と言える状態であった。

 しかし、事態が急を要していたのはこちらの方だった。


 「本当か。まずいぜ。親父、どうする」

 「ん? 何のことだ」

 「ラーゼが襲われるらしい」

 「ラーゼだと?」

 「王国の船がラーゼを襲うためにルコットから出撃するみたいだ」

 「・・・どこでわかった」

 「ガイナル山脈西に住んでいるドラウドの部隊だ。あそこの小さな村のな」

 「……そうか。いつ出る。それは」

 「情報だとラグがあるからな……もう出ているかもしれん」


 皇帝とジュリアンの話を聞いていたフュンが聞く。

 ザイオンの死を悲しんでいる余裕がなかった。


 「ラーゼですか。ジュリアンさん」

 「ああ。そうだ」

 「バルナガンではなく? ラーゼ?」

 「ん?」

 「バルナガン側の沿岸から強襲上陸してバルナガンを狙わずに、ラーゼの港からラーゼを襲うということですね?」

 「ああ。そうだ。ルコットの港で話を聞いたらしいぜ」


 皇帝のドラウドは、敵地では村などの民になって諜報活動をしているのだ。


 「そうですか。北の沿岸で、バルナガンじゃないのなら、ラーゼが目的になりますね。でも、このタイミングでラーゼですか。なぜでしょう。ナボルが仕掛けるつもりなら、もっと前がいいのに。シンドラの反乱が目くらましになっている時がベストなはず。これは王国の考えで仕掛けているのか?」


 時期が若干ズレている。フュンはそこに疑問を持っていた。

 これもナボルの仕業であろうと思っても、タイミング的には良いタイミングとは言えない。


 「でも王国がラーゼを狙う理由がよく分からない。そもそも海側から強襲攻撃をして効果があるのはバルナガンの方だ。ラーゼは海の男たちがいますからね。バルナガンの方が強襲しやすいはず。でもラーゼか・・・やはり、バルナガンにいる彼女の策略でしょうか。王国にいるかもしれないナボルと手を組んでいるとかで?」

 

 ザイオンを失うという悲しみを持っていてもフュンはしっかり物事を考えていた。

 帝国だけじゃない。王国にもナボルがいるかもしれない。

 それがフュンの結論だった。

 

 「フュン」

 「はい先生」

 「ラーゼの隣。バルナガンには、例の奴がいる。スカーレットだ」

 「そうですね」

 「ナボル関連を意識しておきながら、今の状況を考えるとだな。もう一つ可能性が出て来るんだよ」

 「なんですか?」

 「ラーゼを完全に潰すという事だ」

 「え?」


 そこを考えていなかったフュンが驚く。


 「ああ。それで、この事態を照らし合わせてくれ」


 ミランダはシンドラ王に変装していた人物に指さした。

 

 「もしかしたら、この王に成り代わる技術を使って、奴らはラーゼの中身を乗っ取っている可能性が高い。しかしそれで満足していないかもしれない。だからラーゼ自体を潰す可能性がゼロではない。むしろ無くなって欲しいとも思ってるかもしれないぞ」

 「なるほど。たしかに。そうですね。太陽の戦士が出て来てほしくないですからね」

 「そう、それで今の状況だと、色々な可能性が出て来るが。ここまでの物的証拠と状況を合わせると、ラーゼを潰すことが第一だと思うんだ」


 ミランダは想像力を働かせて予想していた。


 「フュン。まずラーゼなんだがな。今来ている王国と普通に戦った場合。ラーゼは守り切る可能性がある」

 「ん?」

 「敵が船団を使って、兵士を連れていける数に限りがある。アーリア大陸北の海を大移動することになるしな。だとすると一万。または多くても二万だ。それに対してラーゼの兵は一万いるだろ」

 「はい。そうですね」


 ラーゼは属国として一万の兵力を保有している国である。


 「ラーゼの一万は、他の都市で言えば三倍、又は四倍ほどの兵力だ。三万から四万くらいの価値があるってわけさ」

 「それほどですか」

 「ああ。ということはだ。ラーゼは単体で王国軍を退ける可能性があるぞ」


 ミランダの予測通りかもしれないとフュンが思った。

 しかし、ミランダにはまだ更に予測があった。


 「そこでだ。ラーゼを潰したいなら、もう一つの策がある。それがバルナガンからスカーレットが出撃する可能性なのさ。この王国軍がラーゼの港にいること。これがきっかけで、奴らの軍がラーゼに入る理由が生まれる。ラーゼが乗っ取られたと言ってもいいし、ラーゼを守ってやると言ってもいい。とにかくスカーレットがバルナガン軍を率いて中に入り込むかもしれないのさ。そんなことになったら、さすがのラーゼでも負けるぞ。一万の兵で城壁を上手く使えないんじゃ、戦いのしようがないからな」

 「たしかに、突拍子もない予想ではありますが。可能性としては無くはない。ここは、やはり急ぐしかないですね。僕がサナリア軍でラーゼに入れば!」

 「待て! そう。そこなんだ。それが無理だ!」


 ミランダはフュンのおでこに人差し指をコツンと当てた。


 「フュン。ラーゼに兵を差し向けたら、勘違いされるぞ。どれにもだ」 

 「・・・そ、そうか。バルナガンにも、ラーゼにもか。くっ」


 全てを言わないミランダはフュンならばすぐに察するだろうと言葉を減らしていた。

 ラーゼにサナリア軍が進軍した場合。

 どちらも敵軍として認識してくる可能性がある。

 ラーゼは、イーナミア王国との戦争中に許可なく軍が来たら加勢ではなく、攻撃だと勘違いする可能性があるし、なにより内部にナボルがいるのであれば、なおさら敵と決めつけて行動を起こしてくる可能性がある。


 そして、またバルナガンもサナリア軍という特別な軍が、属領に対して到着したら何をするか分からない。

 それはラーゼがドルフィン家、バルナガンがターク家の所属なのだ。

 いちおう、ダーレー家に属しているフュンに、ラーゼを奪取されては困るという名目で、スカーレットには戦争の口実を与えることになるかもしれないし、それともダーレー家の事ではなく、皇帝陛下の属領没収は違反だとして、戦う名目にもなりうる。

 これらの内のどれかの理由で、大義名分を掲げて戦争になる可能性があるのだ。

 だからミランダは。

 

 「だから、あたしらで中に入るしかない。太陽の戦士とサブロウ、あたし、んでフュンでだ」

 「・・・潜入ですか」

 「そうよ。そんで中にいるナボルを秘密裏に殲滅しつつ。内々で事を済ませてしまえば、あたしらの勝ちだ。王国との戦争はわからんが、バルナガンとの戦争は起きないだろう。そして、お前は言わないといけないんじゃないか。だから許可を取れ。エイナルフのおっさんによ」

 「・・・わかりました。そういうことですか。やりましょう。僕は母の為にも・・・」


 先回りのミランダの意見で、フュンは覚悟を決めた。

 良き表情でエイナルフに話しかける。


 「陛下。お願いがあります。許可が欲しいのです。『ロベルト・トゥーリーズ』を使用してもよろしいでしょうか」

 「ん?」

 「僕が、あなたたちの待つ太陽の人だと、ラーゼの人々に向かって、堂々と宣言したいと思います。彼らの根底にある。黄金竜。その待ち人。それが僕であると宣言してきたいと思います」

 「・・・なるほど。そういうことか。ラーゼの太陽になる気なのだな」

 「ええ。ですから、使用許可を願いたい。そして、アーリア全土に告げて見せます。ここに太陽の人。ロベルト・トゥーリーズが生きているのだと。生き残った太陽の戦士にも伝えてみたいのです。そしてこれがナボルへの宣戦布告。殺せるものなら殺してみろ。かかって来いと、僕からの挑戦状であります」

 「いいだろう。婿殿。許可する。そして同時宣言しよう。余もそれに合わせて帝都で布告する。太陽の人は帝国を照らすために帰って来たのだと、それでいいかな」 

 「いいです。陛下と共に僕は、ガルナズン帝国に暖かな光をみせると、太陽の人は帰って来たと伝えてください。全土に伝えてもいいです。ええ、僕は覚悟を決めています。ナボルとは、どちらかが消えるまで、戦い抜きますよ」

 「わかった。こちらはその準備をしておこう。婿殿」


 エイナルフとフュンはここで決意した。

 ガルナズン帝国皇帝と太陽の人は共に協力して戦うのだと。

 大陸に向けて宣言する。

 そしてこれがナボルへの宣戦布告となるのだ。


 「ジュリ! フュンに連絡を常に入れる体制を作れ」

 「わかってる親父。坊主、オレがこちらの情報を伝える。いいか」

 「はい。ジュリアンさんお願いします」

 「ああ。ジュリでいい。短めで頼む。親父もそう呼ぶしな」

 「それは無理かと・・・ジュリさんでいいですか」

 「いいぜ。ひとまずそれでいこう。あとは坊主! ラーゼを頼んだぜ」


 ジュリアンとの会話の後、フュンはヒルダに体を向ける。

 不安そうな彼女に伝えておかないといけないことがあるからだ。


 「ええ。もちろんです。では、ヒルダさん。僕は、必ずタイローさんを連れてきますね。安心してください。あなたに会わせてみせますよ!」

 「はい。お待ちしてます。ありがとうございます」

 「ええ。アステル。シャルラン。ヒルダさんを頼みます。そして、サナリア軍のシガーに連絡を入れるので、サナリア軍に援護してもらってください。いったんシンドラに行きましょう。今すぐ掃討した方がいい」 

 「ん?」

 「シンドラには、ナボルがいる恐れがあるので、サナリア軍があなたたちを保護します。それと、ラインハルト! ジーヴァ!」


 太陽の戦士が二人現れた。

 老紳士のような風貌の戦士と、幼い顔立ちのまだ若い戦士である。


 「フュン様」「はい!」

 「二人は、この三人の命を守りなさい。シンドラにはまだナボルがいるかもしれないので、影と連携して護衛を。そして殲滅をお願いします」

 「「わかりました」」


 二人が同時に返事をした。


 「ラインハルト!」

 「はい。フュン様」

 「ジーヴァを頼みます。僕らの太陽の戦士で一番若い子です。あなたが助けてあげてください」 

 「わかりました。お任せを」

 「それと、ラインハルト。これを渡しておきます。到着と同時に、アステルと協力して、シンドラの兵と大臣たちにこれを叩きつけてください。一か所に集めて、これの影響下に入れるのです」

 「はいフュン様。これは例のものですね」

 「そうです。これを使ってナボルを炙りだしてください。兵の中にいるのかはわかりませんが、これで判別が可能なはずだ。あなたに託します」


 フュンはラインハルトの手の中に、何かの玉を三つ渡した。

 それをラインハルトは大事そうに、巾着袋に入れて胸のポケットにしまう。


 「それでは、この任務はラインハルトに任せることにして、ジーヴァ!」

 「はい!!!」


 フュンは若い戦士の両肩を叩いた。


 「無理は駄目ですよ。でもですね。君は感性が良い。敵を見分ける可能性が高いのです。ヒルダさんをお願いします。彼女の事を僕だと思って、必ず守ってください。あとはラインハルトの言う事を聞いてくださいね。あなたはまだ若い。経験が少ない。だからいいですね。ジーヴァ君!」

 「わかっています! ラインハルトさんの言う事を素直に聞きますよ。お兄ちゃん!」

 「ええ。お願いしますね」


 フュンが頷くと、二人は三人の後ろに入って消えていった。


 「では、早速行きましょうか。早くにラーゼに入らねば、ラーゼを救うには高速で王国軍を退けないと。バルナガンが狙ってくるかもしれません。本当にここからは何が起こるかがわかりません。ですから、バルナガンに何かありましたら、連絡が欲しいですね。サブロウ。あの都市に少し影を集中させてください」

 「了解ぞ」


 サブロウに指示を出した後。

 フュンは、陛下らに顔を向けた。


 「では、僕はこのままラーゼに向かいます。皆さん、ここが正念場だと思います。ここを乗り切れば僕は反撃したいと思ってますから、何とか耐えてください」 

 「うむ。わかった」


 皇帝が了承し。


 「はい。タイローをお願いします。フュン様」


 ヒルダが頭を下げた。


 「はい。まかせてください。彼を救ってみせます。そしてあなたの元に、連れてきてみせますよ。あなたの大事な人ですからね。おまかせを」


 フュンは力強く宣言して、ラーゼへと向かって行った。



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